Fate/if(フェイト・イフ)   作:名無しのレイ

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第七話-麗女復活-

 

―――話は、公園での戦いから数日ほど前に遡る。 

 

  「ん……。」

 

彼女――バゼットが拠点としているマンションの一室。

微かに目を開けたバゼットは暖かい液体に満たされた浴槽に、自分自身が横たわっているのに気づく。

もちろん、衣服など纏っていない。全裸のままだ。体を浸している液体は、薄いピンク色という奇妙な代物ではあったが、決して不快な物ではない。

むしろ、胎児のような安らぎを彼女に与えてくれる。

ちらり、と己の左腕を見るが、そこにはあるべきはずの左手がない。

あの左腕をバッサリと切り落とされたのが夢であったのならばよかったのだが。

ふう、と一つ溜息をつくと再び目を閉じて思索に耽る。過去の事は置いておくとして、問題はこれからだ。

サーヴァントはいない、片腕も無い、しかも深手を負ったこの体でどう聖杯戦争に勝ち抜くか。

もちろん、聖杯戦争を諦めるなどという考えは微塵もない。

そんな思索に耽っていた時、浴室のドアを開け、紫のローブを纏い、ロングヘアーにスレンダーな肢体、

耳の尖った妖精のような可憐な容貌をした女性が中へと入ってきた。

 

「お目覚めかしら。マスター。」

 

紫のローブを纏った彼女は、カツカツと浴室の中へと脚を運ぶと、浴槽の縁へと腰をかけ、己のマスターへと話しかける。

あの時はローブで顔を隠していて顔を見る事は出来なかったが、レイラインの繋がりから目の前の女性が誰かは判る。

 

「……キャスターですか。私は、一体。」

 

「全く、大変だったのですよ?左手損傷、出血多量、背中には深い切傷に精神的ショック。

おまけに令呪を奪い取られて体の神経の一部を引き抜かれていました。

これで生きている方が不思議だったのですけれどね。何とか傷を癒しましたけど、しばらくは動かない方がいいでしょう。」

 

「で、この液体は何なのですか。治癒薬の一種?」

 

ちゃぷん、とバゼットは無事な右手の掌でその液体をすくってみる。

薄いピンク色の液体。一見、入浴剤の入ったお湯にも見えるそれは、多少の粘性をもっている。決してただの水などではない。

優れた魔術師であるバゼットにしても、こんなモノは見たことがないが……恐らくは魔術薬の一種なのだろう。

でなければ、あれほどの傷を負った己の体が無事なはずがない。

だが、キャスターは軽く頭を振ってそれを否定する。

 

「いいえ、そんな生半可なモノでは貴女の傷を癒す事は出来ませんでした。

出血を止め、傷を癒し、失われた血を補う。しかも、貴女は一度令呪を他人に奪われている。

令呪を奪うと言う事は、体から神経をそのまま引き抜かれるのと同じこと。

それほどの傷など、いかに私でも到底治癒薬だけでは癒せはしない。

一時的に滅びを停滞させる事によって、貴女の命をようやく救う事が出来ました。」

 

「滅びを停滞させる」と聞いて、眉を軽く釣り上げてバゼットはまじまじと浴槽に満たされた液体を眺める。

傷を治す薬ならばそれこそ無数もある。だが、滅びを止めるほどの薬など、彼女の知っている魔術を持ってしてもただ一つ。

 

「擬似性の不死の薬……。キャスター。貴女は何者ですか。」

 

「私の名はメディア。偉大なる魔女、キルケの姪にして魔術と月と夜の女神、ヘカーテに仕える女司祭よ。」

 

誇るでも蔑むでもなく、淡々と機械のように言葉を放つ彼女。

魔女メディア。

彼女は、魔道に長けたコルキス王、アイエテスの娘として生を受けた。

ギリシャ神話の中でも屈指の女魔術師キルケに魔術を教わった彼女の魔術は師であるキルケに匹敵するほどの力を誇る。

プリニウスによれば、彼女の魔術は太陽、月、星すらも支配されたと言われるほどの魔術の冴えを誇るとも言われている。

 

彼女の有名な逸話としては、魔術薬を持って牡羊を八つ裂きにして煮、子羊を生き返らせ若返らせた事だろう。

英雄イアソンに仕えた彼女は、イアソンが王座につく時の邪魔者であるペリアスを倒そうと一つの策を思いつく。

メデイアは、若返りの魔法をペリアスの娘たちに教え、実際に目の前で羊を生き返らせた。

それを見て信じた娘たちは父ペリアスを若返らそうとしてメデイアに教えられたとおり、ペリアスを釜で煮てしまった。

この若返りの薬を応用したのが、今バゼットが浸っている擬似性の不死薬である。

 

「もっとも、大した材料がなかったので、擬似性の不死薬と言っても、そんなに大した効果は無いわ。

せいぜい、滅びを停滞させ、傷を癒す程度の事しか出来ないけれどそれでも十分でしょうね。」

 

そう言いながらも、彼女は自らのローブの裾に一回手を入れる。

どうも、あのローブの内部は空間が歪めてあるらしい。恐らくは、その中に様々な魔術用の道具などが入っているのだろう。

彼女が再びローブから手を出し、持っていた物を浴槽の縁にことん、と置く。

それは、白い肌をした女性の左腕。それには、バゼットには何処と無く見覚えがある。

 

「それ、は。もしかして……?」

 

「ええ、貴女の細胞を元に作り出した生体部品と魔術回路、そして金属の骨格などで作り出した義手よ。」

 

