おばあちゃんは魔法少女をやめない 作:魔法少女(少女とは限らない)
「ふう、ここに来るのは久しぶりね」
あれから少しして、私は魔法少女協会の受付に訪れていた。
理由はもちろん、あのキーホルダーだ。
本当ならその日のうちに届けたかったのだが、すぐに新しい怪人発生の情報が入ってきたりと忙しく、来るのが遅れてしまった。
あの日の夜遅くにも一度入り口の正面まで行ったのだが、何故か開いていなかったのだ。
どうやら、今の魔法少女協会は二十四時間開いているわけではないらしい。
火急の用がある時はどうしているのだろう?
私だったら、急ぎの報告がある時にここが閉まっていたら困るどころではないんだけれど。
というか、そもそも受付なんて、私がよく訪れていた頃にはなかったはずだ。
少なくとも昔は、魔法少女協会に来るのはせいぜい魔法少女とその関係者くらいだった。
だけど、今は立派なロビーもあって。
全く魔法少女に関係なさそうな子供やその両親らしき大人が大勢いる。
もう、昔とは変わりすぎていて、随分と長いこと来ていない私には分からないことだらけだ。
「本日の御用はなんでしょうか? ……あ、魔法少女の適性検査を受けにきたのかな?」
「あー、えっと……」
受付に近づくや否や、二十代くらいの女性が私に笑顔で声をかけてきた。
だが、昔みたいにはいかない。
魔法少女フォーリュミナとしてではなく、一人の子供として私は対応されてしまっていた。
どうやら今の魔法少女は、私の時代のように妖精が選ぶのではなく、適性が高かった子が助けを受けながら魔法少女になるらしい。
だからロビーにあんなに子供がいたわけで、私もその一人だと思われているようだ。
「一応、魔法少女なのだけど」
「えっと、それなら認証カードは作ってる?」
「?」
「あれ、魔法少女になる時にみんな作ってるはずなんだけどな……」
……まいった。
私が来ていない間に一体何があったのか。
そんなものを作るなんて、誰からも聞かされていないんだけども。
受付の子は出来るだけ対応しようとしてくれているみたいだが、彼女にとって私は自分を魔法少女だと思い込んでいる子供なのだろう。
このままでは魔法を放ったりでもしない限りは、私が魔法少女であると証明出来ない。
とはいえ、こんな人が沢山いる場所で魔法を使うわけにもいかないし……。
と、私が困り果てていたその時。
「あ、森下さーん! この子、魔法少女になったばっかりであのカード持ってないんだって」
「え、そうなの?」
「そう! だから私と一緒に入れてあげて!」
突然、一人の女の子がやってきて、あれよという間に受付の子を説得していく。
その勢いのままバッグから取り出したカードを見せ、私は彼女と共に魔法少女用の通路へと案内される。
それから、エレベーターで上へ向かう途中、いかにも活発そうなその子は満面の笑みで私に話しかけてきた。
「ねぇ、やっぱりあなた魔法少女だよね? カードを持ってないみたいだけど、もしかして妖精さんに選ばれて魔法少女になったの?」
「まあ……そんな感じ……?」
「え、凄いよ! 今はもう妖精さんに選ばれた魔法少女はほとんどいないからね」
「……そうなの?」
やはり、若いというのは羨ましい。
その上とにかく眩しい。
私が魔法少女になりたてだった十代の頃も先輩たちからしてキラキラしていたんだろうか。
……いや、間違いなくこの子に比べたら遥かに及ばない気がする。
彼女からは変身をしていないこの状態でも、人を惹きつける力があることがよく分かる。
「私、妖精さんには会ったことがないから羨ましいなぁ」
「へぇ」
「見える人曰く、見えていないだけでそこにはいるらしいんだけど、今もここにいたりする?」
「まあ、いるにはいるわ。このエレベーターの中で跳ね回っているのが、あなたの妖精なんじゃないかしら?」
それでも、こんな才能に溢れていそうな子でも自分の妖精が見えていないのが意外だ。
主人に似てわんぱくそうな妖精で、すぐに繋がれてもおかしくなさそうなのに。
魔法少女は、基本みんな誰にも想像できないような孤独を抱えている。
それを和らげるのが妖精の大きな役割なはずだった。
……にも関わらず、その妖精が見えないというのは契約方法に問題でもあるのだろうか?
