高町なのはが墜とされて10日が経過した。集中治療室で処置を受けていたが峠を越えたことで一般病棟に移された。しかし彼女の撃墜は完全秘匿なので面会謝絶の看板が立て掛けられ関係者以外は立ち入り禁止となっている
「剝けたから口を開けなさい」
「恥ずかしいよ、お姉ちゃん」
「それぐらい我慢しなさい、恭ちゃんたちがどれだけ心配したと思っているの?」
「ごめんなさい」
意識不明の重体に陥っていた彼女だが奇跡的に目を覚ますことが出来た。しかし症状は前回のときより重く手足を全く動かすことが出来ないので実家から姉である美由希がミッドチルダに駆けつけて世話をしている。クロノの母親であるリンディの口利きで長期間の滞在を許され病院の近くに部屋を借りて朝から晩まで妹の隣で介護に勤しむ
「フェイトちゃんから聞いたよ、お医者さんからの忠告を無視したって」
「でも…あのときはそうするしか」
「仲間を助けるために自分は死んでもいいって訳?それは恭ちゃんやお父さんから習ったことなの?無茶や無理をすることは美徳じゃなくて単なる自己満足に過ぎないんだよ」
美由希は妹の症状を聞かされた時に昔のことを思い出していた。あの時も無理を続けていたことで重症を負い辛いリハビリを味わうことになった。考えを改めることなく生き続けたことに眼鏡を外し冷徹な視線を向ける
「リハビリには最後まで付き合うよ」
「でも長くなるかも。お姉ちゃんだってお店のことが」
「アルバイトみたいな立場だから大丈夫、それで治ったら2人で海鳴に帰るから」
「お父さんたちやアリサちゃんに心配掛けちゃったし謝らないと―――」
「そういう意味じゃなくて、もう魔導士を辞めなさいってこと」
突然発せられた言葉に彼女は驚き起き上がろうとするが体は反応してくれなかった。なんとか視線だけでも抗議する姿勢を見せたが姉には伝わらない
「そんな!なんでお姉ちゃんが勝手に」
「私だけじゃなくて家族全員で決めたことなの!本当は11歳の時に強く言うべきだった。でもリハビリを頑張っているなのはを見て"辞めろ"なんて言えなかった。だから信じてみようと」
「じゃあ今度も信―――」
「その結果がこれでしょ?今こうやって生きているだけで奇跡なんだよ、誰かに迷惑を掛けて家族を悲しませることがやりたかったことなの」
「違う…そんな、そんなつもりじゃ」
「お父さんが仕事で大怪我を負ったとき、なのははどんな気持ちだった?」
2人の父親は、要人警護の職に就いていたが仕事中にテロに巻き込まれ瀕死の重傷を負った。店のこともあり末っ子だった彼女は1人でいることが多くなり寂しい日々を過ごしていた
「どうして相手が倒れたなのはにトドメを刺さなかったと思う?フェイトちゃんから聞いたけど放置せずにヘリコプターに投げ込んだんだよね」
「…それは」
その答えは既に分かっていた。そして声に出すのが怖かった
「言いたくないのなら言ってあげようか、なのはのことを"敵として認識していなかった"向こうにとっては石ころと同じ扱いだったと思う。助けたのは手心かもね」
「…でも」
乾いた喉から掠れた声をひり出そうとする。『でも』の後に言葉が続かない、数々の困難を打ち破ってきたが今回のようなことは初めてだった。ミドラは自分のことを見ていなかったのだ
「病人をあんまり虐めんといてほしいな美由希さん」
ドアを開けて入ってきたのは八神はやてとクロノ・ハラオウンだった。美由希は椅子から立ち上がって頭を下げようとするが手で制してしまう
「はやてちゃん、クロノ君」
自分の味方になりそうな2人の登場に彼女は顔を輝かせるが、艦長のクロノがここに現れたことに疑問を浮かべる
「高町なのは一等空尉、今日を持って古代遺物管理部機動六課スターズ分隊の隊長の任を解きます。これからはリハビリに専念するように」
「…ふぇ?はっ、はやてちゃん、ちょっと…そんな冗談キツイよ~~」
「冗談か…冗談にしたかったんや」
はやての沈痛な表情を見て楽観視していた自分の未来は塗替えられてしまった。そしてクロノがここに来た意味はお見舞い以外でもある
