それは戦闘と呼べるものではなかった。民間人の女性を受け渡し無防備になった者へ与えた殺意の塊、憎しみに囚われた騎士に誇りなど存在しなかった。友の為と言えば美談になるが憂さ晴らしの意味も込められていた
傷ついた鉄槌の騎士に差し出されたのは施しではなく冷たい鎖、光が届かない闇の中で自らの行いを振り返るが怨嗟の炎は未だに燻り続けている
八神はやてが真っ先に行ったのは記録媒体の消去だった。犯罪者とはいえ美由希を六課まで送り届け謝罪の言葉を述べたミドラに対して苛烈なまでの攻撃を加えたことが悪意の演出家であるスカリエッティに知られたら、ヘイトの感情は自分たちに向けられ機動六課は確実に処分されてしまう
「(こんなことしかできへんなんて)」
自己保身の汚い術を身につけ実践してしまった彼女は唇の端から血が滲むまで強く嚙みしめている。引き出しから書類を取り出し命令無視を重ねる家族の持つ『副隊長』の肩書きを取り消し後見人たちへ送った
「そんな…ミドラ君が」
保護された美由希はフェイトからこれまでの経緯を聞かされた。自分を送り届けてくれた少年が犯罪者で妹を墜とした人物だと知り酷く狼狽する。タッチパネルを操作したフェイトはレイジングハートに残されていた映像をモニターに映し出す
「ちょっと待って!なんで…なのはが先に攻撃してるの?」
「これはミドラを捕縛する為に、でも非殺傷設定だから」
「そうじゃなくて、エイミィから聞いたけど傷つけずに捕まえる技みたいな」
「バインドのこと?」
その言葉に頷いた彼女は再びモニターに視線を向ける。妹が行おうとしているのは対話ではなく制圧だ!差し出したのは手のひらではなく意識を刈り取るために握った拳である
「でもこうしないと」
「ねぇフェイトちゃん想像してみて、私が拳銃を突きつけた状態で『あなたと腹を割って話がしたいの』って言ったらどうする?」
誰だって同じテーブルで向かい合わせに座りたくない、だが高町なのはにとってこれが当たり前だった。無論相手は犯罪者なので武器を構えるのは美由希も理解するが、話が通じない=砲撃魔法で攻撃して黙らせるを短絡的に選んでしまう妹にも問題があると思い込んでいた
「ミドラに操られていませんよね?」
洗脳や催眠魔法が施されていないか疑った。スカリエッティのアジトや機動六課に連れてくるまでの道のりで向こうが仕掛けたのでは?と考えてしまった
「何もされなかったよ…私を連れ去った女の子は勘違いに気付いて謝ってくれたし、ドクターって呼ばれていた人は質問にも応じてくれてエイミィが無事なことも教えてくれた」
「アジトの場所は?中はどうなっていました?スカリエッティや戦闘―――」
彼女は生の情報を持って帰還した。今まで全容を掴むことが出来なかったことを手に入れるチャンスが目の前に存在する。今まで後手を踏まされていたが自分たちから仕掛けることも可能になる
「ねぇフェイトちゃん…」
「なんでしょうか」
「フェイトちゃんたちは
「………っ!」
当然・勿論といった言葉が出てこない、今までのことや指摘された事実が頭の中で複雑に混ざり合ってしまい胸を張って断言することが出来なかった。今まで管理局が正義だとノータイムで思い込んでいた
アニメや漫画なら正義の味方は悪を滅ぼして大団円を迎えハッピーエンドが約束されているのに、今の自分たちは本当にそうなのだろうか
「知ってることを全部教えて」
「は…、い」
闇の書事件で彼の両親を奪ってしまったこと、ユーノに頼んで傭兵時代の詳細な内容を1つずつ述べていく、眼鏡を外し真剣な眼差しで見つめられるのは今まで味わったことのない絶望に等しかった
食卓に並ぶのは母の作ってくれた手料理だった。窓の外では夕陽が沈み星たちが顔を覗かせている。仕事から帰ってきた父の隣に座って一緒に手を合わせた
「いただきます!」
持ち手に猫のキャラクターが描かれたフォークを握って食べようとするが、テーブルの上に置かれた皿は全て白黒のモザイクが装飾され何の料理なのか分からない
突き刺して口に運んでも味が分からない、次第に両親の顔にもモザイクが施されしまい人の形を保てなくなる。いつの間にか暗闇に包まれ彼だけになってしまった
「………っはぁっ!」
「大丈夫か?」
ボロボロでくたびれた長椅子の上で目覚めたミドラは時計に視線を向けた。美由希を送り届けた彼は自宅ではなく孤児院で夜を明かした
