バッドエンド後にやり直した人生で、初対面のクラスメイトからなぜか激重感情を向けられている   作:水島紗鳥

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第2話 死と新生

「……あれ、いつ家に帰ったんだっけ?」

 

 目覚めると見覚えのある自分の部屋の天井が目に入ってきた俺は思わずそうつぶやいた。昨日どうやって家に帰ったのかが全く記憶に残っていない。

 思い出そうとしても寝起きのせいか上手く頭が働かなかった。何故かは分からないが凄く長い間寝ていたような気もする。寝ていた時に誰かに話しかけられたり、体を触られたような気もするが、その辺りについてもよく思い出せなかった。

 ひとまずベッドから起きあがって立ち上がる俺だったが、体に凄まじい違和感があった。上手く言葉には言い表せられないが、いつもと何かが違うような気がする。

 そんなことを思いつつも枕元に置いてあるであろうスマホを取ろうとするが、いつも寝る前に置いている場所には見当たらなかった。もしかして机の上だろうか。

 

「この辺って確か共通テストの問題集とか赤本を置いてなかったっけ……?」

 

 机を見た瞬間あるはずのものがないことに気付く。そして代わりに置いた記憶のないものが置かれていた。それは大昔にどこかへしまったはずの高校入試用の問題集やテキストだった。

 もしかして母さんが机の上の整理か何かをしたのだろうか。高校は卒業したが大学に全落ちして浪人はほぼ確定しているため、まだ使う可能性はあるし勝手にしまわれるのは普通に困る。

 

「あれっ、そういえば昨日が卒業式だったんだっけ……?」

 

 大学受験に全落ちして落ち込んでいたおかげで卒業式どころではなかったし、ダブルパンチで失恋までしたのだから最悪な意味で特別な忘れられない一日になった。

 卒業式が終わった後は失意のまま帰り始めた。そんなふうに出来事を振り返る俺だったが、とんでもない事件に巻き込まれたことを思い出して思わず声をあげる。

 

「いやいや、俺刺されたよな!?」

 

 そうだ、俺は痴情のもつれに首を突っ込んでナイフで刺されたはずだ。一瞬夢でも見ていたのかなとも思ったが、ナイフで刺された瞬間の燃えるような痛みは鮮明に思い出せるため、絶対に自分の身に起きた出来事であることは間違いない。

 なるほど、長い間寝ていたような気がしたのは刺されてから数日ほど意識を失っていたからだろう。ということは俺は死なずに済んだようだ。

 でもそれなら病院のベッドの上で目覚めないとおかしい。目覚めた場所が病院以外だとしても、家の自分の部屋なのはあり得ないはずだ。それにかなりの重傷を負ったはずなので何の痛みもないのも明らかに不自然だろう。

 

「……あれっ、三月一日って日曜日じゃなかったっけ?」

 

 机の上に置かれていた卓上カレンダーを見て違和感を覚えた俺は思わずそう声をあげた。高校の卒業式は三月一日に行われるが、日曜日になるのは珍しいという話を聞いていたためしっかりと曜日まで覚えていたのだ。

 よくよく見るとそれは三年前のカレンダーであり、しかも俺の字で予定がしっかりと書かれていた。でも、このカレンダーは確か捨てたような気がするんだけど。

 それに部屋の中を見渡してみても物の配置などが結構違う。さっきから感じる部屋の中に関する違和感は全て共通点があった。それはこの部屋の中の物の配置などが記憶に残っている中学三年生の頃と全く同じであることだ。

 

「もしかしてこれが走馬灯ってやつなのか……?」

 

 現在の俺はナイフで刺されて生死の淵をさまよっているような状態で、今目の前に広がっている光景は死ぬ前に脳が生み出した幻なのではないかと思い始めた。そんなことを思っていると部屋の扉が開かれる。

 

「瑛人、昼が出来たわよ」

 

 部屋に入ってきたのは母さんだった。ナイフで刺されて意識が遠のいていく感覚の中、母さんの顔も頭に思い浮かんだ。あの同級生を庇ったことについては確かに後悔はなかったが、父さんや母さんに対しては本当に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 

「ごめん、母さん。親不孝な息子で」

 

 これは死ぬ間際に見ている過去の記憶を再現した走馬灯であり、本物の母さんではないことなんて分かりきっている。それでも母さんの顔を見た瞬間、俺が思わずそうつぶやいてしまったので、これは紛れもない自分自身の本音なのだと思う。

 

「急にどうしたの?」

 

「だって、母さんより先に死んじゃったから」

 

「ひょっとして寝ぼけてる? 今日は高校の入学祝いであんたのスマホを買いに行く日なんだから、さっさと昼を済ませなさい」

 

 母さんはちょっと呆れたような表情を浮かべながら部屋から出て行った。部屋に一人取り残された俺は、もしかするとこれは走馬灯ではないのかもしれないと思い始める。

 走馬灯はあくま死ぬ間際に人生の記憶が次々とよみがえる現象であり、さっきのように会話が成立すること自体がおかしい。それに窓から差し込む日差しの暖かさや、部屋の外から漂ってくる昼食の匂いは明らかに本物だ。

 

「……もしかして、これって逆行ってやつか?」

 

 自分の今の状況を冷静に分析して出た結論がそれだった。アニメや漫画などの二次創作界隈で逆行という設定は非常に人気だ。

 特に本編が明確なバッドエンド、もしくは解釈次第で様々な捉え方ができるメリーバッドエンドのような作品だと、逆行物が必ず二次小説投稿サイトの人気ランキングでは上位にくる。

 これはみんな主人公達が幸せになるハッピーエンドが見たいと思っているから起こっている現象に違いない。もし本当にここが逆行している世界なのであれば、先程の母さんの口ぶり的に今は中学校を卒業して高校への入学を控えた春休みだろう。

 

「でも、流石に強くてニューゲームにはならない気がするけど」

 

 せいぜい勉強面で少し有利になるくらいか。それでも、バッドエンドで終了した人生をやり直せるのであれば文句はない。

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