ジャックルマロワで執筆が遅れました
六課の隊舎に帰還したシグナムはミドラと出会ったことを入院している高町なのは以外のメンバーに伝えた。血気盛んな面々は彼との約束を守らずに逮捕するべきだと口にしていたが隊長を勤める八神はやての声で却下された
「どうしてだ!はやて」
今にも飛び出しそうなヴィータが食って掛かって詰め寄ろうとするがザフィーラが羽交い締めしたことで動けなくなる。それでも充血し怒りに満ちた瞳は大きく開いたままだった
「今の私たちが挑んでもミドラを捕まえることは不可能なんや、物理や魔法も効かへん相手をどうやって拘束するんや」
「シグナム、あいつはガキを連れて働いていたんだろ!なら―――」
「それだけは絶対にアカン、本気で言うとんなら今ここで懲罰房に入ってもらうで」
その怒号にヴィータはようやく矛を収めた。しかし再び暴れ出す可能性があるのでザフィーラが引き続き押さえ込んでいる
「シグナム、ミドラの言うてたことは信じてええんやな」
「条件を自ら提示したのであれば問題ないと思います。向こうが約束を破れば彼の信用問題に関わるはずです」
「そうか…応じるしかあらへんな」
「はやて」
「許してもらおうとは思うとらん、でも面と向かって話してみたいんや」
彼女は同行するシグナム以外の隊員たちに『緊急時以外隊舎内で待機』と命令した。彼女の覚悟を踏みにじる者はいるのだろうか?
そして夜が明けた。朝から隊舎内は緊張した空気に包まれ末端の整備員やオペレーターも心なしかそわそわして小さいミスを連発している。いつものように悪夢にうなされカフェイン錠剤をコーヒーで流し込んだ八神は鏡に写る自分の顔を見て溜息を吐いた
「(こんな酷い顔になっていたんやな)」
何度も化粧を塗り直して濃く浮かびあがっていた隈を隠す。ストレスで食事も喉が通らずゼリー飲料が主食となっていた。六課を設立する前は活力に溢れた顔も今では30代手前の独身OLに見えてしまうほど老け込んでしまった
「準備はよろしいでしょうか」
「ええよ、デバイスは預けたか?」
「テスタロッサに渡しました。ヴィータもザフィーラが監視してますので抜け出すことはないと思います」
「ほなら行こうか、安全運転でたのむで」
ハンドルを握るシグナムも微睡む程度しか休めなかった。目を閉じると10年前のことが浮かびあがってしまい落ちつくことが出来ない、もしあの時に襲った家族連れを安全な場所まで移送していたら今の状況に陥っていなかったと考えこんでしまう
「主…」
「どないしたんや?」
「差し出がましいようですがミドラに謝罪をしたところで何も解決しないと思います。奴は起きてしまったことを運命として受け入れています」
「まだシグナムたちと出会う前やったな、図書館に置いてあった漫画に『運命に従うも運命なら、運命に逆らうも運命』って書いてあったんや」
「奴は受け入れ、我々は抗いました」
「抗ったことで色んな人たちに迷惑を掛けてしもうた。ボタンの掛け違いやあらへんけど歪に交わったことで今の状況を生み出してしまったんや」
自分から指示して蒐集をした訳ではないが、地上本部では命惜しさに守護騎士をけしかけたという事実誤認の風評が広がり痛い視線を受けることがある。これから評価を積み重ねて管理局の在り方を抜本的に改革しよう描いた青写真のフィルムは日に焼けてしまい現像することも出来なくなっていた
「あとを頼む」
鍋や米が空になり最後の客になったヴィヴィオを見送るとミドラは孤児院の代表にキッチンカーの鍵を預けた。諸経費を差っ引いても2日間の売り上げは上々で働いてくれた子供たちに想定よりも多くのバイト代を支給することが出来た
「奴等を信じて大丈夫か?」
「反故にすれば首を絞めることになる。加害者の話ぐらい聞いてやるさ」
「そうか…あの子たちのワガママを聞いてくれて感謝する」
「好評なら自立支援のプランでも立ち上げるか?金は腐るほど余らせてあるからな」
