Fate/if(フェイト・イフ)   作:名無しのレイ

2 / 3
第二話-槍兵召喚-

 

バゼット・フラガ・マクレミッツは魔術師である。 

特に、彼女は封印指定の魔術師を捕らえる事を専門とするほどの凄腕の魔術師だ。

彼女は、魔術協会の命を受け、この冬木の地で行われる聖杯戦争にマスターとして参戦する事となった。

 

この冬木の地で行われる聖杯戦争は、他の土地で行われる物とは異なる。

英霊。

人の身でありながら人を超える偉業を果たし、輪廻の輪から解き放たれた存在。

彼らを召喚し、《サーヴァント》と呼ばれる使い魔として使役する事が可能なのだ。

噂や資料では聞いていたが、流石に言峰から、直接それを聞いた時には驚いた。

英霊と言う物は魔術を越えた神秘の結晶。人間達が生み出した究極の理想。

人の身でありながら人々を救い、偉大な功績を果たし、最強の幻想種である”竜”すらをも討ち滅ぼす者達。

それを使い魔として使役し、お互いに戦わせるなどと。

あまりのデタラメさ。

だが、魔術師としての彼女は、 この戦争に対して興味を抱いていた。

 

とりあえず言峰から詳しい情報を聞き出した彼女は、さっそくサーヴァントの召喚の準備に取り掛かった。

 

英霊を召喚する時には、『縁』のある物が使用される。

例えばそれは遺骨であったり、愛用した武器や鎧であったりする。

バゼットは、自分自身の得意魔術、ルーン文字を媒介として英雄を召喚しようとしていた。

 

だが、ここで一つの落とし穴が存在した。

 

英雄が召喚される際には、より強い縁のある存在が優先して召喚される。

英雄が使用していた古代文字よりも、英雄の体の一部分の方がより縁が強いのは当然。

彼らの遺骨などが触媒として利用されるのはそのためだ。

 

そう、彼女の服には衛宮士郎の『髪の毛』が一本付着していたのだ。

 

「―――問おう。君が、私のマスターか。」

 

赤い弓兵は、こうして召喚された。

 

 

衛宮士郎は、自身の真っ暗な屋敷の中で暗闇に目をこらしていた。

この屋敷には、侵入者防止のための結界が張られている。

その結界が発動したと言う事は、この中に侵入者が入ってきたと言う事だ。 

ましてやあんな事があったすぐ後、多分、相手はあの赤い男だろう。

 

「いいぜ、やってやろうじゃないか。」

 

魔術師である衛宮士郎は強化しかできない半人前だ。

だが、それしか出来ないと言うのなら、それで何とかするしかあるまい。

相手の武器は恐らくあの二刀の短剣だろう。

ならば、ナイフや包丁ではなく、より長い武器の方が有利に決まっている。

 

『同調、開始(トレース・オン)』

 

藤ねえが置いていったポスターに魔力を通し、簡易的な剣とする。

強度は鉄並み、軽さはそのままと言う急造の剣としては申し分はない。

 

だが、それだけではない。今の衛宮士郎にとって唯一の切り札とも呼べるモノがある。

ルーンが刻み込まれたピアス。

視覚を閉じて触覚でピアスの中身を見る。

 

「―――基本骨格、解明」

 

これは強力な護符(タリズマン)の一つだ。

ほんの少しの魔力を注ぎ込んだだけでもその魔力を増幅させ、

ルーン文字の力を発動させる事により、強力な結界を構築する事が出来る。

未熟な魔術使いである彼にとって、見た事もない高度な術式で作られた高度で緻密で芸術品のような物である。

 

「―――構成材質、解明」

 

衛宮士郎には魔術の才能は全く無かった。

だが、物の内部の構造を見るのだけはバカみたいに上手い。

皮肉な事だが、その才能がこんな所で役にたったのだ。

しかし、これにはガソリンとも言える動力源、つまり魔力が枯渇している。

ならばどうすればいいか。答えは簡単だ。無いのなら注ぎ込んでやればいいのである。

 

『同調、開始(トレース・オン)』

 

