帰れない宇宙人と一緒に暮らす
なんだかんだあって宇宙人と同居している。
比較的こちらの文化を尊重してくれているのか日々の生活にそれほど困りごとはない。
生活とは別ベクトルで問題は発生している。
問題なのは、その宇宙人に恋愛相談をされていることだ。
「これは、この感情は間違いなく好意だと確信しているね」
ガスコンロのグリルで朝食のトーストを焼きながら、彼は真顔でそう聞いてきた。
……うーん、馴染んだなぁ。
「はいはい、で?誰に対してですか」
「われらが研究室の紅一点、君の後輩であり私の先輩である女性だよ」
俺はトーストにバターを塗る手を止めた。
ちなみにここは俺の部屋で、彼は「ちょっと変わった海外の研究者」という設定で居候している。
正直設定の綻びはもう数えるのをやめた、多すぎんねん。
不思議な力が働いているのかみな疑問に思っている雰囲気をにおわせているのに誰も問わない、問題にしないのだ。
やめやめ、考えるだけ無駄だね。
「どういう状況でそう思ったんですか」
「彼女は、私の話をよく聞いてくれる」
「それだけで?」
「あと顔がいい、おそらくこの肉の器の好みなんだろう」
なにいってんだこいつ。
というか顔の好みなんてものがあったのか、知らなかった。
肉の器とかなんか空恐ろしい単語も聞こえた気がするが……精神生命体かなんかなんだろうか?
「そういえば伝えてなかったね。私はこの星で活動するにあたりこの体をお借りしたのさ」
「借りた、ということはお返しする予定が?」
「まぁ返したところで元の持ち主はお亡くなりになられているから埋葬する必要が発生するだけなんだけどね」
こいつ邪悪な宇宙人だったか。
俺は彼が焼いた少し焦げたトーストを受け取り皿に乗せながら考えた。
せめて光の巨人スタイルで奪った命を返却して肉体も返すとかならよかったんだが。
「なんだい、黙り込んで……ああ、この体は無理に奪い取ったわけではないよ。人類的に言えば亡くなられた後にお借りしたのさ、ヤドカリだね」
「まぁ、それなら……セーフかな?」
「よかった、君の記憶を消さずにすんだよ」
今度は黒スーツの男たちのカゲがチラついてきたぞ。
こいつ、最近どこまで本当のこと言ってるかわかんなくなってきたんだよなぁ。
地球の文化文明に汚染させすぎたか。
文化侵略文化侵略!
「……だいぶ脱線しましたね、戻りますがアイツのが好みだって話でしたっけ?わりと競争率高いっすよ」
「地球人類は非効率だな。単純に強いほうが総取りするのが宇宙文明だぞ?」
「前からちょっとだけ思ってましたけど、あなたの宇宙文明だいぶ野蛮ですよね」
こいつこのノリでよくこの星を侵略しないもんだ。
そのうち地球宇宙人どもの遊びで滅ぼされるんじゃねーの?
「まぁお察しの通りわれわれは君らでいうところの魂をベースにした種族だ」
「きみたちのように物質と魂を両立させている生態ではない」
「ないのだが、さきほどいったように借り受けることができる。この星系でいえば哺乳類はだいたいいけるな」
「爬虫類もいける、魚類はきびしいな魂に肉体がおいつかなくなる」
「いや、サイズの問題ではなく魂の総量の問題なのさ。これは君たちには計りようがないだろうけどね。」
「で、まぁ肉の器であるこの体に定着したからには肉の喜びを享受したいのさ」
「好みに関してはもとの持ち主の趣味嗜好にひっぱられてるかな?おそらくだけれどもね」
「肉体と魂の関係に関してはこれはもう君たちは死んでみないと理解できないよ、おそらくね」
……なんかいろいろと衝撃の事実を公開された気がするけどとりあえずは置いておこう。
さしあたっての問題はもう一つあった。
彼が好意を向けている相手は、俺が数年片想いしている研究室の後輩だった。
とても優秀でよく笑う。
そして「正体不明の海外研究者」が研究室に紛れ込んでいる状況を、
「変わってるけど優秀な人ですよね」の一言で済ませる強メンタルの持ち主でもある。
本当に全く気にしてないやつはマージで数少ないんだよな、これなんか法則とかあるのかねぇ。
ああ、あと彼女顔がいいんだよねぇ。
数日後。
どうやら宇宙人は振られたらしい。
研究室からの帰り道、コンビニで肉まんを買った帰りに彼はぽつりと言った。
「断られたよ」
「あらあらまぁまぁ」
「身元不明の人物とは交際できないそうだ、あと外国人顔が好みじゃないらしい」
「あー、そりゃそうでしょうね。顔はまぁ……肉体の乗り換えとかやめてくださいよ?」
むしろ、そこまで真面目に考えてくれたあいつは優しいほうだと思う。
宇宙人は肉まんを一口かじる。
「顔はまぁ、しかたないとして」
「何がです?」
「私という個体を評価するなら、見た目もそうだがまず評価すべきは個人の能力であって身元情報は本質ではないだろう」
「いや~、日本人は地球人類のなかではその辺のことわりと気にするタイプの人類じゃないですかねぇ」
俺も肉まんを頬張る、あしたは餡子にしようかな。
「俺の感覚ですけど、信用って本人だけじゃなくて、その人がどこで生まれて、どう生きてきたかも込みで作るものって感覚ですね」
最近、この沈黙が増えてきた気がする。
「……なるほど。肉の器だけではなく、経歴もまた器の一部ということか」
「そんな感じです」
「ひとつ勉強になったとしよう」
素直に頷く。
宇宙人なのに、こういうところだけは妙に学習熱心だ。
「じゃあ諦めるんですか?」
「いや」
即答だった。
「恋愛には失敗したが、君たちの文化については新しい知見を得られた。」
「前向きですねぇ」
「研究とはそういうものだろう?帰るためには全く必要ない分野ではあるが」
……まぁ、その考え方は嫌いじゃない。
少しだけ負け惜しみにも聞こえた気はしてるぞ。
俺は最後の一口を飲み込みながら空を見上げた。
この宇宙人が帰る日はいつか来るのだろう。
その日までに、あといくつ彼に研究成果をおしつけられるのだろうか。
「次はこの顔が好みの女性を見つけるさ」
こいつほんっっっとに俗っぽくなったなぁ。
もうちょっとつづけてみたいなっておもってます。