おばあちゃんは魔法少女をやめない   作:ひぶうさぎ

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第八話 おばあちゃんは若者を導きたい

 

 

 

 

「ジャマダ!」

 

 

 

 ノクティちゃんの拘束は、怪人が力を込めるとたちまち破壊されてしまった。

 

 闇を纏わせて止める、というのはいいアイデアだけど、強度があまり高くなさそうなのが難点だ。

 

 確実に怪人の動きを止めたいなら、もう少しイメージを膨らませる必要がある。

 

 例えば、こういうふうに。

 

 

 

「——ステイシス」

 

 

 

 纏わせるんじゃなくて、直接縛り上げたりね。

 

 そうすれば、私が作った光の輪で四肢を固定された怪人は、身動きすら取れずにその場に固定される。

 

 魔法というのは、どれもこれもイメージに大きく左右されるものだ。

 

 私が主に扱う『光』は、人によって多少の解釈の違いはあるものの、少なくとも、その存在自体は分かりやすい。

 

 それに対してノクティちゃんが扱っている『闇』は、光とは違って、その存在が定まりにくい。

 

 だから、怪人を拘束するような技を作るより、動きを阻害したり遅くしたりするようなデバフ系の方がより効果を発揮しやすいはず。

 

 まあ、あくまでもこれは私のイメージだから、もしかしたら闇の方がイメージしやすい、という人もいるかもしれないけれど。

 

 

 

「……すごい。そんな簡単に怪人を止められるなんて」

 

「そんな難しいものじゃないわ。何をイメージするのかが大切なの」

 

「イメージ……?」

 

「そう。私はこのまま動きを止めておくから最後は頼んだわよ」

 

 

 

 私の見立てだと、この子は細かい魔法の操作より、威力を重視した方が成長しそうな気がする。

 

 会ったばかりで詳しいことは分からないけれど、拘束する魔法の練度を見る限り、いつもはもっと派手な魔法を使っているんじゃないかしら。

 

 もしかしたら、ここがショッピングモールの中だからと、遠慮しているのかもしれない。

 

 でも、どうせなら、この子の本気を見てみたい。

 

 

 

「とびっきりの威力の魔法を使ってもいいのよ?」

 

「え、でも壊れちゃダメなものもあるんじゃ……」

 

「大丈夫、私がなるべく受け止めるわ」

 

「……じゃあ、やってみる。『星々も呑み込む深淵よ——』」

 

 

 

 予想通り、周りへの被害を心配している様子だったので、そこは大丈夫だと安心させておいた。

 

 すると、ノクティちゃんはどこからともなく杖を取り出し、明らかに大技と分かる詠唱を始める。

 

 詠唱をしているだけ、ただそれだけなのに、彼女の周りの空気はピリッとしたものに変わっていく。

 

 私の見立ては、やっぱり間違っていなかった。

 

 ただ、このままだと思っていたよりも威力の高い魔法が放たれそうだし、私も頑張らないといけない。

 

 

 

「ヤッ、ヤメッ」

 

「『——全てを無に帰せ、アビス・ノワール』」

 

 

 

 杖から放たれたのは、真っ黒な球体。

 光を一切受け付けず、恐ろしさすら感じさせるそれは、周りの空間を削り取るように怪人へと向かう。

 

 怪人は私の拘束によって動けない。

 

 なすすべもなく、ブラックホールを模した彼女の魔法に飲み込まれていく。

 

 

 

「……止まった」

 

「光と闇は相反する属性だから、意外とやりやすいわよ」

 

 

 

 最後は、私が作った光の壁に止められたけれど、球体の通り道にあったものは全て消し飛んでいる。

 

 ブラックホールを模した、とは言ったものの、これは完全にブラックホールと言っても差し支えない。

 

 魔法が通っていないところにあった品物まで、若干吸い寄せられているような気もするし。

 

 こんな大技、一体誰に教えてもらったのだろうか。

 

 ここまで威力の高い技を使う子は、私の記憶を思い起こしてみても数えるほどしかいない気がする。

 

 ムサシが、最近の魔法少女には才能がない、なんて言っていた割に、玲奈ちゃんといい、才能のある子は結構いるじゃない。

 

 本気の魔法をぶつけて良いとはいったけれども、まさかここまでの魔法を使ってくるとは夢にも思っていなかったわよ。

 

 

 

「さて、これで怪人は倒せたわね」

 

「それ、フラグ」

 

「ふらぐ……? って、なんのことかしら?」

 

「え。……えっと、例えば今だったら、まだ倒せてないかもしれないのに、倒せたかって口に出しちゃうこと。私はそれで倒せてなかったことが何度もある」

 

「なるほど……」

 

 

 

 そして、何気なく怪人を倒せたかどうか口にすると、ノクティちゃんからそれを咎められてしまう。

 

 どうやら、こういう場面で倒しきれたか口にしてしまうと、実はまだ倒せていなかったなんてことが度々あるみたいだ。

 

 多分、言霊みたいなものなんだろう。

 

 ただ、あの威力の魔法を真正面から受けた怪人が、まだ倒せてないなんてことはないと思うのだけど……。

 

 

 

「フザ、フザケルナ!」

 

「『ルミナ』」

 

 

 

 ……そんなこと、なかったわね。

 

 随分と小さくなっていたとはいえ、怪人はちゃんと生き残って私たちの方に飛びかかってきた。

 

 もちろん、不意打ちは人間相手にも何度もやられているから反応できる。

 

 でも、さすがにあのブラックホールを受けてもなお、生きているとは思いもしなかった。

 

 

 

「ほら、言った通り」

 

「さすがに予想していなかったわ」

 

