ハンバーガーの戦い 〜この異世界のスキルはハンバーガ〜 作:石林留
辺りが暗くなってきている。
夕焼けの色はソースみたいだなと思いながら芳賀は歩いていた。
異世界にたどり着き出会った眼帯男、名を
テリヤキソースを刃に纏い、チーズを伸ばして戦うこの世界への興味は尽きないが、
ハンバーガーを食べれて、家族がいる元の世界に戻りたい気も山々だ。
「…どうしたら元の世界に戻れるんですか?」
夕方なため宿を探そうと歩き始めて早40分。互いの名前を話した後、互いに疲れて話す気にもならず、気まずかったこの重い空気に押しつぶされそうになっていた口を開いた。
先程までこの空気に耐えられず、
暇つぶしに手からチーズを出して味や食感を確かめていたが、その匂い、食感はチーズそのものだが味は人が食えるものではなかった。あくまでハンバーガーもどきの巨大怪物、バーガーの力であって、ハンバーガーそのものの力ではないということだろう。
…もし食べられるのなら、異世界にずっといてもいいと思えたし、テリヤキソースも頼んで舐めさせてもらおうと思ったのに。
そんなことを考えているとは知らず、ボソッと呟く声が聞こえた。
「いや、わからない。少なくとも、うちにいる異世界人は誰も帰れていない」
堅苦しい眼帯男、輝夜牙はそれだけしか言わなかった。この男は口数が少ない。
先刻のバーガーとの戦闘でも今思うと、もう少し説明のしようはあったのではないか。
すると、輝夜は不思議そうな目をして、
「ところで、何でお前は敬語なのだ。見たところ、私と同じ17歳だろう。」
自分より少し年上と思っていたがまさか同い年とは。堅苦しい口調とその身長で気づかなかった。
「…じゃあ、輝夜って呼ぶよ。これから組織のお世話になるけど、ハンバ…、いや、半バーガーってさ、この世界では多いの?」
同い年だと知ると少し話しやすかった。ただ、輝夜の堅苦しい口調にはよそよそしさを感じる。
「言いづらいのだが、あまり多くない。 確かに力は手に入れられるが、世の人々はそんな私たちを怖がって、少し避けている」
おいおい、そんなことは早く言ってくれよ。とも言いたくなったが、あの状況での最善策はあれしか無かった。ただ、これからの暮らしは一筋縄とはいかなそうだ。
「あと、俺みたいに人が異世界から呼ばれて天から落ちてくる日のことを開天の日って、言ってただろ。じゃあ、今日他にもこの世界に迷い込んだ人がいるんじゃないのか?」
ずっと気になってはいた。自分は学校にいたところを転移したのだから、もしや部活中のクラスメイトもこの世界に来ているかもしれない。
「ああ、天に切れ目がはいるのは、各地で起きて頻度は不定期だが、多くが都市部で起きるため、人が来る次第王国に保護されるだろう。あんな高いところから転移してきたのはお前くらいだろう」
それを聞いて、少し安堵した。友人や先輩が集団落下死となっては耐えられない、そもそもほかの人も飛ばされているかは疑問だが。
……あれ?実は俺って転移先めっちゃ運悪かった?
「あと、王国にも行っていなかったから説明する。この世界の9割を手中に収めていて、正式名称は「バーガーキングダム」だ。この名は世界各地のバーガーから人々を隔離した初代国王シーザーによって命名された」
輝夜は最初より少し表情が和らいでいるように見える、説明しかしておらず、口調も変わらずよそよそしいがそんな気がした。
そのことが気になって何か聞いたことのある店名が会話から聞こえたような気がしたことは、忘れてしまった。
「感謝する。任務が多くてあまり話せていなかったから、こんなに話せて少し嬉しい」
そう言うと、輝夜は微笑んだ。さっきまでの無愛想さとタキシードに刀、眼帯という奇妙な見た目で意識していなかったが、その黒髪が揺れる表情は美少年そのものだ。
そう思っていると、近くに教会があった。
元の世界にもあるようなザ・教会といったような見た目だ。
「ちょうどいい。もう辺りは暗いし、ここに泊めてもらおう」
「そうだね」
組織はどんなことをするのかとか、この世界の宗教感はどうなっているのかとか、ハンバーガーはないならハンバーグはあるのか、あるならハンブルグ地方はあるのか、
聞きたいことはまた湧いてきたがもう足が棒だし、
明日聞こう。
そうして、自然に囲まれた郊外に佇む教会に訪ねることとなった。
俺達はまだ知らない。
これから、一睡もできない夜が待っていることを、この世界を舐めていたのを突きつけられることを。そして、俺はハンバーガーニストとして一段階進化を遂げることを。