ねだったのは玩具ではなくエプロンだった。包丁は握らせてもらえなかったけど母の隣に立つだけで自分も料理人の気分を味わうことができた。中身の無くなった大きなトマト缶の上に飛び乗って汚れた鍋やフライパンを洗うと褒めてくれる。その言葉が嬉しくて冷たい水で手が真っ赤なるまで頑張った
「悪いな突発の仕事を頼んで」
「問題無い子供たちの自活には必要なことだ、こっちも経験と報酬が得られるから万々歳だ」
ミドラが拠点にする廃棄区画の自宅では、今回振る舞う料理の仕込みを行うのは難しいので孤児院の厨房を借りて子供たちにも手伝ってもらった。代表が口にしたようにアルバイト代と称して相応の額を手渡している
「しかし年端もいかない女の子が、お前を捜すために教会を抜け出してくるとは」
「小さな冒険家に捕まるなんて本職を廃業しろってお告げかな」
「いっそのこと考えてみたらどうだ?嫌いじゃないだろ飯を作るのは」
その言葉に対して軽く笑って返したミドラは多くを語らずに頭を下げた。今回はあくまでヴィヴィオと結んだ契約を果たすために料理人として腕を振るったにすぎない
時計を見て仕込んだ料理を車の中へ乗せると、手伝ってくれた子供たちに対して礼の言葉を述べてカリムから指定された空き地に向けて出発した
「約束か…」
自身の本業において約束・契約は重要な取り決めである。今でこそ実績を積み重ねたことで依頼主とのトラブルは起きなくなったが、駆け出しの頃は報酬に関する口約束を『知らぬ存ぜぬ』で反故にされたこともある
失敗して多額の違約金を支払った。『悪食』のおかげで食べ物に困ることはなかったがレリックの価値を知らずにスープの材料として煮込んで食べた
出発前に代表が口にした提案とあの日の言葉が脳裏によぎる。2人は彼の身を案じて述べてくれたが心の奥底までに染み付いてしまった人生観を捨て去ることは出来ない
「ルーテシア?」
思案にふけっていると普段は通信をしてこない少女の名前がディスプレイに記載されていた。運転中なので画面をオフにして音声通信モードに切り替えて呼び出しに応じる
「どうした?ゼストのおっさんに何かあったのか?」
「違う…あのねドラゴンを捕まえた」
「そりゃ凄いな!見てみたいが今は運転中でゴメンな」
「ドラゴンの肝があればゼストは良くなるんだよね?」
2人でカレーうどんを食べたときに話したことを思い出した。あの時の『分かった』というのはルーテシアの目標が定まったことだった
「どうすればいいの?」
捕まえても調理方法が分からないからミドラに連絡をした
「夕方か夜じゃダメか?」
「咳き込む回数が増えて歩くのも辛そう」
もしかしたら今日が最期の別れになってしまうかもしれない、延命の手立てがあるのに何も出来ない無力感はとても虚しい
「今から伝える場所に着替えて来い」
「買ってもらったエプロンで良い?」
日常的に着用している召喚士の衣服では聖王教会の関係者にバレる可能性がある。変装して帽子を目深にすれば顔も隠れて向こうは孤児院から来た手伝いだと思い込むはずだ!ルーテシアのデバイスに教会が指定した空き地の場所を送ると通話は切られた
機動六課の隊舎で八神はやては責務に押しつぶされそうになっていた。昨日の夜に出動したライトニング分隊はレリックの確保に成功したが戦闘機人との争いで負傷してしまった
ガジェットを用いての連携戦闘の練度が高くて個人技に秀でているフェイトたちは苦戦を強いられた。エリオはキャロの護衛をしながら押し寄せてくるガジェットに歯が立たなくても機動力で翻弄していたが死角から現れたルーテシアのガリューに殴り飛ばされる
「エリオ君!」
彼が居なくなれば少女を護るのは相棒のフリードだけになる。残念ながら状況を覆すことは不可能でキャロも倒されてしまう
「はやてちゃん」
「リインか…どないしたん」
「ちゃんと休めてますか?クロノ隊長代理に任せて部屋で休んだ方が」