「最近の怪人は結構しぶとい気がするから、より気をつける必要がある、と思う」

 

「そうね。ありがとう」

 

 

 

 この前から玲奈ちゃんに魔法を教えたりしていたこともあって、すっかり先生気分だったけれど、これはちょっと気を引き締めなければいけない。

 

 この歳になったとしても、学ぶべきことはまだまだたくさんある。

 

 覚えていて損な知識なんてそうそうないし、魔法少女になりたてだった頃みたいに知らないことはどんどん吸収していこう。

 

 

 

「それじゃ、私は先に失礼するわ」

 

「いいの? 外には人がたくさんいるし、私と一緒に出て行ったらそこそこ注目されると思うけど」

 

「大丈夫。私はさっき、あなたのファンの人をおどかしちゃったし、そもそも、外の人たちはあなたが無事に顔を見せてくれることを望んでいるはずよ」

 

「本当の私はこんなので、魔法少女ソレーヌみたいに変身前から明るいわけじゃないのに?」

 

 

 

 そして、ノクティちゃんの邪魔になる前に、私は早めに退散……といきたいところだったのだけど。

 

 私を信頼して弱音を吐き出してくれたのなら、そんな子を置いてどこかへ行くわけにはいかないわ。

 

 どうやらノクティちゃんは、自分に自信がないらしい。

 魔法少女ソレーヌ……は、玲奈ちゃんのことね。

 

 他人と比べる必要なんてない、と言いたいところだけれど、やっぱり、十代の頃は誰しも人と比べて自分を卑下してしまうもの。

 

 私にだって、魔法少女になったばかりの頃は、先輩たちとの実力があまりにも離れていることに絶望して、活動が上手くいかなかった時期はある。

 

 でも。

 

 

 

「一旦ちょっと、外に出てみましょ」

 

「え……?」

 

「いいからいいから。外に出てみれば、そんな不安は消し飛ぶわよ」

 

 

 

 私は、彼女に見てほしい景色がある。

 

 多分、彼女にとっては当たり前の景色なのかもしれないけれど、ショッピングモールの外に広がっているだろう光景は、私一人じゃ見ることができないと思う。

 

 ノクティちゃんに夢中になりすぎるあまり、戦いの様子を撮影しようとするファンがいるのは、あまり良くないことである。

 けれど、それは裏を返せば、そうさせてしまうほどにその人がノクティちゃんに夢中になっているということで。

 

 たとえ、人の前で見せている『魔法少女ノクティ』が本当の自分じゃなくても、ノクティちゃんを必要としている人たちは絶対にいるはずだ。

 

 

 

「ほら、ここから出てみなさい」

 

「いや、ここはただの出口……」

 

「私は後ろから見守っているから、安心して」

 

 

 

 普段は意識することがないのだろう。

 ノクティちゃんは、まだ私の意図を図りかねているみたいで、戸惑いの表情を浮かべている。

 

 大丈夫、きっと悪いようにはならない。

 こればっかりは、半世紀前から魔法少女をやっている私が保証する。

 

 そのまま、ノクティちゃんの背中を押してあげて、彼女が、ショッピングモールから出ると。

 

 

 

「ノクティだ! 今日もありがとう!」

 

「いつも町を守ってくれてありがとね〜!」

 

「あなたのおかげで私たちは平和に暮らせてるよ!」

 

 

 

 ショッピングモールの出入り口を囲っていた群衆から、割れんばかりの歓声が彼女に浴びせられる。

 

 その、どれもが魔法少女ノクティを讃える声で、彼女が恐れていたように、心配されていない、なんてことはない。

 

 この周りにいる人たちは皆、ノクティちゃんが無事に怪人を倒して帰ってくるのを待ち望んでいた人たちだろう。

 

 間違いなく、彼女は必要とされていたのだ。

 

 

 

「……みんな、ありがとー! これからも頑張るよ!」

 

 

 

 大歓声から一拍置いて、ノクティちゃんは集まった人たちへ感謝の気持ちを目一杯伝える。

 

 そこにはもう、ついさっきまで悩んでいた少女の姿はない。

 

 そこにいたのは、たくさんの人に必要とされ、感謝されている、なんとも頼もしい魔法少女だった。

 

 自分にとって当たり前になっていることでも、初心に立ち返ってみれば、意外と初めは当たり前じゃなかったことばかりなのよね。

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 そして、その数日後。

 私は、玲奈ちゃんとの約束で、訓練所に訪れていた。

 

 玲奈ちゃんは、毎回待ち合わせの時間より早く来ているようで、早い時は30分前にはいることもある。

 

 今日もまた、私よりも先に訓練場についているようだ。

 

 あれ? でも、玲奈ちゃんの他にもう一人いるような……?

 

 

 

「あ、幸子ちゃん! 今日ね、幸子ちゃんに会いたいっていう子がいたから連れてきたよ!」

 

「……私の名前、黒崎結衣。玲奈に魔法を教えてるって聞いたから来た。よろしく」

 

 

 

 ……どうやら、ノクティちゃんこと結衣ちゃんは、玲奈ちゃんと友達だったらしい。

 

 確かに、あの日言われた弱音の中に玲奈ちゃんの魔法少女名は混ざっていたし、変身前のことにも触れていたけれども。

 まさか、ここまで親しいとは思わなかった。

 

 世の中って、案外狭いものなのよねぇ。




みなさんの応援で一瞬だけオリジナル日間ランキングに顔を出せたみたいです
そして、ルーキーオリジナル日間は1位、ルーキー総合日間でも3位までこれました
この作品はまだまだ続くので、引き続き応援してくださると嬉しいです
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