「何故だ!どうして奴は現れない」
クロノは机を強く叩いて怒りを露にした。情報屋を捕らえて罪を軽減させる代わりにミドラへ情報を流し、現れたところをフェイトたちで捕縛する作戦だが渦中の人物が姿を現すことがなかった。管理外世界へ出張っているので必要以上に金が掛かる
「クロノ提督落ち着いてください」
「分かってる。だがこのままでは」
遺跡の周辺で待機している武装局員は座っているだけで、給料の他に出張手当や特別金が加算されるので何も起きないまま時間が過ぎ去るのを待ち望んでいる。当然成果をあげることが出来なければ矢面に立つのは今回の作戦を主導したクロノになる
彼の華々しい戦歴を妬む層へ餌を与えることになるので『なんの成果も得られませんでした!』は避けたいのだが獲物であるミドラが餌に食いついてくれないのだ
「前回のことで警戒心を強めたのかもしれないな、もしくは管理局に奴の仲間がいて我々の情報を流している可能性も考えられる」
交代部隊と入れ替わり、現場から引き揚げたシグナムが奥から現れ騎士甲冑を解除し管理局のスーツ姿に戻った
「身内を疑いたくないが、この様子だと否定が出来ない」
厄介なのはいつまで滞在するのか?ミドラが現れるまで待ち続けたいのが本音だが何日も待てるほど余裕は無い、シグナムを借りていられるのにも制限があるし執務官であるフェイトにも別件の仕事が溜まっている。根比べになれば組織というのは足枷になってしまうのだ
今こうしている間にも湯水のように金が消えていく、早く見切りをつけて撤退すれば傷は浅くて済むが帰還後に笑われ者になるのは避けたいのは若さ故のプライドが心を支配している
「どうするのクロノ?」
「あと2日だけ待ってみよう。それで現れなければ管理局へ帰還する」
現場で見張る局員たちへ通達すると彼は深く息を吐いて目を閉じた。任務続きで自宅に帰ることが出来ずに奥さんや双子たちと接する時間が少なくてストレスが溜まる。八神はやてが設立する機動六課の後継人として政府関係者との会談もあるので休むことが出来ず、最近は枕に残る抜け毛の量が多く感じるのであった
「機動六課?」
『夜天の主が隊長を務めるスペシャルチームだ!どうやらレリック問題専門部隊という位置付けみたいだが、それは表向きに過ぎない』
「そんなことを俺に教えてどうするつもりだ?」
プライベート端末に変態博士からの通信が入ってきたのは今から30分前のことで上記のことを伝えてきた。隊長を務める八神はやての守護騎士たちは10年前に家族を襲った加害者だが直接的に命を奪った訳ではない
『ただの世間話さ、本題なのだが君の血液を抜き取らせてくれないか?今後産まれてくる娘たちにとって必要なんだ』
「いくら出す?」
『君の言い値を出そう。なにせ貴重な血液だからね』
彼の持つ『悪食』と『グルメ』を用いれば毒に対する抗体を作ることが可能になる。製造方法は簡単で特定の毒を持つ蛇やサソリを食べて血液を抜くだけで終わってしまう。傭兵団に所属していた時もこれで血清を作って部隊の壊滅を防いだことがある
この力は医療機関に身を置けば莫大な財産を築くことが出来るが待ち構えているのはモルモット扱いである。外の空気を吸えないまま生涯を終えるのはまっぴら御免だ
「ついでに機動六課に関する資料や関係者についての情報も提供してくれないか?いくつか気になることがある」
『構わないがどうするつもりだ?ついに復讐する気にでもなったのか』
「興味本位の暇潰しだな、本業の方で出くわすこともあるだろうし商売の邪魔になる奴等のことを調べるのは当然だろ?」
『至極ご尤もなことだ…ドゥーエに頼んで取り寄せよう。オマケで偽造パスも用意しようじゃないか必要なんだろ?』
「気前がいいな!感謝する」
傭兵時代から続くビジネスだけの付き合いだが話の分かる変態である。通信を切ると小腹空いたので冷蔵庫を開けたらスッカラカンだったので着の身着のまま買い出しへ向かうことにした
