バッドエンド後にやり直した人生で、初対面のクラスメイトからなぜか激重感情を向けられている 作:水島紗鳥
三人で話している間にかなり時間が経っていたようで、気付けば夕方になっていた。窓の外から見える景色も夕日に染まってオレンジ色になっている。
「ごめんなさい、長い時間引き止めちゃって」
「いえ、瑛人君やおかあさまとお話しするのが楽しくて私も全然気づきませんでした」
母さんは申し訳なさそうな表情を浮かべつつも、天音と別れるが名残惜しそうな様子だった。そしてそれは天音も満更ではなさそうだ。少なくても俺の目から見てお世辞でそう言っているようには見えなかった。
「時間も遅くなってきたから家まで送るよ」
「じゃあお言葉に甘えさせて貰うわね」
「またね、天音ちゃんなら大歓迎だからまたいつでも来てね」
母さんはそんなことを言っていたので天音は短時間で心を鷲掴みにしたらしい。そんなことを思いながら俺達は家の外に出る。
四月に入って日中はかなり暖かくなったが、夕方の時間帯はまだ肌寒い。実際に天音はほんの少しだが震えていたため寒さを感じているはずだ。だから俺はカバンの中に入っていたコートを天音に手渡す。
「寒いと思うし、これ使ってくれ」
すると天音は明らかに驚いたような表情を浮かべる。流石に男子のコートを着るのは抵抗があったかなと反省していると、天音の口から出た言葉は予想外のものだった。
「気持ちは凄く嬉しいんだけど、それだと瑛人が寒いんじゃない?」
「ああ、俺は別に大丈夫だ」
別にこのくらいであれば大したことはないし、寒かったとしても俺よりも天音が助かった方が嬉しい。そんなことを考えていると天音は俺が手渡したコートを開き、俺の体に密着しながら羽織る。
「ちょ!?」
「こうすれば二人で使えるわ」
明らかに取り乱す俺に対して天音は落ち着いた口調でそう言葉を口にした。だが、よくよく見ると天音も少し恥ずかしそうだ。
「急にどうしたんだよ!」
「寒がっているのを気づかってくれたのはめちゃくちゃ嬉しかったけど、瑛人を犠牲にして私一人だけが助かるのは嫌なのよ」
天音は相変わらず恥ずかしそうな表情を浮かべていたが、その言葉には明らかに力強さがあった。そのまま天音は言葉を続ける。
「誰かを助けようとするのは瑛人の良いところだと思う、でもそのために自分を犠牲にする必要はないと思うわ。私は一人だけ助かるよりも、二人で負荷を分かち合った方が絶対にいいと思うから」
そう言われて俺は自分の行動は間違ってはいないものの、正しくもないと理解させられた。もしこれが逆の立場でコートを借りて俺は寒さが防げても、その傍で天音が寒そうにしていたら素直に喜べないはずだ。
「ってわけだから恥ずかしいかもしれないけど、しばらくはこのままよろしくね」
「……ああ」
女子に密着されてドキドキが止まらない俺だが、何とかそれを表に出さないようにしつつそう答えた。俺達は二人の肩からかけるようにコートを羽織ったまま歩みを進める。
「てか、瑛人って誰に対してもさっきみたいな感じなの?」
「そうだな、性格だと思うんだけど困ってる人がいたら昔から見過ごせなくて」
「……ってことは女子に対しても?」
「基本的にはそうだけど、そもそも女子とはあんまり関わりがないからな」
実際に一周目の世界では陽葵くらいしかまともに会話が出来る女子は身近にいなかった。だからこうして天音と話しているのもかなりイレギュラーだ。
「確かに瑛人は女子に対してあんまり免疫が無さそうだもんね」
「やっぱり分かるか?」
「ええ、瑛人を見て女慣れしてるとは絶対に誰も思わないはずよ」
やっぱり俺の言動には童貞臭さが出ているに違いない。前回の世界線では彼女すら出来ずに生涯を終えてしまったが、今回は俺にも春が来て欲しいとは思っていた。そんなことを考えていると隣を歩いていた天音が口を開く。
「あんまり他の女子の前で格好をつけようとしちゃダメよ、勘違いされると面倒になるわ……瑛人は私だけの王子様なんだから」
「そうだよな、確かに勘違いしても辛いだけだし」
最後の方の言葉は声が小さ過ぎて天音が何を喋っていたか聞こえなかったが、確かに勘違いをしても不幸しか生まない。俺のようなモテないタイプの男子はすぐに相手が自分を好きと勘違いするから厄介だと思う。
陽葵に告白をしたのだってその延長線上だ。きっと陽葵も俺のことが好きに違いないと思って告白した結果が、前回の世界線の玉砕であることは言うまでもない。しかも陽葵が俺のことを男としては全く意識していなかったことまで分かってしまい、少なくない精神的ダメージまで受けた。
その上、陽葵は告白した俺に対して馬鹿にしたり気持ち悪がるようなことも一切なく、その後も今まで通り接してくれるくらいには性格が良かった。
だから余計に惨めな気持ちになったのだと思う。そう考えると俺は人間としては相当未熟に違いない。そこは直さなければならないなと思っていると、隣を歩いていた天音が足を止める。恐らく目的地に着いたのだろう。
「ここが私の家よ、送ってくれてありがとう!」
「こちらこそ今日はありがとう」
「うん、また明日」
陽葵のことを考えてネガティブな気持ちになっていたが、天音の笑顔を見てその気持ちは吹き飛んだ。こうして俺の二回目の高校生活初日は幕を閉じた。