とてもそうには見えない。義手と言うと木材で作られた物か、あるいは金属製の物を想像するが、

今目の前にあるのは、白い肌を持つ女性の腕にしか見えない。

恐らくは、表面を人間そっくりの皮膚……あるい人工皮膚で覆ってあり、間接部分すら見えないように出来てあるのだろう。

それはまるで一つの芸術品にも見える。それこそが、神代の魔術師キャスターが心血を注いで作り上げた義手だった。

 

「どうせなら、今つけてしまいましょうか。どんな感じか、早めに知りたいでしょうしね。

動かし方は、魔術回路と連動した擬似神経に魔力を通す事によって自在に動かす事ができるはずよ。」

 

そう言いながらも、彼女はバゼットの左腕の断面に義手を装着する。

残存筋肉から発生する微弱電流を計測・解析し、さらに彼女自身の魔術回路と連動する事によって、手の動きを、再現する仕組みになっている。

始めは勝手が判らず、しばらく指先一つ動かす事も出来ずに四苦八苦していたが、次第に指先をぴくりと動かす事に成功する。

そして、やがて指、五指、手首なども自在に動けるようになってくる。

自然に動かせたり、物を強く握るようになるまでにはまだしばらくのリハビリが必要となるだろうが、

それでも何の違和感もなく、思った通りにスムーズに指が動くのに、彼女は驚く。

 

「凄いですね。感覚まで伝わってくるとは。」

 

試しに近くのバスタオルを撫でてみて、その柔らかい感触が伝わってくるのに驚きの表情を浮かべるバゼット。

それに答えるようにしてキャスターは言葉を放つ。

 

「表面は周囲の人間に不審に思われないように貴女の細胞を培養した皮膚で覆ってあるし、装着しても変な目で見られる事はないはずよ。

ただし強化された金属の骨格と貴女の生体細胞を使用しているとはいえ、格闘戦で使えるほど強度がある訳ではないわ。その部分は注意なさい。

後、こういう仕掛けもしておいたわ。

手首の部分に使っていない擬似神経があるでしょう。そこに魔力を通してみなさい。」

 

不思議に思いながらも、キャスターに言われた通りに手首の部分の魔術回路に魔力を軽く通してみる。

かちゃり、と手首の部分に孔が開き、瞬間、魔力の輝きが迸り凄まじい勢いで杭が飛び出す。

パイルバンカー。

火薬などで杭を射出する事により攻撃対象を串刺しにする兵器。それがこの義手には仕込まれているのだ。

 

「……キャスター。これは一体?」

 

流石の彼女も微かに冷や汗を流しながら手首から生えた凶器を見つめる。

一度飛び出た杭は、そのまま後方へスライドし手首の穴へと再び戻り、孔も自動的に塞がれる。

特殊な力場が構築されているのか、パイルバンカーが射出された際の衝撃は全くバゼットには伝わらない。

これほど高性能の義手を作成してくれたのはありがたい。

確かに使いようによっては戦闘を有利に進める事もできるだろうが、何もここまでして欲しいとは言ってはいない。

 

「見てのままだけれど?機能と性能、両方を兼ね備えてこそ真の芸術品と言えるでしょう?

ああ、けれど、それは切り札にしておいた方がいいわね。あまり使用すると義手自体にガタが来てしまいますから。」

 

はあ、とバゼットは思わず溜息をつく。こうなってしまっては何を言ってもムダらしい。

どうもキャスターは凝り性な側面があるらしい。誰かが止めないととことんのめり込んでしまうのだろう。

それを頭の中に入れながら、彼女は浴槽から立ち上がり、惜しげもなくその裸体をさらす。

桃色の液体は彼女の皮膚を伝い、滴り落ちる。確かに僅かに粘性を持っているが、体にベタつくと言う事はあまりない。

最後に軽くシャワーを浴びて、水でその液体を流し落とす。

側にかけてあったバスタオルで体を軽く拭くと、用意してあった予備の下着とスーツの元へと向かう。

 

「キャスター。私が戦闘に耐えうるまで回復するのにどれくらいかかりますか?」

 

「……一週間。義手に慣れてもらうのも含めてね。私の力を持ってしてもそれが限界かしら。」

 

「遅い。3日です。一週間もかかっていては戦争が終ってしまう。」

 

下着を身につけ、傷を負っていたとはとても思えないテキパキとした動作で予備の男物のスーツを身に纏う。

これこそ、彼女の戦闘態勢だ。やはり、バゼット・フラガ・マクレミッツはこうでなくてはいけない。

 

「さあ、行きましょうか。キャスター。これが私たちの戦争の幕開けです。」

 

 

 

そして、舞台は再び戦場へと戻る。

 

「―――さて、これはどういう事だか説明してもらえますか。特にそこのアーチャー。」

 

バゼットは凍りつくような視線を双剣を持ったアーチャーへと投げかける。

恐らくは、あの二人には他人が入れない何らかの縁があるのであろう。

凍りついた大気の中、その彼女の視線を平然と受けながら、アーチャーは皮肉な笑みを口元に浮かべる。

 

「驚いたな、私を失い、1週間と立たずに新しいサーヴァントと契約か。

やれやれ。私もそうだが、君の移り気もなかなかの物だ。」

 

