「また作って!」
普段台所に立たない父親がエプロンを纏って昼ご飯を作ってくれた。時間も掛けずに味付けも適当で冷蔵庫にあった残り物を炒めた簡単な料理なのに凄く美味しく感じた。ご飯を食べる時はジュースは厳禁だったけど父と2人だけの時はコップにサイダーを注いでくれた。食べ終わったら必ず次をせがんだが二度と訪れることはなかった
「どういうことだ?」
「えっと…あの、またカレーを作ってほしいんです」
小さな名探偵はミドラの作ったカレーを気に入ってしまった。聖王教会で提供される料理も不味くはないがスパイスの刺激を知った彼女にとって味気ないものと感じてしまう
「ずっと探していたのかい?」
その問い掛けに頷くとヴィヴィオはこれまでの冒険譚を擬音とアクションを交えながら演じてくれた。あの時にカリムと一緒に食べたカレーの味を教会で暮らすシスターや同年代の子供たちに伝えると『食べてみたい』と口を揃えていた
顔を知っているのは自分とカリムだけで彼女は忙しく聖王教会の業務に追われている。黙って外に行くのはいけないことだけど滾る情熱を抑えることが出来ないヴィヴィオは子供たちのリーダーに秘密の抜け穴を教えてもらい脱出した
「探偵じゃなくて冒険家だな」
「捕まえました」
普段は遺跡でロストロギアを盗掘するミドラが今回は宝物にされてしまい発掘されてしまった。ハントに成功し腰に両手を当てて鼻を高くするヴィヴィオだが、遠くから慣れ親しんだ声が段々と大きく聞こえてくる
「ヴィヴィオ!」
「うっ…カリムおばさん」
息を切らせて駆けつけてきたのはカリム・グラシアだった。怒られると察した彼女はミドラを盾にするように後ろへ隠れてしまう
「大人たちに黙って出て行くなんて心配させないで」
「ごめんなさい」
「すいませんこの子が迷惑を…貴方は!」
「子育てに四苦八苦してますねカリムおばさん」
最初の発言はスルーしたが流石に今回のは見逃すつもりはなかった。怒るカリムおばさんだがミドラにとって馬耳東風だった
「この子がそんなことを」
「やったことは咎めないといけないが、陳情を蔑ろにしたら沽券に関わる」
私利私欲の為だったら断っていたが、独り占めではなく友達にも食べさせたいという想いで少女から探偵や冒険家に転職した。こちらとしてもスカリエッティからの呼び出しも無いし暇を潰す理由が欲しかった
ヴィヴィオとしては今すぐ来て料理を作ってほしいが、機動六課を支援する聖王教会が犯罪者のミドラを敷地内に招き入れるのは問題が生じる。キッチンカーもレンタルなので申請や準備を含めると早くても3日後ぐらいになる
「炊き出しならどうですか?」
教会近くの土地にテントを設営してミドラに作ってもらう。訪れた子供やシスターたちは偶然を装うことで求めていた料理を食べることが出来る算段である。提案したカリムや引受人となるミドラとしても折衷案として納得した
なお材料費に関してはスーパーなどで手に入る食材に関してはカリムのポケットマネーで賄い、スパイスなどの隠し味に使う調味料は彼が用意することになった
「そちらの孤児院と交流することは?」
「欲張ることは止めておきましょう。ろくでもないことが起きますから」
彼の支援する廃棄区画の孤児院は無認可であり面倒な問題を抱えている。トラブルは未然に防いでおきたいのだ
「いつ食べれるの?」
「そうだな………明後日ぐらいだな」
「本当!じゃあ約束だよ」
笑顔になったヴィヴィオは小指を立てて差し出してきた
「指切りか」
「うん!おじさんとヴィヴィオで結ぶ大切な契約」
「契約って難しい言葉を知っているんだな」
「カリムおばさんが教えてくれたの」
あの時も父と指切りをした。今度はどんな料理を作ってくれるのか楽しみだった。どんなときでも結んだ約束を破ることをしなかったが最後に交わした約束だけは果たされることはなかった
「あと俺はおじさんじゃなくて、お兄さんな」
孤児院でも『おじさん』呼ばわりである。そこで暮らす年長者と殆ど差なんてないのに向こうはお兄さんお姉さんで彼は『おじさん』なのだ
「おじさんって呼んじゃダメなの?」
「ミドラって呼んでくれるかい」
「分かった!ミドラ
「楽しみにしてますねミドラおじさん」
