おばあちゃんは魔法少女をやめない 作:魔法少女(少女とは限らない)
一体全体、スマホの操作が簡単だなんてことを初めに言い出したのは、どこの誰なんだろうか。
行き交う街の人々が、さも当然のようにスマホをいじっているのを眺めながら、私はそんなことを思う。
相棒もスマホショップの店員も、スマホは操作方法が直感的に分かるから簡単だと言っていた。
でも、スマホを手に入れてから既に半月も経っているというのに、私は、未だに機能が覚えられず、ガラケーとは勝手の違うスマホに苦戦を強いられていた。
「あれ、パスワードはなんだったかしら……」
「顔認証をつけているから、それを使って開くのだ。あと、パスワードは多分生年月日なのだ」
「ああ、そういえば、そんな機能もあったわね」
「パスワードはガラケーにもついてたのだ。それを忘れられるのは普通に困るのだ」
歳のせいなのか、絶対に忘れないだろうと思っていたパスワードまでもが怪しいという始末。
ただ、それでも私はスマホを扱うことを諦めるわけにはいかない。
何故なら、このスマホには、私の唯一の友達である、玲奈ちゃんの連絡先が入っているのだ。
一応、ムサシの連絡先も入ってはいるものの、彼とは付き合いが長すぎて
友達百人できるかな、なんて歌があるけれど、私の連絡アプリ内での友達が百人を超える日がくることはあるんだろうか。
まあ、その辺はおいおい増やしていけたらいい。
今はまだ、玲奈ちゃんから来る連絡を楽しみにしながら、たまにスマホを確認するくらいで十分だ。
「ちなみに、連絡がどれくらい来ているかは、アプリの右上に出る数字で分かるのだ」
「え、この数字ってそういうことなの?」
「そうなのだ。幸子が連絡を確認したら、消える仕組みになっているのだ」
「へぇ〜」
まだまだ、私には分かっていないことが沢山あって、相棒には、毎日毎日世話になっている。
彼? は私より長く生きているはずなのに、どうして現代の機器の扱いにここまで差がついてしまったんだろう……。
妖精間でしか使えない連絡網なんてものを持っていたりするんだろうか。
私が見てきた限り、相棒が私のそばを長い時間離れていたことはほとんどないと思うんだけど。
やけに情報通なのが、どうも分からない。
まあ、身近に分からないことを質問できる相手がいるのは嬉しいし、別にそこまで気にしているわけではないのだけど。
でも、どうやって、新しい時代についていっているのかは、やっぱり時代に置いて行かれている一人の人間として、ちょっと知っておきたいわよね。
後で、それとなく聞いてみようかしら。
「……あ、幸子。近くで怪人が発生したのだ」
「あら、急ね。場所はどこかしら?」
「うぅんと、ショッピングモールのところだと思うのだ」
「あそこ? 随分と珍しいわね。怪人が発生するような理由はないと思うけれど……怪人が出たのなら、行く以外の選択肢はないわ」
だけど、今はそれよりも優先しなければいけないことができてしまった。
ここしばらく、私の近くで怪人は生まれていなかったから、意外と久しぶりの戦いかもしれない。
まあ、久しぶりだろうとやることは変わらない。
街の人たちに被害が出る前に、怪人を倒すまでだ。
怪人が発生したショッピングモールは、私が魔法少女になったばかりの頃からある、この街の顔と言っても過言ではない建物だ。
今も、休日には昔と変わらず家族連れや、単に買い物に来たりする人で溢れていている。
私の記憶が正しければ、ここで最後に怪人が出たのは四半世紀前くらいのはず。
全ての人は、怪人となる可能性を抱えて生きているわけだから、どこだろうと怪人は生まれてしまう。
でも、ここみたいに活気がある場所で、怪人が生まれるとは思えないのだけど……。
「大丈夫、私が来たよ! 後は私に任せて、みんなはここから離れて!」
おっと。
どうやら、私よりも先にここに着いた魔法少女がいるみたいだ。
衣装は黒を基調としていて、玲奈ちゃんと対になるような衣装を身に纏っている。
この子、どこかで見たことがある気がするのだけど……。
……あ、思い出した。
この前倒した怪人が持っていた、キーホルダーに描かれていた魔法少女の子だ。
最近人気らしいってことは知っていたけれど、まさか、ここ周辺で活動していたとは知らなかった。
「魔法少女ノクティだ!」
「初めて生で見れた……!」
「可愛い……こっち向いてー!」
それにしても、さすがの人気だ。
これが私だったら、間違いなくこうはいかないだろう。
でも、いくらこの子のことを見たいからといって、これから怪人と相対するというのに、野次馬根性でこの場に残ろうとするのはいただけない。
こんなに人がいたら、どんな魔法少女だろうと、この人たちのことを気にしてしまって、心置きなく戦うことなんてできないに決まっている。
ここは、私があの子の代わりに嫌われ役をやるとしよう。
「ごめんなさいね。もう少し離れてもらえるかしら?」
「えー? でもここからじゃないとノクティちゃんの戦ってる姿が撮れないじゃん!」
「はぁ……あなたは知らないかもしれないけれど、魔法少女の魔法は思ったよりも強力なのよ? ほら」
「えっ、あっ壁が……ご、ごめんなさいっ!」
全く、今の若い子たちはどんなことを教えられているのか。
魔法少女が戦っている姿をこんな撮影しようとするなんて。
これで怪人の攻撃が自分の方に飛んできたらどうするつもりなのかしら。
まさか、あの子にわざわざ魔法を使わせるつもりだったりしないわよね?