華やかで先進都市のように見えるミッドチルダだがそれは陽の当たる場所に限ったことで、鼻を摘み目を背きたくなる陰も存在する。廃棄区画には戸籍の存在しない子供や罪を犯して逃げ込んだ輩もいる。中には自分のことを管理局のエリート魔導師と豪語する奴もいるがただのヤク中のBBAだ
「久しいなミドラ」
「まだ生きてたかゼストのおっさん」
買い物を終えると向かい側の道から知った顔が現れたので、彼を伴って地下に店舗を構える喫茶店の個室に入り互いにコーヒーを注文した
「ルーテシアはどうした?」
「俺の拠点で寝ている。昨日は遅くまで奴の頼まれごとで起きていたからな、アギトが護衛についているから大丈夫なはずた」
「そうか」
かつて世間に名の知れた魔導士でストライカー級の腕前を持っていた彼は、とある任務中に殉職し命を落としてしまったが素養を持ち合わせていたので人造魔導師として復活を果たす。しかし不完全な状態であり常に時限爆弾を背負った状態で生きているのだ
「ミドラ…いつまでこんな暮らしを続けるのだ?俺の古いツテを使えば正道を歩むことも不可能なことでは」
「勝手に今の生き方を邪道にするな!流れに沿って受け入れているだけだ」
「長生きは出来ないぞ」
「遅かれ早かれ人はいつか死ぬ、目の前で親が食われていくのを見て世の摂理を受け入れた。なら悔いなく日々の人生を全うするつもりだ」
10年前の出来事をトラウマにするつもりはない、復讐心に駆られて憎むことに心血を注ぐよりも飯を食って歩いていくだけだ!守護騎士たちに襲われていなければ今とは違った人生を迎えていたと思うがタラレバでしかない
「そうか、口出しをしてすまなかった」
「仲間から気味が悪いって言われたけどな」
コーヒーのお代わりと茹でウインナーの盛り合わせを注文すると、ゼストは神妙な表情となって彼のことを見つめる
「俺にもしものことがあったらルーテシアたちのことを頼みたい」
「弱気になるなよ、あいつが成長して大人になった姿を目に焼き付けようってぐらい気概を見せろって!気合で寿命が延びることもあるぞ」
「アギトにも同じことを言われた。俺も保護者として1日でも長く付き添っていきたいが死神の鎌がここを狙っている」
彼は自身の首に指を向けて斬られるモーションを披露する
「とりあえず請け負ってやるよ!そうだ…これを持っていきな」
脇に置いていた紙袋の中から『チョコポット』と呼ばれるお菓子を取り出してゼストに渡した。専門店に訪れたときに客はミドラしかいなかったので店内に陳列されていたチョコを全て買占めていたのだ!彼と入れ替わりで入った青髪の女の子は悲鳴をあげていたが金の力と早い者勝ちである
「いいのか?」
「野生児みたいな生活だと甘いものが恋しいだろ?夜中に金を貸してくれって言われるよりマシなんだよ」
2人の資産を管理するアギトは『炎熱』と呼ばれる魔力変換資質を保有しているのだが、それで財布やカードを誤って燃やしてしまいルーテシアとゼストが寝静まった深夜12時に涙声で通信を入れてきた
本人は未だにバレていないと思っているが翌日にゼストから連絡があり謝罪を受けたが金は預けたままにしている。アギトが「絶対に返す!」と言ったのだから彼女の意志を尊重することにした
「恩にきる」
懐に『チョコポット』を仕舞ったゼストは立ち上がりレシートを持って行こうとするがミドラの手が早かった。再び頭を下げた彼を見送り運ばれてきた茹でウインナーを食べながら晩御飯の献立を思案するのであった
結局のところミドラの捕獲に動いていたクロノたちは、リミットから更に1日延長して待機していたのだが空振りで終わってしまった。成果を上げられず手ぶらで管理局へ帰還すると口の悪い連中から『経費で行くバカンスは楽しかったですか?』と言われる始末でクロノの血圧は天井知らずで上がりっぱなしの日々が続いた
原作アニメだとゼストたちはスカ博士との縁を切りたいスタンスだったけど、3人(ゼスト・ルーテシア・アギト)の生活費ってどうやって賄っていたんだろうか?ゼストの個人資産も殉職したときに凍結されていそうだし、スカさんに頼らないといけないですよね?
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