強化の要領で、魔力が枯渇しているピアスの内部に魔力を注ぎ込む。

……上手くいった。後は発動させるだけ。

しかし、彼の魔力量では一回だけ発動させれば再び魔力きれになってしまうだろう。

だが、それで十分。やれる事は全てやった。

後は―――。

 

「――――っ!」

 

ぞくん、と背筋が総毛立った。

 

「こ、のぉ……!」

 

空から降りてくる銀の閃光。

それを、士郎は必死に急造の剣で弾き飛ばす、

ヤツは、屋敷の天井をすり抜けた上で実体化し、攻撃を仕掛けてきたのだ。

その不意打ちを防げたのは、結界が破られた事によって警戒していたお陰だ。

剣を何とか弾き飛ばした後、脇目もふらず窓から外に飛び出し、土蔵まで疾走する。

……つもりだった。

何とか部屋の外へと転がるようにして飛び出す。

だが、そこまでだった。

 

「ふん、見えていれば痛かろうと私なりの配慮のつもりだったのだが。なかなかに生き汚いな。」

 

ニヤリと、その赤い外套を纏った男は笑みを浮かべた。

闘気の衰えなど微塵もない。完全にこちらを排除するつもりだ。

 

「あの時はセイバーに邪魔されてしまったがな。今度は彼女は来ない。気様はここで終わる」

 

問答無用で繰り出される二つの短剣の連撃。

 

「っつ、は―――!」

 

それを士郎は何とか凌ぎ切る。

右の一撃をポスターで防ぎ、首筋を狙った二撃目をかろうじて回避する。

しかし、さらなる騎士の攻撃。

いかに強化されているとは言え、所詮、元は紙で出来ていたポスターだ。

二撃を受け止めただけで、半分ほど切り裂かれてしまう。

このままでは長くは持たない。

だが、こちらの手札はこれだけではない。

とっておきの切り札がある。

 

『回路、開放(サーキット・オープン)』

 

呪文と共にピアスに注がれた魔力が解き放たれ、アルギスが発動する。

結界が構築される。

だが、それは士郎の周囲ではない。

あの赤い弓兵の周囲を、光の壁が取り囲む。

 

「ぬっ!」

 

結界というのは境界にすぎない。つまりは他者を阻む魔力の壁だ。

その壁は、通常は他者からの攻撃などを防ぐために使われる。

それが壁と言うのならば、相手を封じ込める牢獄にも化すはずだ。

 

「小ざかしいマネを……!」

 

「はっ、はっ、は―――!」

駆ける。ひたすら駆ける。

土蔵まで行けば武器になる物もあるはずだ。

あの結界ならばそれなりの時間稼ぎになるはずだ。

だが、その命綱とも言える結界は。

 

「はああああ……っ!」

 

赤い騎士の、渾身の一撃によって砕かれた。

ようやく扉まで到着した士郎は転がるようにして蔵の内部へと突入する。

ゆっくりと、双剣を構えながらヤツは近づいてくる。

 

「ここまでだ。さらばだ。衛宮士郎。理想を抱いて溺■しろ。」

「―――え?」

 

今、何て?

あの赤い外套を纏った奴は、今自分の名前を呼ばなかったか?

 

頭に来た。

そんな簡単に人を■■なんて間違っている。

そんな簡単に俺が■■なんて間違っている。

 

「ふざけるな。俺は―――。」

 

こんな所で意味も無く、

お前みたいなヤツに、

やられてなるものか―――!!

 

それは本当に、魔法のように現れた。

この身を貫き通す銀光は、真紅の光によって弾き返された。

 

「―――問うぜ。小僧。テメエが、俺のマスターか。」

 

そこには、真紅の槍を手にした、青い鎧を纏った長身の男性が立っていた。

口元には不敵な笑み。手には二mの莫大な魔力を秘めた槍。

魔術に疎い士郎にも解る。

コレは、人間の扱う魔術や神秘よりも、さらに上位の存在などだと。

 

「サーヴァント・ランサー。盟約に従い参上した。

これより我が槍は貴様と共にあり、貴様の運命は我が共にある。

……ここに契約は成立した。」

 

何も言えず、呆然としている士郎に対して、彼、ランサーと名乗った男はそう答えた。

その光景を見ていたアーチャーは苦々しげに口元を歪める。

 

