ホモだらけの男子校でノーマルな僕はどうすればいいですか? 作:くくったぁ
僕…ルセリィ・エーテリアスの入学したティティス魔術学園は女子生徒禁制の全寮制の男子校であった。
しかも昼夜問わず、薔薇の花が咲き乱れるようなところ。
腐女子や腐男子にとっては、たぶん最高の楽園となるのだろう。
だけど僕の性癖はノーマルゆえに、この学園生活はまったく気を緩められなかった。
なにせ、少しでも気を抜いたら誰に後ろから掘られるのか分かったものじゃないのだから。
大浴場へと行けば、洗いっこと称して盛ってるヤツラがほとんどだし…。
寮監も少しは取り締まりという名の業務をしてくれないかな?
生徒たちの中に混じってないでさ。
名門校なはずのうちの学園のえげつないこの実態が知られたら、アンタは責任を負うことになるってのをほんとに理解してるの?
さて。
気分が悪くなってきちゃったから、話を戻そう。
ある時はホモと友情を確かめ合い、またある時にはホモと絆を深め合う。
……僕の学園生活、ホモと関わることしかしてないなぁ(泣)。
そんなこんなで、なんとか後ろの初めてを守り抜いた一年生時代。
そして、僕はこれからこの学園で二度目の春を迎えることになるのだ。
入学してからまだ一年しか経ってないってマジなんすかね?
さすがに現実逃避しかできないんだけど…。
とりあえず普通の学校に転校させてほしいなぁ。
えっ、ダメ?
あっ、そうですか。
「そんな儚げな顔をして、どうしたんだい…ルセ。キミのような可憐な花が笑っていてくれないと、私たちも笑顔になれない。」
甘ったるい感じの声で僕の愛称を呼んでくるのは、この学園の生徒会長ことキセル・レイス先輩。
イケメン女子といっても問題ないような中性的な容姿だが、残念ながら男である。
疑いようもないほどの男である。
「すみません、レイス会長。少し考えごとをしておりまして。あと…僕のことはエーテリアスとお呼びください。」
この男は学園でハーレムを築いている。
無論、ハーレム要員は全員男だ。
僕以外の生徒会役員も、全員彼のハーレムに入っている。
そう。
僕以外の生徒会役員はレイス先輩の虜なのだ。
生徒会を自身のハーレムメンバーで埋めたいのか、レイス先輩は僕にもその毒牙を伸ばしてきていた。
ここ数ヶ月はずっと僕だけを口説こうとするほどに。
あぁ、なんと怖気の奔る行為だろう。
レイス先輩のハーレムメンバー諸君、少しはレイス先輩を引き止めてくんない?
そしたらキミたちはレイス先輩に構ってもらえて、僕は貞操を狙ってくる脅威が一つ減る。
なんの欠点もないウィンウィンな関係だと僕は思うんだけどなぁ⋯。
「それでは司会の仕事をして来ますので、僕はこれにて失礼させていただきます。あぁ、それと……僕がいなくなったからといって、仕事をサボって盛り出さないでくださいね?」
新入生歓迎パーティーの開始時刻が迫ってきたゆえに、僕は足早にその場から去っていく。
変なことをするなよと、念のために釘を刺してから。
僕を除いた生徒会の方々には、生徒会室で盛っていたという前科があるのだ。
ゆえに誰かが抑制しなければ、どんな場所であったとしても盛り出す。
生徒の見本たる生徒会が盛り始めてしまったら、この会場に集まっている人たちも一斉に盛り出すことだろう。
一度でも彼らの情欲に火がついてしまったのならば、止めることはできない。
一心不乱に薔薇の花を咲かそうとするはずだ。
そんな光景を僕は見たくない…絶対に。
そんなのを見てしまったら、僕の心に一生もののトラウマが刻まれることになってしまう。
もしかしたから気づいていないだけで、もう刻まれてるかもしれないけど。
舞台の真ん中に立ち、僕はマイクへ声を通す。
「一年生の皆さん、こんにちは。」
これからやることはあまりにも簡単。
ただ彼らの視線をこちらへと向けさせて、興味の向けられる先を上手くコントロールするだけだ。
まぁそれはさておき……二年生以上の生徒たちとかの僕に向けてくる視線に、なんだかかなりの熱が籠ってる気がするんだけどなんで?