機動六課は1年間限定の試験部隊である。リンカーコアが砕かれた高町なのはが残りの日数で復帰することは不可能なことなので隊長職から降ろされるのは当然のことだ、医者からリハビリを含め全治2年以上の診断を受けている彼女が戻ることは出来ない
「でも誰がティアナたちのことを、ヴィータちゃんだけじゃ…」
「それは僕が担うことになった」
「クロノ君が!だってクロノ君はクラウディアの艦長で」
「もうクビになったよ、色々あってフリーになったから志願したのさ」
かつては執務官の身でAAA+クラス魔導師として活躍していた。当時の腕は多少錆びついているがブランク自体は挽回できる範疇である。また経験に乏しい八神はやての教育担当として参謀役を兼務することになる
なお追加戦力として加入したシャッハ・ヌエラはライトニング分隊のメンバーとして既に活動してもらっている。これはシグナムが別任務で動いているのが理由である
「私がワガママで間違っていたんや」
「はやてちゃん…そんなこと」
「ごめんな辛いのに苦しめるようなことさせて、治療費のことは気にせんでええから上層部と掛け合って労災や色んなもんを―――」
"パンッ!"
その言葉を言い切る前に彼女は頬を平手で叩かれた。涙ぐむ美由希は睨みつけたまま動こうとはしなかった
「お姉ちゃん!」
「ワガママ?そんな言葉で済むと思ってますか?はやてちゃんは隊長なんですよね、自分以外の人間は操り人形の駒扱いですか?」
糾弾するつもりはなかった。室内にいる面々の中で1番の年上で穏便に終わらせようと思っていたのに彼女を見た瞬間に怒りが湧いて手が出てしまったのだ
「止めてよ、お」
「ええんや私が愚かだったせいなんや、怨まれるのは当たり前のことや」
赤くなって頬を押さえることなく彼女は頭を下げた。頭に血が上っていた美由希も冷静になって頭を下げると今後のことを話し合うことになった
なのはを墜としたミドラだが盗掘業を休んでいた。端的に言ってしまえば懐に余裕があるので無理して働く必要が無かったので暇を潰すため…
"シャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカシャカ"
ラッシーを作っていた。別に料理に目覚めた訳ではなく孤児院に住む子供たちからの頼まれ事である。年長者たちは代表が危険なことをして自分たちの生活費を稼いでいることを知り恩返しをしたいと思い、感謝の品を贈りたいのだが所持金をかき集めてもルーテシアに買い与えたエプロン代にも満たなかった
子供たちは出入りをするミドラの知恵を借りるために相談した結果、彼はキッチンカーを借りて移動販売をすることになった。材料費や諸々はミドラが捻出するのだが子供たちはお手伝いと称してバイト代を得る。安易に『お金を貸してください』というよりも健全で社会経験にも繋がることなので心意気を示した形となった
「こちら熱いので火傷しないようにお気を付けてください」
「ラッシーをLサイズで4つですね。少々お待ちください」
カレーを販売するキッチンカーはそれなりに盛況である。悪食のミドラだが仕事で各世界のグルメを堪能しているので味にはうるさい、稀代の悪党がこんなところで販売業をしているとは誰も思うまい
「すいません甘口って可能ですか?」
「食べる前にハチミツを混ぜれば甘くなります」
両目の色が違う子供を連れた金髪の女性が尋ねてきたので質問に答える。出来立てのカレーを受け取ると2人は近くのベンチに座り封を開けた。子供の方は疑いながらスプーンを掬っているが意を決して口に含むと顔を綻ばせ笑顔になる
「ここにおられました騎士カリム」
管理局の制服を纏ったポニーテールが現れた。何やら面倒でややこしいことが起きそうな前触れかもしれない
クロノ君がスターズ分隊の隊長に就任しました。はやての教育係も任されています
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