デスノートを使った者が、死んだ後に辿り着く場所。
天国でも、地獄でもない、無の世界。
そこに、新世界の神になろうとしたものが居た。
何をするでもなく、ただひたすらに虚無の時間を過ごしていた。
「…………………………………………………………」
息をすることすら許されない、何かを見ることすら許されない。
喋ることも、考えることも。
夜神月は、ただ、ひたすらに虚無の時間を過ごしていた。
「……………………………………………………………」
天国の、絶対に開くことの無い扉から、男が現れた。
無造作な髪。目の下には深い隈が刻まれている。
白の長いTシャツに、下はジーンズ。靴も、靴下も、履いていない。
飴を舐めながら、ひたひたと夜神月のもとへ歩いていく。
「お久しぶりです、月くん」
かつての宿敵、友達、戦友…夜神月にとって、2文字では語りきれない男が現れた。
「L?(…喋れる…!)久しぶりだな、L。」
「話せば長くなるので割愛しますが、月くんと勝負をしに来ました。」
「割愛しすぎじゃないか?久しぶりの再会なんだ、色々と積もる話もあるだろう?」
「そうですね…まず、私にはこの場所に存在できる時間が限られています。」
「そうだろうと思ったよ。Lの事だから、無理やり天国からここに来たのかな?僕と、勝負をしにさ」
「流石は月くんです。大変だったんですよ?偉い人に何億回とお願いしてこの条件なんですから。………」
「君なら1兆回お願いしていてもおかしくないよL。」
Lは、夜神月を上目遣いで訝しげに見つめる。
「キラ事件の結末を聞かないのかって?聞かないさ、大体想像できる。」
「やはり私たちは似ていますね。」
「どういう事だ?」
「私も結末に興味が湧かなかったんです。死神の力で翻弄されましたが、夜神月がキラだという事は序盤から99%気付いていましたから。」
「ふふ、僕がキラかどうか以外はどうでもいいって?」
「ええ、完敗です。今回は勝ちます。」
Lは心底悔しそうに掌を見つめる。
「テニスの件とキラ事件で0勝2敗。せめて2勝はします。」
「手錠しながら殴り合いしたやつは?あれ引き分けだったかな?」
死神の力を借りて新世界の神になろうとした男と、世界一の探偵。
リベンジマッチが始まろうとしていた。
「あのさ、L」
「はい」
「このまま時間稼いで不戦勝にするのはありかな?」
「それは絶対に許しませんよ、月くん」
「言ってみただけさ、そんな勿体ないことしないよ。
で、何を…」
2人、厳密には2人の魂の前に、A4サイズのトランプが5枚と、ホルダーがそれぞれ現れた。
ジョーカーが1枚と、♥️♦️♠️♣️の4が描かれたトランプ。
「おいL…」
「はい」
「これ天国のテレビで見たんだろ、やってみたかったのか?」
「そんなことありませんよ、早くやりましょう。あ、後攻で」
Lが後攻を宣言した途端、夜神月の手札からジョーカーが消えた。
夜神月♥️♦️♠️♣️
L♥️♦️♠️♣️ババ
「僕も生きてた頃見たからルールは分かるよ…懐かしいな。」
相手の思考を読んで、ババ抜きを交互に繰り返す簡単なルール。
ババを最後に持っていた方が負け。
夜神月は熱心にシャッフルをしていた。
「L?混ぜないのか?」
「はい、月くんいつでもどうぞ」
「自信たっぷりだな…」
(Lは、トランプが現れた時から一度も触れていない。
何か考えはあるのは明白だが、相変わらずのポーカーフェイスから読み取 れることは何ひとつ無い。視線も僕を真っ直ぐに見つめている。)
「うーん…これかな?」
「まあ最初ですから、何も考えることは無いですよ。」
「ははは、そうかな?君は僕の狙いに気づいてるんだろ?」
「月くんの狙いですか?なんでしょう」
「初期位置だよ。2人のカードは全く一緒の場所に配置されるか?僕はそれを試していたんだ。」
「予想的中という訳ですか。それで、どうして月くんはババを取ったんですか?」
♥️♦️♠️♣️
「なんでだろうね、初手だから何も考えてなかったんじゃないかな?まあ、そこにあるという確証はなかったし、4だけ、もしくはババだけがランダムという説も考えられる。」
♥️♦️♠️♣️ ババ
「まだ、不戦勝狙いですか」
寂しそうに、Lは呟く。
とは言っても、本心はL本人にしか分からない。
それを見て、夜神月は、キラは笑顔を見せる。
「君には敵わないな竜崎。さ、君の番だよ」
「私の本名、知りたくないですか?」
「ああ、L、竜崎。君の呼び名はそれだけで十分だよ。」
Lを殺したのは壁をすり抜けて殺した死神のレム。
キラは、Lの本名を知らない。
「じゃあ勝手に名乗ります。L Lawliet。初めまして。」
「初めまして。時間が無いんだろ?引いてくれよLawliet。」
「少しは驚くと思ってたんですけどね。」