背筋に嫌な汗を流しながらも、僕は檀上でのあいさつという仕事を無事に終わらすのであった。
───×───
私はリトゥル・アステルノ。
とある大貴族の当主に仕えている点以外は、どこにでもいるようなごく普通の魔術師です。
「はぁ…。」
「ため息なんてついて、どうしましたか…アステルノ先生。」
隣にいる今日から同僚となる男性にそう問われる。
どうやら無意識のうちにため息が漏れ出てしまっていたようですね。
「少しばかり、これからが憂鬱で。」
「まぁそうでしょうね。なにしろこの学園で唯一といっていい若い女性なのですから。」
現状を簡潔に説明するならば、私は職員も含めて女性がほとんどいない男子校…ティティス魔術学園に、私は教師として赴任したのです。
校内にいる人たちのうち、男性が占める割合は驚異の99.9%。
しかも私以外の数少ない女性職員は全員おばあちゃんという…。
なぜ私はこんなところにいるのでしょう?
いやまぁ、私の仕えている御方のお孫さんがここに入学するから、その護衛兼従者として入れられただけなんですけどね。
別に私みたいな乙女じゃなくて、男でも良かったのではないかと思われるかもしれませんが……まぁそこには深い事情があるということです。
「ですが今くらいは楽しみましょう。せっかくのパーティーなんですから。」
「たしかに、リトゥル先生のおっしゃる通りかもしれませんね。」
ここまでの規模のパーティーはそうそう経験できるものではないでしょう。
ならば楽しまないと損というもの。
思考が切り替わったことなより、気分がわずかながら軽やかになった。
というか、この状況も年若いイケメンたちに囲まれていると考えればいいのでは?
「そろそろ始まるみたいですよ、アステルノ先生。」
そう言うリトゥル先生の視線は、照明器具で照らされている檀上へと向けられている。
釣られて私もそちらへと目を向けた。
天使がいた。
……いや、もしかしたから天上の女神様かもしれない。
言うなれば、美の化身。
雪を思わせるような肌と髪の色。
水晶のごとき、透き通った蒼碧の瞳。
黄金比を連想させるほどに美しく整った顔と体型。
たとえ彼が数千年に一人レベルの容姿と言われたとしても、私は納得できてしまうだろう。
『一年生のみなさん、こんにちは。』
鈴が鳴るように美しい声がマイク越しに響く。
ほんとうに男なのだろうか?
彼が男装した女子だと言われたほうがまだ納得できる。
私がこんな疑いを抱いてしまったのは仕方ないだろう。
なにせそれほどまでに美しいのだから。
「彼、ほんとに男なんですかね?見た目の良さがなんというか…限界突破してません?」
あぁ、良かった。
私と同じことを思った人はちゃんといたらしい。
「フフッ…それは当然の結論さ。なにせ彼は去年の三魔学祭の美形コンクールで圧倒的1位を獲っているのだからね。それも男女両部門で。」
背後からそう話しかけてきたのは、私が配属された学年の主任教師だ。
三十にも満たない若さでこの立場にいるということは有能であるということの証明なのだが⋯⋯私はどうしても彼のことを好きになれなかった。
いい人だとは思うのだが、なにかがどうしても相容れないような気がするのだ。
ふと思ったんですけど⋯この人が司会の彼に向けてる眼、なんかおかしくないですかね?
妙に情熱的というかなんというか⋯。
ま、まぁ気にしたら負けですかね。
ほんの僅かながら感じた違和感を押し殺して、私は舞台へと視線を戻すのでした。
───×───
とくに問題が起こったりすることはなく、新入生歓迎パーティーは始まった。
しっかりと親睦を深めてくれているようで、企画した側としては嬉しい限りである。
「あの…少し聞きたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」
「はい。なんでしょうか?」
僕に声をかけてきたのは、まさに男装の麗人という感じの一年生。
なんかいろんなところが女性っぽい感じの人だなぁ⋯あるぇ?
この人、女性っぽいというか女性だよね?
なんでか周りのホモたちは誰一人として気づいてないみたいだけど、僕は騙せないよ?
だって変装が粗すぎるし…。
「貴方にとって男らしさとはなんだと思う?」
「男らしさ、ですか?」
なんでそんなことを聞かれたのだろうか?
たぶん変装とかの足しにするんだろうけど…僕にそれを聞いちゃうかぁ。
男装のことには触れずに答えてあげるけど…。
「そうですね…。どんなに強大なものが前に立ちはだかっても、自身を曲げないことでしょうか?」
数多のホモたちが僕の前に立ちはだかったとしても、僕はホモになるという選択肢を取らないだろうし。
この考えを抽象的にそれっぽく言語化したのなら、こんな感じになるのかな?
「なるほど…。ありがとう、良いことを学べた。」
「いえいえ、そんな大したことをしていませんよ。聞かれたことにただ答えただけですので。」
ペコリと一礼されてから、その生徒は去っていった。
…えっ?
聞きたいことってそれだけ?