おばあちゃんは魔法少女をやめない   作:魔法少女(少女とは限らない)

10 / 10
第八話 おばあちゃんは若者を導きたい

 

 

 

 

「ジャマダ!」

 

 

 

 ノクティちゃんの拘束は、怪人が力を込めるとたちまち破壊されてしまった。

 

 闇を纏わせて止める、というのはいいアイデアだけど、強度があまり高くなさそうなのが難点だ。

 

 確実に怪人の動きを止めたいなら、もう少しイメージを膨らませる必要がある。

 

 例えば、こういうふうに。

 

 

 

「——ステイシス」

 

 

 

 纏わせるんじゃなくて、直接縛り上げたりね。

 

 そうすれば、私が作った光の輪で四肢を固定された怪人は、身動きすら取れずにその場に固定される。

 

 魔法というのは、どれもこれもイメージに大きく左右されるものだ。

 

 私が主に扱う『光』は、人によって多少の解釈の違いはあるものの、少なくとも、その存在自体は分かりやすい。

 

 それに対してノクティちゃんが扱っている『闇』は、光とは違って、その存在が定まりにくい。

 

 だから、怪人を拘束するような技を作るより、動きを阻害したり遅くしたりするようなデバフ系の方がより効果を発揮しやすいはず。

 

 まあ、あくまでもこれは私のイメージだから、もしかしたら闇の方がイメージしやすい、という人もいるかもしれないけれど。

 

 

 

「……すごい。そんな簡単に怪人を止められるなんて」

 

「そんな難しいものじゃないわ。何をイメージするのかが大切なの」

 

「イメージ……?」

 

「そう。私はこのまま動きを止めておくから最後は頼んだわよ」

 

 

 

 私の見立てだと、この子は細かい魔法の操作より、威力を重視した方が成長しそうな気がする。

 

 会ったばかりで詳しいことは分からないけれど、拘束する魔法の練度を見る限り、いつもはもっと派手な魔法を使っているんじゃないかしら。

 

 もしかしたら、ここがショッピングモールの中だからと、遠慮しているのかもしれない。

 

 でも、どうせなら、この子の本気を見てみたい。

 

 

 

「とびっきりの威力の魔法を使ってもいいのよ?」

 

「え、でも壊れちゃダメなものもあるんじゃ……」

 

「大丈夫、私がなるべく受け止めるわ」

 

「……じゃあ、やってみる。『星々も呑み込む深淵よ——』」

 

 

 

 予想通り、周りへの被害を心配している様子だったので、そこは大丈夫だと安心させておいた。

 

 すると、ノクティちゃんはどこからともなく杖を取り出し、明らかに大技と分かる詠唱を始める。

 

 詠唱をしているだけ、ただそれだけなのに、彼女の周りの空気はピリッとしたものに変わっていく。

 

 私の見立ては、やっぱり間違っていなかった。

 

 ただ、このままだと思っていたよりも威力の高い魔法が放たれそうだし、私も頑張らないといけない。

 

 

 

「ヤッ、ヤメッ」

 

「『——全てを無に帰せ、アビス・ノワール』」

 

 

 

 杖から放たれたのは、真っ黒な球体。

 光を一切受け付けず、恐ろしさすら感じさせるそれは、周りの空間を削り取るように怪人へと向かう。

 

 怪人は私の拘束によって動けない。

 

 なすすべもなく、ブラックホールを模した彼女の魔法に飲み込まれていく。

 

 

 

「……止まった」

 

「光と闇は相反する属性だから、意外とやりやすいわよ」

 

 

 

 最後は、私が作った光の壁に止められたけれど、球体の通り道にあったものは全て消し飛んでいる。

 

 ブラックホールを模した、とは言ったものの、これは完全にブラックホールと言っても差し支えない。

 

 魔法が通っていないところにあった品物まで、若干吸い寄せられているような気もするし。

 

 こんな大技、一体誰に教えてもらったのだろうか。

 

 ここまで威力の高い技を使う子は、私の記憶を思い起こしてみても数えるほどしかいない気がする。

 

 ムサシが、最近の魔法少女には才能がない、なんて言っていた割に、玲奈ちゃんといい、才能のある子は結構いるじゃない。

 

 本気の魔法をぶつけて良いとはいったけれども、まさかここまでの魔法を使ってくるとは夢にも思っていなかったわよ。

 

 

 

「さて、これで怪人は倒せたわね」

 

「それ、フラグ」

 

「ふらぐ……? って、なんのことかしら?」

 

「え。……えっと、例えば今だったら、まだ倒せてないかもしれないのに、倒せたかって口に出しちゃうこと。私はそれで倒せてなかったことが何度もある」

 

「なるほど……」

 

 

 

 そして、何気なく怪人を倒せたかどうか口にすると、ノクティちゃんからそれを咎められてしまう。

 