そのアーチャーの言葉に対して、ぎり、と微かにバゼットは歯を食いしばる。

マスターの感情に呼応するように静かな闘気を放つキャスターが僅かに一言を呟くと周囲には淡い光球が数十個も出現する。

たった一小節で、まるで呼吸をするように構築される魔術。

しかも、あの魔力の輝きからすると、おそらくはあの光球一つで、

並の魔術師が五小節以上の詠唱をかけてようやく同等の威力に並ぶほどの魔力量だ。

キャスターの詠唱は現代人には発音できない神代の言葉、”神言”によって構築されている。

それは呪文、魔術回路の接触がなくとも、一工程で大魔術が発動できるギリシャ神話を生きた彼女だけしか行う事の出来ない神代の神秘だ。

お互いの間に高まりあう闘気。その張り詰めた闘気の中、ふっとアーチャーは笑みを消し、無表情に小さく呟く。

 

「バゼット。確かに君を護れなかったのはサーヴァントたる私のミスだ。

だが、今は謝る気はない。全力で私を打ち倒しにくればいい。」

 

「ならば、そうする事にしましょう。」

 

瞬間、彼女は大地を蹴った。

お互いの距離は十メートルほど。だが、その程度の距離などこの二人にとっては何の問題にもならない。

瞬時に間合いを詰めるバゼット。その彼女に対して横凪ぎの干将の一撃を繰り出すアーチャー。

まともに戦えば、当然武器を持っているアーチャーの方が有利に決まっている。

しかし、その干将の一撃を彼女は膝を曲げ、頭を下げるダッキングの防御技術で回避する。

懐に飛び込んできたバゼットをアーチャーは慌てる事なく、もう片方の胸の中央を狙った莫耶の刺突で迎撃しようとする。

だが、信じられない事にその短剣の突きは、バゼットの服に届く前に魔術による防御壁によって止められた。

 

「ぬっ。」

 

驚きに眼を見開くアーチャー。いかに宝具としてのランクは低いとはいえ、この剣を止めるほどの防御壁を構築できるほどの魔術師など……。

いた。サーヴァント中最高の魔力を誇るキャスター。彼女ならばそれくらいやってのけるだろう。

彼の懐に飛び込んだバゼットは下から上へと突き上げるアッパーカットを放つ。ここまで近いと、いかに短剣とはいえ上手く双剣は振るえない。

とっさに、弓兵は鋭いミドルキックをバゼットに向かって放つ。

ガードに入る彼女だったが、やはり完璧には防ぎきれず彼の蹴りによって横へと吹き飛ばされてしまう。

しかし、この場にいるのは彼女だけではない。

 

「おいおい、こっちも忘れてもらっちゃ困るぜ……っと!」

 

大気を引き裂き、瀑布の様に迸る赤き槍先。そう、アーチャーにとっての敵はバゼットだけではない。

ランサーのゲイボルクが唸りを上げて弓兵へと襲いかかる。

悉く急所を狙う切っ先を、アーチャーは何とか干将と莫耶によって最低限の動きで僅かに軌道を逸らす事により受け流し、回避する。

以前、ランサーと打ち合った時は、一方的に押されるだけで耐え切れなかったが、今回はある程度耐える事は出来る。

わざと急所に対して隙を見せる事によって攻撃箇所を限定する。

前回に得た情報を元に、培ってきた戦闘経験による状況打破。

それは心眼と呼ばれる修練によって得られる鉄の心だ。

最早アーチャーの鷹の目を持ってしても見切れないほどの閃光と化した槍先を何とかアーチャーは受け流す。

首を狙った一撃を莫耶で逸らし、額に向けて大気を引き裂きながら迫り来る穂先を下からの干将の一撃で逸らす。

前回に比べ、アーチャーは確かにランサーの攻撃に対応できていた。だが、それだけでは終わりはしない。

 

「ふっ―――!」

 

微かな息を吐く音と共に、いつの間にかフットワークによって間合いを詰めていたバゼットの左ジャブがアーチャーへと襲い掛かる。

ランサーの魔槍の攻撃によって体勢を崩した所に大気を切り裂く音をさせながら迫り来るバゼットの拳。

彼女の拳にはルーンが刻み込まれた金属製ナックルガード付きのグローブ。

おまけに表面にはご丁寧に戦いの神を象徴するルーン文字、テュール(Tir)が刻み込まれている。

これならば、物理攻撃が効き辛い人外の存在であろうとも、確実にダメージを与える事が出来る。

彼女の狙いはまず、アーチャーの両手首。そして、ジャブの次は、アーチャーの顎を狙った左フック。

彼の武器を叩き落とし、その後顎にダメージを与える事を目的とした攻撃だ。

 

それを予期したアーチャーは、さらに予想外の行動に出る。

後ろに大きくバックステップしながら、手にした陰陽の双剣、干将と莫耶をバゼットに向けて投擲する。

大きく弧を描き、左右から同時に飛来する双剣。その刃は敵上で交差するように飛翔する。

それを、彼女はとっさに片膝をついてしゃがみこむ事によって回避する。

双剣を失い、体勢を崩した所に間髪入れずに襲い来る死の棘、ゲイボルク。

この隙を逃す手などない。ここは確実に、ランサーは己自身の宝具を持って心臓をブチ抜く事を決意した。

 

 ゲ イ

《刺し穿つ―――》

 

「凍結解除(フリーズアウト)」

 

