孤独とグルメ   作:大気圏突破

36 / 39
滅食

「ねぇ知ってる?ここって昔は管理局のエースが集まった隊舎があったんだって」

 

「マジ!それって都市伝説じゃないの?」

 

 まだ成人を迎える前の女の子たちは自分たちが踏んでいる地面を見ながら周囲に視線を向けている。真ん中の噴水では子供たちが水浴びを楽しみママ友たちが夫の愚痴を肴に談笑していた。少し離れた砂場では建築した城の周辺に水路を作ってバケツから水を注入したが勢いよく流し込んでしまったので全部が崩れてしまい1から作り直し始めた

 

 

「お婆ちゃんが言うには化物に襲われたって」

 

「なにそれ?三流コメディ映画でも使わない設定じゃん」

 

 

 馬鹿げたことを口にする友人を笑いながら2人は機動六課跡地から離れ第97管理外世界から進出してきた大型ショッピングセンターに向けて歩いていくのを車椅子に座った老婆が見つめる

 

「ここにいましたか」

 

「今日は全てが終わった日ですから、私だけでも―――」

 

 

 ミッドチルダで彼女たちのことを覚えているのは自分だけになった。聖王教会の代表を後進に譲り隠居生活を送るカリム・グラシアは目を閉じると崩壊の始まった日のことを記憶の中にある日記帳から呼び起こすのであった

 

 

 

 

 

「チェーンバインド!」

 

 複数に展開された魔方陣からおびただしい量の鎖が飛び出し彼のことを拘束する。身動きのとれないミドラに向けてヴィータとエリオがカードリッジを全て使い切って突撃し自身の武器を用いて殴り続ける。訓練して会得した技などではなく原始人が棍棒を振り回す単純な暴力の嵐だ

 

 

「……………」

 

 無言のまま受け続けるのを見て隊員たちは少しだけ安堵する。これまで自分たちを苦しめ続けた存在のミドラだが、思い返せば彼は誰よりも硬い防御力を有しているが攻め手に関して優れているとは感じなかった。このまま奴の体力が尽きるまで波状攻撃を繰り返し拘束すれば…

 

 

 

「ちっせぇえな」

 

ーゴォゥゥゥゥン!ー

 

「…っえ?」

 

 風が吹いた。室内なのに体が地面から離れるような突風が襲い隊員たちは壁に激突した。一瞬の出来事に困惑するが視線の先にいるミドラは殆ど無傷で自分たちのことを冷酷な瞳で見下している

 

 

「っんだと何をしやがった!」

 

 ヴィータはアイゼンを足元に叩きつけた反動で飛びかかる。彼女を援護するようにクロノが再びバインドで絞め上げようとするが同じ手は通用しなかった

 

 

 彼の足元に転がっていたエリオのストラーダをつま先で掬いあげると小さいモーションで投擲し彼の腹に突き刺さる。段々と伝わってくる痛みと床に落ちる血を見て、ようやく自分が攻撃されたことに気付いたクロノは絶叫してしまい更に出血量を増やしてしまう

 

 

「そういえばまだ貰ってなかったよな立て替えた入院費」

 

「ふざけんな!」

 

 猪のように突進してきたヴィータを避けると伸びきった右腕に上から手刀を降ろす。切断面から筋線維や骨が見え鮮血が叫び声と共に室内へ飛び散り隊員たちに降りかかった

 

 

 

「待ってくれミドラ」

 

 頭に包帯を巻いたシグナムが無手のまま彼の前に立った。自分が敵意を持たないことを示すために待機状態のレヴァンティンを遠くに投げ捨て向き直る

 

 

「ヴィータやエリオたちのやった責は私が全て受ける。もうこれ以上お前たちに関わることはしない!だから頼む退いてくれ」

 

 懇願する彼女に彼は歩みを止めるつもりはなかった。彼の価値観では罪とは犯した者が背負う咎であり別人が肩代わりをするものではない

 

 

「そうやって騙してきたのか?」

 

「………っ?」

 

