紅眼のヒロイン、白球を盗む   作:匿名希望

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誤字報告、すごく沢山いただきました。
えーっと、誤字報告してくれた人たちって……誇らしくないの!?めちゃくちゃありがとうございます。
へっぽこですが、これからもよろしくお願いいたします!!


リトル編終了!結局おれは野球が好きって話し!

 

 

全国大会から一ヶ月。

 

夏休みが終わりかけた頃。

 

大空リトルのグラウンドには、以前よりも大人の姿が増えていた。

 

理由は簡単。

 

美城輪。

 

その存在だった。

 

「こんにちは」

 

「お疲れ様です」

 

「今日は神崎シニアさんも来てますねぇ」

 

「そうだね」

 

監督が苦笑する。

 

バックネット裏。

 

スーツ姿の大人たち。

 

腕を組みながら練習を見ている。

 

以前から視線は感じていた。

 

だが最近は露骨だった。

 

守備練習をしていれば見る。

 

打撃練習をしていれば見る。

 

走れば見る。

 

休憩していても見る。

 

動物園のパンダじゃないんだぞ。

 

 

「美城さん」

 

練習後。

 

一人の男性が近付いてきた。

 

名刺を差し出す。

 

神崎シニアのスカウトだった。

 

「あらまぁ」

 

「以前もお話しましたが」

 

「しましたねぇ」

 

「是非うちへ」

 

営業スマイル。

 

俺も営業スマイル。

 

大人って大変だな。

 

前世で嫌というほど見た。

 

 

話はいつも同じだった。

 

君は凄い。

 

才能がある。

 

身体能力も素晴らしい。

 

守備も打撃も全国レベル。

 

将来有望。

 

だから神崎シニアへ。

 

そして。

 

最後に必ず続く。

 

「高校は女子野球の強豪校があります」

 

「最近は環境も整っています」

 

「女子プロへの道もあります」

 

「日本代表も夢ではありません」

 

そこだった。

 

毎回そこだった。

 

誰も。

 

本当に誰も。

 

甲子園の話をしない。

 

 

最初は気にならなかった。

 

だが。

 

何人も。

 

何人も。

 

何人も。

 

違うチームのスカウトと話すうちに気付いた。

 

彼らの中では決まっている。

 

シニアまでは男子と混ざる。

 

高校から女子野球。

 

その先は女子プロ。

 

女子日本代表。

 

そういう未来。

 

 

「どうするの?」

 

帰り道。

 

父親が聞いた。

 

「何がー?」

 

「女子野球」

 

少し考える。

 

そして肩を竦めた。

 

「別に悪くないんじゃないかなー?」

 

本音だった。

 

女子プロ。

 

日本代表。

 

それだって凄い。

 

前世の俺なら想像もできない。

 

 

家へ帰る。

 

風呂へ入る。

 

鏡を見る。

 

百七十センチを超える、鍛えられた身体だ。

 

急に身長が伸びても、キツイ練習があっても、それに負けないくらいたくさん食べて鍛えた身体。

 

そして女の身体。

 

今さらだ。

 

何年も生きてきた。

 

もう理解している。

 

俺は女だ。

 

前世は男だった。

 

だが今は違う。

 

 

男を好きになるかと言われれば。

 

ならない。

 

どう考えてもならない。

 

前世の感覚が残りすぎている。

 

だから。

 

女子だらけの女子野球。

 

それも別に悪くない。

 

むしろ気楽かもしれない。

 

身長だって高い。

 

フィジカルもある。

 

活躍できるだろう。

 

幸せになれるだろう。

 

そう思っていた。

 

少なくとも。

 

その時までは。

 

 

数日後。

 

またスカウトが来た。

 

また女子野球の話をした。

 

また未来の話をした。

 

また同じ話だった。

 

最後まで断言は濁し、その日も返事は保留で家へ帰った。

 

 

「美城ちゃん」

 

監督だった。

 

「なんですかー?」

 

「少し話さない?」

 

珍しい。

 

監督から個人的に呼ばれることは少ない。

 

俺は頷いた。

 

 

グラウンド脇のベンチ。

 

夕方。

 

練習は終わっている。

 

蝉の声も減っていた。

 

監督は缶コーヒーを飲んでいた。

 

俺はスポーツドリンク。

 

粉のやつで、まとめてでっかい容器に入ってるのを、紙コップにいれて持ってきた。

 

昔からコーヒーは苦手なんだよ!!