ランサーが宝具の真名を発動させるほんの少しだけの時間。

それよりも早く、アーチャーは己自身を変革させる呪文を小さく呟いた。

手には再び同様の干将、莫耶が現れる。それはありえない事だ。通常、一人の英雄は一つの宝具しか持てない。多くて2~3個。

それが限界だ。しかし、全く同様の宝具をまるでスペアのように所有する英雄などいるはずがない。

あの双剣でゲイボルクを受け止める気か。とランサーは思う。

だがムダな事、彼の宝具【刺し穿つ死棘の槍】は、槍がすでに相手の心臓に命中していると言う結果を作り出し、その後で槍を放つ、因果の逆転こそが真の力である。

それ故に、いかに防御・回避したとしても無意味。何故なら、それは「すでに心臓に命中している」からである。

故に必滅。この槍が発動した後に生き残る事など出来ない。

 

     ボ ル

《―――死棘の》

 

だが、その槍の発動は、突然、背中に肩甲骨の部分に何かが突き刺さった衝撃に中断される。

 

「ぐっ……!?」

 

痛みと言うよりも驚きで自分の背を見るランサー。

そこには、アーチャーが先ほど投擲した干将と莫耶が深々と突き刺さっていた。

陽剣干将、陰剣莫耶。

これら二つの剣は夫婦剣であり、お互いがいかに離れようとも必ず戻ってくるという性質を持っている。

それの性質を利用したのが先ほどの技だった。一度二つの剣を投擲する。そして、再び双剣を手に出現させる。

すると、投擲された双剣はアーチャーの手にした双剣と磁石のように引き合い、再び戻ってくるという寸法だ。

これを応用する事により、敵に予想もしない方向からの奇襲をかける事が可能になる。

 

「クソが……!!」

 

忌々しげに背中の双剣を物ともせずに、槍を振るうランサー。だが、一度真名発動を妨害された以上、それはただの攻撃でしかない。

その穂先を易々と回避し、大きくバゼットとランサーから距離を取るアーチャー。

ランサーは歯を剥き出しにして手負いの獣のような血に餓えた闘気を放ちながら、

片手で背に刺さった干将・莫耶を引き抜き、乱暴に地面に叩きつける。

バゼットも再び立ち上がり戦闘態勢を取る。だが、そんな二人を尻目に、アーチャーは嘲笑するかのように唇を歪める。

 

「残念ながら、ここまでだ。マスターの命令でね。予想外の要素が多いので、一度帰還しろとの事だ。

流石に、私も二体のサーヴァントと武闘派の魔術師を相手にしては骨が折れるのでね。」

 

「おいおい、ここまでやっておいてただで帰れるとでも思っているのかよ。」

 

ランサーの言葉に思わず同感だ、と言わんばかりに再び拳を構えファイティングスタイルを取るバゼット。

だが、そんな二人を無視するかのように、アーチャーは双剣を消し、静かに眼を閉じる。

 

「投影開始(トレース・オン)」

 

アーチャーは、目を閉じて己を変革する呪文を唱える。

途端、彼の目の前の空間に鋭い穂先を持った金属性の何らかの物体が作り上げられていく。

それは次第に明らかなカタチへと構築されていく。

そこに現れたのは1mほどの金色の輝きを持ち、さらに鋭い金属の穂先を持った鈷のような武器。

アーチャーによって作り上げられたその武器の真名が発動する。

 

       ヴァジュラ

   「―――《偽・金剛杵》―――!!」

 

空中に出現した《偽・金剛杵》はまるで砲弾のようにランサーやバゼット達に向かって射出される。

戦車の砲弾のごとき勢いで迫りくる1mの偽・金剛杵。

しかし、それがランサー達に当たる事はなかった。二人は左右に回避し、 その切っ先は凄まじい勢いで地面に深々と突き刺さる。

だが、それだけでは終わりではない。

突き刺さったヴァジュラを中心に周囲の地面を、大気を伝わって雷撃が迸り、辺り一面を電光の嵐で覆い尽くす。

 

金剛杵(ヴァジュラ)

この宝具は元々インドの神、稲妻を象徴するインドラの持ち物である。

聖者ダディーチャの骨で作られたソレは、例えエーテルによって構築されたサーヴァントであろうとも打ち砕く事が可能である。

この宝具は一回限りの射出宝具で、そのダメージ数値はB+に匹敵する。

元々は所有者の魔力とは関係なくダメージを出すお手軽な兵装である。

 

その特性は、今回でも遺憾なく発揮された。それが、この広範囲の雷撃の攻撃である。

元々、この原型を所有していたのは雷廷神インドラ。ならば、彼が所有する武器に雷の属性が付くのは当然といえるだろう。

蛇のように迫る稲妻。それを回避する事など出来はしない。

ランサーは気を失っていて地面に横たわる美綴や士郎の前に立ちルーンの護りによる結界で雷撃を防ぎ。

キャスターとバゼットの方は、キャスターの魔術によって展開された【盾(アルゴス)】によって防御を行う。

その隙にアーチャーはさらに大きく距離を取り、公園内からの離脱を図る。

公園外へと疾走していくアーチャーに向かって、バゼットは言葉を叩きつける。

 

「アーチャー。言峰に伝えておくといい。この腕と背中の傷の借りは、必ず返しに行く、と。」

 

ただ一度だけ弓兵はちらりと視線を送ると、それに答える事なく暗闇へと消えていった。

 

 

ようやく戦闘からの緊張感から開放された安堵感にはあ、と大きく溜息をつく士郎。

まだ体は麻痺しているが、しばらくすれば回復するだろう。

後は美綴をどうするか、そんな事をとりどめもなく考えている彼の元に、 かつんかつんと足音を立てながら、無造作にバゼットは士郎の下へと近寄っていく。

それは無造作な行為―――だが、何故か、それがとても恐ろしく感じられたのは、気のせいだったのだろうか。

地面に倒せ伏している士郎を見ながら、バゼットは微かに溜息をつく。

 