 どうやら、こういう場面で倒しきれたか口にしてしまうと、実はまだ倒せていなかったなんてことが度々あるみたいだ。

 

 多分、言霊みたいなものなんだろう。

 

 ただ、あの威力の魔法を真正面から受けた怪人が、まだ倒せてないなんてことはないと思うのだけど……。

 

 

 

「フザ、フザケルナ!」

 

「『ルミナ』」

 

 

 

 ……そんなこと、なかったわね。

 

 随分と小さくなっていたとはいえ、怪人はちゃんと生き残って私たちの方に飛びかかってきた。

 

 もちろん、不意打ちは人間相手にも何度もやられているから反応できる。

 

 でも、さすがにあのブラックホールを受けてもなお、生きているとは思いもしなかった。

 

 

 

「ほら、言った通り」

 

「さすがに予想していなかったわ」

 

「最近の怪人は結構しぶとい気がするから、より気をつける必要がある、と思う」

 

「そうね。ありがとう」

 

 

 

 この前から玲奈ちゃんに魔法を教えたりしていたこともあって、すっかり先生気分だったけれど、これはちょっと気を引き締めければいけない。

 

 この歳になったとしても、学ぶべきことはまだまだたくさんある。

 

 覚えていて損な知識なんてそうそうないし、魔法少女になりたてだった頃みたいに知らないことはどんどん吸収していこう。

 

 

 

「それじゃ、私は先に失礼するわ」

 

「いいの? 外には人がたくさんいるし、私と一緒に出て行ったらそこそこ注目されると思うけど」

 

「大丈夫。私はさっき、あなたのファンの人をおどかしちゃったし、そもそも、外の人たちはあなたが無事に顔を見せてくれることを望んでいるはずよ」

 

「本当の私はこんなので、魔法少女ソレーヌみたいに変身前から明るいわけじゃないのに?」

 

 

 

 そして、ノクティちゃんの邪魔になる前に、私は早めに退散……といきたいところだったのだけど。

 

 私を信頼して弱音を吐き出してくれたのなら、そんな子を置いてどこかへ行くわけにはいかないわ。

 

 どうやらノクティちゃんは、自分に自信がないらしい。

 魔法少女ソレーヌ……は、玲奈ちゃんのことね。

 

 他人と比べる必要なんてない、と言いたいところだけれど、やっぱり、十代の頃は誰しも人と比べて自分を卑下してしまうもの。

 

 私にだって、魔法少女になったばかりの頃は、先輩たちとの実力があまりにも離れていることに絶望して、活動が上手くいかなかった時期はある。

 

 でも。

 

 

 

「一旦ちょっと、外に出てみましょ」

 

「え……?」

 

「いいからいいから。外に出てみれば、そんな不安は消し飛ぶわよ」

 

 

 

 私は、彼女に見てほしい景色がある。

 

 多分、彼女にとっては当たり前の景色なのかもしれないけれど、ショッピングモールの外に広がっているだろう光景は、私一人じゃ見ることができないと思う。

 

 ノクティちゃんに夢中になりすぎるあまり、戦いの様子を撮影しようとするファンがいるのは、あまり良くないことである。

 けれど、それは裏を返せば、そうさせてしまうほどにその人がノクティちゃんに夢中になっているということで。

 

 たとえ、人の前で見せている『魔法少女ノクティ』が本当の自分じゃなくても、ノクティちゃんを必要としている人たちは絶対にいるはずだ。

 

 

 

「ほら、ここから出てみなさい」

 

「いや、ここはただの出口……」

 

「私は後ろから見守っているから、安心して」

 

 

 

 普段は意識することがないのだろう。

 ノクティちゃんは、まだ私の意図を図りかねているみたいで、戸惑いの表情を浮かべている。

 

 大丈夫、きっと悪いようにはならない。

 こればっかりは、半世紀前から魔法少女をやっている私が保証する。

 

 そのまま、ノクティちゃんの背中を押してあげて、彼女の体が静寂の流れるショッピングモールから出ると。

 

 

 

「ノクティだ! 今日もありがとう!」

 

「いつも町を守ってくれてありがとね〜!」

 

「あなたのおかげで私たちは平和に暮らせてるよ!」

 

 

 

 ショッピングモールの出入り口を囲っていた群衆から、割れんばかりの歓声が彼女に浴びせられる。

 

 その、どれもが魔法少女ノクティを讃える声で、彼女が恐れていたように、心配されていない、なんてことはない。

 

 この周りにいる人たちは皆、ノクティちゃんが無事に怪人を倒して帰ってくるのを待ち望んでいた人たちだろう。

 

 間違いなく、彼女は必要とされていたのだ。

 

 

 

「……みんな、ありがとー! これからも頑張るよ!」

 

 

 

 大歓声から一拍置いて、ノクティちゃんは集まった人たちへ感謝の気持ちを目一杯伝える。

 

 そこにはもう、ついさっきまで悩んでいた少女の姿はない。

 

 そこにいたのは、たくさんの人に必要とされ、感謝されている、なんとも頼もしい魔法少女だった。

 

 自分にとって当たり前になっていることでも、初心に立ち返ってみれば、意外と初めは当たり前じゃなかったことばかりなのよね。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 そして、その数日後。

 私は、玲奈ちゃんとの約束で、訓練所に訪れていた。

 

 玲奈ちゃんは、どうも待ち合わせの時間より早く来ているようで、早い時は30分前にはいるらしい。

 

 今日もまた、私よりも先に訓練場についているようだ。

 

 あれ? でも、玲奈ちゃんの他にもう一人いるような……?

