「いやぁ、結衣ちゃんが知らない魔法少女の子に助けられたって聞いたから気になってたんだけど、幸子ちゃんだったんだね」
「ちょっと、玲奈」
「見ての通り、結衣ちゃんはそんなに人に興味があるわけじゃないから、もう一回会いたいって言われた時はびっくりしたよ〜」
「だから、恥ずかしいの」
結衣ちゃんと玲奈ちゃんは、意外にも随分と仲がいいようだ。
二人のタイプは結構違いそうなものだけど、そんなことは関係なく仲良くやれているのは良いことだ。
私は、仲の良い友達を作らないままこの歳まで来てしまったから、相談したりできる友達の大切さはよく分かっている。
しかも、ちょっと仲が良かった子たちも、ちゃんと連絡を取り続けてなかったせいで、今は何をしているのか分からない。
これではさすがに寂しいから、結衣ちゃんには玲奈ちゃんといつまでも仲良しのままでいてほしい。
「この前、お礼を言えなくてごめん。大事なことに気づかせてくれてありがとう」
「構わないわ。あの時は、私もあなたから教えられたことがあるし、あれで帳消しよ」
「私が貰ったものの方が大きいと思うけど」
「いいのよ。これくらいのことを気にする必要はないわ」
それにしても、結衣ちゃんがいい子すぎる。
私がやったことはほんの老婆心だったし、なんなら私はあの時悩んでいた結衣ちゃんの笑顔が見られるだけで十分。
そのお礼なんて、いるはずがないじゃない。
なんなら、世代的に考えれば、彼女たちは私の孫であってもおかしくないのだ。
そんな年の離れた子に見返りを求めるのは、どう考えたっておかしい。
だから、子供が貸し借りがどうとかなんて心配をする必要はないのよ。
あれは、私が勝手にやったことだから。
「ほら、結衣ちゃん。言ったでしょ? 幸子ちゃんは別に全然気にしてないって」
「うん」
「結衣ちゃんはたまに心配性になっちゃうけどさ、何かあったらわたしがなんとかするから大丈夫だよ!」
「玲奈は、抜けてるところがあるから信用できない」
「えぇ〜!?」
どうしてだろう。
結衣ちゃんと玲奈ちゃんが二人でくっついて話しているのを見ると、急に私はいらない気がしてきた。
何というか、玲奈ちゃんが妖精を見えるようにするための手伝いをやった時みたいな。
その時みたいに蚊帳の外にいる感じがして、絶妙に居心地が……。
……って、そういえば。
そもそも、私がここにいる理由は、玲奈ちゃんに魔法を教えるためだった。
私がここから離れてしまったら、玲奈ちゃんが今日ここに来た意味がなくなってしまうし、思い返せば結衣ちゃんも魔法を教えてもらいにきたと言っていた気がする。
危ない、危ない。
私の気の迷いで、二人の時間を無駄にしてしまうところだった。
気を取り直して、私が持っている魔法についての技術と知識を教えていこう。
「早速、この前の続きからやろうと思うのだけど……玲奈ちゃん、この前はどこまでやったかしら?」
「えー、覚えてないなぁ。でもこの前からずっと正確な魔法の操作を勉強してたから、多分それじゃない?」
「……これ、大丈夫なの?」
「まあ、そんな堅苦しくやる必要はないから、これでいいのよ」
前回までの内容をすっかり覚えていない私と玲奈ちゃんの姿に、結衣ちゃんは早くも不安を覚えているみたいだけど、彼女に魔法を教えるようになってからずっとこんなものだ。
大抵の場合、いつも何かを教えている途中で終わって、次回やるころには大体何をやったか忘れている。
稀に、二人とも前回の内容を覚えている時もあるけれど、結局、そのまた次にはどこまでやったか覚えていない。
そんな、行き当たりばったりを繰り返して、今日までやってきていた。
「いや、これメモとか取った方がいい」
「でもわたしはこれでも強くなれてるよ?」
「ダメ。絶対に効率が悪い」
とはいえ、結衣ちゃんがいう通り、効率という観点では、びっくりするくらい非効率なのだとは思う。
これまで、特に困ったことはなかったから、このまま進めてきたけれど、どうせだから今日の終わりには一旦メモでも取ってみようかしら。
メモを取るくらいだったら、別に数分もあれば終わるし、確かに結構いいアイデアな気がする。
これでいい、とは言ってみたけれど、さすがにこのままはちょっと怠惰すぎるかもしれない。
「とりあえず、今日から新しく結衣ちゃんもいることだし、最初から復習していきましょう」
「これ、ノートとか持ってくる?」
「いや、大丈夫よ。座学よりかは、自分で体験して覚えてほしいから。こういうのは多分今日だけ」
「じゃあ、ノートはいいか」
……でも、結衣ちゃんは結衣ちゃんで真面目すぎると思うの。
