紅眼のヒロイン、白球を盗む   作:匿名希望

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監督の独白~白い少女の履歴書~

 

 

「女の子なんですけど、どうしても入団テストを受けさせたくて……」

 

電話越しに父親だという男からそう切り出された時、俺が最初に抱いた感想は「またモンスターペアレントか」という辟易(へきえき)としたものだった。

 

最近の子供は軟弱だ、なんてよく世間では言われているが、ありゃあ大間違いだ。

 

軟弱なのは子供じゃない、親のほうだ。

 

ちょっと厳しく怒鳴っただけで、翌日には「パワハラだ」「時代錯誤だ」と怒鳴り込んでくる。

 

おかげでこっちも、昔ながらの熱血指導を封印し、子供相手にまでいちいち言葉遣いを選ばなきゃならなくなった。

 

時代と言えばそれまでだが、やりにくい世の中になったもんだとつくづく思う。

 

だから、その少女がグラウンドの受付に現れた時も、正直に言えば門前払いする口実ばかりを探していた。

 

ーー美城 輪(うつしろ りん)

 

そこに立っていたのは、野球なんて言葉の対極にいるような少女だった。

 

アルビノだとかいう真っ白な髪と肌、それを隠すような大きなゴーグル。

 

将来、大人になればそれはもう誰もが振り返るような美人になるのだろう。

 

そして、とにかく細すぎる。

 

リトルリーグの世界なら、女の子が男子に混ざってプレーしているチームだって珍しくはない。

 

しかし、それはその女の子が例外的に体格に恵まれているか、身体能力が飛び抜けている場合だけだ。

 

あんな線が細く、今にも折れそうな女の子がやってくる場所じゃない。

 

なぜ?

子どもが主動じゃないのか?

それにしては細すぎる。

親の主動?

いや、あんな娘に野球をやらせようとする?

そんな親いるか?

いや…しかし…でも…

 

瞬時に流れる思考。

 

しかし、そんなものに浸っている時間はない。

 

名門ー大空リトル

 

全国大会常連のうちに入りたい野球少年は少なくない。

 

当然、この入団試験を受けに来る人数も多い。

 

ボーッとしてる時間はない。

 

そんな、うちの入団試験は、まずバッティングから始める。

 

次に守備、最後に走塁だ。

 

理由は単純。

 

子供ってのはとにかく体力がない。

 

そら、身体が出来上がってないのだから当然だ。

 

最初から走らせたら、あとのメニューがまともに見られなくなる。

 

だから、一番元気な状態でバッティングと守備を見るのがうちのスタイルだ。

 

バッティングピッチャーとしてマウンドに上げたのは、5年の滝川だった。

 

あいつは少し気迫に欠けるというか、マイペースなところがあるが、ピッチングの技術自体は本物だ。

 

次期エースとして、もっと「俺が抑えてやる」という自我を出してほしいとは思うが、反面、あんまり我が強すぎても、監督としては扱いづらい。

 

一長一短だ。

 

そんな滝川のボールを、少女が打席で待つ。

 

まあ、ど真ん中の球を何球かかすらせて、満足して帰ってもらおう――そう思っていた。

 

だが、あいつは打っちまった。

 

──キィィィィンッ!!

 

グラウンドに響いた硬質な打球音に、俺の思考は停止した。

 

あんな細腕のどこにそんな力が隠されていたのか……いや、違う。

 

高めに構えたバットを振り下ろすようなスイングだった。

 

バットの重さと、それを刷り回すことで得られる遠心力を上手く使ったんだ。

 

そしてそのスウィングは、滝川の110キロのストレートを完全に捉え、ライナー性の打球でセンター前へと弾き返したのだ。

 

完璧にボールの芯を撃ち抜いていた。

 

まぐれ当たりかもしれない……が、あのスイングはまぐれじゃない。

 

よく練られたスウィングだと、そう感じられた。

 

(……ほう、面白いねぇこれは)

 

最近、心の声にまで侵食してきた、対現代少年用口調も気にせず、入団テストは次は守備のテストに移る。

 

サードのポジションにつかせ、俺がノックのバットを握った。

 

上手い。

 

打球が飛んだ瞬間、俺は思わず目を見張った。フ

 

ィジカルそのものは明らかに弱い。

 

だが、とにかく動き出しが異常に早いのだ。

 

まるで、俺がバットを振る角度や体制に入った瞬間に、ボールがどこへ飛ぶかを予期していたかのように体が反応していた。

 

『速ぇなぁ!?

 なんだあれ天性の野生の勘か?』

 

しかし、捕球(キャッチング)までは完璧だったが、その後の送球で現実に引き戻された。

 

は!?

 

……いや、そりゃそうか。

 

少女の放ったボールは、サードからファーストへ届く前に失速し、山なりのフワフワとした軌道を描いた。

 

あんな細腕じゃあ、内野の要からの送球はキツくて当然だ。

 

『1塁側を守るように誘導すればよかったかな?

 いやいや、それじゃあただの贔屓になるね』

 

別にわざと難しいサードを守らせてイジワルした訳じゃないんだが、なんだか悪いことをしちまったなと少し罪悪感が湧いた。

 

そして最後のベースランニング。

 

おっそー……。

 

思わず声に出そうになった。

 

そうか、足もないのか。

 

ダイヤモンドを一周しただけで死にそうになっている姿を見て確信する。

 

当然、体力も学年の平均以下。

 

技術だけが、その貧弱な肉体に不釣り合いなほど突出している歪な選手。

 

それが美城輪の正体だった。

 

だが、あの守備の反応速度は本物だ。

 

これから体力と走力が追いついてくれば、かなりの武器になる。

 

バッティングのあのスイングも、まだ一球見ただけだからまぐれの可能性はあるが、それはこれからじっくり見ていけばいい。

 

うちは毎年全国大会にも出場する、地域屈指の名門リトルチームだ。

 

だからこそ、選手の層は厚い。

 

あの娘を拾って、もし大成せずに花開かなかったとしても、チームとしての痛手は名実ともに何一つない。

 

だが――もし、あの技術に見合う肉体が完成し、本当に花開いたら。

 

「……ふぅ。マージか、打っちゃったんだよねえ」

 

ノートに彼女の名前を書き込みながら、俺の胸の奥で、久しく忘れていた指導者としての奇妙な高揚感が首をもたげていた。

 

もしあの少女が男子のパワーを手に入れたら、一体どうなる?

 

うん、これは……最高に面白いことになるかもしれないな。




監督の名前は無いです。
必要になったら考えます。
滝川くんと市川くんは名前出てきたのに、両親はまだ名前無い…。
Gemini君、頑張ってくれ
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