おばあちゃんは魔法少女をやめない 作:魔法少女(少女とは限らない)
今日は、玲奈ちゃんが妖精を見れるようにするお手伝いをする日だ。
前回とは違い、ちゃんと認証用のカードを持っている私は前回のように受付で止められることもない。
ただ、やっぱり受付の女性の顔は固い。
一体ムサシはこの子にどんなことを吹き込んだんだろう。
結局、あの日家に帰ってから私のことを調べてみたのだけれど、別に私の活躍が盛られているとか、そういうのはなかった。
それより、私の参加した怪人討伐とかが全部しっかりとまとめられていて怖かった。
最近のはともかく、どうして遥か昔に参加した時のまで網羅しているんだろう。
ちなみに、そのサイトによると私は大規模な怪人討伐は皆勤賞らしい。
こんなに嬉しくない皆勤賞が、他にあるだろうか。
「さすがに、二度目だと結構スムーズにいくわねぇ……」
この前は受付で時間を取られてしまったら気づかなかったけど、普通はこんなに手間をかけずに進めるものなのか。
最低限のセキュリティしかなかった昔とそこまで早さが変わらない気がして、技術の進化を感じる。
今の魔法少女には連絡用のスマホが支給されているらしいし、私が若かった頃とは何もかもが違う。
今を生きる魔法少女たちに関わるからには、これから私が慣れていかないといけない。
彼女たちの流行りについていけない、なんてことがなければいいけれど。
「あ、幸子ちゃん! 妖精が見えるようになるためのお手伝いをしてくれる人って幸子ちゃんだったんだ!」
「そうよ、これからよろしくね」
そして、待ち合わせ場所である訓練場にいくと、玲奈ちゃんが満面の笑みを浮かべて待っていた。
良かった、どうやらムサシはまだ、私の魔法少女名を玲奈ちゃんに言っていないようだ。
これで玲奈ちゃんに敬語なんて使われてしまった日には、心が折れていたかもしれない。
「一応、聞くけれど、妖精は見えていないのよね?」
「うん、何度もここかなって探してみたけれど見えなかったよ」
「すぐに見えるようになるわよ。あなたはきっと才能があるから」
「ええっ!? 嬉しいなぁ〜」
彼女の妖精は、相変わらず前のように彼女の周りを跳ね回っている。
この前までなら微笑ましいだけの光景だったこれも、ムサシから話を聞いた今では色んなことを考えてしまう。
彼女を嫌っている様子はないと思うのだけど……せめて妖精が何を考えているか分かればなぁ。
まあ一日で解決するような問題ではないと思うから、これからゆっくりやっていこう。
「今日はとりあえず、妖精そのものについて話そうかしら」
「そういえば、私妖精さんについてよく知らないんだよね。私たちを強くしてくれる? っていうのは聞いたことがあるんだけど」
「概ねその認識で間違っていないわよ」
今の魔法少女の子たちにとって妖精がどんな扱いなのかはよく知らないけれど。
少なくとも、玲奈ちゃんの認識は大きく外れているというわけではない。
妖精と対話をするためには、まず人間が妖精を理解する必要がある。
だからこそ、それが疎かになっていなくて良かった。
この調子なら、思っていたより早く妖精との対話ができるようになるかもしれない。
やっぱりこの子、なんだかんだ才能があるのよね。
「結構昔の話なのだけれど、魔法少女になる子は大体魔法少女になる前から妖精が見えていたのよね」
「えぇ……凄すぎない!?」
「まあ、その頃は妖精が今より一般的だったのよ。今じゃ伝説的存在なんでしょう?」
「確かに、周りで妖精を信じてる友達はほとんどいない……かも?」
私が思うに、妖精が見えない一番の原因は妖精が空想の存在になってしまった事だ。
私たちの時代は妖精が近くにいる事が当たり前だったし、それを疑問に思う人もいなかった。
だからこそ、妖精は私たちに見えていたわけで、妖精が遠い存在となってしまった今は妖精が見える子がいなくなったんだと思う。
ムサシが契約の方法を変えたことはもちろんだけどど、たぶん、それ以前から妖精の存在が信じられなくなっていたんじゃないだろうか。
「私たちが気づいていないだけで、魔法少女のみんなには妖精さんが近くにいるってこと?」
「そうね。それに、魔法少女じゃない子を気に入った妖精が勝手についていることもあるわ」
「へぇ〜、まだ実感がわかないけど、妖精さんって近くにそんなにいるんだね」
とはいえ、この調子で玲奈ちゃんが妖精の存在を身近に感じるようになっていけば、妖精の姿を捉える事ができるのはもうすぐそこだ。
妖精は、いつでも近くにいる。
その事が当たり前だと思えないと、いくら才能があっても妖精を見ることはできない。
その点、妖精がいる世界というのを受け入れるのが早いのが良かった。
若いからというのはもちろんある。
