紅眼のヒロイン、白球を盗む 作:匿名希望
入団テストという名の「テンプレ無双からの即オチイベント」を経て、俺の『大空リトル』での日々は驚くほど地味に、そして確実に回り始めていた。
「美城ちゃん、外周あと3周ね! 遅れてるよー!
そのあと体幹トレーニング、腹筋と背筋50回ずつだよ!」
「はーいっ……! がんばり、まーすっ……!」
相変わらず、俺に与えられるメニューの9割以上は基礎体力作りだった。
グラウンドの隅っこ、男子たちが華やかに白球を追いかけるメインダイヤモンドの遙か外側で、俺は一人、ゴーグルを真っ赤な瞳に密着させ、甘い日焼け止めの匂いを周囲に撒き散らしながらひたすら走り続けている。
前世の俺なら、こんなキツくて地味な練習、頑張りすぎて体調を崩し、逃げ出しの1歩を踏んでそうだが……。
この監督、上手い!?
絶妙にコントロールされているのを感じる。
ちゃんと体調を崩さない強度に抑えられているようで、多分後に残りそうな状態になる前に筋トレとか、休憩とかを挟まれているように思う…たぶん。
そしてなにより、奇妙な「ワクワク」が俺の中に居座っていた。
あの期待されていない、何だったら厄介者扱いだった入団テストで、110キロの硬球を完璧に捉えたあの瞬間の、周囲のみる目が変わったあの舞台の快感が、どうしても忘れられないのだ。
地味な基礎トレがメインなのは変わらない。
だが、最近はグラウンド内の空気が少しずつ、しかし明確に変わり始めていた。
理由は、全体メニューの最後に少しだけ許される、打撃練習と守備練習の時間だ。
キィィィン! と小気味いい金属音がグラウンドの隅から響くたび、メインダイヤモンドで練習していた男子や、ベンチで見守る指導者たちの視線が自然とこちらに集まる。
【写輪眼】でボールの軌道を完璧に予期し、風呂上がりの1時間ストレッチで極限まで柔らかくした肉体をしならせ、バットの自重を利用し放たれる俺の打球は、相変わらず打率10割に近い精度でバットの芯を捉えていた。
守備でもその異常さは際立っていた。サードの位置に入った俺は、ノッカーがバットを振り下ろす瞬間、【写輪眼】で打球の方向を完全に先読みする。
打った瞬間にすでに最初の一歩目を正しい方向へ踏み出しているため、足の遅さを完全にカバーして泥臭くなくスマートにボールをグラブに収めてしまうのだ。
「あいつの打撃と守備のセンス、マジでバケモノなんじゃね……」
「女のくせに、なんであんなに打球の正面に入れるんだ?」
いつの間にか、俺はチーム内でちょっとした有名人、あるいは「謎の天才少女」として注目を集めるようになっていた。
だが、どれだけ技術が傑出していても、実際の試合に出るための「絶対的な馬力」が今の俺には圧倒的に足りない。
男子の硬く強い打球を遠くまで飛ばす筋力も、ダイヤモンドを瞬時に駆け抜ける瞬発力も、小学生低学年の平均以下なのだ。
「……それにしても、あっちのテンションは桁違いだじゃん」
俺は水筒のスポーツドリンクを口に含みながら、激しく上下する胸を落ち着かせてメインエリアを見つめた。
そこでは、6年生主体の1軍チームが「全国制覇」というバカデカい目標に向かって、狂気すら感じる熱量でノックを受けていた。
怒号と怒声、飛び交う砂埃。
前世のぬるま湯のような生活からは考えられないほどの空気がそこにはあった。
大空リトルの1軍はガチの強豪だ。
特に6年生の絶対的エースは、最速115キロの技巧派の右腕。
特筆すべきは、ストレートと全く変わらない腕の振り、全く同じフォームから繰り出される多彩な変化球だ。
手元で鋭く小さく動くツーシーム、右打者の内角に容赦なく食い込むシュート、そしてブレーキの効いた縦のカーブ。
前世でプロ野球の熱狂的なファンだった俺の目から見ても、小学生のレベルとしては完成度が高すぎた。
打者が球種を見分けるのは至難の業だろう。
そして、その絶対的エースの裏に控える控え投手陣。
一人は、入団テストで俺にセンター前ヒットを浴びた5年生の速球派、滝川。
あいつはアベレージ110キロのストレートが武器の次期エース候補だ。
そしてもう一人が、MAX125キロを誇る6年生の大型右腕――熊谷だった。
身長は既に160センチを超えており、マウンドに立つ姿はまるで中学生のようだ。
スペックだけ見れば全国区の大怪獣だが、この先輩がなかなかの問題児だった。
とにかく球速は凄まじいが、壊滅的にコントロールが悪い。
いわゆる超絶荒れ球だ。
ドゴォン!!
