紅眼のヒロイン、白球を盗む 作:匿名希望
夏はあっという間にやってきた。
春の大会。
練習試合。
遠征。
地獄みたいな基礎練習。
監督の怒号。
コーチの説教。
そして大量の白米。
気が付けば、大会開幕だった。
「美城ちゃーん」
「はいはい?」
「今年も頼むよー」
監督が苦笑する。
最近の監督は妙に俺への信頼が厚い。
いや、厚すぎる。
少し前まで体力不足の問題児だったはずなのに。
「任せてくださいよぉ♡
私がいるんですからー♪」
「その自信どこから来るの」
「実力です♡」
「否定できないのが怖い」
コーチが頭を抱えた。
周囲の選手たちも苦笑する。
だが誰も反論しない。
できない。
なぜなら。
実際に結果を出しているからだ。
◇
一回戦。
三打数三安打。
二塁打二本。
盗塁二つ。
守備機会六回。
失策ゼロ。
試合後。
相手監督が監督へ話しかけていた。
「あの子、本当に小学生ですか?」
「小学生ですよー」
「中学生じゃなくて?」
「小学生です」
「嘘でしょう?」
「僕も時々そう思ってます」
監督が遠い目をしていた。
◇
二回戦、準決勝、決勝と、俺たちはその全てで勝った。
というか、圧勝だった。
エース滝川が抑える。
市川が配球で翻弄する。
内野は鉄壁。
外野も堅い。
そして打線が爆発する。
全国優勝チームは伊達じゃなかった。
決勝。
最終回。
二死満塁。
相手は屈指の強豪。
だが。
「ストライクッ!!」
三振。
試合終了。
歓声が爆発した。
「優勝だぁぁぁぁ!!」
「やったぁぁぁぁ!!」
みんなが滝川へ飛びつく。
市川も珍しく叫んでいた。
俺も飛び込む。
「滝川先輩ー!」
「うおっ!?」
歓声。
笑顔。
涙。
そして。
また優勝だった。
◇
翌日。
新聞に載った。
朝。
食卓。
俺は牛乳を飲みながら新聞を開く。
そして吹き出した。
「ぶふっ!!」
「汚い!」
母親が怒る。
だがそれどころじゃない。
地元の新聞。
でかでかと…とはいかないが、それでもそこそこの大きさで写真が載っていた。
『大空リトル全国大会優勝、初の連覇』
『エース滝川が完投』
『遊撃手・美城輪が攻守で躍動』
そして写真。
俺だった。
めちゃくちゃ大きく写ってる。
なんで?
「お父さん」
「なんだ?」
「私、主役になってます」
「輪は可愛いからな!」
父親が笑った。
記事にはこう書かれていた。
『白髪の大型遊撃手・美城輪選手(11)が五打数四安打。守備でも好捕を連発し、優勝へ大きく貢献した。関係者の間では既にシニア級との声も上がっている』
「シニア級だってー♡」
「調子に乗るな」
「もう乗ってます♡」
「知ってる」
◇
そして。
時間は流れる。
五年生の冬。
俺は再び身体測定の紙を見ていた。
「……」
「どうしたの?」
母親が聞く。
「お母さん」
「はいはい、なぁに?」
「私、まだ伸びてます」
「そーねー」
「170センチ超えました」
「凄いわね~」
「小学生だよ?」
「そんなもんじゃなあい?」
適当な返事しか言わねぇなこの人。
身長。
170.4センチ。
五年生。
女子。
小学生。
意味が分からない。
チームでも当然一番大きい。
六年生より大きい。
監督より少し低いくらい。
もはや誰も何も言わない。
いや。
最初は言っていた。
だが。
毎月伸びる。
毎月伸びる。
毎月伸びる。
結果。
みんな慣れた。
「美城ちゃんまた伸びた?」
「伸びましたねー」
「何センチ?」
「170超えました♪」
沈黙。
新六年生たちも固まる。
「……」
「……」
「化け物か?」
「失礼ですねぇ♡」
大丈夫だ少年たちよ。
君たちの成長期はこれからだからな。
◇
六年生。
最後の年。
俺はチーム最年長になった。
そして。
過去最強だった。
打撃。
守備。
走塁。
全部。
シニア相手の練習試合でも通用した。
写輪眼。
経験。
フィジカル。
全てが噛み合っていた。
監督ですら言う。
「もう普通にシニアレベルだね」
「でしょう♡」
「その自信どうにかならない?」
「実績です♡」
「否定できない」
◇
そして夏。
最後の全国大会。
地区大会ーー突破。
県大会ーー突破
そして全国大会ーー
当然のように勝ち進んだ。
一回戦も突破。
だが。
二回戦。
そこで終わった。
◇
試合開始直後から異変があった。
俺の同期でもあり、大空リトルの新エースーー白壁 真司(しらかべ シンジ)の調子が絶不調だった。
球が高い。
球威がない。
コントロールは甘い。
打たれる。
また打たれる。
さらに打たれる。
三回終了。
七失点。
ベンチが静まり返っていた。
白壁が俯く。
監督が投手交代を告げる。
しかし、控えも打たれた。
八点目。
九点目。
十点目。
スコアボード。
0-10。
最悪だった。
◇
五回裏。
俺は監督へ向かった。
「監督」
「どうした」
「投げます」
監督が固まる。
「本気?」
「本気です」
「えっとぉ……」
「このまま終わる方が嫌です」
監督は黙る。
周囲も黙る。
そして。
数秒後。
頷いた。
「はぁ、分かったよ……」
その時、監督が何を考えて、どういう結論を出して俺に許可を出してくれたのかはわからなかった。
それでも出してもらえることになった以上、全力で相手だ線を押さえる!
