ハンバーガーの戦い 〜この異世界のスキルはハンバーガ〜 作:石林留
開天!謎の世界
この物語は一人の少年が奇妙なハンバーガーの世界に紛れ込み、『ハンバーガー』のような力で戦いに巻き込まれていく話である。
これからの出来事はあまり言えないが、一つだけ言えることは、
「世界はソースのように甘くない、舐めてかかるとこちらが食われてしまう。」
ということだけだ。
◆◆◆◆
「ハンバーガーを食うぞ!」
普通の高校生である俺、
学校中にその声が広がる。
その声を鬱陶しそうに芳賀とは離れたところにいる学生が一人声を漏らす。
「…まーたなんかほざいてるよ、あのバカ」
「更田、今の声は何なの?」
同級生が、先ほどの大声に呆れている男、更田にそう聞く。
「あいつはバイト先に入ってきた後輩で、芳賀千鶴ってやつだ。ハンバーガーが大好きで、おいしく食べるためにお腹をすかせるのが趣味な変人さ」
「ふうん、まあ健全な趣味で悪いやつじゃなさそうだね。」
「…お前は会ってないから言えるんだよ!あいつ、この前の夏祭りに行かないか誘ったんだがな、なんて言ったと思う?…家族とハンバーガーが帰りを待ってるから無理ってよ、ハンバーガーニストとして譲れないんだとさ」
そう更田はため息まじりに言った。
「ハンバーガーニストって?」
「俺もわからない。ちなみに本人もやれハンバーガーと両思いの人とか、ハンバーガーそのものになる人とか、ハンバーガーの伝道師とか、日によって定義が変わるんだ」
「ええ…なんだよそれ」
「まあ悪いやつじゃないのはそうだがな、ハンバーガー中心の生活しているあいつを見ているこっちが胃もたれするんだよ。あんなハンバーガー狂いはハンバーガーの世界とかに行ったほうが幸せなのかもな」
そう更田は冗談交じりに言った。
響く声に蝉が歓声を上げる。7月の昼頃であった。
◆◆◆◆
今日は日曜日で休みである。しかし俺はわざわざ
自転車で10分かけ朝から教室で自習をしていた。
その苦労の後のハンバーガーはさぞかし美味いはずだからだ。そして勉強を終えて、ハンバーガーを食べれることへの喜びでつい叫んでしまった。
更田先輩に聞かれたら怒られちゃう。
俺はハンバーガーを愛するもの、ハンバーガーニストとして自他共に認められている。
「いただきます!!!」
手と手を合わせて俺は挨拶をした。
挨拶はハンバーガーへの礼儀。怠ってはならない。
そして袋からガサゴソとハンバーガーを取り出す。
この時間が煩わしくも幸福を感じる。
「…やっと会えた!愛しのチーズバーガー!」
勉強したかいがあった!お腹ペコペコで一層魅力的に見える。
そう芳賀は涙を浮かべた。
ジューシーなパティとふんわりとしたバンズ、そして具の隙間から顔を見せる溶けかけのチーズ、フレッシュなレタスはまるで生きているかのようだ。
思わず芳賀は顔をほころばせる。そしてかぶりついたその瞬間、果てしない青空が辺り一面に広がったのだ。…言葉どうりに。
「…お、…おお?」
刹那、体の自由が効かなくなった。落下しているのだ。それは果てしない青空がイメージでも何でもなく、実際の景色ということを示している。芳賀はパニックになりつつもいったん冷静になろうとした。芳賀は状況を整理する。自分は空中に今いて、高度は雲より少し上だったが慌てる間に地面が見えてきている。
「えっ、は?」
芳賀はさらに周りを見渡す。すると芳賀は叫んだ。
「うわぁぁぁ!」
冷静になれるわけない、なぜ自分がこんな場所にいるのか、なぜ、少し見えてきた地面には大きな口を空けた化け物がいるのか。
急転直下
芳賀は絶望していた
「ここって…地獄?!」
芳賀の真下で大きな化け物が口を開けている。自分は死んでしまったのだろうか、もしやチーズバーガーの旨さのショックで…
そうにしてもなんで地獄に行かねばならないのか、俺はいつも勉強にバイトにハンバーガー、学生の本分を全うしていたのに…来世はハンバーガーの店でも開こうか、
芳賀はそんな思考が駆け巡った。
化け物の見た目は見るとハンバーガーに形が近い。ハンバーガーに口がついてる化け物と言ったら百人中百人が想像するような典型的な見た目をしている。
「ハンバーガーは、自らを食べた俺を恨んでいたのか、一方的に愛を押し付けて…、俺はハンバーガーニストとして未熟だったのか、申し訳ない」
芳賀は極めて冷静に妄言を呟き、覚悟を決めて目を閉じた。
閃光にしては暖かく、熱にしては綺羅びやかな何かが芳賀の目を襲う。
そして芳賀は落下から抜け出せたのを感じた。誰かが自分を受け止めたのだ。
「ば、化け物は?」
少しずつ戻る視界とともに、芳賀は叫ぶ。
「もう焼いた。」
そこには眼帯をしている一人の黒髪の青年が刀を帯刀し立っていた。黒いタキシードが妙に似合っている。自分より2、3歳ぐらい上であろうか。
「あの、ハンバーガーって、いや、ご存じだと思うんですけど、神の食べ物あるじゃないですか、それをたべようとして、気づいたら空中にいて…化け物がいて、…」
芳賀は人に会えたこと、化け物を焼いたということに驚き気が動転し、これまでのことを説明した。
「大体分かっている。よくあることだ。今日は「開天の日」だからな…だが、ハンバーガーというものは気になるな、こいつを知っているか?」
地面に散乱している燃えカスを眼帯男は拾って見せてきた。
「お前の言ってた化け物だ。こいつらはバーガーと呼ばれる怪物なんだ」
バーガー あんな化け物がハンバーガーに似た見た目の上さらに名前まで似ているとは。ハンバーガーニストとしては少し嫌な気分だと芳賀は顔をしかめた。
「しらないさ、というか開天の日ってなんなんだよ、ここってどこなんだよ」
芳賀は至極真っ当な疑問をぶつける。
眼帯男は慣れた口調で話し始めた。
「開天の日というのは、この世界で時々起こる天が割れて別の世界の住人が落ちてくる現象だ、たいていそんな奴はこの世界を跋扈するバーガーの餌にされるが、私の所属する組織はそいつらを保護をしているのだ」
眼帯男は続けて話す。
「この世界は、お前の暮らしていた世界とどんな違いがあるのかは知らないが、ひとまずここは郊外の森といったところだ。数多くのバーガーがうろついている」
眼帯男はそう言い終えると刀を構え、芳賀の後ろにいる何かを睨みつけた。芳賀は振り向くと、大声をあげた。
「ば、バーガーだ!」
後ろには先ほど上空から見たよりひときわ大きい、全長10メートルほどのバーガーがこちらをなめ回すように見ていた。
眼帯男はそのバーガーを睨み続けている。
「いっただろう?バーガーがうろついていると。
下がっていろ」
眼帯男は一瞬脱力したあと刀に力を込めた。すると、刀からモヤのようなものがほとばしり、次第に刀身を覆い、その刃は光を放った。
「こ、これは…」
芳賀はその光が先程自分が見たものであることに対してでも、刀から熱気を感じることに対してでもなく、その刀のモヤの匂いに絶句した。その衝撃のあまり、絶えたはずの句が、口から溢れた。この匂い、香ばしさ、間違いない!
「テリヤキソースだ…!」