 

 

「最近どう?」

 

「どうとは?」

 

「進路」

 

「あー」

 

適当に答える。

 

「まぁ普通ですよー」

 

「普通かぁ」

 

「普通です♪」

 

「本当に?」

 

「本当です♡」

 

監督が笑った。

 

嫌な笑いだった。

 

何か見透かしている顔。

 

 

「女子野球は嫌かい?」

 

一瞬。

 

心臓が止まりそうになった。

 

だが。

 

顔には出さない。

 

俺は美城輪(うつしろ りん)だ、みんなのアイドルだ!(妄想)

 

いつだって余裕たっぷり。

 

小悪魔全開。

 

それが俺だ。

 

「そんなわけないじゃないですかー」

 

笑う。

 

いつもの笑顔。

 

「やっぱり男子と女子じゃ違いますしー」

 

「うん」

 

「生物学的にも差がありますしー」

 

「うん」

 

「女子プロだって立派ですしー」

 

「うん」

 

「女子代表とか凄いですしー」

 

「うん」

 

監督は相槌だけ打つ。

 

反論しない。

 

否定もしない。

 

だから逆に嫌だった。

 

 

「でもさ」

 

監督が言う。

 

「君、それ本当に思ってる?」

 

「思ってますよー」

 

 ……半分くらい」

 

俺の笑顔が少し固まる。

 

監督は続けた。

 

 

「美城ちゃんってさ」

 

「はい」

 

「意外と努力家なんだよねー。

 

 最後まで、そして今でも基礎練続けてるし。」

 

「意外とってなんですか」

 

「それにプライド高い」

 

「褒めてます?」

 

「傷付きやすい」

 

「褒めてませんね」

 

「人に頼るの下手」

 

「……」

 

「だからか、人に教えるっていう発想がない」

 

「……」

 

前半は、図星だった。

 

少しだけ。

 

本当に少しだけ。

 

でも、最後の人に教えるって発想が無いってのには首をかしげた?

 

発想がないってなんだよって。

 

それをわざわざ指摘される理由もわからなかった。

 

 

「君さ」

 

監督が空を見る。

 

「チームメイトのこと、ちゃんと見てる?」

 

「見てますよ?」

 

「本当に?」

 

「見てます。

 

 今だってほら、打席のあの子打ちますよ」

 

カキーーン!

 

快音をならして、白球がマウンドに飛ぶ。

 

それを見て、監督は少しため息をついてから再び口を開いた。

 

「そう言うことじゃないんだよ。

 

 白壁くんが調子悪そうだって気付いてたでしょ?」

 

「?

 

 2回戦のことですよね?

 

 はい、気付いてましたよ?

 

 ほら、やっぱり良く見てるじゃないですか」

 

「違うよ、違う。そうじゃないんだよ」

 

 

 

 

全国大会。

 

あの日。

 

俺は知っていた。

 

投球練習の時から知っていた。

 

フォームが変だった。

 

軸足が流れていた。

 

リリースも甘かった。

 

うーん、今日ってもしかしてヤバイか?って思ってた。

 

だって、写輪眼なら分かる。

 

 

でも。

 

何もしなかった。

 

 

「誰にも言わなかった」

 

監督が言う。

 

「それとも言えなかった?」

 

「……」

 

「僕が思うに、言う必要がないと思った?」

 

俺は黙る。

 

 

「君はね」

 

監督が笑う。

 

「他人を見下してるわけじゃない」

 

「当たり前です」

 

「でも同じ人間だとも思ってない」

 

「は?」

 

今度は本当に声が出た。

 

 

「自分は自分」

 

「他人は他人」

 

「出来る人は出来る」

 

「出来ない人は出来ない」

 

「そういう割り切り方してる」

 

「……」

 

反論できない。

 

少なくとも。

 

少し心当たりがあった。

 

 

前世からそうだった。

 

努力する。

 

結果が出る。

 

出ないなら諦める。

 

誰かに相談しない。

 

誰かに助けを求めない。

 

だから。

 

誰かを助ける発想も薄かった。

 

 

「そんなこと」

 

「ない?」

 

監督が笑う。

 

「ないです」

 

「本当に?」

 

「……」

 

「自分はそんなんじゃないって思ってない?」

 

言葉が詰まる。

 

 

思っている。

 

当然だ。

 

俺はそんな冷たい人間じゃない。

 

そう思いたい。

 

だが。

 

本当にそうか?