「タイム! タイム! ボールバック!」
まただ。
マウンドからの大暴投を、1軍の6年生正捕手が完全に後逸(パスボール)し、ボールが後ろのバックネットへと激しく激突した。
捕手の手は届くはずもなく、あからさまにうんざりした顔でプロテクターを揺らしながらボールを拾いに行っている。
これで今日のパスボールは何回目だ。
「……あーらら、またそらしちゃったねぇ」
俺がポツリと呟くと、いつの間にか隣でプロテイン飲料を飲んでいた5年生捕手の市川が、苦い顔で応じた。
市川は滝川とバッテリーを組む、次期正捕手様だ。
「いや、あれは俺でもキツイって。
美城、お前はあそこから見てるから簡単に言うけどさ、125キロのボールをインハイに要求したら、ワンバウンドのクソボールが来るんやで?
反応できたらもうアッチがわやで。
いや、そっち側言うた方がええかな?
どっちにしろ、ミットが追いつかへんわ」
「へえ、キツイねぇ。無理とは言わないんだね」
「……それを言ったら、捕手として負けやろ。
どんな球でも止めるのがキャッチャーの仕事やねんから、初めから無理ー言うたらアカンやろ」
ふいっと目をそらす市川。
関西弁キャラで胡散臭いと言うインパクトあるキャラなのになのに影が薄い。
多分、動きが静かで滑らかだからだ。
素直に参考になる。
そして、こういう妙に職人気質で熱いところがあって、更に基礎トレメインで話す機会が少ないのもプラスしてチームでもちょっと浮いてる俺にも話しかけてくれる。
普通に良い奴だ。
「熱いねぇ」
「美城は熱くないん?」
「熱~いよ♡」
「ふんっ、アホちゃうか」
顔を真っ赤にして本気で照れる市川を見て、俺はクスクスと笑った。
TS美少女(中身は元野球オタクのオッサン)の直球ストレートなからかいは、純情な小学生男子のメンタルには少し刺激が強すぎたらしい。
だが、市川をからかいながらも、俺の脳内はフル回転していた。
(このままじゃ、今年はずっと試合に出られず、基礎トレだけで終わるな……)
確かに、今の貧弱な肉体で無理をして身体を壊すのはただのバカだ。
柔軟ストレッチのおかげで、多分ケガをしにくい軟体だとはいえ、元々身体が弱い。
監督が上手くコントロールしてくれているが、いつか疲れが吹き出して倒れるってこともあり得る。
とはいっても、公式戦で男子と対等に渡り合うには圧倒的にフィジカルが足りない。
今は基礎トレの時期だ。
でもでも、やっぱりベンチで指をくわえて見ているだけなんて嫌だ。
試合に出たい!
チヤホヤされたい!
前世じゃ誰にも注目されずにベンチをあっため続け、監督に『お前は秘密兵器だ!』といわれ続けるのはもう勘弁して欲しい。
この世界では、スポットライトを浴びてみたいんだ。
あの大暴投を繰り返す6年生の荒れ球投手。
あれは使える。
軟投派のエースの後に、抑えで出てこられたら相手はたまらないだろう。
だからこそ、監督も正捕手に捕球させようとしてるんだろが……
(……待てよ。俺の【写輪眼】なら、あの125キロの荒れ球、全部捕れるんじゃね?)