「面白いな、選択肢が広がれば最底辺のスカベンジャーにならなくてすむ」
いつまでも孤児院にいることは出来ない、しかし働き口の斡旋を行う余裕なんて持ち合わせていないのが頭痛の種であり今回のことは希望を繋ぐ試金石になる
「どうやら来たみたいだ」
近くの駐車場に黒塗りの車が止まり、中から2人の女性が下りてきた
「明日も顔を見せに来い」
「もちろんだ」
キッチンカーを見送った彼は歩いてきたシグナムの方に体を向けた。距離が離れていても表情がこわばっているのが分かる。3人は挨拶を交わすことなく近くの喫茶店の中に入るが店内に客は存在していなかった
「今日は少し暑くなるから2時間ほど貸し切らせてもらった」
「気遣いをさせてしもうてすまんな」
店内に入った瞬間に屋外にいた奴等は臍を嚙んだ、機動六課の隊員たちは動けないが騎士カリムが義弟のアコースを通じて査察部の面々に張り込んでもらったが無駄になってしまった。営業中なら客を装って潜入することが可能だが貸し切り状態では手が出せない
「調べんでええのか?持っているかもしれへんで」
「過大評価や過小評価もしない、2対1だとしても敵わないだろ」
今ここで戦闘になったところで戦場を渡り歩いた彼にとって日常茶飯事なことだと受け入れて行動するだけである
「そうか…改めて言わせてもらうで古代遺物管理部、機動六課隊長の八神はやてや」
「ご丁寧に、今日はカレー屋店主のミドラだファミリーネームは控えさせてもらう」
互いに挨拶を済ませると外から見えない位置に座った
「まずは―――」
「言っておくが謝罪は受け入れない、謝られたところで死者は戻ってこないし楽になりたいだけの自己満足に付き合うつもりはない」
「貴様っ!」
シグナムの顔が赤くなるがヴィータのように激昂して詰め寄ることはしなかった。今日は対話のために訪れたのだから落ち着くことが大切なのだ
「でも私のせいで」
「だいたいの詳細はスカリエッティ経由で調べさせてもらった。明日を迎えるために赤の他人の魔力を蒐集しただけだろ」
「待ってくれ、処罰されるのは私だけで」
「だから謝罪は望んでいないって言っただろ、誰にも迷惑を掛けずに生きていくのは不可能なことだ!生きるためには何かが犠牲になる」
彼はキッチンカーから拝借していた瓶を店内に置かれていたカップに注いで2人に勧めるが、彼女たちは手をつけなかった
「飯を食う時に手を合わせるだろ?料理を作ってくれた人や生産してくれた農家の人々や生き物に対して感謝を込める。動物や魚の命を犠牲にして背負って生きていくんだ」
「せやけど」
「八神はやて…あんたは他の奴より犠牲にした数が多かったに過ぎない、ただそれだけだ」
「………」
その言葉を聞いて彼女は黙ってしまった。許されるために謝りに来た訳ではなかったが勢いを削がれてしまい二の句が継げない状況に陥っている
「聞かせてほしいのだが、なぜ受け入れることが出来る?私が襲ったことで家族を失ってしまったのだぞ」
「人は永遠を生きることは出来ない、遅かれ早かれ死を迎える。目の前で食われていく両親を見て至っただけだ」
ミドラの生死観の在り方がそこで定められた。この世界に生きる人間も自然の環の理で生きている。親を襲った野生動物も誰かの血肉となるか朽ちたときに大地の栄養になる。そして次の物語が始まるだけなのだ
「言ってしまえば高町なのはが墜ちたのも絡み合った運命の産物に過ぎない、もしかしたら魔導師にならずに幸せを享受する未来も存在していた可能性もある」
「なぁ…抗うことは罪なのか?」
「その答えは人それぞれじゃないのか?」
加害者と被害者の話し合いは、まだまだ続く
ミドラの価値観に彼女はタジタジになってます。謝って許してもらおうとはしませんが人生経験の差で言葉が紡げない状態です
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