「悪夢でも見てたか?」
「いや、隊長たちに拾われる前のことを思い出していた」
「10年以上前の出来事か、守護騎士たちと出会ったことで宝箱の鍵が壊れてしまったか」
読んでいた新聞を折り畳むと漆黒のように底が見えないコーヒーを注ぎカップを渡してくれた
「なぁ、俺って変か?」
「何をいまさら」
「そうだよな」
「この世にまともな奴なんて誰一人としていない、俺を含め大なり小なり変わっているか狂っている」
望んでいたが期待していた答えではなかった
「ストレスが募り安穏を求め、薬に逃げる奴もいれば女やギャンブルに狂って大金を注ぎ込む輩を何人も見てきた」
「平和を享受出来ない仲間がいた」
「お前を戦場から遠ざけようとした奴や長生き出来ないと脅してきた同業者は…」
「時間が許す限り弔い祈りを捧げた」
湯気が立つカップを傾けコーヒーを一気に飲み干して頭を覚醒させる。彼女を送り届けるまでに交わした会話が喉に小骨が刺さったような違和感を引き起こす
「食っていかないのか」
「冷蔵庫の中が空になっちまう。自分の足で新しい店を開拓するのも楽しみだからな」
「開店記念を閉店記念にするなよ!」
自然に形を変える雲のように気持ちを切り替えたミドラは着の身着のまま部屋から出て行って孤児院をあとにした。それを見送った代表は深くため息をつく
「(平和を享受出来ない…って、お前じゃないか)」
ミドラの過去を知る代表は彼の異常性について頭を悩ませていた。仲間や子供たちのために優しくなれるのに自分に対して優しくない、己のことに対して優先順位を低くランクインさせている。とはいえ自殺願望者でもなければ命に無頓着という訳ではない
どこまでも誰かの為に動くお人好しでありながら戦場では苛烈に生きるならず者、どちらもミドラを作り上げた人格であり矛盾そのものが彼である
「(俺たちのせいなのかな?)」
両親を目の前で亡くし、共に戦ってきた仲間たちを弔い続けたことで歪な存在が誕生してしまった。誰もが『変だ!・おかしい』と口にするが当人はどこ吹く風で流れていく、今の状況に堕とした原因である守護騎士や夜天の主に復讐することなく運命として受け入れる
「(あいつの心を動かした奴がいるのか)」
街に目を向ければ同い年の学生がキラキラと輝いている。ミドラも本来ならあそこにいたはずだ!まだ間に合うかもしれない、足を洗って堅気になれとは言わないが『死』を重く受け止めてほしいと願う
「ごちそうさまでした」
手を合わせ自身の血肉となった生物と作ってくれた料理人に対して感謝の弁を述べる。孤児院の代表が危惧したように開店日を営業最終日にさせてしまった。それでも彼の胃袋は満たされずデザートを購入して住処に帰ろうとしていた
「(誰だ?)」
自分のことを追跡しているが殺意や敵意を感じない、それどころか技術的に拙いのが足音でも分かる。誰かに習ったのではなく見よう見まねで模倣しているつもりに近い
振り向くと電柱の陰に隠れてしまったが見たことがある特徴的な金髪が揺れ動いたままだった。笑みをこぼしたミドラは少し早歩きで駆けると角を曲がった
「あっ!」
追跡者は急いで後を追ったが彼を見失ってしまう。せっかく見つけたのにテンションが一気に落ちてしまうが肩を叩かれ振り向くと…
「探偵ごっこは終わりかなヴィヴィオ」
「ふゅゅうぅ!」
人差し指が頬に突き刺さって口の中から空気が漏れてしまい変な顔になってしまう。可愛くて小さな少女探偵を捕まえた泥棒は袋の中から板チョコを1枚手渡した。
立場が逆になってしまったが彼女の目的はミドラと会うことなので結果オーライと考えた。チョコを食べきると汚れた指をズボンの裾で拭う
「また作ってください!お願いします」
少女の願いごとに彼は過去の己を投影させるのであった
少し前に八神が「働き口ぐらい私が紹介したる」と言ってましたが、彼女は就職先に関するコネなんて殆ど持ち合わせていません。海鳴市からミッドチルダに移住し管理局で働くことになりミドラのように横の広がり(あっても聖王教会)なんて作る余裕が無く、アルバイトの掲載誌程度ぐらいのことしか出来ません
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る