人間の肉体のミリ単位のブレすら完全に視覚化する【写輪眼】があれば、熊谷先輩がボールをリリースする直前の指先、手首の角度、重心の移動から、ボールがどこへ飛んでいくかの「予測線」が見えるはずだ。
どれだけ球が荒れていようが、投げる本人がコントロールできていなかろうが、俺にとっては「最初からそこに飛んでくると分かっている球」に過ぎない。
よし、これを利用しない手はないな。
チャンスは意外とすぐにやってきた。
入団から1ヶ月が経った頃、他県の強豪と練習試合が組まれたのだ。
相手は和歌山県のオレンジ・リトル。
こちらもうちと同じ、全国常連の強豪だ。
監督は、俺の卓越した打撃センスを実戦で試すために、2軍チーム同士の試合で「代打」としての起用を明言していたが、俺の狙いはそこだけじゃなかった。
試合前のブルペン、俺はチャンスを伺っていた。
ブルペンのマウンドでは、案の定、今日の先発から外されてへそを曲げている6年生の荒れ球右腕――熊谷が、不機嫌そうにキャッチャーを座らせて投げ込んでいた。
しかし、そのボールはあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。
受けている控え捕手も顔を引きつらせている。
「熊谷先輩、次の回から私に受けさせてくれませんか?」
俺は防具を素早く身につけ、熊谷さんのところに歩み寄った。
「はっ、はぁ? 美城、お前は新入りだろ。
いや、まあ嫌じゃないけど、流石に怪我するぞ!?
怪我されたら寝覚めが悪いわ」
熊谷さんはちょっとキョドっていたけど、それはそれとして、こっちのことを舐めまくっている。
いやまあ、無理もないけれどさぁ。
そら、125キロの剛速球だ。
6年生の捕手もとれないのに、入ったばかりの俺が捕れるわけがないと思うのが普通だ。
バカにされてるのはムカつくが、それはそれで、この忠告は彼なりの不器用な優しさであるのも間違いない。
が、それは俺には不要である!
「怪我したら自己責任でいいです。
それに、あっちのキャッチャーの人も後逸しすぎて疲れちゃってますし……1球だけでいいので、取り敢えず思いっきり投げてください。
絶対に取りますから!!」
俺はゴーグルの奥の深紅の瞳を少しだけ細め、完璧な美少女スマイルを向けた。
熊谷は、えっ、良いの?と首を振るが、残念だったな?
監督は居ないよ。
むしろ、居ないタイミングを狙ってきたのだ!
まあまあ、取り敢えず投げてくださーいと、熊谷の意見はスルーして、俺は6年生の控え捕手を追い出し、捕手の定位置にドシンと構える。
捕手はしたことはないが、捕手の動きは何度も見てきた。
今日、この日、この場所、このタイミングを待っていた、準備していたのだ。
捕手の動きは【写輪眼】で模倣済み。
アジャストも出来ている。
後は、暴れ球を優しく掴み取るだけ。
その俺の動きに、熊谷は態度を少し変えた。
何故なら彼は、いや、彼ら投手はもっとも捕手を見ている。
当然だ。
彼らの仕事は捕手の構えるところにボールを投げ込むことなのだから。
だからこそ、美城輪の構えは衝撃的だった。
何時も投げ込んでいる、捕手たちと同じように、だが無理をして真似ているわけでもなく自然なその構えに。
投げ込んでも良いだろうと、そう思った。
「~~っ、怪我しても知らねえからな!
ボールが当たっても泣くなよ!」
大きく長い腕がしなり、放たれた白球がうなりを上げて迫る。
だが、力みすぎたーある意味何時も通りのーそのボールは、真ん中どころかインコースのバッターの頭へ向かうようなクソボールへと変化した。
ここに打者が立っていたら、恐怖で悲鳴を上げて顔を背けるか、クリティカルヒットして乱闘に突入したかもしれない。
しかし、俺の眼にはそのすべてがスローモーションで視えていた。
ゴーグルの奥の【写輪眼】の巴紋が高速回転する。
熊谷さんの肩の開き具合、リリースの瞬間に指先がボールを引っ掛けたブレ、そこから生じる回転数。
それら全てのデータから、脳内に一本の鮮やかな予測線は、とうの昔に美城輪の眼に写っていた。
パシィィィン!