話すと同時に、Lは自分から見て1番右のカードを抜き取った。
♥️の4が揃う。
L♦️♠️♣️
月♦️♠️♣️ババ
「竜崎なんて偽名を使うから想定はしていたよ。でもLだけじゃ殺せないし」
「L 竜崎は試しましたか?」
「試さないだろ、そんなふざけた名前…僕の番だ、混ぜろよ。」
「そうですね…はい。どうぞ、月くん。」
「どうも……L、本当に混ぜたか?」
夜神月の手札で ♦️が揃う。
「混ぜましたよ。月くんが混ぜろって言ったんですよ?」
「ああ、そうだな。ほら引いてくれ」
「………はい」
L ♠️♣️
月 ♠️♣️ババ
「月くんこそ、混ぜたんですか?」
「ああ、見ていただろ?」
(夜神月はゲームが始まる前26回シャッフルをしていた…だがそれはフェイクで、カードの位置は変わっていない可能性がある。)
(だが夜神月は知っている。私がその考えに辿り着くということに、夜神月は必ず辿り着く。その裏を突いて♠️ と♣️を逆にすると私が読む事にさえ気づいているだろう。)
「やっぱり似た者同士ですね。私たちは」
「そうかな?意外と何も考えていないかもしれないよ?」
「似た者同士と言われてその答えが出る時点で…
考えてるんですよ、月くんは。」
「おや、えらく哲学的だね。」
「…混ぜていなければ、1番左がババですね。」
「そうだね。混ぜていなければ、1番左がババだ。」
「逆手にとって真ん中にババを持ってくる可能性がある…」
「そうだね。真ん中にババを持ってくる可能性がある。」
「右に置く可能性もある。」
「そうだね。右に置く可能性もある。」
(尻尾を出さないか…こちらの言動全てにオウム返しで思考を読ませないつもりだ。何が何だか分からない…。)
「私の中では真ん中が1番怪しくなりました。」
「へえ、なんでだろう?」
「真ん中に置く可能性があると言った時、月くんは『真ん中にババを持ってくる可能性がある』と言いました。」
「うん、それで?」
「こう言われた場合、『真ん中に置く可能性もある』と”も”をつけるのが一般的です。」
「ああ、思考を読まれなくするための駆け引きだからね。日常会話ではそうするさ」
「思考を読まれなくする必要があったという事ですか、月くん。真ん中がババです」
「乱暴な論調だな、君らしくない。そう思うなら真ん中以外を引くといいよ。そうしたら君の勝ちさ。」
「はい、1番右を取ります。」
「ああ、L、それはババだから左にした方がいい」
「右を取ります」
L ♠️♣️ババ
月♠️♣️
「あーあ、だから言ったのにな」
「…月くんの番です」
「混ぜないのか?」
「混ぜましたよ、月くんが目を閉じてる間に」
(そんな一瞬で混ぜられるわけが無い!勝つ気がないのか?
…いや、僕は油断して数秒目を閉じた!隣を入れ替える事は可能!)
「…そんな一瞬で混ぜれないよL。1番左がババだろ?」
「 そうです」
「真ん中かな?」
「そうです」
「右だ」
「そうです」
Lも思考を探られないために、返答をそうですに絞って対抗した。
「ふっ可愛いミスをするねL。1番最初だけ反応が鈍かった。僕の勝ちだ」
夜神月は勝利を確信して真ん中からカードを抜き取った。
Lの表情は何一つ変わらない。
ただ、ずっと、夜神月から目を離さずに
生前のように、ひたすらに観察を続けていた。
椅子の上に体育座りをして
監視を続けていた。
L♠️♣️
月♠️♣️ババ
「混ぜたって言ったじゃないですか。」
「…そんな小芝居までするならもう駆け引きに意味が無いな。」
「ないですよ。裏の裏の裏の裏まで読まないと。」
「いつ決着が着くのかな?これでは不戦勝になってしまう。」
「ああ、それも嘘です、月くん」
「嘘って?」
「天国の偉い人に何億回とお願いしたと言ったでしょう?
嘘です、すみません。」
あまりの告白に、夜神月は頭を抱えた。
「話が見えないな。ちゃんと説明しろ」
「勝手にあの扉を開けて此処へきてしまって、もう戻れないんです」
「何?」
「つまり、L Lawlietは天国にも地獄にも行けない無の世界でこれからずっと過ごすという事です。」
「でも、これは無とは言わないだろう。馬鹿なことを言ってないで続きを…」
「ワタリがやってくれました。天国でも地獄でもないこの世界で唯一、
月くんとこのゲームだけはできるように」
「分からないよ、何故そこまでするんだ、L。
君は生前沢山の命を救ったんだから、こんな所に来ちゃいけない。」
「月くんの事を、私は友達だと思っています。」
Lの表情は何一つ変わらない。
ただ、ずっと、夜神月から目を離さずに
生前のように、ひたすらに観察を続けていた。
椅子の上に体育座りをして
監視を続けていた。
「それだけですよ。さあ、続きを」
本心は、Lにしか分からない。