電子音が一定間隔で鳴り響いていた。口に呼吸器を装着した女の子は目を覚ますことなく腕に挿入された管や見たこともない医療器具の存在は重篤な状態であると知らせてくれる。窓ガラス越しに見つめる魔導士たちはベッドで眠る彼女の名前を叫んでいるがポニーテールの騎士に咎められた
鍵の掛かっていた扉から看護師を伴って処置を担当した医師が出てきた。機動六課の隊員たちが突進するように駆け寄りベッドで眠る高町なのはの容態について問い詰めた
「治るんだよな!なのはは治るんだよな」
「最悪の事態だけは避けることが出来ましたが無事ではありません」
「そんな」
「脆弱になっていたリンカーコアが完全に砕け散り、溢れ出た魔力が行き場を失い暴走したことで彼女の体を破壊していきました。もしあの高さから落とされていたら処置の仕様がありませんでした」
ミドラが彼女のことを受け止めていなければ上空から墜落し全身を強く打ち付けていた。そうなっていたら今頃は顔に白い布が被されていたはずだ
「…せよ、治せよ!あんたは医者なんだろっ!寝ているアイツを治せよ」
「よせ、ヴィータ」
シグナムに肩を掴まれるが振りほどいて詰め寄り、両手で握った拳で何度も医者の胸を叩くが次第に泣き崩れて床に伏してしまう
「…なんで、何でなのはがこんな目に遭わなくちゃ」
「ヴィータ副隊長」
過去に彼女は目の前でなのはが墜ちるところを見ていた。痛みに耐えリハビリの苦しみを知って守ると誓ったはずなのに二度と辛い思いをさせないはずだったのに
無言で立ち上がったヴィータは顔を下げたまま騎士甲冑を纏った。手には自身の相棒であるグラーフアイゼンが握られ持ち手から出血している
「なにをするつもりだ?」
「アイツを…ミドラをぶっ殺す!なのはがやられて黙ってなんていられるかっ!」
壁をぶち破って今すぐに飛び立とうとするヴィータだが、近くにいたスバルとティアナが後ろから羽交い締めシグナムの拳が頬を殴ったあとに腹部に強烈な一撃を叩き込んで鎮静化させた。再び彼女が暴れないためにデバイスはシグナムが預かることになった
「身内がすまなかった。高町隊長の容態について詳細なことを教えていただきたい」
「分かりました。別室で話しましょう」
沈黙するヴィータは両手を後ろに縛って使用していない会議室に放り込まれ、スターズとライトニングの新人たちはシグナムと共に別室に通された
海側上層部の判断で高町なのはが撃墜されたことは世間に伏せられた。影響力のある人物なので世間を欺かなければならない
「レリック回収の任務ご苦労であった。中規模な戦闘で
「機動六課のおかげで誤った自己管理の愚かさを学ばせてもらった。レジアス中将に進言し各部隊で指揮権を有する者たちへのヒヤリングを行おうと思う。試験部隊としてこれからも励んでくれたまえ」
今回のことを地上本部に報告した際に高官から言われたことが八神の頭の中で何度も再生される。向こうも彼女が撃墜され重篤な状態に陥っていることを知っている。2つの組織は長年の軋轢によって互いに嫌悪感を抱いていた
はやても病院に赴いて傍に駆け寄りたいが立場が許してくれない、ミドラがスカリエッティの所有する戦力と一緒に出て来たということは深い繋がりがあることを証明している。リミッターを解除しても叶わなかった相手にどうやって立ち向かえばいいのか?
「(私が解除を申請せんかったら助かっていたんやろうか?)」
現れたガジェットに対応するために後見人であるクロノ提督に頼んで施されていたリミッターを解除してもらった。彼も今回のことで激しく動揺し己を責めている
「(違う…なのはちゃんを六課に呼ばなければ苦しむことなんて無かったはずなんや、じゃあ私のワガママのせいで?)」
段々と自責思考に陥り涙が零れていく、やらなければならないことは山のようにあるのに金縛りのように足が全く動いてくれない
「(こんな足なんて、こんな足…なんて)」
スカリエッティのアジトに戻った彼は管理局に潜入しているドゥーエからの報告書を読んでいた。作戦に参加したナンバーズたちも無事に帰還したが肝心のレリックはケースの中身が抜かれていたことでセインがトーレに怒られていた
「ドゥーエ姉様はどんなことを伝えてきました~?」
「高町なのはが意識不明の重体で目が覚めないって、どうやって手に入れたのか分からないがカルテまで添付されてる」
「見せてもらってもよろしいですか」
「リンカーコアがぶっ壊れて復帰出来ると思うか?」
クアットロに報告書を渡しながら問いかける
「本人を直接診ていないので分かりませんが、目を覚ますだけでも隕石が直撃する並みの奇跡に等しいんじゃないですか?それにしても魔力を食べるなんてどんな胃袋の構造をしてるんですか?」
「胃もたれするぐらい甘ったるい魔力だったよ、餡子にマーガリンを混ぜてミルクフランスに盛り付けるぐらい甘かった」
「味なんて聞いてませんわよ」
なおディエチのエネルギー弾は砂糖不使用のピーナツバターみたいな味がした。出撃前にアジトの地下で模擬戦をしていたが彼女も自身の攻撃が口の中に吸い込まれるのを見て乾いた笑い声を出していた
「目障りな機動六課もこれでしばらくは大人しくなりますわ」
「替えの効かない隊長が眠り姫になれば残った奴等に負担が掛かる」
こっちのガジェットは生産体制が確立されているので無限ではないが多くの量産が可能である。対する機動六課は高町なのはが動けない状況なので無理をしなければならない、そうなれば本業も支障なく動きやすくなる
このことを孤児院に連絡しようとするつもりだったが、ルーテシアが近付いてミドラの服を引っ張ってきた
「どうした?」
「お腹空いた。ご飯に連れてって」
「おっさんは?」
「疲れて寝ちゃってる。だから買い物もしたい」
連絡を済ませれば暇で特にやることも無い、宿無しで流浪する生活でゼストの自炊した料理以外を食べてみたいはずだ
「その格好だと目立つから着替えてこい」
「これしかない」
「チンクちゃんの服ならルーお嬢様にも合いそうじゃないですか?まだ調整中ですし、黙って借りちゃえばバレませんって」
結局クアットロの意見が採用され、チンクの部屋から純白のワンピースを持ち出してルーテシアに着させた。普段は9歳の女の子が纏うにはセクシーな出で立ちの服を着ていたので今の姿は年相応に見えてしまう
「何を食べたい?遠慮する必要はないぞ」
「…えっと、茶色のスープに入った白くて長いやつがいい」
食品名ではなくナゾナゾを出されてしまいミドラとクアットロは顔を見合わせて頭にクエスチョンマークを浮かべていた。その2人を見てルーテシアはデバイスを操作して画像を呼び出して提示した
「カレーうどんか」
彼女は無言で何度も頷くが、その恰好で食べるのは色んな意味でヤバイ
「店の前を通ったら良い匂いがした」
「汚さないように頑張ってきてくださいね~」
完全に行く流れになってしまった。飲食店なら紙ナプキンぐらいは置いてあるだろう。ミドラは近場で美味いカレーうどんを提供する店を検索しルーテシアを伴ってアジトから出て行くのであった
はやても段々と追い込まれていくでしょう。彼女は何を怨むかな?
そしてチンクのワンピースは無事に返ってくるかな
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