偽譚・偽善使い   作:其為右手

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第一話

 

 

 

 

 

目が醒めると、そこは病室だった。

 

 

白で統一された布団。

一定のリズムで奏でられる心電図。

消毒されてやたらと澄んだ空気が鼻腔を刺してくる。

 

───嫌な匂いだ

 

そう思って換気しようと足を伸ばすと痛みが体中を走る。

それでも根性で痛みに耐えて歩き、遂に窓を開ける。

窓から入ってくる風が部屋の中と外の空気を混ぜ、少しはマシになった。

 

ふと、ベッドに戻る途中に鏡に写った自分を見る。

 

緑色の患者服。

高校生にしてはかなり鍛えられている体格。

頭、腕、脚、見える体の部位には全て包帯が巻かれている。

チャームポイントはこのこだわりツンツン頭。

 

「…これ、は」

 

呆気にとられる俺をよそに突然、病室の扉が開く。

 

「なに、もう歩けるようになったの」

 

気怠そうに入ってきたのはショートボブカットの女学生。

病室だと言うのになぜか煙草を咥えている(火は流石についてない)

…未成年だろうに、いいのか。

 

「相変わらずの回復力なことで… あんたの場合、その右手のせいで術式が効かないんだし、今回ばかりはどうなるかと────」

「────あの、」

 

ダウナーな雰囲気に似合わず流暢に話す彼女。

それを遮って俺はずっと気になっていたことを尋ねる。

 

 

「あなた、誰ですか」

 

 

――――あの時の先輩の表情は、なんとも筆舌し難いものだと記憶している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼がいる病室へと走る。

しょうこから聞いた、ようやく目を覚ましたって。

 

何を言うかなんて考える間もなく走り出した。

ついさっきまで食事も喉を通らなかったし、体を動かす気力も体力もなかったけど。

それでも走った。

彼がいる病室へと。

 

『あいつなら…早く会いに行って確かめた方が早いけど、』

 

すれ違う人の目なんて気にならない。

さとるやすぐる、ななみやはいばらに言うよりも前に、これだけは譲れなかったんだ。

 

『本人の前で言うのも失礼だからね。 手っ取り早くレッスン1だ』

 

そして、彼の病室の前に立つ。

いざ、となるとどうしても戸に手をかけられない。

しょうこの言う通りなら今頃彼は……

 

 

 

違う!!

こんなとこでうじうじしてる場合じゃない。

考えるのは後だ。

無駄な思考を取っ払いトントンと戸を叩く。

 

────はい

 

すぐに彼の声が聞こえた。

その声に安心してしまう自分がいる。

少し恥ずかしいけど今ならそれすら心地いい。

でも安心するにはまだ早い。

まだ彼を見ていない。

恐る恐る戸を開き、部屋に入る。

 

 

 

とうまだ。

 

 

 

全身包帯だらけで、開いた窓から外を見ている。

入ってくる風が彼のツンツン頭を微かに揺らしている。

 

生きている。

 

それだけで私の胸の中にあった後悔や懺悔、謝りたい気持ちだとかじゃなくて、今だけは心からよかったと思えた。

あなたが無事で本当に。

 

 

────とうま!

 

 

 

 

 

────あの、

 

 

そんな私に彼は他人を見るような目で、

 

 

────あなた、病室を間違えていませんか

 

 

残酷な現実を告げる。

 

 

『あれは記憶喪失というより、記憶破壊ね』

 

ついさっきしょうこから聞いた彼の現状。

 

『思い出が消えたんじゃない。物理的に脳細胞ごと破壊されてる』

 

嘘だ、なんて口が裂けても言えない。

 

『これじゃ思い出すことはできないし、これから先も────』

 

だってこれは私が招いた結末なのだから。

 

 

────あの、大丈夫ですか

 

違う。

 

────なんか君、ものすごく辛そうだ

 

違う。

 

────ううん、大丈夫だよ

 

私じゃなくて、

 

────大丈夫に決まってるよ

 

そんな状態でもあなたは人のことばっかり。

ずるいよ。

覚えていないはずなのにそんな表情されちゃ。

 

────あの、ひょっとして、俺たちって知り合い?

 

────とうま、覚えてない?

 

出会ったときのこと、一緒に食べた料理、行った場所、一緒にいた高専の皆んなのこと、そして私を助けてくれたあなたのこと。

 

────とうまって、俺の名前?

 

────とうま、覚えてない?

 

なんで、どうして、

 

────私は、私はね、とうまのこと、大好きだったんだよ

 

涙が止まらない。

違う。

私じゃないのに。

本当に泣きたいのはあなたのはずなのに。

その機会すら私は奪ってしまった。

 

 

もう行こう。

これ以上いるとまたあなたは傷を負う。

自分より他人を優先してしまうあなたがこれ以上ボロボロになる姿を見たくないから。

そのためなら私は今すぐにでも────

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんつってな!!」

 

……………は?

 

「ひっかかってやんの! どうよ? かみじょーさんの名演技は?」

 

…………

 

「よく考えてみろよ、そのダメージも結局は呪術の力だろ? だったら話は簡単、手前の右手を頭に当てて、手前に向かって『幻想殺し』をぶち当てちまえば無問題ってこと」

 

…………

 

「ようはダメージが脳に届く前にその呪術的なダメージを打ち消しちまえばいいってことだろ?」

 

…………

 

「それにしたって普段散々人を振り回してたお前のことだ。今回の件でちょっとばっかし自分を見直すことができたんじゃ………」

 

…………死を

 

「あ、あれ……も、もしも〜し?」

 

乙女の敵に、死を!!!

