ー返してよー
血だらけの少年が手を伸ばす
ー悪いことなんて何もしていないのに…どうして?ー
学生服の少女が憎悪の表情で八神はやてを睨んでいる
ー娘の誕生日なのに、ようやくパパって言ってくれたんだ!もう抱き上げることもー
絶望の表情を浮かべ自身の足に縋ってくるのを蹴り飛ばし雪道を逃げる。全力で走っているのに進んでいる気がしない、振り返ってしまえば取り込まれてしまう
「(いつになったら終わるんや!いつまで走らないとあかんねん)」
管理局に勤めるようになってから同じ夢にうなされる。最近は見る頻度が多くなり睡眠不足が続いている。周りに心配させないように目の下に浮かび上がる隈を化粧で隠すようになった。だけど数日前は会議中にウトウトして地上のお偉いさんを怒らせてしまった
顔の無いマネキンたちが自分たちのことを非難する。中身の残ったジュースの缶が投げつけられるとヴィータがアイゼンを掲げてマネキンを破壊した。朽ちるときに人間に変貌し呪詛の言葉を残していく
ーくたばれ!くたばれ!くたばれ!…俺たちの犠牲で幸せになりやがってー
ー祝福の風?不幸の嵐だ!いいよな家族に守られてー
「あかん…もう限界や、なぁどうしたらええの?」
寝汗がべっとりと衣服に貼り付いて気持ちが悪い、時刻は午前2時を過ぎたが寝られる雰囲気ではなかった。戸棚からカフェイン錠剤を取り出してカップに注いだコーヒーで胃に流し込む、ここ最近は容量を超えることが多くゴミ箱には空袋が散乱する
「覚悟はあるんや、受け入れるって言うたのに」
部隊を率いる長として、4年前に誓った夢を叶え聖王教会のカリムの予言に記された災いを防ぐために弱い姿を見せる訳にはいかない、それは19の女の子が背負うにしては重すぎる枷であった
「ごめんなさい!もうしませんから…」
乾いた音が空間内を支配する。ボディラインが浮き出る戦闘用のスーツを纏った水色の髪が特徴的な少女は目に涙を浮かべいた
「ダメだ!」
「ヒィッ!」
振り下ろされた手は少女の尻に叩き込まれスーツが破れ肌色の皮膚が真っ赤に染まる。別に彼は加虐的趣向の持ち主ではない、スカリエッティに呼ばれアジトに訪れたらドロップキックを食らって体勢を崩すと足が地面に引きずり込まれた。そして首謀者らしき少女がぬるっと現れ笑っているのを見てプッツンしてしまった
「やれやれスーツの防御力を向上させる必要があるな」
「ですが彼の以上の力を持つ者が管理局にいますか?」
尻を叩かれる少女を横目にスカリエッティとウーノが話し合ってモニターと睨めっこをしている。衝撃音を聞きつけて同じようなスーツを着た女の子たちが集まってくるが誰もミドラの尻叩きを辞めさせようとはしなかった
「助けて、トーレ姉」
「自業自得だ!イタズラがすぎたなセイン」
「そんなぁ」
もう肌色なんて存在していなかった。白いマントを纏ったクアットロは眼鏡をキラリと光らせカメラを起動するとセインの泣き顔をズームで撮影しニヤニヤと笑っている
「妹が申し訳ありませんでした」
「今度やったらティロ・フィナーレをお見舞いするぞ」
その後も15分ほど尻叩きは続いた。セインは『二度とやりません』と宣言したことで終わりを迎えトーレに運ばれていった。
「通信じゃなくて呼び出したのはなぜだ?」
「単なる娘自慢だ!私は親バカなのでね」
スカリエッティはドヤ顔&大袈裟なポーズを披露する。ツッコミを入れる気力を失ったミドラは出された飲み物に手をつけることなく持参したミネラルウォーターを飲み干した
「なら帰っていいか」
「つれないなぁ…ちょっと頼み事というか少しだけ私に雇われてくれないか?働きに応じてはボーナスも支給しようじゃないか」
「どうしてだ?自慢の娘たちじゃないのか」
「親バカだと言ったじゃないか、訓練は積んであるが保険の意味合いもある」
ミドラはフリーランスの根無し草で自由を愛する。明日のことなんて知らない刹那的な生き方をする傭兵団で自我を形成させていったので組織に属するのは好まない
「命令するのは1つだけ、娘たちを無事にアジトへ帰してくれれば何をしても構わない」
「好き勝手にやってもいいんだな?」
「食事代も別途で出そう!」
それが決め手ではないがミドラは首を縦に振った。秘密基地に常駐する必要もないので彼はスカリエッティのアジトから去っていった。その足で軽トラを借りて業務スーパーに向かい大量の食材を買い込んだが彼が食べるものではなかった
