機動六課の医務室でシャマルはモニターに写る検査結果を見て神妙な顔つきとなって重くて深い息を吐いた。そこに記載されているのは六課のスターズ分隊で隊長を務める高町なのはに対して行われた精密検査の結果であった
「(私が守らないといけないわ!)」
概ね健康的な数値が並んでいるが最大魔力値の項目が昨年よりも6%低下していた。彼女は11歳の頃に任務で瀕死の重傷を負ってしまい歩行することも困難に陥っていたが治療と半年間に及ぶ辛いリハビリを耐えて復活した
「医師としては現場から退き内勤することを奨めます」
「そんなに危険なんですか?なのはちゃんは」
シャマルの問い掛けに検査を担当した医師はモニターに硝子で出来たグラスを映し出した
「中身の水を魔力、グラスをリンカーコアの外膜だと仮定してください」
エンターキーで映像を進めるとグラスがハンマーで砕かれて破片が周囲に飛び散ったところで一時停止となった
「これは空尉が医療機関に運ばれた時の状態です。ここから半年で復活したのは奇跡としか言えません」
「それだけ頑張ったんだから」
そして止まっていた映像が動き出す。散らばった破片が箒で集められ形を選別し接着剤を塗って1つずつ組み上げて元の形へ戻っていくと水が注がれたが隙間から小さく漏れ出していた
「まだ隙間は小さいですが、現場に立って飛び続ければ穴は広がり再びグラスは砕け散ります」
「そんな…」
「云わば時限爆弾というべきでしょうか、今回の詳細は無論本人にも伝えましたが」
なのはにも診断結果は伝えたが、彼女の決心が揺らぐことはなく友達の為に機動六課へ配属されることになった
「もし8年前のことが再発したら?」
「症例が少なくて断言することは出来ません。ただ分かるのは前回より悪化は免れないでしょう」
自身の主である八神はやてが4年の歳月を経て編成した機動六課の目的を知るシャマルは天秤の中央で揺れ動いていた。主の臣下としての気持ちとメンバーの健康を預かる医師としての気持ちである
「シャマル先生…高町空尉はまだ19歳の女の子です。趣味を楽しんで恋に焦がれて様々な人生を歩んでいくことが出来ます。それを守れるのは私たちなんです」
「そうですよね」
「本人に言ってもワガママな聞かん坊なので条件を提示しておきました」
「条件ですか?」
女性医師は部屋の隅に置かれている段ボールから検査キッドを取り出してシャマルに手渡した
「時空管理局と聖王医療院で製作した簡易検査キッドです。2週間に1回でいいのでシャマル先生が立ち会って高町空尉のことを検査してください。もし魔力値数字に異常が見られれば即入院の書状は取り付けてあります」
「ありがとうございます」
「あの噂が本当なら縋ってみたいものです」
「何の噂ですか?」
問い掛けられた彼女は冷めてしまったココアを含んで口内を潤すと、数年前に医学シンポジウムで耳にした噂話を語ってくれた
とある管理外世界で人口の8割が感染する風土病が発生した。死ぬことはなかったが衰弱と酷い倦怠感が続く症状を治す手立てが無かった。しかしとある漁村では病に陥った者が存在せず全員が健康のまま日々を暮らしていたのだ!話を聞くと『村に訪れた傭兵団が提供してくれた薬を注射したからだ』と答えてくれた
「漁村にいた住民の血液から薬を作って風土病は解決した」
「傭兵団に医学のスペシャリストがいたからでは?」
「確かにそうなんだけど…その風土病なんだけど管理局がお手上げしてしまったんだ!予防薬や特効薬なんて存在しない、この意味が分かりますよねシャマル先生?」
それは自分たちより高度な知識や設備を有しているということで、その傭兵団たちと接触することが出来れば現代医療を加速的に飛躍させることが出来る。上手くいけば彼女のリンカーコアを完全に修復することも夢ではない
「捜すのが難しいですね。手掛かりなんてありませんから」
「でも治せる希望が1つ見つかっただけでも前進だと思います。私の方でもっと情報を集めてみます」