乾いた、そして完璧な捕球音がブルペンに響き渡った。
熊谷の指先から押し投げられた白球、それが指から放たれる前に、俺は素早く立ち上がっていた。
そして俺のミットは、あらかじめボールが通過するポイントへ吸い込まれるように配置されており、完璧にミットの芯で125キロの荒れ球を捕らえていた。
捕球の瞬間、手首と肘の関節を限界まで柔らかく使って衝撃を後ろへ逃す。
前世のメジャーリーガーやプロの捕手がやっていたフレーミングとクッションの技術だ。
細腕への負担は最小限に抑えられている。
「……え?」
熊谷さんが投げ終わった体勢のまま、目を見開いて固まった。
さっきまで、項垂れていた6年生の控え捕手の人ー山川ーもだ。
今のは完全にバックネット直撃の大暴投のはずだった。
「もう一球、今度はどこに投げてもいいですよ。
本気でどうぞ」
そこからの5球、熊谷さんはプライドをかけて、完全に殺気立ちながら全力で投げ込んできた。
アウトローの鋭いワンバウンド、地面を這うようなローボール、突如として跳ね上がるようなクソボール。
その全てを、俺は余裕すら感じさせる動きで、まるで最初からそこにボールが来ることが分かっていたかのように、淡々と、静かにミットに捕球し続けた。
「な、なんなんだよお前……動く壁かよ……なんで俺の球が全部そこに入るんだ……?」
愕然として息を切らす熊谷さんの後ろで、いつの間にかブルペンに近づいていた監督が、深く顎を引いてその光景を見つめていた。
そのノートには、俺に関する新しいメモが激しい筆跡で書き込まれていた…ら良かったのだが、普通にあんぐりとしていた。
多分、眼も見開いてるんじゃないだろうか?
サングラスで見えないが…
その直後の2軍の練習試合。
8回の裏、俺は予定通り、代打としてバッターボックスに立った。
相手投手は、キレのある変化球を持つ好投手。
しかし、【写輪眼】を持つ俺の前では、彼が投げる勝負球のカーブも、ただの速度の遅いインコース寄りの球に過ぎない。
脳内でシミュレーションした理想の軌道に、今の自分の身体の疲労などのコンディションとアジャストし、解き放つ。
遠心力を味方につけ、コンパクトに振り抜いた。
──キィィィィンッ!!
快音が響き、打球は美しい流し打ちでファースト頭上を越え、ライトも追い付けない。
走るのが遅い俺でも余裕でセカンドに到達できる、見事なタイムリーツーベースだった。
続く打者は凡退に終わり、俺がホームベースを踏むことはなかったが、それでもチャンスをものにした。
続く九回の守備では、5年生の控え投手の生駒が3者内野安打の凡退に抑え、特に活躍するチャンスもなく、練習試合は終わりを迎えた。
打撃は文句なしの天才肌。
この練習試合でのパフォーマンスで、どうにかなることはなかった。
だが、何より熊谷の荒れ球を取れるのは俺しかいない!
