「暑い。何でこんな晴れてるの」
「えぇ~、晴れてる方が楽しいしこれくらいの天気の方がいいじゃん!」
「いや、さすがにここまで晴れてるのは辛いわよ。だって今日の昼って30度近くまで上がるんでしょう?」
「雨でどよーんってした空気になるよりかはいいと思うけれどなぁ」
あれから、ちょうど一週間。
私は、約束通り玲奈ちゃんたちと共に、遊園地を訪れていた。
あの時、一緒に遊びに行くことを提案されて、本当は断っておきたかったのだけれど、さすがに玲奈ちゃんの申し訳なさそうな顔を見てると……ね。
子供のお願いを断ることへの難しさを、ひしひしと痛感した。
別に、迷惑と言うわけじゃないのよ。
ただ、おばあちゃんにとって体力が有り余ってる若い子たちと遊ぶのは肉体的にも精神的にも、こう、キツイものがあるというか……。
それに、私にとって何が問題かと言うと、体力の問題だけはどうにかなってしまうこと。
久しぶりに本気で変身を解こうか迷ってしまった。
「遊園地に来たからには、やっぱりジェットコースターからじゃない!?」
「無理。最初はもう少し落ち着いたのにして」
「うーん……あのミニジェットコースターなんかでどう?」
「だから……一旦ジェットコースターから離れてって」
玲奈ちゃんは、まだ朝早いというのに元気いっぱいだ。
ただ、こればっかりは、私は結衣ちゃんの味方をさせてもらう。
せっかく、長く楽しむために午前中から遊園地に入ったのに、一番最初にジェットコースターなんてものに乗ってしまったら午後まで持つ気がしない。
最初はコーヒーカップとか、メリーゴーランドとか、そういったゆったりできるようなアトラクションに乗りたいわね。
お化け屋敷とか、そういった心臓がびっくりするようなアトラクションは後に回しましょ。
この歳になって幽霊はこの世にいないとは分かっているのだけれど、ああいうのはいまだに怖いのよねぇ。
「じゃあ、最近できたシューティングアトラクション行こうよ! なんか結構疲れるらしいよ!」
「まあ、そこでいいや」
何分か話し合った結果、最初に行くアトラクションは幽霊を銃で倒すというシューティングゲームに決まった。
……あれ? 結局、やめようとしてたはずの幽霊が出てくるところなのだけど?
まあでも、玲奈ちゃんが言うことには、そこまでびっくりするアトラクションではないらしいから、それを信じて付いていくことにしてみよう。
もらったパンフレットを見ても、幽霊というよりゆるふわなモンスターが出てくるタイプらしいから安心だ。
結衣ちゃんもここで良いって言ってくれているし、ゆるふわと見せかけて実は結構リアル調だったなんてこともきっとないはず。
そんなことは……ない……よね……?
◆◆◆
「ねえ玲奈ちゃん、怖くないって聞いていたのだけれど!?!?!?」
「ごめんごめん! それよりこのままだと負けちゃうから頑張って!」
「玲奈、ここから出たら覚えておいてよ」
これが、この前結衣ちゃんが言っていた『フラグ』というやつなのか。
私たちが玲奈ちゃんに連れていかれた先にあったアトラクションは、確かに入口こそデフォルメされた可愛らしいモンスターの着ぐるみが出迎えてくれたけれど、蓋を開けてみればこれだ。
VRというらしい、頭につけるゴーグルみたいなものを付けられた時からやけに嫌な予感がして来たのだけれど……。
アトラクションが始まった瞬間、パンフレットや入口にいたモンスターたちをできるだけ醜悪かつリアルにしたような得体の知れない化け物が大量に襲い掛かってきた。
あまりにも予想外だったものだから、年甲斐もなく悲鳴を上げてしまったくらいだ。
情けないことこの上ない。
本当に、幽霊だけには昔から弱いのよ……。
「ねえ玲奈、これどれくらいで終わるの?」
「分かんない! でもステージ制なのは確実だから、進めていけばその内終わるはずだよ!」
「わざと負けた方が早そう」
「それはダメだよ! 私たちで最後までクリアしよ!」
化け物が襲ってきている中でも、玲奈ちゃんは相変わらず元気だ。
それにしても、なんだかんだ言って結衣ちゃんもこういうのには耐性があるみたいなのよね。
私が、腰が引けながら恐る恐る銃を扱っているのに対して、玲奈ちゃんに不満を漏らしながらも、そこまで怖がる様子は見せずに淡々と化け物たちを銃で撃っていく。
どうして、こんな化け物たちを前にしているというのに何もないように動けるのか。
これがさっぱり分からない。
玲奈ちゃんは最後までやり切るつもりなようだし、早くこの地獄のような状況から解放されるためにも頑張ろう。