「全く、私は言ったはずでしょう。衛宮士郎君。何か危険を探知したら、すぐに逃げろと―――。」

 

その言葉と共に、彼女は拳を握り締めると、その拳を―――。

振り下ろす瞬間、その拳はランサーの掌によって受け止められる。

 

ぎしぎしと拳を軋ませながらも彼女の拳とランサーの手はお互いに拮抗する。

ランサーに掴まれた拳を勢い良く真横に振るい、握られた手を振り払うとバックステップして士郎とランサーから多少距離を取る。

 

「ランサー……いえ、その魔槍……。貴方は、まさか。」

 

キャスターのマスターであるバゼットはランサーのもっている真紅の魔槍、ゲイボルクを凝視し、

彼の全身をまじまじと見ながらこう呟く。

 

「クーフーリン。赤枝騎士団(The Red Branch Kights)の誉れ。ケルト神話の大英雄。」

 

何処か畏怖の響きを帯びている彼女の声色。

いや、あれは恐怖というよりは怯えだろうか。

まるで神に、いや、自分の最も尊敬する人間に刃を向けているような、そんな怯え。

 

「む、俺の事を知っているとはな。ケルトの末裔か。」

 

そんなランサーの口調に対して、バゼットは完全に戦意を失っている。

弱弱しい声で、彼女は、必死で首を振って叫びながらランサーと戦う事を否定する。

 

「わ、私は、貴方とは戦わない……!貴方とは戦いたくない……!だって、私は……!」

 

そんな彼女を冷徹な目で見ながら、ランサーは一言の元に切り捨てる。

 

「ふん、随分と甘い事だな。てめえも赤枝騎士団の一員なら。聖杯戦争のマスターならやるべき事は一つだけだろう。

―――テメエは、俺の敵だ。」

 

淡々と紡がれるランサーの声に、目の前の女性はよほどのショックを受けたのか、

がくり、と糸の切れた人形のように膝をつこうとし。

 

「く―――。」

糸の助けではなく、自らの意思で踏みとどまった。

 

「……いいでしょう。クーフーリン、いえ、ランサー。

聖杯戦争のマスターとして、私は貴方を排除する。」

 

再び顔を上げた彼女の顔は女性ではなく、戦士そのものの表情。

彼女は再び拳を握りなおし、ファイティングスタイルを取り戻すと、ランサーと真正面から向き合う。

 

「バ、バゼット……さん。何で。」

 

体が痺れて全く身動きの取れない士郎は、必死に顔を上げ、麻痺した舌でたどたどしく話す。

彼女は、自分の身を案じてルーン石のピアスをくれた人間だ。実際、それによって今まで士郎は生き延びる事が出来た。

それをくれた彼女が何故いきなり襲いかかってきたのか。疑問の表情を浮かべる士郎に対して、彼女は冷徹な笑みを持って答える。

 

「決まっているでしょう。危険因子は早めに除去するに限る。君が魔力を完全に覆い隠せるほどの凄腕の魔術師だったとは。

「エミヤ」と聞いた時はまさか、と思いましたが。流石は、衛宮切嗣の息子と言った所ですね。」

 

「親父を―――知っているのか。」

 

一番驚いた事は、彼女が自分の事を凄腕の魔術師と誤解していた事ではない。

士郎の義父、衛宮 切嗣の名前を知っていた事だ。

確かに切嗣は魔術師であるが、それほど名の知れた魔術師だとは聞いた事が無い。

そもそも、士郎は切嗣が魔術を行使した所すらあまり見た事すらないのだ。

 

「ええ、私たち魔術師にとっては、彼は天敵にも等しい存在ですから。

衛宮 切嗣。狙撃、トラップ、銃撃、ありとあらゆる手段を持って目的を排除する。

その血と名前を受け継ぐ君を侮る事などしない。ここで確実に排除します。」

 

彼女は半身になりながら、左腕を軽く下に下げ、右拳を顎の横へと付ける。

ボクシングで言うヒットマンスタイルに近いスタイルだ。

そして爪先立ちになり、爪先のステップだけで軽々と体を上下させながら、いつでもランサーや士郎に対して襲いかかる事のできる臨戦態勢に入る。

そのスタイルを見て、我知らず歯を剥き出しにして笑うランサー。その笑みは餓えた獣が、ようやく獲物を見つけた時の瞳の笑みを連想させる。

 

「なるほど。ルーン使いか。ああ。お前みたいな気の強い女は嫌いじゃない。

その上強くて美人っていうなら言う事無しだ。いいぜ、かかってきな。」 

 

強敵を前にした時の抑えられない興奮。背中の傷など、今の彼には全く感じられない。

この程度血が流れた程度では、彼の熱く滾る血潮が穏やかになろうはずもない。

 

「キャスター。援護を。」

 

一方、バゼットはキャスターに一言だけ言い放つと、大地を蹴って疾走する。

それと同時に、キャスターの周囲に浮遊していた数十個の光球から次々と光学兵器のような魔力弾が、ランサーに向かって発射される。

 

「な―――!」

 

士郎の口から驚愕の叫びが上がる。アレは一つ一つがランクBにも匹敵する威力だ。

おそらく、彼女は威力を下げ、速度と連射性を重視しているのだろうが、あれだけの威力を持った魔力弾を数十発も連発できるなど、どれほどの魔力量を誇るのだろうか。

サーヴァントの中で最高の魔力を誇る魔術師、キャスター。その力はここに来て遺憾なく発揮されていた。

 

