バッドエンド後にやり直した人生で、初対面のクラスメイトからなぜか激重感情を向けられている 作:水島紗鳥
瑛人が息を引き取ったと聞いた私は全く理解できなかった。いや、当然頭では理解をしていたかもしれないが心は納得なんてしてくれそうになかったと言った方が正しいだろう。
私が理解を拒んでいた間も時間は止まってくれなかった。瑛人の葬儀にも参列したらしいが、その時のことは全く記憶に残っていない。
いよいよ私の心は耐えられなくなり、気付けば家にあった大量の睡眠薬を服用して自殺未遂を起こしていた。だが、結局私は死に損なってしまったのが結末だ。当然パパやママからは怒られて泣かれたし、通院を通して仲良くなっていた瑛人のパパとママからも怒られた。
そこで私は残される側の人間がどんな気持ちになるのかをようやく理解する。私は瑛人が死んだ時と同じ苦しみをパパやママにも感じさせてしまいそうになっていたのだ。
瑛人のパパとママからも息子がそんなことを望んでいるはずがない、君が幸せに生きてくれた方がきっと瑛人も報われると言われ、自分の行動の浅はかさに気付いた。確かに逆の立場なら絶対に私もそう思うはずだ。
だから私はまだ完全には立ち直り切れてはいなかったが瑛人のおかげで助かった命で、例えどんなに苦しいことがあっても天国で再開した時に胸を晴れるように彼の分までしっかり生きようと誓った。しかし、そんな誓いは私の命が残念ながらもう長くないため守れそうにない。
「まさか同じ場所でこんなことになるなんて、これが私の運命なの……?」
私に包丁を突き刺した大学の同級生が走り去っていく姿を見ながらそうつぶやいた。今いるここは二年前にナイフで刺されそうになって、瑛人に助けられたのと全く同じ場所だ。しかも、倒れている地面の場所まで完全に一致してる。ただし、違うところをあげるとすれば今回は瑛人がいなかったことだろう。
告白をされて何度も断っていた同級生に逆恨みをされて刺された。恐らく今回の事件を引き起こした決定打になったのは、瑛人が亡くなる少し前の告白を断ったのがきっかけだと思う。
今までは角が立たないように断っていたが、その時はかなり感情的になってしまった。だが、いつまで経っても目覚めない死に損ないなんか忘れて俺にしろよという感じのことを言われて、冷静でいられるほど私も大人ではなかったのだ。
周りは騒然となっており側で誰かが泣きながら私の名前を呼んでいたような気もしたが、視界が霞み始めていたためもはや相手が誰なのかすら分からない。残念ながら私はもう助からないだろう。
せっかく頑張って生きようと思ったやさきにこれだ。瑛人から助けてもらった結末がバッドエンドというのはあまりにも酷すぎやしないだろうか。
「……瑛人、ごめんなさい。私、あなたの分まで生きられなかった」
私は瑛人が生きている間に何もできず、挙げ句の果てに死にかけているのだから後悔しかない。だんだん薄れゆく意識の中、二年前のあの日、瑛人の手を握った時の感触を思い出したのを最後に全てがブラックアウトした。
◇
「……昨日は何をしてたんだっけ?」
私はゆっくりとベッドから起き上がりながらそんな言葉をつぶやいた。昨日は用事があって午前中に大学へ行った記憶はあるが、午後の記憶が全く思い出せない。
春休みで授業もないため用事だけ済ませて大学を出て、そのままどこかへと向かったような気がするが、寝起きのせいか頭が全く働いてくれなかった。
枕元においていた時計を見ると十一時過ぎになっていたので、昨日はかなり疲れていたのかもしれない。部屋を出て洗面所へ向かっていると台所にいたママと遭遇する。
「やっと起きたのね、天音がこんな時間まで起きないって結構珍しいじゃない」
「私もなんでこんな時間まで寝てたのか分からないわ」
問いかけに対して私は特に何も考えずにそう答えたが、私はママの様子がおかしいことに気付く。ママの顔色があまりにも良過ぎたのだ。
私が自殺未遂を起こしてからパパもママもかなりやつれていた。だから目の前にいるママの顔色が良いのは明らかに不自然だ。悲劇が起こる前の雰囲気に似ているし、それに心なしか外見も若いようにも見える。
そんなことを考える私だったが、ママが右手に持っていた包丁を見た瞬間、全身から血の気が引く。そしてようやく私は昨日何が起こったのかを完全に思い出した。
大学の同級生に包丁で胸を刺されて私は間違いなく死んだはずだ。では、私の目の前に広がっている光景は一体何なのだろうか。少なくともここがあの世とは思えない。
「急に顔が真っ青になったけど大丈夫なの? 今日は部活のお別れ会に行くって言ってたけど体調が悪いなら辞めた方がいいんじゃない?」
「部活のお別れ会……?」
その言葉を聞いた私はとある仮説が頭に浮かんでくる。だから私はまだ何かを言っているママを無視して洗面所に駆け込んだ。そして洗面台の鏡に映った自分の姿を見て仮説は確信に変わる。鏡の中の私は明らかに幼くどう見ても二十歳を超えた女子大生には見えなかった。
まだ髪染めやピアスの穴が空いていないことと、ママの先程の言葉から総合的に判断すると、今の私は恐らく中学三年生だ。つまりまだ瑛人は生きている。居ても立っても居られなくなった私はその身一つで家を飛び出す。ママが何か叫んでいたが、もはやそんな言葉は一切耳に入ってこない。
私はそのまま一心不乱に走り続け、目的地の一軒家が見えてきた。ちょうどそんなタイミングで扉が開き家の中から数人が出てくる。そこには私が長年恋焦がれ、気持ちすら伝えられないまま先立たれた瑛人の姿もあった。多分その時だったと思う、私の中で何かが決定的に壊れたのは。