けれど、ここまで早く飲み込んで、かつちゃんと理解までするということを若かった頃の私はできなかった。
正直、それができる彼女のことを、私は素直に凄いと思うし、羨ましくもある。
まあ、私が妬んだところで仕方がないし、玲奈ちゃんにはこのまま変わらずに成長していってほしい。
「それじゃ、いったん休憩しましょうか。話しているだけっていうのは疲れるでしょう?」
「いいよ! ……あ、それと休憩が終わったらさ、ちょっと戦ってみてもいいかな?」
「問題ないわ。私も、そろそろ体を動かしたいもの」
話疲れたことあって、一度休憩を挟むことにした。
忘れかけていたが、ここは訓練場だ。
一応、話す片手間に魔法の的に打ったりはしていたしたいたけれど、話しているだけなのは勿体無い。
というわけで、玲奈ちゃんから提案もあったことだしちょっと戦ってみようと思う。
そういえば、今気づいたけれど私は玲奈ちゃんの実力を知らない。
ムサシも才能があるって言っている子だ。
いくら妖精が見えていないとはいっても、それなりの実力はあるはず。
妖精が見えない現時点でどれくらいの強さを出してくれるのか楽しみだ。
◆◆◆
「いつでも行けるわよ」
「おっけ〜、じゃあいざ尋常にっ! ……って、幸子ちゃん!? 変身しなくていいの!?」
「いや、私は常に変身しているから……」
「えっ」
そして、休憩も終わり勝負をする……その、直前で。
たった今気づいたのか、私が常に変身していることに玲奈ちゃんがめちゃくちゃ驚いている。
そういえば、彼女にはまだこのことを言っていない。
私自身、もう何十年もこのまま生きているせいで、完全に伝えるのを忘れていた。
もっと言えば、ここ数年は新しい知り合いが増えることが全くなかったから、当然知られているものだと勘違いしていた。
「え、幸子ちゃん、ずっと変身し続けることってそもそもできるの?」
「……少なくとも、私はできたわ」
「えー! 私も試したことあるけど一日も持たなかったよ〜……妖精さんが見えれば、私もそういう事ができるのかなぁ」
「いや、これに関しては妖精は関係ないんじゃないかしら」
玲奈ちゃんは、変身前と変わらない大袈裟な手振りでこれでもかと驚きを表現している。
やっぱり、魔法少女は変身前も変身後も変わらないわよね。
変身をちょっと解除してみて、とせがまれたが、彼女と違って私の変身前はおばあちゃんなのだ。
さすがに変身を解除するわけにはいかない。
残念そうにされるのは良心が痛むが、これだけは譲れない。
というか、彼女も嫌だろう。
年下だと思いながら喋っていた相手がおばあちゃんだなんて。
「まあ、ともかく早くやりましょ」
「ああー、誤魔化された……」
「ほら、いくわよ。『ルミナ』」
「先制攻撃は卑怯だよ〜、『シャイン!』」
玲奈ちゃんの魔法少女姿は、オレンジ色を基調としたフリフリのドレス。
モチーフは……放った魔法からも考えると、『太陽』というところだろうか。
『光』が関わるという点では、私と似ている。
ただ、どちらかというと、玲奈ちゃんの方が周りを明るく照らす感じがする。
私の能力のイメージは、暗闇に差し込む一筋の光、みたいな感じなのだ。
やっぱり若さなのかしらね……。
「まだまだ続けるわよ」
「そんなにたくさんの魔法は捌けないって幸子ちゃん!」
「そう言う割には捌けてるわ。ほら、追加」
「わ〜!? 幸子ちゃんって見た目によらずドSじゃない!?」
私の魔法の応酬に、口では弱音を吐いている玲奈ちゃん。
だけど、その焦った声色と言い草にしてはかなり余裕がありそう。
飛び回り続けて、時には死角からも魔法を出しているのに、玲奈ちゃんは回避と撃墜を使い分けて耐え続ける。
それどころか、私の魔法が止んだ一瞬を逃さず、玲奈ちゃん側からも狙い澄ました魔法を時々放ってくる。
確かに、これはセンスがあるとしか言いようがない。
あのムサシも褒めるわけだ。
「幸子ちゃん、いくらなんでも強すぎない!? 私、模擬戦負けた事ないはずなんだけど……」
「まあまあ、色々あるのよ」
それでも、流石にこの戦いのペースは私が握っている。
このまま続ければ、いつか玲奈ちゃんは間違いなく私の魔法に当たる。
だが、玲奈ちゃんはここで終わらなかった。
「妖精さん! ちょっとだけでいいから私に力を貸して〜!」
「……それは、天才っていうレベルじゃなくないかしら?」
「幸子ちゃん。なんか力が湧いてきた気がする!」
なんと、この土壇場で妖精に助けを求め、希薄だった繋がりをいきなり強めたのだ。
これはさすがに、手加減している場合じゃないわね。
私も、久しぶりの本気を出してみよう。
幸子は地味にバトルジャンキーです
少女の頃からずっと戦ってきましたからね、仕方ないですね