あの後、監督からは熊谷の球を取れるのか!?とか、色々聞かれることになった。
そして試合後のミーティングで、監督は全員の前で告げた。
「美城ちゃんを急遽1軍のサブ捕手として登録することにしたよ。
美城ちゃん、熊谷くんの球を取れるみたいなんだよね。
熊谷くんの球は、今でも十分に強い。
でも、捕手が取れないし、これから鍛えていけば良いかなって思ってたんだけどね。
美城ちゃんが取れるみたいなんだよね。
四球が怖いのはあるけれど、公式戦は君たちのアピールの場でもある。
だから、皆にチャンスをあげたい。
それが僕の方針だ。だから、2人とも頑張ってね」
「はい! ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」
よし、作戦は大成功だ。
フィジカルのなさを、圧倒的な技術と【写輪眼】の超感覚で完全補完する。
これぞ俺がこの世界でプロ野球選手になるための、第1歩だ。
季節はあっという間に巡り、ついに全国大会へと直結する、負けたら終わりの緊迫した公式戦当日がやってきた。
球場を包む独特の熱気と緊張感。
大空リトルは順調にトーナメントを勝ち進んでいたが、準決勝の終盤、ついに最大の試練が訪れた。
連投による疲労から、これまでチームを引っ張ってきた技巧派の6年生エースが急に捕まり、連続長打を浴びて1点差にまで詰め寄られたのだ。
しかも、状況はノーアウト満塁。
一打逆転サヨナラ負けの絶体絶命のピンチ。
重苦しい空気の流れるベンチで、監督がメガホンを片手に選手交代を告げた。
「ピッチャー熊谷! そして――キャッチャー、美城に交代!」
試合の時は勇ましい声になる監督に、クスッと笑ってしまいそうになるのを、下唇を噛むことで我慢する。
合っている。
あの厳つい見た目と合っているのに、寧ろあっていない柔らかい口調ばかり聞いていたから、本来なら合っている顔と声で笑いそうになるブフッ
球場全体がザワついていた。
相手ベンチだけでなく、味方の保護者席からも動揺の声が上がる。
「おいおい、この大ピンチで熊谷くんを出すのか!?」
「しかもキャッチャーは、あの白い髪の女の子だぞ!?
捕球出来るのか!? 」
そして、相手ベンチからも、
「おいおい、女の子出てきたぞ!」
「はっ、めっちゃ可愛いぞ!」
「いやいや、流石に舐めてんね~」
「熊谷か。あいつの球速いぞ!」
「いやいや、ノーコンやからバットは振らずに待っとけ。
四球か後逸するぞ」
「確かに、見た目は可愛いけど、見た目で野球はできんぞー!!」と、下品なヤジが飛んでくる。
マスクを上げ、最後の打ち合わせにマウンドに行くも、まだ面白い。
笑いをこらえて下唇を噛んでいると、熊谷が声をかけてくる。
「美城」
その目は、いつになく真剣で、それでも俺を信頼している目だった。
「あんな奴らのことは気にするな。
お前の実力は俺が知っている。そんで俺自身の力も……。
俺らでチームを救うぞ」
「えっ、あうん、ですね!
熊谷先輩も、遠慮無くどんどん投げてください!
私、サインとか出せないので、頼みますよ!」
「おう!」
俺はプロテクターをポンと叩き、ゆっくりとホームベースへと歩を進める。
なんか、格好いいこと言ってたマウンドの熊谷先輩は、プレッシャーのあまり顔が青ざめ、肩がガチガチに引きつっていた。
満塁の重圧と、自分のコントロールへの不信感が、その巨体をすくませているのが遠目からでもよく分かった。
それが面白くて、また笑いそうになる。
だって、老け顔の熊谷が、普段偉そうな熊谷があんな寄る辺がなくてプルプル震えて、なのに、俺らで救うぞって…ぐふふ
俺は、笑いをこらえて変になった顔を見せないように、あわててマスクを被りなおす。
すると、何故か熊谷が落ち着いていた。
???
何があったの?
まぁ、良いや。なんだか知らないけど、落ち着いてくれたならそれで良いし。
そして、マウンドの大怪獣に向けて、自慢のミットをドスンと大きく、中央に構えた。
マスクの下の、更にゴーグルの奥で二つの巴紋が妖しく、そして力強く回転を始める。
世界がスローモーションへと切り替わり、風の音すら遠のいていく。
(さあ熊谷、どこにでも投げてこい。
サインは出せない。
リードもできない。
セカンドまでボールを投げても山なりボールだし、細かいルールもわからないけど。
この赤い眼で、君のワガママな剛速球を全部受け止めてやるからさ。
だから――思いっきり腕を振ってこいよ!)
TSヒロインによる前代未聞の無双。
球界の常識をすべてぶっ壊す戦いが、今、最高の舞台で幕を開けた。
全国常連が、地区予選でピンチ?
最高の舞台が幕を開けた?
地区予選で?緊急当番で?
訳がわからないよ、Geminiくん。