 ミドラは後方に親指を向けると遠くからフェイトがデバイスを構えて集中し攻撃を放つ体勢になっていた。彼は飛来してくる魔力弾に対して自身のオーラを放出し全てを霧散させてしまう。舌打ちをしたフェイトは目にも止まらぬ速さで接近しバルディッシュを振り下ろす

 

 

「俺達に仕掛けた意味を理解しているよな紛い物!」

 

 片手で攻撃を受け止めると握力だけでデバイスを破壊し人格を持つコアの部分を強引に千切って食べやすいサイズまで圧縮すると煎餅を齧るように噛み砕く、しかし彼女は何度も経験したその癖を狙って涙を零しながら別れの言葉を口にする

 

 

ボフッ!

 

 

 それは長年連れ添った相棒の自爆コードだった。戦闘前に提案されたときは否定したが自分よりバルディッシュの方が覚悟を持っていて意志を尊重した

 

 

「やったのか?」

 

「……ごめんね。ありがとう」

 

 外側からではなく内側から破壊すれば自分たちを苦しめた化物を退治出来る。彼を覆っていた煙が段々と晴れていくのを見て緊張の糸が解かれていく、多少の犠牲こそあったが終わることを実感するが

 

 

 

「これでしばらく煙草はいらないな」

 

 化物は立っていた。鼻から息を吸い込むと口を開けて体内に充満していた煙を吐き出した。傷どころか歯の1本も欠けておらず手に持っていた残骸の持ち手を投げ棄てた

 

 

「あぁ……っ、あぁ……」

 

 その光景にスバルとティアナは呆然と立ち尽くし戦意を喪失してしまった。目の前で起きていることに頭の処理が追いつかずスバルは棒立ちまま現実から逃避する。憧れの存在を破壊しベッドの上から動けなくさせた仇がやってきたのに体が動いてくれない

 

 

「お前たちがスカリエッティの言ってたタイプゼロか、あいつとクアットロは興味津々だったけど今日は見逃してやるよ」

 

 あくまで今は見逃すだけで仕掛けてくるのであれば容赦はしない、惨状を見ていたスバル・ギンガ・ティアナは自分たちが助かることに安堵すると緊張の糸が解れ意識を手放した

 

 

 

 

 これはもう戦闘ではなく蹂躙劇であった。副官であるグリフィスは他課へ応援を要請しようと連絡を試みるが雑音だらけで通信が届かないことに絶句する。彼は自身の率いる交代部隊を伴ってミドラに攻撃を与えていくが、ガジェット以下の戦闘力しか持たない連中の魔力弾で無力化させるのは不可能であり被害者を増やすだけの愚行を犯してしまった

 

 

 

「…遅い」

 

 ガラス片を持って斬りつけてきたフェイトを腹パンすると彼女は口から吐しゃ物を撒き散らして沈みそうになるが鬼のような形相で再び攻めてくる。拳を打ち込む度に砕けた骨の激痛が全身を駆け巡り苦悶の表情を浮かべるが攻撃の手を緩めない

 

ー履いていたヒールを叩きつけるー

ー落ちていたコップを投げつけたー

ー脱いだ上着を使って首を絞めるー

ー嚙み千切ろうとして歯を立てたー

ー頭突きで自身の骨が砕け落ちるー

ー溢れ流れてくる血を吹っ掛けるー

ー唾を吐いて纏っている服を汚すー

 

 

 全てが無意味だった。なんでこんなにも頑張るのか分からない、倒れてしまえば楽になるのに何度も自身を鼓舞し立ち上がる

 

 

「…っしが、わた、……しが」

 

 もはや目の焦点が定まっていなかった。幽鬼のように迫り血だらけの拳で殴ってくるが威力なんて殆どなかった

 

「わたしが、まもっ―――」

 

「もういい今は眠れ」

 

 彼女の頭部を持ってカクテルを作るようにシェイクするとフェイトの意識は途絶え膝から崩れ落ちた。立ち向かってきた勇気に免じて追撃を与えることなくテーブルの上に寝かせようとするが彼女は壊れたような声を発しながらミドラにしがみついてきたが力は残されていなかった

