かつての友と邂逅を果たしたレジアスは風呂上がりにミドラから渡された新聞に目を通した。昨今はデジタル配信が主流なのにわざわざ紙媒体を用いてきたことに違和感を抱いていた
「(知らない社名だな)」
実務を行う前のルーティンとして各新聞社の記事に目を通している。政治家や閣僚の発言や新法についての討論などについて確認し、必要であればメモ帳に残していくのが日課であるレジアスはアングラ誌の名前も記憶に残しているが手元にあるのは知らない刊名だ
古代遺物管理部機動六課部隊長である八神はやて二等陸佐が命を投げ出す行為をしていたことが判明した。同氏は民間人に保護され現在はクラナガン総合病院の特別個室にて厳重な警備のもと治療を続けている。機動六課は本件を隠しクロノ・ハラオウンを部隊長代行として指揮を行う目論見だが、本来は八神はやての実務能力を推し量る名目で結成された試験部隊であり当人が現場に立てないのであれば解散するのが通例である―――
「なんだこれは!」
書かれている文面を何度も読み直した。最初は新聞を渡したミドラの悪戯だと思ってゴミ箱に投げ捨てようとするが去り際に発した『これからの仕事に期待している』という内容が棘のように引っ掛かる。あの時は再会したゼストとの約束に恥じぬ生き方という意味で捉えていたが、もしかしたら本線はこちらなのかもしれない
「(オーリスはまだ起きているか?)」
地上本部の仮眠室が根城になっている娘に通信を繋ぐと彼女はリカバリーウェアを着ていた。彼はゼストたちとの邂逅を伏せ、ミドラのもたらした情報を調査部に伝えることを依頼した
『いったいどこから?』
「詮索はあと回しで頼む、裏が取れれば風向きを味方にすることができる」
『風向き…ですか』
抽象的な言い回しだが現行のパワーバランスを覆すことが可能になる。八神はやてを切り崩すことが出来れば背後で支援している権力者の勢いを削ぐことや古狸たちを一掃することも夢ではない
「これは時間との勝負になる。確認が取れたら査察を行う」
『抜き打ちで?』
その言葉にレジアスは頷いた。そもそも事前に日時を指定して査察するのが変だと常々思っていた。廊下に埃すら存在せず皺の無い隊服を綺麗に着用する姿のどこが『日常』なのか?普段の行動を調べるための査察なのに子供の参観会へ出席する母親のように気合を入れてしまっては意味のないことである
「全ての責任は儂が負う!費用にも糸目をつけるな」
『…っ!了解しました』
通信を切った彼はナイトキャップを外して急いで自室へ足を運び査察に必要な書類を制作し己のサインと判子を押して蜜蠟で封じた。旧友との再会に浸る余韻はいつでも出来る。彼が生きているうちに自分の生き様を貫き通し、誓った夢を叶えるために戦う顔へと変貌していく
「今から八神はやて二等陸佐と面会させてもらいます」
「待ってくれ!これは…」
「越権行為とでも言いたいのですか?クロノ・ハラオウン元提督」
前日に鼻薬を嗅がせて病院で裏取りを済ませている。彼女が隊舎内に居ないことは明白でオーリスはクロノからの返答を待った。彼が次に発する言葉の内容次第で六課の未来が定まってしまう
「求める結果を残すことのできない組織に予算を振りまくとは、それがあれば地上の治安維持や犯罪の防止へ注ぐことが可能でしたのに」
「短期ではなく長い目で見定めることも重要じゃないのか?何事も段階を踏んで―――」
「御託や言い訳は結構です。通させていただきます」
査察の令状を取り出しクロノに突きつける。他の隊員たちも監査官から質問を受けていて対応に四苦八苦していた。普段の業務内容や日報の書き方など細かい点まで指摘している
「八神はやて陸佐は何処へ?」
「…体調が優れないので医療機関の方へ―――」
彼女の部屋がもぬけの殻であることを指摘されクロノは苦し紛れの言い訳を口にする。10年前は執務官として大人相手に渡り合っていたが艦長の椅子は培ってきた腹芸の腕を錆びさせてしまっていた
「部屋で休んでいると言いませんでしたか?」
