主の八神はやてから言い渡された任務にシグナムは頭を悩ませていた。目的はミドラを捕らえることだが内容が拘束・逮捕といった手段を用いないことである。街中で違法な行為をすれば権限を行使することが可能だが素直に言うことを聞くとは思えない、そもそも対峙したところで敵として認識されないのがオチである
「(ここで落ち合うはずだが)」
突き付けられた難題に頭が痛くなった彼女は聖王教会に身を置くカリム・グラシアに相談するため通信を繋いだところ屋外で話し合うことになった。閉め切った室内で呻き声をあげるよりも開放された屋外なら妙案が浮かぶかもしれいないということで指定された場所に訪れたのだが
「こちらですよ、シグナム」
声のする方向に視線を向けると自身の騎士甲冑に似た衣服を纏う金髪の女性がカレーを食べている小さい女の子と一緒に座っていた。少女は顔をあげてシグナムのことを見ると怯えるような表情をしていたので、今まで自身が険しい顔で歩いてきたことに気付くが笑顔が作れない
「この少女が地下道でレリックを運んでいた」
「目覚めたときは怯えて心を閉ざしていました。ヴィヴィオという名前を教えてもらってから年相応の子供のように駆け回ることが出来るようになりまして」
「そうか…良い名だ」
「(色々と調べましたが、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトのDNAを持つ人造魔導士というのが判明してます。どこで生み出されたまでは分かりません)」
「(なんだと!)」
突如の思念通話にシグナムは困惑する。かつて聖王教会で管理していた聖骸布に彼女の血痕が付着していたが誰かに持ち出され紛失されたままだった。目の前にいる女の子が件の関係者だと知ると再び顔が険しくなる
「(このことを知るのは限られています)」
「(どうするつもりだ?)」
「(教会の
相談するつもりがとんでもない爆弾を抱えることになった。ヴィヴィオの存在が世間に露呈すれば聖王教会は彼女を担ぎ上げる。タカ派の面々が躍起になって政治や軍務に口出しをしてくる可能性も予見される
「相談に来たのに、ごめんなさい」
「これは私の胸の内に仕舞っておく、周囲に吹聴すべきではない」
「はやてにも隠しますか?」
「主は昨今のゴタゴタで休む間もなく身を粉にしている。今は伝えるべきではない」
「そうですね。よけぃ…!ヴィヴィオ?」
2人は難しい顔でヴィヴィオの今後について語り合っていたが、いつの間にか彼女が居なくなっていた。ベンチには空になったカレーライスの容器が置かれたままだった
あちこちに顔を向けるとヴィヴィオはキッチンカーの方へ小走りで駆けていた。休憩していた店主らしき男性がそれに気づいて帽子を被り直すと身を屈めて彼女と同じ視線になる
「どうしたんだい?お嬢ちゃん」
「美味しかったです。あの…明日もここにいますか?」
「明日か~、ちょっと違うところに行くつもりなんだけど」
その言葉を聞いてヴィヴィオは泣きそうな顔になってエプロンにしがみついてきた
「明日も食べたいです!来てください」
「ヴィヴィオ!店主さんを困らせてはいけません」
カリムたちが大急ぎで駆けつけて引き離そうとするが少女は全力全開で纏わりつきイヤイヤと駄々をこねている。しかし少女のスタミナは短時間で尽きてしまい弱ったところを引き剥がされるがヴィヴィオは彼の帽子を奪ってしまった
「こらっ!返してあげなさい」
「欲しいならあげるよ、お嬢ちゃん」
「すまない迷惑を―――」
カレーを売っていた店主の顔を見たシグナムは金縛りに遭ったような感覚に陥った。目の前にいたのは渦中の人物であるミドラであり、彼女は反射的にデバイスを起動しようとするが寸前でエリオたちの顔が浮かび上がりギリギリで止めることができた
「貴様は!」
「おや…面と向かって会うのは10年振りですね。烈火の将さん」
「この方が、まさか」
片方は苦虫を嚙み潰したような顔を浮かべ、もう片方は稀代の大泥棒がキッチンカーの店主をやっていることに驚いていた。そんな2人を見てミドラは逃げるそぶりを見せずに佇んでいたが孤児院の面々を集めて片付けをするように伝える
「機動六課は路上販売を行う輩を取り締まるところだっけ?」
「生憎そんな権限は持ち合わせていない」
スカリエッティに協力を仰ぎ必要な資格や許可は取り揃えてある
「じゃあそのまま女の子を連れて回れ右をしてくれないか、今の俺はただのキッチンカーを運転するカレー屋の店主にすぎない」
「ならこちらの頼みを聞いてくれないか?果たしてくれたら今日のことを忘れ互いに見なかったことする」
「言ってみな、答えるのはその後だ」
近くではヴィヴィオが子供たちから渡された瓶を持って、リズミカルに上下させてラッシーを自作していた。口を一文字にして呼吸を止めながら一心不乱に振っているので段々と顔が赤くなる
「私の主と会ってほしい、それだけなんだ」
「そんなことでいいのか?別にいいぞ」
思ってもみなかった答えが返ってきた。断られる前提だったのでシグナムは少し呆けた顔になるが、すぐに表情を戻して問い詰める
「どういう風の吹きまわしだ」
「会って話がしたいんだろ?そうだな…護衛でアンタはいてもいいがデバイスを持たないで明日の14時に来るのなら応じる。約束を破れば最悪な結末を迎える」
「少し待ってくれ!今から確認の」
「お前が今ここで決めろ、それが条件だ」
強者のオーラに気圧されたシグナムは了承してしまった。大事なことを勝手に決めてしまった彼女は頭の中で必死に八神はやてへ伝える言葉を組み立てている
「お嬢ちゃん、明日もここに来るからな」
「ホント!」
「約束は破らないよ」
顔をキラキラと輝かせるヴィヴィオはジャンプしながら喜びを表現していたが、それを見ていたカリムはミドラに対して複雑な感情を抱いてしまう
「貴方は何の為に…」
「俺はこの生き方しか知らない、そしてこれからも同じように生き続ける」
もし家族を失っていなければ学業に励みながら夢を見つけていたのかもしれない、しかしシグナムたちによって普通の生き方を奪われてしまい裏稼業に身を投じてしまった
「綺麗事だけじゃ何も救えませんよ」
その言葉を残すと彼はキッチンカーに乗り込んで去って行った。明日になれば再び現れると口にしていたが本当なのだろうか?世間から稀代の悪党と呼ばれるミドラが子供たちに優しい顔を向けていたのを見たカリムの心がざわつくのであった
普通に見つかり、八神はやてとの話し合いに応じることになりました
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
明日は札幌記念 そろそろ甦れホウオウビスケッツ