「……まさか、七人目のサーヴァントとはな。しかもランサーとは。

予想外にもほどがある。」

 

忌々しげに呟く赤い双剣の騎士、アーチャーに対して、

ランサーは、ニヤリと、まるで戦いを楽しむかのように凶暴な笑みを浮かべる。

 

「ふん。早速、サーヴァントとの戦いとはな。悪くない。

見たところ、真っ当な一騎打ちをするタイプじゃねえな。

って事はアーチャーか。いいぜ。好みじゃねえが出会ったからには、やるだけだ。

そら、弓(エモノ)を出せよアーチャー。」 

 

「――――。」

 

アーチャーは応えない。ただ、無言の闘気を放つのみ。

それは餓えた獣が、ようやく狩った小動物を他の獣に横取りされたようなそれほどの闘気だ。

 

「邪魔をするなランサー。ようやく……手に入れた機会なのだ。」

 

「はっ。笑わせるなよ。テメエの都合など知った事か。

サーヴァントとして召喚された以上、仕事はきっちりとこなすさ。

あんなナリでも、一応マスターらしいしな。さあ、戦り合おうぜ。」

 

そうして、戦闘は再開された。

連続して繰り出される槍の一撃。それは最早神速にも等しい。

ランサーは、サーヴァント内最速の英霊である。

令呪の縛りも無い戦いにおいて、ランサーに速度で敵う英霊などそうそう存在はしない。

それは、目の前の弓兵においても例外ではない。

繰り出される槍は、アーチャーの防御を少しづつ崩していく。

 

「どうしたアーチャー。お遊びはここまでだ。さっさと飛び道具を出したらどうだ?」

 

「―――チ。」 

 

ランサーは知らない。

目の前のアーチャーには一つのが命令が下されている事を。

それは「全てのサーヴァントと交戦せよ。だが倒すな。一度目の戦いからは必ず生還せよ。」との命令だ。

元々、嫌々ながら主に従うアーチャーだが、その命令は士郎の居場所を探るのに都合のいい命令でもあるため、従わざるを得ない。

だが、いかに不本意とは言え、マスターの命令だ。

戦いはこれだけではない。まだ戦わなければならないサーヴァントは他にも存在する。

そのため、やはり、多少なりとも動きが鈍ってしまうのはやむを得まい。

元々、アーチャーというクラスは基本能力は低いものの、それをスキルと宝具で補うクラスだ。

今のアーチャーでは、ランサーの攻撃を辛うじて凌ぎきる事しか出来ない。

 

「そうか。ならば、こちらが先に本気を出させてもらうぜ。」

 

その瞬間、大気が凍りついた。

大気のマナが凶悪なまでに、ランサーの手にする槍に吸い上げられていく。

―――宝具。

英雄のみが持ちうる、彼らが使いこなす最強の武具。

宝具を手にした英雄は、数段格上の精霊すらを討ち滅ぼす。

つまりは、英雄同士の戦いは、宝具のぶつかり合いと言ってもいい。

それをランサーは使用しようとしているのだ。

この場で戦うのは不利だ。

長年の戦いで鍛えられたスキル、心眼(真)を持つ彼の戦闘知識がそう告げていた。

 

「……ちぃ。ここまでか。また機会は幾らでもある。」

 

アーチャーは双剣の構えを解き、軽々と塀の上へと跳躍する。

 

「逃げるのか。テメエ。」

 

「ああ、あいにく誇りなどない身なのでな。この場は引かせてもらおう。 ……衛宮士郎。その命、必ず貰い受ける」

 

それだけを言い残すと、アーチャーは身を翻し、夜の闇へと消え去っていった。

 

「これだけで終ったんじゃ面白くねえしな。また来るのを楽しみに待ってるぜ。」

 

ランサーは不敵な笑みのまま、アーチャーを見送った後、士郎の方へと向き直る。

 

「さて、と。それじゃマスター。

聖杯戦争の始まりだ。せいぜい、楽しもうじゃねえか。」

 

―――かくして、衛宮 士郎の聖杯戦争の幕は上がった。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。