 

 

白壁。

 

藍間。

 

チームメイト。

 

仲間。

 

俺は彼らに何かしてやれただろうか。

 

 

「出来たかもしれない」

 

監督が言う。

 

「出来なかったかもしれない」

 

「……」

 

「でも試そうともしなかったよね」

 

胸が痛い。

 

 

「君さ」

 

監督が笑う。

 

「一人で完結しすぎなんだよ」

 

「……」

 

「だから一人でどうにもならなくなった時」

 

「……」

 

「めちゃくちゃ弱い」

 

 

腹が立った。

 

そんなわけない。

 

俺は強い。

 

努力した。

 

勝ってきた。

 

結果も出した。

 

 

だが。

 

全国大会で負けた後。

 

泣いた。

 

悔しかった。

 

そして最後には。

 

仕方ない。

 

そう思った。

 

 

監督は続ける。

 

「誰かに頼るのも才能」

 

「誰かを頼るって信じることだから」

 

「君それ苦手でしょ」

 

「……そうかもしれません」

 

 

小さな声だった。

 

監督は聞こえたらしい。

 

少しだけ笑った。

 

 

「で」

 

「はい」

 

「女子野球は嫌?」

 

また同じ質問。

 

 

俺は黙る。

 

 

嫌じゃない。

 

本当に嫌じゃない。

 

女子野球も凄い。

 

女子プロも凄い。

 

日本代表も凄い。

 

 

でも。

 

甲子園で…

 

甲子園でプレーしたい。

 

男だとか、女だとか関係ない。

 

自分が最強で、最優で、凄いだって証明したい。

 

それで称賛されて、憧れられて、人の心を揺さぶる野球選手になりたい。

 

だから、諦めるんじゃなくてーー

 

 

ーー戦いたい。

 

 

ーー最強になりたい。

 

 

それも本音だった。

 

 

「分かりません」

 

初めてだった。

 

俺がそんな答え方をしたのは。

 

 

監督が笑った。

 

「うん」

 

「分かりません。

 

 どちらでも良いんだと…思います。

 

 でも、どちらかというなら、あっちが良いです。」

 

「それでいいと思うよ」

 

あっちが何なのか、監督は俺に聞くことはなかった。

 

 

風が吹く。

 

グラウンドの土が舞う。

 

 

 

「まずさ」

 

監督は笑った。

 

「楽しい?」

 

 

一瞬。

 

全国大会。

 

ホームラン。

 

守備。

 

歓声。

 

勝利。

 

悔しさ。

 

思い浮かぶのは、大空リトルでのハイライト。

 

練習の苦しさや、バカにされた嘲笑の声は欠片も思い浮かばなかった。

 

 

そして。

 

答えは一つだった。

 

 

「楽しいです」

 

 

「ならそれでいいんじゃない?」

 

監督は笑う。

 

「君って難しく考えると迷子になるから」

 

「それ、失礼です!」

 

「本当じゃん」

 

 

そして最後に。

 

監督は肩を竦めた。

 

 

「それはそうと」

 

「はい?」

 

「その協調性も可愛げもない思考回路はどうにかした方が良いよ?」

 

 

「はぁ!?」

 

俺は立ち上がった。

 

「私はいつも可愛いですよっ!!」

 

「外面はね」

 

うんともすんとも言えなかった。

 

 

 

 

監督は腹を抱えて笑う。

 

 

「それに、君ってやっぱりボッチ気質だよ」

 

「違いますぅ!!」

 

「ぼかぁ心配だよ。

 

 野球は一人でやるもんじゃあないよ」

 

「余計なお世話ですぅ!!」

 

 

夕日が沈む。

 

グラウンドが赤く染まる。

 

 

監督は笑っていた。

 

俺も笑っていた。

 

 

進路はまだ決まっていない。

 

未来も分からない。

 

甲子園へ行けるかも分からない。

 

女子野球へ進むかもしれない。

 

 

それでも。

 

一つだけ。

 

確かなことがあった。

 

 

俺は野球が好きだ。

 

万年ベンチでも。

 

試合に出れなくても。

 

野球を諦めても。

 

俺は野球にかじり付いた。

 

 

好きだった。

 

 

だからきっと。

 

もう少しだけ。

 

足掻いてみようと思った。

 

◇ ◇ ◇

 

大空リトル卒団まで、あと半年。

 

美城輪。

 

十二歳。

 

身長一七三・二センチ。

 

遊撃手。




ぼかぁ、野球ができたらそれでよかったんよ。
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