「あ、次で最終ステージになるみたいだよ。最後頑張っていこ~!」
「もう勘弁してちょうだい……」
「幸子ってこういうの苦手なんだ。苦手なものなんてなさそうだからちょっと意外」
「こういうのだけは本当に無理なのよ……」
それから、やっとのことで最後のステージまでやってきたものの、私はもうヘトヘトだ。
ここにたどり着く前の化け物たちとの戦いで、全ての気力を使い果たしてしまった。
正直なところ、もう後は玲奈ちゃんと結衣ちゃんに任せて私は後ろからちまちま攻撃を与えているだけでいたい。
けれど、今まで出てきた化け物たちを合体させたような風貌をしたボスは、どうやっても私に楽をさせてくれない。
私がちょっと気を抜いただけでも、何故かそれを察知して私だけを執拗に狙ってくる。
さっきまでの化け物たちは何発か銃を撃てば倒せたのに、このボスは玲奈ちゃんたちがもう数十発も叩き込んでいるのにいまだ倒れる気配がない。
このままでは、化け物を倒すどころか逆に私がやられてしまう。
「玲奈。幸子がもう少しでやられる」
「え。幸子ちゃん大丈夫!?」
「HPのところが赤くなっているのだけれど、これって大丈夫なのかしら?」
「それ瀕死じゃん! 結衣ちゃん、幸子ちゃんがやられる前にわたしたちで倒さないと!」
玲奈ちゃんたちは、私が倒されそうなことに気づいたみたいだけれど、視界が赤く点滅しているし、これは結構マズいのではないか。
それに、今まさに化け物の張り手が私の元に向かってきている。
うーん、これはダメそうね。
「あっ、幸子ちゃんが! 仇を取るよ!」
「いや、玲奈が倒すことに夢中で幸子の方を見てなかったのが悪いんじゃ……」
「うおおお、幸子ちゃんの仇だー!」
「ねえ、一人で全部解決しないで」
ちなみに、私がゲームオーバーになってしまったあと、玲奈ちゃんはいつも通りの調子のまま、無事最終ステージのボスを結衣ちゃんと倒すことに成功していた。
見ている分には楽しそうなのだけれど、実際これを体験するとなるとねぇ。
やけにリアルなせいで、まるで現実で化け物と相対しているみたいなのだ。
この中では攻撃を受けても大丈夫なのだと分かっていても、やっぱり怖いものは怖い。
命を賭けるような気分になるのは、既に何百人もの被害を出しているとびきり危険な怪人の合同討伐の時だけでこりごりよ。
「……ふう、本当にひどい目にあったわ」
「ね。玲奈の鬼畜。馬鹿。あんぽんたん」
「ごめんね……パンフレットにも小さく注意書きが書いてあるから気づいてるかなぁって思ったんだけど」
「いや、いくらなんでもこれは小さすぎるわよ。完全に可愛らしいモンスターの絵にしか目がいかなかったわ」
それから、これでもかというほど肝を冷やした私たちは、遊園地の中にある喫茶店でしばらく休むことにした。
こんなに疲れている状況でまた次のアトラクションに行く、というのはそれこそ私が途中で脱落してしまう。
幸い、私だけではなく結衣ちゃんも休みたいと思っていたみたいで、そのおかげもあってなんとか一息つけている。
もちろん、玲奈ちゃんはまだまだ元気いっぱいだ。
最近の若い子の体力は恐ろしい。
それにしても、改めてパンフレットを見てみても、あんなに怖いアトラクションだとはいまだに思えない。
確かに、玲奈ちゃんの言う通り、本当に小さく「中学生以下のお子様はご利用できません」とは書いてあるけれど……個人的には、もう少し対象年齢を引き上げてみても良いんじゃないかしら。
さすがに、あのアトラクションは刺激が強すぎるわよ。
「お待たせしました~ご注文のブラックコーヒーです~」
「え、幸子ちゃんってこんな大人っぽい味のコーヒーをいつも飲んでるの?」
「ええ、そうよ。これくらい苦くないとコーヒーという感じがしないもの」
「せめてミルクくらいはいれたら」
それと、どうやら最近の子たちはコーヒーというものをあまり飲まないらしい。
私にとってはいつも飲んでいる味でなんともないのだけれど、玲奈ちゃんや結衣ちゃんからは、苦くないのかと結構本気で心配された。
「幸子ちゃん、ちょっと一瞬だけ飲んでみてもいい?」
「いいわよ」
「それじゃ、いただきま~……に、苦い……」
私がなんともないように飲むのを見て、玲奈ちゃんがコーヒーに挑戦していたけれど、よほど飲み慣れていないのか少し口を付けただけで音を上げてしまう。
まさかこんなところで今の子たちとの違いを感じるとは……。
でも、こういう時間を過ごすのが結局一番楽しいのよね。
この休憩が終わったら、また彼女たちと一緒にたくさんのアトラクションを回りたい。