「優しいんですね」
「どうしてそう思う?」
高町美由希を機動六課に送り届けている最中に話し掛けられた。無言のまま歩き続けるのも暇なのでラジオ代わりに受け応えることにした
「だって適当なところに放置すれば済むことなのに、フェイトちゃんたちがいる所まで送るなんてしませんよ」
「いや…こっちの不手際で巻き込んでしまったんだ、これぐらいのことをしないと罰が当たる」
これはミドラが信心深いという訳ではない、有名人の姉であっても彼女は一般人の被害者で自分たちは巻き込んでしまった加害者なのだ。自己満足だが相応の礼をしないと納得することが出来ない
「君は魔導士なんだよね?」
「大まかな括りだと一応そうなるな」
「私の妹も魔導士だったんですが少し前に大きな怪我をしちゃって、小さい頃から誰かのために無茶をする性格で」
高町なのはを墜とした奴の前で彼女の過去を語るのは滑稽でしかない、ミドラからすれば敵という認識ではなく放たれた砲撃魔法を食べただけで彼女のリンカーコアが脆弱であることは後から知った。仮にあの場面で砕けなかったとしても管理局の任務を続けていれば戦線から退場していただろう。もしかしたら取り返しのつかない状態に陥っていた可能性もある
「でもこれで良かった思います」
「どうして?」
「私はミッドチルダじゃなくて地球という星で暮らしています」
美由希はミドラのことを気にすることなく言葉を続ける
「"便りがないのは良い便り"という諺が…ってミッドでも通じるのかな?昔の人が考えた経験則みたいな例文があって」
「連絡をしないことが無事の証拠ってことかな?」
「そんな感じです!でもそれは違うんです。連絡をしてこないじゃなくて連絡が出来ない状態に陥っているかもしれないって思ってしまうんです」
地球とミッドチルダは簡単に往来できる距離ではない、文化レベルの違いもあり連絡手段が限られている。そして妹の高町なのはは仕事を理由に家族との連絡を疎遠にしていた
「過保護かもしれないけど、なのはは父さんと母さんの子供で地球育ちの普通の女の子なんです。魔導士として人を助けるのだって凄いことなんだけど…」
「妹思いですね」
「そんなんじゃないですよ!傷ついたけど故郷に帰るきっかけが出来て」
「…故郷か」
ふと昔のことがフラッシュバックしてきた。平凡な家庭で両親と3人で仲睦まじく楽しく過ごしていた日々で何気ない日常を享受していた。父と一緒に風呂で背中を洗ったり寝る前に母が絵本を読んでくれた。ありきたりな生活を営んで暮らしていたのに闇の書事件が原因で全てが消え去ってしまった
血の繋がりこそ無いが傭兵団も家族のようなものだった。人の出入りが激しい日々で仲間の亡き骸を数多く目にしてきた。血なまぐさい経験で培ってきたことが今のミドラを支えている
「ミドラ君の故郷ってどんなところ?」
「根無し草の流れ雲だから忘れちまった」
「忘れたって、お母さんとか家族の人が」
「もう死んでいるよ俺の目の前で10年前に」
その言葉を聞いて彼女はとんでもない地雷を踏み抜いてしまったことを後悔する。そして自身の妹より年下の男の子が簡単に『死』を口にしていることに狼狽えていた
「ごめんなさい、辛いことを聞いちゃって」
「なんで謝るんですか?」
「……だって」
違和感だった。それは普通の反応じゃなかった。身内が亡くなれば辛い・悲しいといった感情に苛まれるはずなのに彼は何食わぬ顔で尋ねてくる
「人は産まれた瞬間から死に向けて歩き始めます!永遠の命なんて存在しません」
「それはそう……だけど、でも両親が」
「憂いだところで死者は生き返りません。花の1つでも手向けたいけど写真も無ければ骨すら残ってないので」
今はまだ覚えていられるが、年を重ねれば記憶が薄くなってしまい顔すら思い出せなくなってしまうだろう
「君は変だよ」
「仲間からよく言われました」
「なんっ…なんで死を軽く扱うの?」
「正面から受け入れ続けていたら自然と溶け込むようになりました」
無頓着やドライという訳ではない、戦場で散った友や仲間の死を悼む心は持ち合わせている。彼等が愛用していた武具を地面に突き刺して身に纏っていた衣服やバリアジャケットを巻き付けて空に砲撃魔法を放つのが傭兵団のしきたりだった