◇
マウンド。
初めて立つ。
景色が違う。
写輪眼が回る。
捕手は現在の正捕手ーー藍間 武(あいま たける)。
これまた同期だが、ハッキリ言ってダメダメだ。
俺に言わせればフレーミングが甘いし、投手への配球指示も駄目だ。
何が駄目かはわからない。
そらそうだ。
俺は感覚派なんだよ!
だが、結果として打たれているので駄目だ。
そんな話しは置いておいて、藍間がミットを構え、股下でサインを出す。。
配球?
サイン?
残念だが、そんなもんは覚えてないぞ。
まぁ、つまりどうするかと言うと……
第一球。
投げる。
バァン!!
「おおっ!?」
観客がざわめく。
速い。
速球。
推定120キロ。
小学生では十分以上。
そして。
伸びる。
キレもある。
キャッチ音から、球威もあるだろう。
ただし、問題が一つ。
全部ストレートだった。
変化球ゼロ。
そして全部ど真ん中だった。
◇
六回。
七回。
打たれる。
それでも抑える。
守備が助ける。
俺も守る。
チーム全員で守る。
何とか失点を最小限に抑えた。
だが。
点差は縮まらない。
俺は打った。
二塁打。
三塁打。
ホームラン。
それでも足りない。
試合終了。
10-6。
全国大会。
二回戦敗退。
◇
整列。
礼。
ありがとうございました。
その瞬間。
全部終わった。
◇
ベンチ裏。
俺は壁を殴った。
「クソッ!!」
痛い。
だが構わない。
悔しかった。
悔しかった。
悔しかった。
勝てない相手じゃなかった。
何時も通りなら、負けるはずがなかった。
泣きそうだった。
いや。
少し泣いた。
◇
だが。
時間が経つと。
別の考えが浮かぶ。
まぁ。
こんなもんか。
そんな考えだった。
仕方ない。
俺は間違いなくベストパフォーマンスだった。
エースが弱かった。
キャッチャーの配球も糞だったんだろう。
うーん、しゃーないなー
運が悪かった。
しゃーないしゃーない。
確かに、美城 輪(うつしろ りん)のパフォーマンスは完璧だった。
守備ではファインプレーもあったし、本塁打も量産した。
大会MVPも、彼女のものだった。
しかし、毎日のようにキャリア・ハイを更新し続ける彼女には、余裕があった。
写輪眼をいかせるバッティング技術を磨くのは良いだろう。
今後も見据え、更なるフィジカル強化に邁進したのも良い。
守備練にも頻繁に参加し、その才能を磨き続けていたのは間違いない。
しかし、その上で彼女には余裕があった。
バッティングの時に、彼女の写輪眼はバッティングピッチャーを努めたエースー白壁の投球も、控えで次期エースの投球もその目で見ていたのだ。
男性のフィジカルには、女性ではどつしようもない差が生まれるのは仕方ない。
生まれついての弱い身体ゆえ、身体に負担の大きい投手を初めから諦めていたのは、間違っていない。
後の選手生命に大きな負担になっていたかもしれない。
それでも、ほんの遊びで投手としての腕を磨いても良かったはずだ。
配球に関しても、練習後に家で勉強しても良かった。
彼女の写輪眼を生かし、その力でチームのメンバーへのアドバイスだって、不可能ではなかっただろう。
また、試合当日、彼女は早い段階で白壁の不調を見抜いていた。
が、それを指摘することはなかった。
彼女の世界は、とても小さく狭い。
登場人物は、主人公の彼女と、一部のネームド、そしてその他大勢の脇役だった。
大体の人間はそんなものだった。
それでも、ほとんどの人は、それではやっていけないから、その世界を少しずつ大きくしていく。
誰かに助けられ、そして誰かを助けることを知る。
誰かに教えを乞い、そして誰かに教えることを始める。
しかし前世から、彼は誰かに助けやアドバイスを求めなかった。
だから、彼は、彼女はーーー
◇
窓に映る自分を見る。
白髪。
赤い目。
170センチを超えた身体。
小学生とは思えない体格。
そして、情けないーー
ーー負け犬の顔だった。
◇ ◇ ◇
美城輪。
十二歳。
身長一七〇・八センチ。
大空リトル主将。
遊撃手。
だから彼女(彼)は、負け犬なのだ