一応、これは私が玲奈ちゃんと結衣ちゃんに教える、という形式ではあるけれど、そんな専門的なものじゃないんだから。
もう少し肩の力を抜いて、のんびり受けてくれた方がきっと良いわよ。
そもそも、私自身、そこまで人に教えるのが上手いという自信がないし、そんなにガチガチになってまで聞くほど価値があるものは多分ないはず。
まあ、若い子たちにとって何がタメになるか分からないから、必要ないと思うもの以外はどんどん教えていくことにしている。
今日は、玲奈ちゃんにとっては二回目になっちゃうけれど、結衣ちゃんが苦手にしている魔法の操作について教えてみよう。
「そもそも、魔法はどうやったら上手に操作できる、と考えているかしら?」
「えっと……あ、この前教えてくれたイメージとか?」
「そうね。イメージは魔法を作り出す上で、一番大事なものよ。そしてもう一つは、身も蓋もないようだけど、魔法を発動する以前のところにある、魔力の感知。私はこの二つが大事だと思うわ」
私はこれでも、何だかんだ魔法少女をずっと続けている。
それなりに自論は混ざってしまっているけれど、魔法についての理解はもしかしたら現役の魔法少女の中でも一番かもしれない。
魔法の操作は、努力は一切関係なく才能がすべてと言われている。
昔の私は魔法の操作に関して結構下手な方で、何度も悔しい思いをしたことがある。
けれど、当時私が一番尊敬していた先輩から、イメージと体内の魔力の感知が足りないと言われて、それを意識するようになってから、私の魔法の操作精度は見違えるように変わった。
この二つさえ何とかなっていれば、いくら才能がなくたって、それなりには魔法を扱えるようになるのだ。
「私みたいに魔法を思いのままに動かすのが苦手でも、それを意識すれば変わる?」
「もちろんよ。私はこれで上手くなったし、玲奈ちゃんとか私以外の子でもちょっとした意識の違いだけでいきなり上手くなっていく子は多いわ」
「分かった。じゃあやってみる」
「……あ、初めは威力が弱い魔法で試すのがおすすめよ。もし暴発してしまった時にもすぐ対処できるから」
だから、結衣ちゃんもすぐに成長できると思う。
もしかしたら、私が何十年もかけて積み上げてきた技術もそんなに時間が経たないうちに抜かれてしまうかもしれない。
そう思うくらい、結衣ちゃんにはもちろん、玲奈ちゃんにもあり余るほどの才能がある。
若いっていうのはやっぱり羨ましいわね。
私も彼女たちに触発されてこの歳からでも頑張ろうとは思っているのだけれど、どうしても成長している実感がない。
やっぱり、何事も若いうちにやってみるのが大事なのよ。
もし若い頃の自分に何か言えるとしたら、怠けてないでもっと努力しろって言ってやりたいくらいだ。
「あ、ちょっと上手くいった?」
「えぇー、結衣ちゃん覚えるの早くない!? わたしはもうちょっとかかったと思うんだけど」
「玲奈はいらないこと考えてるからでしょ」
「そ、それは否定できない……!」
ほら、最初は上手く魔法を制御できてなかった結衣ちゃんが、五分もしないうちにもうコツを掴み始めている。
私が今から新しくこういったことを覚えようとしたって、絶対に一ヶ月近くはかかるはずなのに。
それを数回試してみるくらいでできちゃうのは、若さの成せる技よね。
私も、外見だけなら結衣ちゃんや玲奈ちゃんと大差ないのだけど、やっぱりこういうのは実年齢が関係あるのかもしれない。
最近、ちょっと忘れっぽい気がするし、ちょっと気をつけなければ。
「疲れた。意外と神経使う」
「でも今日だけでかなり成長できていると思うわよ。凄いじゃない」
「私はまだまだ。まずは玲奈に追いつくまで頑張る」
「わたしの方が先に始めてるんだから、そう簡単に抜かれるわけにはいかないよ〜!」
それから、どうしたら魔法を効率よく扱えるかなんて教えたりしていると、いつの間にか、一時間ほどが過ぎていた。
結衣ちゃんは、今日一日だけで本当に成長している。
この前、初めて玲奈ちゃんに教えた時もそうだったけれど、最近の子は一日で私の想像の範疇を超えてくるのが普通なの?
とはいえ、この子たちだけが特別な可能性だってまだある。
そう思っていないとやっていられない。
そして、私が現実から目を逸らすように二人に「また今度」と別れを告げようとした時。
何かを唐突に思い出したかのような表情をした玲奈ちゃんから、私は、とんでもないことを言われた。
「……あ、それと、幸子ちゃん! 昨日の夜に決めたんだけどさ、今度わたしと結衣ちゃんと幸子ちゃんで遊びに行かない?」
「へ?」
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