 

 

 

「(因縁かな)」

 

 思えば遺跡で本業に勤しんでいるときに出会ってから今までと違った人生を歩むようになった。ある意味フェイトが彼の分岐点を変更したのかもしれない、動かなくなった彼女を寝かせると立っているのは自分だけだった

 

「まだ見つからないのか?」

 

 ここにきて存分に暴れているが代表から攫われた子供を保護した一報を受けていない、もしかしたら広い隊舎で迷子になってしまったのでは?と不安になる。彼も捜索に乗り出そうとしたら

 

 

 

「…ひっ!いぃぃぐっうぅぅ」

 

 これまで姿を隠していたキャロが攫った子供を連れて来て首元にハサミを突き付けていた。既に先端は皮膚に刺さって肌に血の流れが滴り落ちている

 

 

「フリードの……ヴォルテールの」

 

「食われたドラゴンの怨みか」

 

「喋るな!」

 

 人質がいる限り自分たちが優位である。彼女はミドラに土下座することを強要すると彼は躊躇なく額を床に擦り付けたが顔は笑っていた

 

 

ズォビッ!

 

 

 彼の遥か後方から放たれたレーザー状の魔力砲はキャロの手元を精確に射抜いてハサミを落下させた。その瞬間に人質だった子供はミドラの胸に飛び込み、取り戻そうと駆けてきたキャロをサッカーボールキックで蹴り飛ばした

 

 

「どこをほっつき歩いていやがった」

 

「部屋にGPSの腕輪があって悪用されちまった」

 

 

 視線を向けると子供の腕に巻かれているバンドが無くなっていた。キャロは別に出し抜くために外したのではなく人質が大事そうに持っていたことに腹を立てて千切ったのだ

 

 

「しかし派手にやったな」

 

「これぐらいやれば懲りるだろう。帰ろうか」

 

 そう問いかけると代表は尻餅をついて動けなくなってしまった。元々無理をしてここまで来たので火事場の馬鹿力で無理やり意識を保っていたのだ!ミドラは手持ちのロストロギアを起動しあることを施すと彼を背負って残骸と化した機動六課から去っていった

 

 

 

 

 

 

「これからが大変だな」

 

「あぁ…そうだな、色々と直さなきゃならねえ」

 

 満月が浮かびあがり代表を背負ったミドラは隣で歩く子供と同じペースで孤児院へ向かう。ゼストに連絡したところルーテシアとアギトも手伝ってくれているみたいだ

 

 

「金のことを心配するな、ちょっくら頑張ってくるから」

 

「あぁ…きたい、してるぜ」

 

 疲れているのか段々と意識が虚ろになり応答が雑になっている。待っている奴等がこれを見たら驚くと思うが仕方がない

 

 

「憶えているか?おお…むかしに敵の姫さんを連れ出して逃避行を―――」

 

「懐かしいな、まさかあの女の子が仲間になるなんて」

 

「いま、なに…をして、いるんだろうか」

 

「会いにいけばいいだろ、留守番は俺やセインに―――」

 

 過去の出来事に花を咲かせながら笑みがこぼれる。色んなことを経験して成功の数だけ多くの失敗をしてきた。仲間意識の強い家族みたいな組織だったから様々な思い出が蘇ってくる

 

 

「楽しかったぜ、お前が来てからまい…毎日がお祭りの、ようで暇なんてなく」

 

「どうした?何を改まって?」

 

「さいごの…頼み………を」

 

 

 悟ってしまった。いつ以来だろうか?涙を流すミドラを見て子供は質問を投げかけるが応えることはしなかった。1人の命が尽き夜空には流れ星が横切るのであった




機動六課壊滅になりました。なお六課の面々は全員生存していますが誰かが欠けています
それがケジメになりますので次話を待ってください


感想ありがとうございます(おまちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます

高町美由希の戦闘力は?

  • ナンバーズに勝てる
  • ギリギリ善戦出来る
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。