まるでSFに出てくるレーザーのような光は上下左右から光の線を描いてランサーへと襲い掛かる。

上から下へと弧を描いて牙を剥く魔力弾をバックステップで回避し、左右からなぎ払うように襲い掛かる光の線を穂先で叩き落す。

そして、地面スレスレからポップしてランサーを刺し貫こうとする魔力弾をゲイボルクを回転させて盾代わりにする事によって弾く。

 

ランサーの対魔力はC。第二節以下の魔術は無効化できるが、大魔術などの大掛かりな魔術は防げない。

セイバーのような絶対的な対魔力ならばともかく、彼ではキャスターのランクBにも匹敵する魔力弾を完全に無効化する事は出来ない。

いや、そもそもキャスターの詠唱は神代の言葉、神言である。

いかに対魔力といえども、その条件には該当しないため、ダメージを軽減する事はできても無効化はできない。

実際、ゲイボルクで防いだとは言え、完全に打ち消すする事はできなかったのだろう。ランサーの肉体を護る蒼い鎧は所々が焼け焦げている。

ただ、救いだったのはキャスターの魔力弾は、連射性能を重視したため、ランクと威力を低めに設定してあった事だったろうか。

もしアレがAランクの魔術弾ならば、いかにランサーであろうとも倒されていたに違いない。

 

だが、それも戦いの布石にしか過ぎなかった。

ランサーが回避に専念する隙を見計らって、コートの裾を翻しながらバゼットが軽々と大地を駆け、ランサーへと迫り来る。

あの魔力弾はあくまでランサーの注意を逸らす牽制にすぎない。

 

その彼女の戦闘スタイルは、ボクシングに近い。

 

ランサーの鼻の下、人中を狙ってバゼットの鋭い右ストレートが轟、と唸りを上げる。

いかにサーヴァントと言えど、元は人間。

急所を鍛える事は出来はしない。それを見越しての攻撃だった。

しかし、ランサーは体を横に捻る事によりその右ストレートを回避する。

だが、彼女の攻撃もそれだけでは終らない。とっさにストレートを止めると、そのまま横にいるランサーに横凪ぎの肘を叩きつけようとする。

 

「げ―――ふ。」

 

だが、逆にダメージを受けて蹲ったのはバゼットの方だった。

よく見ると、ランサーの右膝がバゼットの腹部へとめり込んでいる。

思わず、彼女の口から呼気が漏れる。だが、ギリ、と歯を食いしばる事によって彼女は崩れ落ちそうな己の膝を何とか立て直す。

そのまま、再び攻撃へと転じるバゼット。

左ジャブ、右フック、そして時折繰り出されるローキックや前蹴り。

彼女の格闘スタイルはボクシングに近いが、蹴り技のみならず、関節技などが入っている所がボクシングとの大きな違いである。

どちらかというと、近代ボクシングを作り上げたジェームス・フィグが行ったベアナックルの他に、蹴りや投げ、締め、噛み付き、目つぶしを組み合わせたパンクラチオンのような物に近い。

恐らくは、自分自身で実戦の中で、様々な格闘技の要素を組み合わせて作り上げた格闘術なのだろう。

実際、魔術師とは直接的な殴り合いには弱い者達が多い。体を鍛える暇があったらより魔術の研究に励む。

だが、彼女は違う。魔術を発動させる前に敵の懐に飛び込み、格闘戦によって相手の魔術師を沈黙させる。

それが、封印指定を受けた魔術師を捕らえる魔術師狩り、バゼットが編み出した必滅の闘法だった。

 

長柄の槍を持ったランサーにとって、それより内の間合いでの戦い、つまり格闘戦は不利だ。

だが、彼とて歴戦の戦士だ。ただ槍だけで戦い抜いてきた訳ではない。剣、弓、格闘、そして魔術。

ありとあらゆる武器の使い方を覚えていなければ戦いには勝ち抜けない。ただ、彼の力に耐えうる武器がゲイボルクだけだったという話だ。

ゲイボルクの柄でナックルガードを防ぎ、ランサーの膝が跳ね上がる。左膝蹴りがバゼットの胴体目指して襲い来る。

何とか、彼女は左手でそれをカードする。

その際に生まれた、ほんの少しだけの防御の隙。そこを潜り抜け、バゼットの右フックがランサーの脇腹へと叩き込まれる。

ナックルガードに刻み込まれたテュールのルーンが発動し、魔力の輝きが迸る。

ランサーの口から微かな呻き声が漏れるが、それだけだ。致命傷には程遠い。

 

「ふん、確かにな。並みのゴーストライナーならその一撃でかなりのダメージを負っても不思議じゃねえな、

あいにく、こちらもルーンには免疫があってな。それだけでは―――っ!?」

 

だが、彼女もそれだけではない。

超至近距離まで間合いを詰めた彼女は、無造作に左手をランサーに向かって差し出す。

かちゃり、と左腕の手首の部分に孔が空き、そこから凄まじい勢いで杭が射出される。

 

鈍く黒く光る鉄杭……パイルバンカーの切っ先は、深々とランサーの左肩に突き刺さっていた。

このパイルバンカーの内部にはキャスターが所有する竜の骨が封じ込まれている。これによって僅かながらも、竜種の魔力が宿っているのだ。

これにより、サーヴァントに与えるダメージはより大きくなっている。

 