ミドラが住む廃棄区画にも孤児院が存在する。そこの代表は傭兵団時代の仲間で自身も孤児院で育ったことで恩返しするために身を粉にして働いているが苦しい経営が続いている。ミドラも彼の世話になっていたので大きな収入があったときには差し入れをしている
「助かる。いつもすまんな」
「別にいいさ、俺にはこんなことしかできない」
「子供たちもミドラおじさんが来るのを待ち望んでいるさ」
「俺はまだ16だぞ…おじさんって」
子供から見れば背の高い年上の男性は「おじさん」だと思ってしまう。しかもミドラは実年齢よりも高く見られてしまうので「おじさん」と言われても仕方がない
「いつまで2足の草鞋を続けるつもりだ?」
「経営には金が必要なんだ!まだ腕は錆びついていない」
「少し前に本業で管理局の執務官に襲われた。夜天の主が機動六課っていう組織を設立したことで動きにくくなるヤバイ仕事は控えた方がいい」
彼は六課に関する情報をまとめた記憶媒体を渡した
「ありがたく受け取っておく」
「アンタが捕まったら芋づる式でここが見つかる。そうなればガキたちは施設行きになる」
「引き継いでくれとは言わない、ここを守るのは俺の役目だ」
その言葉を聞いたミドラは孤児院を後にして軽トラを返しに行った。音信不通となった傭兵団時代の仲間もいる。昨日加入した奴が翌日に仏さんになるのも日常茶飯事だ!たった半日や1日でも仲間であったことは事実で、家族の時とは違い心に痛みが生じてしまう
「どぉこの完璧な計画!」
大型のライフルでヘリを狙い撃ちした横でクアットロが微笑む、ミドラは彼女たちの護衛として周囲に気を配りながら佇んでいた
「防がれたな」
「ウソ!なんで」
着弾の煙が晴れるとヘリの側面には白い魔導士が杖のデバイスを構えている。事前に貰っていた情報で隊長クラスのリミッターが解除された姿だと理解した。撤退するために閃光弾とスモーク弾を取り出そうとするが自分たちの背後に執務官が現れた
「市街地での危険魔法使用および殺人未遂の現行犯で逮捕します」
「お断りだ!」
サングラスを掛けて持っていた閃光弾を全部起動し地面に投げつける。クアットロたちを先行させて彼は2人の隊長たちの攻撃を防ぐために殿を請け負ったが速度が勝るフェイトが一気に追い抜いてしまった。しかし上空で待機していたトーレが高速で飛来し彼女を蹴り飛ばして地面と激突させる
「(ミドラ殿こっちはクアットロとディエチを確保しました)」
「(分かったアジトで合流する)」
「(了解!ご武運を)」
彼の目の前には『不屈のエースオブエース』の異名を持つ高町なのはがいる。彼女は息苦しいのか大口を開け肩を上下に揺らしていた
「ねぇ…どうして?」
「ん?」
「どうしてロストロギアを盗むの?あれは…危険な」
「金になるからな、生きるために必要で欲しい奴はごまんといる」
情報を探りながら仲間の到着を待つための時間稼ぎのつもりだろうが長居するつもりは無い、閃光弾は使い切ってしまったので懐に隠してある空間転移を可能とする消費型のロストロギアを起動させようとするが、彼女の方が早かった
「エクセリオンバスタァァァァ!」
拘束するために直線的で強大な砲撃魔法でミドラのことを攻撃するが、それは数ある選択肢の中で最悪な手段であった
「えっ?」
彼は両手を合わせると口を大きく開き全てを飲み込んでいった。更に吸われているのは砲撃魔法の魔力だけではなくエネルギーを生み出すリンカーコアにも及んだ、デバイスを握る手が痙攣するように震え呼吸が荒くなる。10年前にシャマルから受けた蒐集と同じような感覚に陥った
【MASTER】
「レイ…ジング、はぁぁ」
長年連れ添った相棒の声が聞こえ段々と意識が遠のくが、抱えていた痛みのせいで覚醒してしまい倒れることを許してくれない
"パリィィィィィィィン"
何か大切なものが砕けたような音がした。せり上がってきた胃液と鉄分の味が混ざり合って上空から真っ赤な血を吐き出してしまった。指を動かそうとしたら激痛が全身を駆け巡り持っていた杖が滑り落ちる
「ごちそうさまでした!」
再び手を合わせたミドラは落ちていく彼女を受け止めると遠くで浮遊するヘリコプターのドアに向けて投げつけ入ったことを確認するとロストロギアを起動し消えていく
しかし闇の書の蒐集を受けた被害者は多くいるはずなのに、アニメだと慰謝料などを払ったことなんて無かったですよね?管理局も傲慢な組織ですね
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