「それは言葉の綾で、行く行かない選択に関しては彼女の判断に任せていまして」
「日々の体調管理も管理局に勤める役職者にとって重要なことであると認識されてますか?特に貴方の場合は身近に高町なのは一等空尉がいましたよね?」
真綿で首を絞めるように段々と気道を塞いでいく、こちらが発する言葉に対して淡々とカウンターを的確に当ててくるやり方にクロノの心臓は平静を保つことを許してくれない
「管理局の理念に反し、真実を捻じ曲げたり虚偽の発言をした場合どうなるかご存知で?」
「分かっています」
正直なところ戦力拡充の為に闇に葬ってきたことが両手では数え切れないほどある。そもそも闇の書事件でも報告書を捏造し『英雄』と謳われたギル・グレアムを守った経緯などを含め、表に出せない話が彼の腹の中で蠢いている。もし仮眠中に寝言で口にしてしまったらと思うと恐ろしいことが起きてしまう
毅然とした態度で凛々しい顔の裏側には家族へ打ち明けることのできない不安を抱え、心が摩耗し神経が擦り減りストレスを吐き出すことのできない管理職の悲哀で満ちていた
「過剰なまでの錠剤カフェインに睡眠導入剤の袋が見受けられますが、睡眠外来等への訪問歴について尋ねてもよろしいですか?」
ゴミ箱の中身を確認しながら問いかけてくる。胃の激痛に耐えながら頭に思い浮かぶ語群をチョイスし口を動かそうとするが緊張で口内が乾いてしまい言葉を発することができない
「言えないということは黙秘として受け取らせていただきます」
沈黙は金・雄弁は銀というが選択肢はどちらもバッドエンドでありセーブポイントなんて存在しない、前に進むことしか許されない人生という名のゲームの電源ボタンを消してしまいたい、もしセーブポイントから再開できるのであれば父であるクライド・ハラオウンが健在だった頃に戻りたいと願うクロノであった
時を同じくしてミッドチルダ西部のエルセア地方の霊園でゼストは一人で手を合わせていた。墓標に刻まれている名前は『クイント・ナカジマ』で自身の部下であった
「遅れてしまって、すまない」
閉じていた瞼を開け墓前に花を手向ける。生前に語ってくれた彼女の好きな品種でプロポーズのときに大きな花束として夫から差し出された思い出の詰まった花なのだ
「ゲンヤから聞いていると思うが、娘たちは後を継いで管理局で頑張っているみたいだ!上の子はお前に似てきたと感じる」
クイントの娘であるギンガとスバルは彼女と血の繋がりは無い、親子でいられた時間は短かったが限りなく愛情を注いで向き合い続けた
「俺ももうすぐ…いや、お前と違って俺は地獄に向かうだろう」
話したいことが山のようにあるのに言葉に詰まってしまう。最後の作戦で亡くなった部下はたくさんいる。体が動くうちに出来る限り手を合わせるつもりである
「もし次に訪れることが許されるのであればメガーヌの娘も連れてくる。あの時は幼児だったが今では年相応に成長したと思う」
一礼して墓を背にして歩き出したゼストは目の前からやってくる男に視線を向けると会釈をするように軽く頭を下げて霊園から去っていった
「…今のは?まさか、いやそんははずは!」
花束を抱えたゲンヤ・ナカジマはすれ違った相手のことを思い出そうするが妻の上司は同じ任務中に亡くなったと伝えられた。頭を振って意識を切り替え墓標へ向かうが手向けられた花を見たことで疑念が更に深まるのであった
機動六課が崩壊していきます。土台が崩れればあとは坂を転げ落ちるだけでしょう
感想ありがとうございます(おまちしてます)
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誤字訂正もありがとうございます
高町美由希の戦闘力は?
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ナンバーズに勝てる
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ギリギリ善戦出来る