 

 

 

「あ、幸子ちゃん! 今日ね、幸子ちゃんに会いたいっていう子がいたから連れてきたよ!」

 

「……私の名前、黒崎結衣。玲奈に魔法を教えてるって聞いたから来た。よろしく」

 

 

 

 ……どうやら、ノクティちゃんこと結衣ちゃんは、玲奈ちゃんと友達だったらしい。

 

 確かに、あの日言われた弱音の中に玲奈ちゃんの魔法少女名は混ざっていたし、変身前のことにも触れていたけれども。

 まさか、そこまで親しいとは思わなかった。

 

 世の中って、案外狭いものなのよねぇ。




みなさんの応援で一瞬だけオリジナル日間ランキングに顔を出せたみたいです
そして、ルーキーオリジナル日間は1位、ルーキー総合日間でも3位までこれました
この作品はまだまだ続くので、引き続き応援してくださると嬉しいです
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

洗脳闇堕ち妹を差し置いて、クソデカ感情を別な奴に向ける姉(作者:あげはちょ)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

「くくく...ついに完成したぞ!絶対服従の強化個体だ!!」▼↑洗脳出来てません。でも逆らったらヤバそうなので従います。▼「なんで...あなたがそっち側にいるの!?」▼「私の妹を攫った、そっち側に.......っ」▼「ふざけないで!...友達だと、思ってたのに」▼主人公そっちのけで始まる重い感情のぶつかり合い。すれ違い。etc...▼これも全部敵が悪いんだ!!…


総合評価:543/評価:8.17/連載:8話/更新日時:2026年08月21日(金) 21:34 小説情報

ド田舎で魔術を修める転生者、人は彼女を魔女と呼ぶ(作者:うぃっちくらふと)(オリジナル:ファンタジー/冒険・バトル)

山奥の寒村の少女に転生したウィチタには、魔術の才能があった。▼孤立気味なウィチタだが、やがて才能を発揮し始めると少しずつ村に溶け込んでいく。▼そんな彼女は、尊敬と畏怖を込め魔女と呼ばれるようになったが、一向にそれを気にする様子はない。▼あるのは魔術への探究心と、村への恩義だけ。▼しかしその名声が有力者の元へ届くようになると、ウィチタの生活は大きく変化していく…


総合評価:1087/評価:8.26/連載:4話/更新日時:2026年08月11日(火) 07:06 小説情報

とある悪徳オペレーターの音声ログ(作者:ロボバトル曇らせメリバ百合風味)(オリジナル:SF/冒険・バトル)

真面目が取り柄の巨大ロボパイロットちゃんが、闇落ちして悪徳オペレーターになる話。記録媒体+三人称形式。


総合評価:2636/評価:8.99/完結:12話/更新日時:2026年09月06日(日) 17:26 小説情報

七大厄災の最弱ですが、リーダーやってます。(作者:霧夢龍人)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

『七大厄災』▼それは龍や悪魔すら恐れ、神や天使すらも震え上がる世界最強の七人。▼──そんな奴らを束ねる彼女は、当然ながら世界最強……ではなく、組織の中で最弱だった。全員美女or美少女なのに、それを台無しにする癖の強さを誇る七大厄災を何とか手懐け、主人公は今日も叫ぶ。▼「お願いだから、私の許可なく世界を滅ぼそうとしないでください!」▼これは隠居を夢見る組織内最…


総合評価:2364/評価:8.5/連載:12話/更新日時:2026年09月07日(月) 07:00 小説情報

【どうしたら】魔法少女に変身させられたけど放置された【いいと思う?】(作者:名無しの魔法少女)(オリジナル:ファンタジー/コメディ)

転生者たちが脳内掲示板でわちゃわちゃするn番煎じのよくあるやつ。▼日夜、悪の組織と魔法少女たちが戦うある意味平和なニチアサ的世界に転生したイッチ。▼マスコット的サムシングの押し売りに負けて変身するも、いろいろな要素が悪い方向に作用して、マスコットは絶叫して逃走。▼おいてけぼりを喰らったイッチはしゃあなしに、転生者たちが集う脳内掲示板に助けを求めるのだった。▼…


総合評価:2968/評価:8.62/連載:5話/更新日時:2026年09月13日(日) 12:00 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>