怪人と戦っている最中の魔法少女に、そこまで求めるのはお門違いにもほどがある。
「……ありがとう。助かった」
「手伝った方がいいかしら? そこそこ強そうな気配がするのだけど」
「大丈夫。私が全部一人で終わらせるから」
脅しの効果もあって、周りに人がいなくなると、ノクティちゃんが私に話しかけてくる。
さっきまでの印象とは違って、結構大人しめの子らしい。
とはいえ、自分なりのこだわりというか、意志はちゃんとあるみたいで、手助けはしないでほしいと言われた。
ショッピングモールの奥に潜んでいる怪人は結構強そうなのだけど、本人がそう言うなら、その意思を尊重することにしよう。
ただ、全部任せて最悪の結果になるのは見たくないし、一応後ろで援護の準備だけはしておく。
さすがに、それくらいは許してほしい。
「なんでついてくるの」
「まあ、邪魔はしないから。一人よりかは二人の方がいいじゃない? ……こっちに飛んでくる攻撃は全部自分で防ぐから、そこは安心して戦ってちょうだい」
「まあ、そう言うなら」
そして、なんとかノクティちゃんの許しももらったところで、ショッピングモールの奥へと私たちは進んでいく。
いつもなら、親子連れがたくさんいるショッピングモールも、やっぱり閑散としているとなんだか不気味だ。
だけど、ノクティちゃんは、そんなことを考えてないのか、迷いのない足取りで真っすぐ怪人の気配がする方へ進んでいく。
それにしても、怪人は入り口から結構離れた、奥の方で発生したみたいだ。
それでも、お客さんはみんな避難できているようだから、なんだかんだいって、今は昔と比べたらマシなのかもしれない。
ついさっき、自分の意思で残ろうとしていたよく分からない子はいたけれどね。
「……クルナ」
「最近、人間と比べて明らかに大きい怪人が増えたわよねぇ」
「分かる」
私たちの目当てである怪人は、とある化粧品を扱う店舗の前で品物を破壊し回っていた。
そして、その体躯は相変わらず私たちの三倍はあろうかという巨体。
腕が筋肉らしき何かで膨れ上がっているのが特徴的で、いかにもそれを活かした攻撃を繰り出してきそうだ。
「オレヲ……オレヲクビニシタノガワルインダ! オレハユウシュウダッタハズナノニ!」
「ッ!? バインド!」
「? ナンダァ……?」
怪人は、いきなり私たちの元へ突っ込んでくるが、そこはノクティちゃんが対処する。
闇を使って身動きが取れないようにして、怪人の体をその場に固定した。
とはいえ、怪人の力はすさまじく、今にも拘束を突破してきそうな勢いだ。
ノクティちゃんは、今のうちに威力の高い魔法を叩き込もうとしているみたいだけど、大きく膨らんだ腕に阻まれ、攻撃が通っているようには見えない。
このままでは、怪人が拘束を破り、暴れ出してしまう。
「動きを止める役だけ、代わってもいいかしら?」
「……お願い。私の魔法じゃ止められない」
「じゃあ攻撃は任せたわよ。時間をかければ倒すことは出来るでしょう?」
「分かった」
というわけで、ここでバトンタッチ。
多分、力に特化していない、普通の怪人だったら、この拘束でも大丈夫だ。
でも、今回は相手が悪い。
この程度の拘束じゃ、ちょっと力があるだけの怪人にすら、もしかすると突破されてしまいかねない。
ここは少し、私なりのお手本を見せてあげよう。