そうは言ったが情報なんて全く集まらなかった。漁村について調べようとしても既に廃村となり目撃者すら見つかっていない状態だ!試しに掲示板で探ってみても眉唾なスレッドしか存在しない
「(これは!)」
シャマルはすぐに掲示板を閉じて業務日報を取り出し、サブ画面で新人たちの教導に参加している彼女を見守ることしか出来なかった
「君が持ってくる品はどれも最高だよ!」
「気に入っていただき誠にありがとうございます」
「オマケをつけてくれたが、どういった意味かな?」
本業を終えたミドラは依頼主のところへ訪れ戦利品を並べていた。どれも個人所有で禁じられているロストロギアばかりで総額はアタッシュケース1つでは収まらない金額になっている
「今後のお付き合いもありますが、個人的なお願いを果たしてほしいと思いまして」
「聞くだけなら」
「話すだけなら」
彼のお願いは機動六課の行動を咎める楔を打ち込んでほしいのだ!今のままでは盗掘業を生業とするミドラにとって動きにくく商売が立ち行かなくなる
「管理局の重鎮に顔は利く方だが難しいな、八神はやての部隊は伝説の三提督が非公式に関わっていると聞いたが」
「こちらも裏取りをしました。アイドルたちを運用するスペシャルチームに局内のファンたちも支援の手を差し伸べています」
「焚き火程度では見向きもせずに…いや、手はあるな」
「どんな方法が?」
腕を組んでいた男性は顎に手を当てて脳内のパズルを1つずつ組み合わせていく
「10年前に起きた闇の書事件についてご存知かな?」
「概ねのことは」
蒐集の被害者なので当然知っている
「地球と言ったかな?事件は解決し、主と守護騎士たちは保護観察となって管理局入りしたことで幕引きとなったが、事件そのものはまだ続いている」
「被害者への救済ですか」
ミドラの言葉に男性は大きく頷いた。守護騎士たちが主のために行った蒐集が原因で健康を大きく損ない日常生活が困難となった被害者が一定数存在する
しかし管理局側が被害者の声を謀殺し事件の風化を図ろうとしている。今は小規模ながら団体が発足し弁護士を立てて訴訟を起こす準備をしている様子だ
「自分たちは日々苦しんでいるのに、なんでアイツ等は笑っていられるんだ!」
「ひとつ問答だが『罪』とはなんだ?」
急に問い掛けられ困惑してしまう。ミドラは少し黙って目を閉じて『罪』の存在について考えだした
「難しく考える必要はない!思ったことを言ってみなさい」
「背負い続けるもの…罪を犯してムショで刑期を全うしても償いではない、あくまでそれは刑罰にすぎない」
「赦されることなく心臓が止まる直前まで頭を下げなければならない、白い歯を見せる余裕なんて必要ない」
葉巻に火を点けて煙をくゆらせる。しばらく沈黙が続くと男性は1枚の名刺を取り出してミドラに見せつけた
「懇意にしているところの記者に記事を書いてもらおう。当事者たちの声を世間に伝えることが出来れば君の望む楔を打ち込むことも可能だろう」
「ありがとうございます」
「君がドンドン活躍すれば私の評価もうなぎ上りだ!期待しているよミドラ君」
屋敷を出た彼は自身のアジトに戻り今後の計画について練りだした。記事が発表されれば世間の注目は八神はやての過去に焦点が当てられる。変態博士から事件の全てを聞かされているので英雄と呼ばれたギル・グレアムまで飛び火するだろう
「アイツ等がどうなろうが知ったこっちゃない!」
失脚してくれれば仕事がやりやすくなる。ふと空を見上げると星たちが輝きだしていた。襲われたあの日も同じように家族と星を見上げていただけなのに人生が一変しまった
「流れ星か」
子供の頃は流れ落ちるまでに3回願いを唱えることができれば願いが叶うと信じていたが、もう星を頼ることをやめてしまった
高町なのはですが完治していない状態でスバルたちの訓練を見ています。どこでミドラと邂逅させようか迷います
感想ありがとうございます(お待ちしてます)
お気に入り登録もありがとうございます
誤字訂正もありがとうございます