ハンバーガーの戦い 〜この異世界のスキルはハンバーガ〜   作:石林留

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第二章 教会と殺人鬼
ミサと教会と金曜日


 

教会から一人の若いシスターが顔をのぞかせる。

 

「私はここのシスターをしている、クリス・フィレオール・ヴィクトリアと申します。こんな郊外に客人なんていつぶりでしょう」

 

「都市部に私たちは向かっているのだが、もう日が暮れてしまう。こんな郊外ではいつバーガーが現れるか分からない。今夜泊めてくれないか」

 

輝夜はそう無表情で伝えた。

もうすこし、愛嬌ってものがいるんじゃないかと呆れつつも、そこに俺が割って入る。

 

「すみません、礼拝もしますし、教会の人たちには迷惑はかけません。お礼は幾らでもしますので」

 

「あ、勝手に決めるのではない」

輝夜は少し焦ってこちらに呼びかける。

 

「大丈夫だよ、ポケットにこれが残ってたんだ!」

 

俺はそう言って右ポケットから取り出してシスターと輝夜にあるものを見せた。

 

「これは、…」

 

「おい、お前、何を見せてるんだ!?」

 

驚くシスターと輝夜に対し、俺はそのまま語り始める。

 

「これは俺が10日間かけて一から作ったハンバーガーの刺繍付きハンカチです!このために高級な素材を使ったから、少なくとも3万円はします!これを売るなりなんなりしてお金にしてください。

まあオススメは普段遣いすることですけどね」

 

決まった、飛びつくに決まっている。はずだった。

 

「…ええっと、ありがとうね。ただ、それはきっと君の大切なモノでしょう。受け取れないわ。

お代は取らないから奥の部屋でゆっくり休んでちょうだい」

 

自分の悪い癖だ。相手にハンバーガー愛を押し付けてしまった。

愛の押し付けほどはた迷惑なものはない。ハンバーガーニストとして失格だ…

 

「芳賀、この世界ではお前の世界とはちがってこの刺繍がバーガーにしか見えない。どこに化け物の刺繍があるハンカチを喜んでもらうやつがいるんだ」

 

輝夜は呆れてそう言った。

 

それはそうだ、ここは異世界なんだ。国民的食べ物ハンバーガーは存在しない。今回は変人で済んだが、この感覚のズレが悲劇をもたらすこともある。あまり異世界人として違和感ない行動をしよう。そう俺は心に決めた。

 

部屋に着くと、そこには無機質なベットが2つあった。あまり相部屋というのは好きではないが、泊めてもらう身であるため文句は言えない。

ベッドに腰掛けると、今日起きた一連の信じられない出来事たちを思い浮かべる。本当に、いや、まじで、色んな事があったな。

 

愛しのハンバーガーを食おうとしたらバーガーに食われそうになり、輝夜に助けられ、チーズバーガーの力に目覚め、この世界について少し知り、輝夜とほんの少し打ち解けた。今日はもう疲れた。もう寝よう。

 

◆◆◆◆

 

翌朝、目を覚ますと外は大雨だった。

 

「出発しないの?」

 

「雨のなかだと、私達半バーガーは力が弱まる。今外に出るのは危険だ。」

 

「だったらバーガーも同じじゃないの?」

 

「私が警戒しているのは、バーガーではない。実はここ最近、『ジェイソン』という半バーガーがこの郊外でうろついている。そいつは雨のなかでも活動できるらしい。」

 

ジェイソンって、珍しくハンバーガー全く関係ないじゃないか。

 

「そもそも私がお前の転移してきた場所に来ていたのは、その『ジェイソン』を討伐する任務のためだったのだ。一旦捜索を中止してお前が半バーガーになったことを組織に知らせることを優先しようと思っていたが、この大雨じゃ組織に戻るには当分かかる。ここで身を潜めていよう」

 

「身を潜めてって、そのジェイソンって奴は俺達を知らないんじゃないのか?」

 

本当に輝夜は説明不足が多い。

 

「実はお前と会う少し前に、一回『ジェイソン』に出くわした。私の顔はジェイソンに一方的に見られている。そして奇襲されてこの有様だ」

 

輝夜は右腕の袖を捲くる。腕には何かで抉られたような傷があった。こんな状態で戦っていたのか。

 

「…悪いな。お前を混乱させないために黙ってたんだ。ここで晴れるまで身を隠し、晴れたらすぐに組織へと出発するぞ。

それまで互いに体を休ませよう」

 

「ああ、それにジェイソンにここがバレても、俺もチーズの力で応戦するからな!」

 

()()()()でか?」

 

突如、大きな目眩がした。

 

「あれ?身体がうまく動かせない…」

 

「半バーガーの力は人間の活力エネルギー『カロリー』を大きく消費する。力に慣れてないお前は何日か寝ないと、力を回復しきれない。」

 

「それを先に言ってくれよ…」

 

そう言い残して芳賀は疲れから倒れるように眠った。

 

◆◆◆◆

 

輝夜はここの主であるクリスに雨が止むまで泊めてくれないかと頼む。

 

「すまない、ただ事情があるのだ。お礼なら何でもする」

 

「気にしませんよ、…何でもと言いましたね?」

クリスは少し言いづらそうに続ける。

 

「最近、ここの土地売ってくれないかと押しかけてくる人たちがいるのです。最近は暴力をちらつかせてきて…追い払ってくれませんか?」

 

「ああ、別にいいだろう。そのくらいどうってことはな

 

「おいおい!!土地を渡せや!!」

 

会話に割り込み、玄関に上がり込んできたのはいかにも悪そうな風貌をしたチンピラだった。

 