その戦いを、士郎は呆然と見ているしかなかった。

信じられない。いくら己自身の魔力によって身体能力を強化してあるとは言え、彼女は生身で英霊たるサーヴァントと互角の肉弾戦を行っているのだ。

それにどれほどの格闘の技術が必要となるのか。想像も出来ない。

今の手傷を負っているランサーでは、下手をすれば追い詰められられかねない。

 

「っ。俺も……。」

 

必死に、士郎は麻痺した五体に無理矢理起こしながら呟く。

確かにあんな超人同士の戦いになど割り込む事など出来ない。だが、ランサーだけを戦わせて、己はのうのうと寝ている訳にはいかない。

だが、足に全く力が入らない。まるで体の何か大切なモノがずれてしまったような違和感だ。

そして、彼自身は気づいていなかった。己の髪の一房。それが赤毛ではなく、白髪に変わっていた事を。右腕の皮膚の色が浅黒く変色していた事を。

そんな事は構わない。そんな事は些細な事だ。立ち上がらならなくては―――。

 

「そこまでよ。坊や。」

 

しかし、その意志は冷徹な女性の声によって断ち切られた。

 

「なっ。」

 

いつの間に移動したのか、士郎の後ろの暗闇からすうっと手品のように女性が浮かび上がる。

それは如何なる魔術か。そこに現れ出でたのは魔術師のサーヴァント、キャスター。

彼女は現れた同時に、すっと士郎に対して人差し指の先を指し示す。

その瞬間、ピタリと士郎の体の動きが全く取れなくなってしまう。何らかの呪縛か。

そう思った彼は、とっさに意識を総動員して己自身の肉体を探る。

探ってみた結果、彼は思わず凍りついた。

彼の体には他者の魔力なんて混じっていない。

魔術の毒素らしき物は胸にある一点の小さな点のみ。それだけで、彼の体は全く身動きが取れなくなっていた。

 

魔術師には抗魔力と言うモノが存在する。

睡眠、呪縛、強制などといった外的な魔術干渉を弾く力だ。

魔術師が所有する魔術回路は、魔力を生成するだけでなく、外からの魔力を弾くと言う特性を持っている。

よほどのレベルの差が無い限り、魔術師が他の魔術師に操られる事などそうそうない。

 

だが、彼女はそれを可能としていた。神秘が衰えた現代の魔術師とは雲泥のレベルの差。

それこそが、キャスターの恐ろしさだった。

 

一方、キャスターの方はあまりの容易さに落胆すらしていた。一般人並みの抗魔力しか持たない士郎では、到底キャスターの魔力に抗えない。

これはキャスターにとって全くの拍子抜けだった。バゼットから魔術による遠隔会話で指示されたのは、士郎を抑えろ、との命令だった。

A+ランクの魔術師狩りをして畏れさせるほどの魔術師、衛宮切嗣。

その血と魔術刻印を受け継いだ息子とやらがこの程度とは。

まあ、物事は簡単に済んだほうが都合がいい。マスターも押えた事だし、もうこの戦いは勝ったも同然。

ここでこのマスターを倒しても構わないが、それでは面白みがない。

 

「ここで貴方の令呪と命を奪ってもいいのですけれど、それはマスターの好みではないようですからね。

セイバーならともかく、ランサーはあまり欲しいとも思いませんし。

せいぜい、そこで無様に見守っていなさいな。」

 

「……てめえ、ランサーを物みたいに……!」

 

「あら、可愛い囀りだこと。あんまり可愛いと■してしまいますよ。坊や。」

 

すうっと、白く細い指先を士郎の頬に走らせるキャスター。

その妖しい手つきに思わず息を呑む士郎。彼女がその気になれば、今すぐにでも心臓を止められるという恐怖が襲い掛かる。

 

「……っ!小僧……!」

 

キャスターが士郎の後ろに現れた瞬間、とっさに《刺し穿つ死翔の槍》の発動を行おうとするランサー。

そんな隙をバゼットが放っておくはずなどない。

彼女の爪先には、雹と破壊的な自然の力を象徴するルーン、ハガラズ(Hagalaz)が刻み込まれた金属片で補強されている。

それが深々とランサーのこめかみへと叩き込まれる。

 

ランサーとて状況の把握が出来ないほど無能ではない。

だが、彼の誤算は二つあった。一つは、キャスターが空間転移を使用できた事。純粋な空間転移は現代においても魔法に限りなく近い。

士郎を狙った魔力弾なら叩き落せばいい。呪詛の類ならばルーンを使用するか、直接術者の心臓をゲイボルグでブチ抜いてやればいい。

守りに徹したランサーは鉄壁だ。だが、流石に彼女が空間転移までは使用するとは予想はできなかった。

それともう一つ。これは誤算というより彼の生まれ着いての性質。

戦士であるが故に、彼は強敵と会うとその戦いのみに熱中してしまう事だ。

もちろん、それで冷静さを失っては戦いに勝つことなど到底出来ない。しかし、戦いにのめり込んだ時のほんの一瞬だけの隙。

その隙が明暗を分けた。

 

「どこに行くのですか。君の相手は私だと言ったはずだ。

だが、勝負はすでに決まったも同然。ここまでです、ランサー。君の性質から言って降伏は受け付けないでしょう。

君は、ここで消えるがいい。」

 

「ク……。テメエ……!!」

 