「やっぱりいるんだ! むむっ、この辺にいたりしない!?」
「逆よ。遊ばれてるわね」
「えー!? 困ったなぁ……」
とはいえ、少なくとも妖精は彼女に懐いているみたいだから、大きな問題はないはず。
そういったことも含めて、これから会おうとしている人物に聞いてみよう。
ちょうどエレベーターも目的の階に着くようだし。
「そうだ。別れる前に名前を聞いてもいい?」
「……幸子よ。幸せの幸に子供の子」
「幸子ちゃんね、私は
そして、エレベーターが着いた途端、女の子、玲奈ちゃんは走り去ってしまう。
彼女が向かった先には、何人かの魔法少女がいて、周りには人数分の妖精が集まっている。
けれど、妖精の姿が見えている子はいないようで、構ってほしいそうな妖精に目を向ける子は一人もいなかった。
妖精が見えないなんて、私の同期たちが活躍していた頃は魔法少女として致命的なことだったのに。
才能がありそうな玲奈ちゃんも、それ以外の子たちも見えてないのは、どこかに問題があるとしか思えない。
今の時代では、それがもう当たり前のことかもしれない。
だけど、この違和感を放っておくのはダメだと私の直感が告げている。
このままだと、いつか取り返しのつかないことが起こってしまう。
私には、そんな根拠のない確信があった。
◆◆◆
……どうやら、私は迷ってしまったようである。
この歳になっての迷子だ。
恥ずかしくて仕方がないが、言い訳はしない。
ただ、いくらなんでも昔と内装が変わりすぎているとは思う。
普通、魔法少女は五年もすれば辞めていくが、中には私のように長く続ける人がいるかもしれないじゃないか。
今のところ、私くらいまで続けるのはともかく、成人してからも魔法少女を続けている例は見たことがないけれど。
昔から魔法少女に関わっていて、それでいて今も関わり続けている、なんて。
そんな都合のいい人間がここにいてくれたら……。
「あっ」
「えっ」
あ、ちょうど良いところに。
条件に合致する人間が、今まさに私の前を通りかかってくれた。
「……前に会った時と比べて、随分と頭が寂しくなってきたわね」
「余計なお世話だ……が。そうか、お前は変わらないのか」
「そうよ、一番初めに変身した姿のまま。解いてあげましょうか? きっとあなたと同じ歳のおばあちゃんになるだけよ」
そう、この坊主頭のおじいさんこそが、私が今日探していた相手。
私が少女だった頃からの付き合いである、古い知り合いだ。
私がよく知る魔法少女協会は、とにかくなんでもやっていた。
年功序列なのは変わりないが、使えると判断されれば誰でも関わることができた。
彼の場合は、彼女が魔法少女だったから助けになりたい、という理由だった。
仕事内容は雑用ばかりだったが、魔法少女たちから信頼されていたと思う。
ちなみに、彼の彼女はもうこの世にいない。
引退直前で何があったのか怪人化し、被害が大きくなる前に私が殺したからだ。
彼女がいなくなった今も魔法少女に関わっているのは、きっと未練が残っているのだろう。
酷い言い方にはなるかもしれないが、魔法少女そのものに彼女の影を追い続けているんだと思う。
まあ、私も過去に引っ張られている人間の一人だから、あまり彼に口出しすることはできないのだけど。
長くこの界隈にいる人間は、ほとんどが訳ありだ。
「それで、久しぶりにここに来たってことは何か用事があるんだろう?」
「さすがムサシ。よく分かっているじゃない」
「お世辞はいいから早く要件を話せ」
うん、せっかちなのは昔と変わっていない。
久しぶりに会った知り合いの変わっていないところを見つけるとちょっと嬉しいものだ。
「一つはこれね。この前倒した怪人が残したものよ。できたらその人の家族に渡してちょうだい」
「……間違いなく受け取りは拒否されると思うが、いいのか?」
「たまにはいるでしょ。受け取ってくれる人も」
とりあえず、一つ目の用事は手短に済ませることにする。
彼が言うように、怪人の亡骸から生まれる遺品は忌避されることが多い。
だが、怪人になった人間は亡骸も残らないこともあって。
たとえ得体の知れないものであっても、生きた証とも言えるそれを大切にする遺族は、決して少なくない。
今回どうなるかは分からないけれど、私にこれ以上できることはない。
この後のことは私の仕事ではないし、知る由もないだろう。
本題は、ここからだ。
「それと、もう一つ気になっていることがあるのだけれど……今の魔法少女は、一体どんな方法で選んでいるの?」
「どんなって言っても適性が高い子を選んでいるだけだが」
玲奈ちゃんに会ってからずっと考えている。
私が魔法少女たちと交流していた頃は、妖精が見えない魔法少女なんてまずいなかった。
それどころか、みんなコミュニケーションも取れていた。
なのに、それから四半世紀から半世紀が経っただけでここまで変わるのは絶対におかしい。
ムサシは話を濁そうとする。
だが、そうはさせない。
「じゃあ、なんで妖精が見えていない子がいるの?」
「……」
「分かるわよ。正規の方法で契約を結んでいないんでしょう?」
私が推測を伝えれば、案の定、彼は苦虫を噛み潰したような顔をした。
これは確実に隠したいことがある顔だ。
さあ、一体彼はどんな答えを聞かせてくれるのかしら?
ここからだんだん闇深エピソードを開示していきます