「ここの土地は王国に必要不可欠なんだよぉ!非国民になりたくにゃきゃ土地を渡すんだよぉ!」

 

「今舌噛んだだろ」

 

「…ですね」

 

チンピラは顔を真っ赤にして怒鳴る。 

 

「ああ?!!もういい、実力行使だ!」

 

そうするとチンピラは何かを取り出す。それは黄金色の棒のようなものだった。

 

その物の異様さに輝夜は警戒して刀を構える。

 

「そちらがその気ならそうさせてもらおう」

 

「やかましいわボケ!この王国の技術の結晶で潰してくれるわ!」

 

そうしてチンピラは棒に力を込めると、思いっきり投げてきた。

 

とっさの攻撃に輝夜は刀で弾き返す。

 

「…『サイド』か!!」

 

「サイド」、それは王国で開発された武器。半バーガーを嫌う王国が生み出した、代わりにバーガーに対抗するための武器。

その武器に自身のカロリーを流すことで半バーガーに匹敵しうるほどの火力を出せる。

 

「ただのチンピラじゃなさそうだ」

 

「俺は土地を安く買って売り飛ばして、その金で武器を買うのが大好きなんだよぉ!!」

 

土地を売り買いするのを生業にするわりに、言動は典型的なチンピラだ。そう思っていると、右腹部に激痛が走る。

 

「…何?」

 

そこには弾いたはずの棒が刺さっていた。

 

「ヒャッはぁ!!!!この武器は俺の流したカロリーにより自由自在に動く!これでおしまいだぁ!」

 

そうしてチンピラは隠し持っていたもう一本の棒を投げ出す。あまり知られたくなかったが、仕方ない。とっさに輝夜は少量のソースを刀から放出して、飛んでくる棒と刺さっている棒を焼き尽くす。

 

「オマぇぇ!!!『半バーガー』じゃねえか!くそぉ!この武器『宝掟刀(ぽていとう)』がいくらしたと思ってやがる!」

 

あの棒は刀だったのか。道理で刺さったところがすごく痛いわけだ。

 

「くそぉ!覚えてろよ!」

 

チンピラは雨の中逃げ出した。

 

「一つ警告しておくが、このあたりでは『ジェイソン』と言う奴がうろついている。ここに生きて来れたのは奇跡と言っていい。だが、帰りは用心したほうがいい」

 

「うるせぇ!まだ俺には護身用の武器があんだよ!余計なお世話だ!」

 

そう言うとチンピラは走っていき見えなくなった。

 

輝夜はどっと疲れてその場に倒れ込んだ。その様子をクリスが見ている。

 

「隠してたつもりはなかったが。すまない」

 

半バーガーは嫌われている。化け物であるバーガーの力を持っているのだから当然であろう。

 

「いえ、あなたは助けてくれたんです。どうして忌み嫌えましょうか」

 

そうするとクリスは包帯で輝夜の怪我を治療し始めた。

 

「…恩に着る」

 

輝夜は震えた声でそう言った。

 

◆◆◆◆

 

夕方、静かな森の中で2つの音が聞こえていた。何なんだあれは。聞いていない。一つ目の音は男の足音。いや、聞きはしたがあれほどまでに恐ろしいとは。くそ、あの朝の眼帯タキシード野郎の言うことを聞いて、気をつけていたらこんなことには…

男は先刻抉られた部分を押さえて走っている。

 

「ガガガガガガ!!」

 

二つ目の音は機械か何かの振動音。

 

二つの音は、やがて重なり、グシャッと一つの音を奏で、森は再び静寂に包まれた。

 

◆◆◆◆

 

真夜中に目が覚めた。何日寝ていたのだろう。

隣を見ると、輝夜は起きていた。ジェイソンに場所がバレることを警戒しているのだろう。そう思っていると輝夜はこちらに気づき、

「…やっと起きたか」

 

そう無愛想な態度で言う。

 

「お前は二度寝してから5日間程寝ていたのだぞ。…一体どんな体しているんだ。」

 

「5、5日も?」

 

「もう13日の金曜日だぞ。…お前の世界と日付が同じかは知らないが。」

 

そんなに寝たことは人生で一度もない。

ただの高校生でハンバーガーニストな俺には信じられなかった。

 

…それに、この日の日付とこの前聞いた要注意人物の名前が、俺を不安な気持ちにさせた。

 

「まあ、それだけの疲れがたまっていたのだろう。…それより、明日の朝出発するぞ。そろそろ雨が止みそうだ。その前に、しばらく泊めてくれたクリスさんに感謝せねばな。」

 

「ゴォォーン ゴォォーン」

 

鐘の音が聞こえた。

 

「ミサってやつか、こんな遅くにするんだな、にしてもこんな音を出したらバーガーが寄ってくるんじゃないの?」

 

俺はそんな疑問をつぶやく。

 

「バーガーは匂いに釣られる。音では人を認識できない」

 

少し打ち解けれたと思っていたがいつもの無愛想だ。…いや、無愛想というより何か考えている。

 

そう思うも束の間、輝夜は深刻そうに聞いた。

 

「ミサっていっただろ、それは元の世界のものか?」

 

何を言っているんだ?てっきりこの世界にも教会というものがあると思っていたが、本当はないのか?それとも輝夜が知らないだけか?そう、気になって聞き返した

 

「私は教会も、ミサも何も知らない。この鐘の音も、今初めて聞いた。こんな変な形の宿があるのかとは思ったが。…どういうことだ?お前の世界の建物が何でこんな郊外の森にある?じゃあクリスは何者なんだ?」

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