肉体から魂を開放し漂ってしまう仲間に行き着く先を伝える最後の集いを疎かにはしない、両親と別れてから今に至るまで日常生活に『死』が近くに存在していたから歪な心が形成された
「暖かい光を受け入れたくないの?」
「凍えている人がいたら着ているコートを貸します」
「強がりだけじゃ生きていけないよ」
「そいつは朽ちるときに目の前で苦悶の表情で倒れていきました」
美由希の言葉はミドラの心に触れることが出来ない、出会ってから僅かな時間しか接していないが悪人ではなく分別が出来る男の子だと思ってる。スーツを着ていた女の子たちの反応を見ても信頼されているのは伝わってきた
「(なのはより年下なのに、なんで…?)」
地球上で彼女の住む日本は平和な国だ!ミドラと同じ年齢の男の子なら学生として青春を謳歌するのが当たり前だが、国が違えば手に持つのはカバンではなく人を傷つける銃火器や手榴弾になる。テレビに映る紛争地域のニュースを見ても自分には関係無いことだった
「そろそろ機動六課に到着しますよ」
「えっ…はい、えっと…ありがとうございます」
門の前に立つと彼は右手を前に出して軽く押した。少し錆びついた音と共に扉はゆっくりと開いて2人を誘う
「高町なのはの親族を連れて来た!此度の無礼について深く謝罪を申し上げる」
まるで運動会で行う選手宣誓のように大声で叫ぶと彼は深く頭を下げた。無関係な一般人を巻き込んだことで関係者を不安にさせたことに対する気持ちの表れである
30秒ぐらいだろうか?足音が近づいてくるのが聞こえ目を凝らすとバリアジャケットを着用した2人が向かってくる
「フェイトちゃん、シグナムさん」
「美由希さん!」
彼女が駆け寄るのを確認したミドラは踵を返し外に出ていこうとする。美由希は彼のことを呼び止めたかった。もう少しだけ話してみたいと思っていたが声が出なかった
「行きましょう。みんな心配してます」
互いに背中を向けて歩き出せば終わるはずだった。しかし六課の中で彼に対して大きな怨みを募らせている騎士が1人だけいた
「撃て!」
怒号と共にミドラへ向けて多数の魔力弾が四方八方から放たれた。爆音と煙が彼の周囲を包み込んでしまうが攻撃の手は緩むことなく動き続ける
「ヴィータいったいどういうつもりだ!私とテスタロッサ以外は待機のはずだ」
彼女は憎悪の顔で佇む仲間に問い掛けるが、彼女は自身の相棒であるアイゼンを振り回して煙を振り払う
「奴を倒すのは今しかねぇんだよ」
「愚か者!ベルカの騎士が丸腰の相手に槍を向けるのか」
「そんなの綺麗事だ!奴は…なのはの仇なんだ!あいつを苦しめた原因をアタシがぶち殺すんだ」
アイゼンの中にある全てのカードリッジを消費して急降下しながら突撃するヴィータを止めようとするが距離があるせいで届かない、ミドラがいる方向に視線を向けるが煙が立ち込めたままで姿を見つけることが出来ない
「逃げろ!」
「テートリヒ・シュラーク!」
シグナムの声も虚しく苛烈な一撃は彼のことを捉えてしまった。いくら頑丈な体だとしても無事では済まない音が空間を支配する。衝撃音が肌に伝わり砲撃の煙が晴れていく
「それが渾身の一撃か?」
「なっ…無傷だと」
ハンマーの先端がミドラの顔面を打ち付けていたが彼は何食わぬ顔で質問をしていた。憎悪から恐怖に変わったヴィータは押し込もうとするが全く動かないことに冷や汗を流しながら、言葉にならない罵詈雑言を述べている
「1発のお返しだ」
「ヴォゴォォォォ!」
腹部に強烈なスマッシュが叩き込まれヴィータは胃液をまき散らしながら壁面に激突した。壁には隕石が衝突したようなクレーターが出来上がり衝撃の強さを表している。彼はそれを一瞥すると再び歩き出して消えていくのであった
美由希さんの存在がもしかしたらミドラの心を変えるかもしれません
なおヴィータは退院した翌日に今回の負傷を受けることになりました
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誤字訂正もありがとうございます
高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る