色濃く残った隈は化粧を施しても隠れることはなかった。疲れた顔で無理やり笑顔を作ろうとするが筋肉が笑い方を忘れてしまい引きつったまま歪な表情になってしまう
「大丈夫や、みんなが大変なのに私だけ休んでられへんって」
「顔を見てください!このままじゃ倒れてしまいます」
彼女は引き出しに仕舞ってあるコンパクトを取り出して見せつけるように顔へ向けた。そこに写るのは結成式のときに披露した凛々しい主ではなく、己の無力を痛感してしまった敗残兵の姿だった
「ほなら今日は午後になったら休むさかい、外でスバルたちの訓練を見ているクロノ君に通信を繋いでくれるか」
「了解しました」
自分の陳情を受け入れてくれたことで意気揚々と敬礼したリインはモニターを展開させるが『匿秘』と書かれたメールが届いていたので、彼女に知らせてクロノに休むことを伝えようとしたら倒れるような音がして振り向くと八神はやてが四つん這いになって口から胃液を吐き出していた
「はやてちゃん!」
「うぅぅ…ぐぅぅぅ、ゲェェェぅぅうううう」
「どうしたんですか!はやてちゃん」
『おい!リイン、何があった。はやてがどうしたんだ!』
呼び掛けても吐き出し続けるだけで答えてくれない、クロノとの通信は繋がったままで慌てた声で尋ねてくるが返答をする余裕なんて持ち合わせていなかった。しばらくすると彼から連絡を受けたシャマルが部屋に飛び込んできて担架で医務室へ運ばれた
「全員分あるから割り込んだりするなよ」
空き地では日が昇る前に設営されたテントの下で白米が盛られたプレートの上にミドラの作ったカレーが注がれる。付け合わせにはアジフライやフライドポテトが加わり口直しやナンのように余ったカレーにディップさせる
もも肉に白だし・醤油・みりんを混ぜて圧力鍋で煮込んだ料理は好評でプレートを空にした子供たちがお代わりを要求してくるが想定よりも多く、用意していた分が瞬く間に胃袋へ消えてしまった
「お姉さんって、おじさんの妹?」
「…違う」
変装したルーテシアに手伝ってもらったが露骨に嫌な顔をして配膳中も彼女の視線はミドラに向けられていた。端的に言えばゼストの料理に取り掛かってほしいが口には出さなかった
「さて、やるぞ」
「うん」
望んでいた言葉に彼女の心は躍った。籠から手のひらサイズの白い竜を取り出そうとするが中で暴れてしまいルーテシアの手を傷つける。このままでは埒が明かないので氷水を張ったドラム缶の中に籠を入れて動かなくなったことを確認すると板の上に置いた
「ミドラおじさん何をするの?」
物音を聞きつけてヴィヴィオが歩み寄ってきた
「ここにいる皆が生きるために必要な…『いただきます』に込められた願いかな」
「いただきますの願い?」
どうやら意味がまだ分からないみたいで顔を傾げている。気絶しているドラゴンを見て可愛いと口にしているが今から見せる光景は無垢な女の子には過激である
「さっき食べた肉や魚の命を引き継いで俺達は生きることが出来る。畑でお米や野菜を作ってくれる人や動物を育ててくれる人に『ありがとう』の言葉が『いただきます』なんだ」
「教会でいつもみんなで言ってるよ!」
「偉いな」
このまま講義を続けたいが別の機会にしよう。目覚めると暴れて逃げてしまうので包丁の峰で頭を叩いてから血抜きを始める
「向こうで遊んでていいぞ」
しかし少女は首を横に振って拒否の意志を示した。ミドラは念を押すように確認するがヴィヴィオの気持ちが変わることはなかった。そして彼は食材となるドラゴンに感謝の気持ちを心に秘め包丁で両翼を切り落とした
1話で彼がレリックのことを「不味いやつ」と言ったのは危険性ではなく、スープの具材として食べてしまったミドラの味の感想です。
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高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る