悔しさに歯を噛み締めながら呻くランサー。

今のランサーは手負いの獣ではなく、血を流し、致命傷を負った獣にも等しい。

もはや後は狩られるだけ。流石のランサーも覚悟を決めかけたその時。

まるで機関銃のような凄まじい勢いのガンドが雨あられとランサーとバゼットの間に炸裂する。

 

「「――――!!」」

 

ガンド撃ち。元は北欧の魔術であるソレは、呪いたい対象を人差し指で指し示す事により呪いをかけ体調を崩す魔術である。

だが、このガンドはそんなレベルではない。強力な魔力が収束されたソレは、もはや弾丸の威力にも匹敵する。

そして、次の瞬間、一人の人影が士郎とキャスターに向かって突撃する。

それは銀の鎧を纏い、透明な剣を持つ可憐な少女の姿。サーヴァント・セイバーだ。

 

「くっ……!」

 

それを迎撃するかのように、ローブの裾から取り出した長柄の杖を手にした彼女は、再び周囲に光球を作り出す。

今度は、ランサーに放ったランクBの威力の比ではない。数こそ少ない物の、あの魔力の輝きは威力が段違いだ。

連射性ではなく、威力を重視し、一気にセイバーを打ち倒そうとする気だ。

迫り来る魔力弾。それはランサーを襲った物とは比べ物とならないほどの威力だ。

だが。

 

「―――!!」

 

その魔力の塊はセイバーに到達する事無く全て悉く掻き消された。

神代の魔術師の魔術すらも完全に無効化するセイバーの対魔力。そのランクやAにも到達するだろう。

これぞセイバー。最優のサーヴァントの名前は伊達ではない。

士郎とキャスターの間に割り込んだセイバーは、士郎とキャスターを繋ぐ細い魔力で創られた【糸】を叩き切る。

その後、彼女は士郎を庇うように、キャスターに向かい見えない剣を突きつける。

 

「引くがいい。キャスターのサーヴァント。彼らと私達とは今は同盟関係にある。

彼にこれ以上手を出すのならば、その命が無い物と思え。」

 

歯噛みをするキャスター。確かに、今のキャスターではセイバーに敵うはずもない。

ランクA以下の魔術を全て無効化するセイバーは、魔術師であるキャスターにとっては天敵だ。

燦然と輝く鎧姿の女性騎士。それはまさしく騎士の中の騎士とも言える威風堂々たる姿だった。

 

一方、バゼットとランサーの方も膠着状態に陥っていた。

その原因は、彼女たちに向かってガンドを放った魔術師。

セイバーのマスター、この冬木の地の管理者、遠坂 凛。彼女の乱入により、事態は三竦み状態に陥っていた。

彼女は、いつでも攻撃態勢に入れるように輝く宝石を手にしながら、じろりとバゼットの方を睨み付ける。

 

「へえ。外来の魔術師のくせに、管理人の私の所に顔も見せないなんて、いい度胸しているじゃない。」

 

いかに個人主義の魔術師とは言え、その地を支配する管理者の元に顔を見せずにその土地に入ると言う事は礼儀に反する。

管理者という物は、その土地に存在する魔術師や神秘を管理しなければならない。それ故、その土地の神秘を出来る限り把握していなくてはいけないのである。 まあ、聖杯戦争のマスターがわざわざ律儀に顔見せに来るなどとは思ってはいないが、それでも自分の管理する土地で見知らぬ魔術師が挨拶もなしにのさばるのは気分のいい物ではない。

闘気混じりに睨み付けてくる凛に対して、思わず苦笑いで答えるバゼット。

 

「私の方も立て込んでいまして。挨拶には向かおうと思ってはいたのですが。

キャスター。いくら私達でもサーヴァント二体とこの地の管理者、トオザカが相手では分が悪い。一時休戦です。」

 

その言葉を聞いてキャスターもこの状態では不利だと感じたのか渋々ながら杖を収め、戦闘態勢を解く。

そして、バゼットは男性物のスーツの裾を翻すと胸を張りながら、まるで宣戦布告のように堂々とした態度で言葉を紡ぐ。

 

「さて、改めて自己紹介と行きましょう。私の名前はバゼット。バゼット・フラガ・マクレミッツ。

魔術協会から派遣されてきた魔術師の一人。そしてサーヴァント、キャスターのマスターたる者です。」

 

彼女は、冷たく光る月光を背にしながら、不敵な笑みを持ってその場にいる皆に向かって堂々と宣言を行った。

そしてこの布告こそが、彼女の聖杯戦争の復讐戦の始まりだった―――。

 

 






Fate/if第七話、読んでいただきどうもありがとうございました。
しかし、今回は、スリーセブン氏の「Devil / stay night」と展開が被ってしまったかなあ、と反省しきりです。(バゼットの義手の部分とか)
ちなみに、バゼットの義手についてあるパイルバンカーの元ネタは「青の騎士 ベルセルガ物語」からですね。
話によると「吸血殲鬼ヴェトゴニア」にも同じシチュがあるらしいのですが、自分はまだ未確認なんですよね。(持っているのに)
ちなみに、慎二クンは前作で記憶を消した後放置プレイです。ひでえ。
後、ランサーの対魔力がキャスターの神言を完全に無効化できないというのは、サイドマテリアルの神言の記述を元にした独自の解釈です。

▽11月20日、バゼットの口調を修正しました。

それでは、感想、批評をお待ちしております。
またお気軽にお越し下さい。


なお、これらの小説は全てフィクションであり
実在の人物、団体、法人、国家、宗教等とは一切関係有りません。
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