家族の誕生日を祝うとき母は特別な料理を作ってくれた。大病を患うことなく生きたことを感謝し新たな1年に向けて歩み始める。それは母の家系が長年にわたって受け継いできた歴史で彼が大きくなったら伝えるつもりだったが10年前を境に途絶えてしまった。継ぐことができなかったから自分は1人なんだと思うようになった
「主!」
連絡を受けて医務室に駆け込んだシグナムに対して冷たい視線が突き刺さる。自身の主が倒れたことに気が動転するのは分かるが寝静まった患者がいるのに大声を出すのはマナー違反だ
「すまない、いったい何があったのだ?」
謝罪の弁を述べるとシャマルに近づいて問い掛ける
「リインちゃんが言うには、いきなり苦しみだして嘔吐し始めたって」
「どういうことだ?」
すぐに食中毒を疑ったがすぐに候補から取り消した。もしそうだったとしたら隊舎にいる面々が同じ症状に陥るからだ
「今にも倒れそうな顔で…やすむことをす、すめて……それでクロノ隊長に連絡を」
「そうか、主の身を案じていたのだな」
失意の底にいるリインを落ち着かせると、クロノが六課の後見人を務めるリンディ・ハラオウンを伴って入室してきた
「多分だけど、はやてが倒れたのはこれが原因だ」
彼はパネルを操作して全員に見せつけた。それは彼女が倒れる前に受け取った『匿秘』と書かれたメールの中身で記されていたのは、調査部に依頼し10年前に起きてしまった闇の書事件における被害者の現状を調べてもらった内容だった
週刊誌で報道されたように守護騎士たちが生命を奪ったことはなかったが、蒐集が原因でミドラの両親のように二次被害で亡くなった人たちや日常生活に支障をきたす者が全体の42%を占めていた
「精神的に追い込まれていたところに許容量を超える現実を直視してしまった。今の僕たちに出来るのは休ませて薬で眠らせるだけだ」
「主は……」
「シグナム?」
「主は悪しき存在なのか?犯したのは守護騎士たる我々だ、大切な主に笑顔で明日を迎えてほしかった。何をすればいいのだ?教えてくれ……教えてくれ、クロノ」
自分たちのことを駒ではなく家族として迎え入れて暖かく接してくれた。これからも思い出を刻み続けるために優しい主と共に未来を歩むために
はやては何も悪くない、自分たちに蒐集の命令を下していない、だから罰せられるのは彼女ではなく我々なのに
「今は休ませることしか出来ない、僕たちが勝手に行動したら気を遣わせたことで余計に心を痛めてしまうと思う。君も含めて落ち着くことが先決だ」
抜本的なことを述べることが出来ずにクロノは己の無力を感じてしまう。また六課を取り巻く状況では八神はやてを医療機関に入院させることが難しい
今回のことが地上本部の耳に入ったら六課解散の口実を与えてしまう。シャマルとリインに看病を担当してもらい回復するのを待つことしか出来ない
「謹慎中のヴィータには知らせるな」
命令無視の襲撃で副隊長の権限を剥奪されデバイスも取り上げられた。はやてのことを1番心配する彼女だが伝えれば確実にろくでもないことが起こる。外部への情報流出を防ぐために緘口令を通達する
設計図に不備は無かったが築いた城が段々と傾いていく、土台が崩れ大黒柱に無数の白蟻がたかる。崩れ落ちるのは時間の問題だった
欲望にまみれ権力に固執する奴は判を押したように己の寿命に逆らおうとする。文献に『不老不死への到達』と記されたロストロギアも調べれば持ち主をゾンビにさせてしまうおぞましい代物だった。しかし『食』による延命は存在する。
傭兵時代に耳にしたのは稀少種の血肉は栄養価に優れ死を待つ者に幾許かの余命を与える。このことが大昔に流布されたことで乱獲され個体数を大幅に激減してしまった
「ドラゴンは翼が1番美味い」
両翼を切り落として片栗粉を塗すと熱した油の中に投入して軽く揚げた。見つめている2人に熱々の唐揚げを手渡す
「…うん、おいしい」
少女たちが夢中になって食べている間に皮を剥いで腹に包丁を入れる。慣れた手付きで必要な部位を切り落とすと残しておいたスパイスを使って下拵えを施していく
「タッパーと水筒を持ってこい!」
コクンと頷いたルーテシアは指示された容器を持ってくると、ドラゴンの肉をふんだん使った炒飯と肝を香草で包んで蒸して味付けしたスープを水筒に注いだ