 

「ちょちょ!? その握り拳はなに!? ミシミシ鳴ってる!人の拳からでちゃいけない音してるって! というかこれって噛まれるやつじゃn

 

「問答無用!!!」

 

黒い火花は微笑む相手を選ばない―――!

 

 

 

 

 

黒閃!!!!!!!(幻覚)

 

 

 

 

 

「ぶぎょば!?!??」

 

脳天かち割ったり!!

そのまま寝てろボケナス!!!

 

「とうまのばかぁ!!!」

 

「ふ、不幸だぁ…」

 

 

 

 

 

 

件の後輩の病室から彼の悲鳴が廊下中に響き渡る。

というか入り口で待機していた私には一部始終丸聞こえだったんだが。

ズカズカと病室からお姫様が御出でになる。

 

お怒りのようだが特にかける言葉もない。

当然だ。

今は触れぬが吉だ。

 

部屋に入ると先ほどの鉄槌でノックアウトされた後輩の姿が。

なかなかしぶといらしく頭を抱える程度で済んだみたいだ。

 

「し、しぬ… 三途の川がみえた…」

 

「…そりゃそうなるさ」

 

いくらなんでもあれはダメだ。

あの子に対しては特に。

だがそれもこの大馬鹿な後輩の優しさだと思うと、余計に運命ってやつを恨まずにはいられない。

 

「けど、あれで良かったの? あんた、本当は何も覚えてないでしょ?」

 

当然だ。

あれだけの脳への損傷、仮に反転術式が通用しても回復する可能性は今の私じゃ五分五分といったところだ。

思い出すことはもうない。

目の前のこいつはこれまでのあいつとは違う。

まあ大して関わりのない奴でもないのでいまだ割り切れない私がいるわけで。

そんな私を傍目にこいつは外に目を向け、口を開く。

 

「…あなたから聞いたことも真実かなんて分からないし、いまだに信じれてない自分もいます。 けれど、俺なんだかあの子にだけは泣いてほしくないなって思ったんです。…思い出すこともできないはずなのに」

 

そう話す彼の姿はさながら、教会で罪を告白する罪人のようで。

さしずめ私はシスターか。

似合わねぇ〜と自分でも思う。

 

「それでも、案外俺まだ覚えているかもしれないですね」

 

「思い出を? 脳細胞にでも?」

 

ああ。

きっとこの大馬鹿野郎はこの先ずっと治らない。

あのクズ共とは同じでこいつもまた頭のネジが飛んでいるんだ。

何も変わっちゃいない。

記憶を失おうが、この男は馬鹿のままだ。

それでも私はこいつを、

 

「決まってるじゃないですか──────」

 

いや、柄でもないな。

 

 

──────心に、じゃないですか

 

 

……煙草、辞めようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいやいやいや!

起きたら禁書1巻終わったんだけど!

そもそも病室で起きたら上条さんになっていたんだけど!

 

しかもカエル顔の医者じゃなくて泣きぼくろがチャーミングな先輩だし!

めいびーで助けた少女が銀髪でもシスターさんじゃないし!

外の景色見たらすっごく緑豊かだし!

 

「……学園都市じゃないのか?」

 

先輩――家入さんが出ていったあと、鏡に写る上条さん…自分を見つめ独りごちる。

幼少期『疫病神』と虐げられ、科学の街へと足を運び、そして()()に出会う――それが俺の知る上条当麻なのだが…

怪我や家入さんが言ってた右手、事件の詳細が綴られた手紙、なぜか笑ってほしいと思った少女の存在。

間違いない、上条当麻だ。

環境が、世界が違っても上条当麻という人物のヒーローの性は変わらなかったのだろう。

 

「じゃあ俺は、後釜?」

 

問題はそこだ。

復活した上条さんだが中身は俺。

今ここにいるのは記憶喪失の上条当麻ではなく、上条当麻の体を譲り受けた俺。

前の俺が何をしてたかも思い出せないけど、知識はある。

別世界の上条さんに憑依した、といったところだろうか。

 

納得はできないが、こういうのはとりあえず呑み込むことが大事だと相場で決まってる。

ならば俺がやることは一つ。

 

「上条当麻として生きる」

 

幸い記憶喪失の件を知っているのは家入さんだけで誰にも言いふらさないと言っていた。

渡された手紙を読んでおおよその事情はつかんだ。

まったく、どこにいても上条さんは上条さんらしい。

とあるの一読者としては嬉しいことこの上ない。

 

「上条!!」

 

「目を覚ましたって!! 家入さんが!!」

 

血相変えた男二人組が入ってくる。

恐らく手紙で書いてあった同級生の二人なのだろう。

あいにく、俺はこいつらのことを知らないし、あいつらもそれを知らない。

それでも俺はできる限りの笑みを浮かべる。

 

「おう! 上条さん復活の巻だぜ! 七海! 灰原!」

 

 

―――ちくりと胸が痛んだ、とある初夏の一日。

 

―――俺は呪いの世界に足を踏み込んだ。

 

 




 
上条さん(偽)…呪術と聞いて真っ先に土御門や闇咲が浮かんだ。次に☆のアブラ・クアタブラ。

家入さん…九死に一生を得た後輩に内心ほっとしてる。医師としてはまだ青い。

問題児二人…ただし最強。白髪の方を見て色々驚いた。前髪の方にはむっちゃ褒められた。近々重要な任務があるとかないとか。

同級生二人…めっちゃ心配された。流石に同級生の死を受け止めるには早すぎた。


救われた少女…上条に恩以上の想いを抱いている。真っ白なスカートの長いワンピースが似合う銀髪の少女。とある呪術組織の秘蔵っ子。

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