おばさんと呼んだ仕返しを最後にされてしまった。幼女に染み付いてしまった言葉を訂正させる難しさを知っている彼は諦めた。とりあえず明後日の炊き出しに向けて準備に取り掛かろう
カリムと手を繋いだヴィヴィオはミドラが小さくなるまでバイバイと手を振り続けた。カレー以外にも子供が喜びそうな料理を作るつもりなので孤児院の面々にも手伝ってもらう為に連絡をするのであった
機動六課の会議室は重苦しい空気に押しつぶされていた。机を挟んで美由希の対面には隊長のはやてが座りシグナムとシャマルが起立をしたまま背中を壁に預けている
「フェイトちゃんから全部聞かせてもらったよ」
「私の過去を含めてのことでええんやな?」
「正直なところ何が悪いのか分からない、はやてちゃんが"魔力を奪ってこい"と命令したわけじゃない」
「全て私が招いたことだ!もしあの時に―――」
犯してしまった罪を余すことなく背負うつもりだったがシグナムの言葉は遮られてしまう
「同じ立場だったらシグナムさんと似たことをしていたと思う。私も大好きな家族に明日をプレゼントして長生きしてもらいたいから」
はやてにとって共感は最悪の答えだった。罵倒を望み人格を否定し糾弾されたかった。目の前にいる女性の家族に重症を負わせた根源なのに、自分たちのことを理解してくれる
優しさは傷ついた心を癒す施しだが、真綿で首を絞めるように少しずつ苦しめていく凶器へ変貌する
「ミドラ君は家族を失って『死』を受け入れ続けちゃったことで壊れちゃった。でも…なのはを放置しないで助けたのは人としての心が残っていたからだと思う」
「それでもミドラは犯罪者なんや」
なのはを助け美由希を送り届けても彼は犯罪を稼業にして飯を食う輩でロストロギアを取り扱う危険人物である
「どの口が言うの?」
「………っ!」
「まだいるんでしょ?10年前の被害者たちが」
心臓を鷲掴みにされた感覚に陥り呼吸が荒くなる
「はやてちゃん、もしかしてだけど指摘されなかったら逃げ得だって思ってた?」
「言葉を謹んでくれ!主は…」
シグナムは前のめりになりながら強い口調で否定しようとするが彼女の心は違っていた。大きく表沙汰にならなければ時間と共に過去の出来事として風化し、人々の記憶から薄れることを心の片隅で望んでいた。しかし大手出版社から刊行された記事で闇の書事件に関する被害が大きく宣伝されてしまい自我を保つために『受け入れるつもりや』と口にする
「ねぇ…受け入れるって何をするの?」
「…それは」
「今のままだと汚い政治家と同じ道を歩むことになるけど、はやてちゃんの正義って何なの?」
「私の…私の、せいぎは」
言葉の続きを紡ぐことが出来ない、みんなと一緒に力を合わせて悪い犯罪者を退治して世の中を平和にする?そもそも今のミドラを生み出してしまったのは自分たちの過去の行いが原因だ
「(受け入れるってなんや?)」
簡単に述べているが明確なビジョンが浮かばない、だって何も考えないで口にした言葉なのだからハリボテで中身を伴わないスカスカの欠陥建築なのだ
「(そうや…まずは謝らんと始まらん)」
ー言っておくが謝罪は受け入れない、謝られたところで死者は戻ってこないし楽になりたいだけの自己満足に付き合うつもりはないー
ミドラの声が脳内で再生されてしまい、考えていたことが一気に霧散する
「わた…わた、しの正」
「正義の無い力は暴力と蹂躙だよ」
それ以降は地蔵のように固まってしまい質問に反応することが出来なかった。これ以上の話し合いに価値を見出すことが出来ないと察した美由希は席を立って会議室をあとにした
「主…」
「ははっ………わた、私の正義は―――」
「手伝ってくれシャマル」
「部屋で寝かせましょう。今のはやてちゃんには休息が必要だから」
家族を失った少年が自由に生き、家族を得た少女は過去のしがらみに囚われ苦しみ続ける。発端は同じ事件なのに現在地は限りなく遠い位置に存在する
そういえば原作アニメで美由希や恭也たちって、闇の書事件のことを知っていたのかな?この作品内では知らずに過ごしてきたというスタンスにしています
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る