「ありがとう」
「おっさんのところまで送っていくか?」
「大丈夫…それに片付けをしなきゃいけないよね。だから私が持っていく」
お礼の言葉を言い残してルーテシアは手提げバッグの中に料理を詰めて空き地から去っていった。背を向ける彼女にヴィヴィオが手を振りながら声を掛けると立ち止まって返してくれた。その顔は少しだけ笑っているように見えた
「俺のこと怖くないのか?」
「どうして?」
近くの水飲み場で使い終わった調理器具を洗いながらヴィヴィオに問い掛ける。他の子供たちは空き地で遊びながらエネルギーを発散させていた
「俺は遺跡で泥棒をしたり、管理局の奴等をぶっ飛ばす悪い人間だぞ」
「ミドラおじさんって悪い人なの」
「そうだ!ヴィヴィオぐらいの頃には色んなことをやってた」
何故この子は自分に近づくのか?傭兵稼業をしていたときは立ち寄った街で侮蔑的な視線を浴びせられ同年代の子供から差別されたこともあった
「う~~ん…でも、おじさんはヴィヴィオの契約を守ってくれたよ」
「結んだ契約を破っちゃうと俺が俺でいられなくなるんだ」
「それってどういうことなの?」
5歳ぐらいの子供にミドラの人生観を理解するのは難しい、頭の上に大量のクエスチョンマークを浮かべるヴィヴィオを見ながら蛇口を閉める
「だけどおじさんは悪い人じゃないと思う」
「どうしてだ?」
「だって料理でみんなを笑顔にする魔法が使えるのに悪いって変でしょ?」
年相応の意見に軽く笑みをこぼした。言い換えてしまえば悪い人が作る料理は不味くて食べられないということだ
「本日はありがとうございました」
「互いに知らぬ存ぜぬでお願いしますねカリムおばさん」
「もちろんです。ミドラおじさん」
車の中に道具を詰めるとカリムが近づいて今回のことについて礼を述べてくれた。多少引きつった顔をしているが彼女の心に悪意は存在しない
「今の道を歩き続けるのですか?」
「この生き方しか出来ないので」
「聖王教会のスタッフとして身を置いてみませんか?知己に古代ベルカの遺跡発掘を生業とする方々がいます。貴方の知識と経験で手助けをしていただけませんか」
戦闘力と盗掘業で磨かれたスキルを持ち合わせる存在を手放すのは痛い、カリムの立場なら彼の身分や経歴に関して詐称することも可能だ
「この生き方が性に合っているので辞退させてもらいます」
「そうですか…無理に引きとめてしまい申し訳ありません」
「また契約を結んでくれる?」
キラキラと目を輝かせてヴィヴィオが小指を差し出して近づいてくるが彼は手を出さなかった
「おじさん?」
「俺は宝物だから見つけることが出来たら約束してやる。でも危険だから今度はカリムおばさんに黙って抜け出すは駄目だから」
「うん!絶対に見つけるもん」
小さな冒険家の覚悟を聞いたミドラは車に乗り込んでキーを差し込む。シートに伝わるエンジンの振動を味わいながら窓から手を振って空き地から去っていくのであった
「ゼスト…大丈夫?」
ルーテシアは拠点にしているテントに戻ると切り株に腰掛けて目を閉じている彼に問い掛けた。声に反応してゆっくりと瞼を開けてゼストは顔を向ける
「どこに行っていた?遅かったからアギトも心配してたぞ」
「ミドラのところ、これを作ってもらった」
袋の中から彼が作った料理を取り出してゼストの目の前に置いた
「これは?」
「咳き込んで辛そうに見えて、だけど食べれば元気になるって教えてもらった」
「そうか…ミドラに礼を言わないとな」
優しい少女の施しに久しく流すことのなかった涙が頬を伝わる。まだ倒れる訳にはいかない!嘗ての友と再会を果たし問いただしたいこともあるがルーテシアの成長を目に焼き付ける義務がある
ゼストの心に薪がくべられ消えそうな火は再び燃えあがるのであった
機動六課がボロボロで倒壊寸前です。今の状態でナンバーズたちに襲われたらリミッター解除しても勝つのは不可能ですね
感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます
高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る