本牧ふ頭には、巨大なガントリークレーンが立ち並び、地面にはコンテナが積み重なり、その間をフォークリフトが忙しく走り回っていた。
その間をすり抜けるようにして、荷台に黒いケースを載せた一台のピックアップトラックーートヨタ・ハイラックス(5代目)が猛スピードで走っていた。「急げ!」と運転する男は自信の運転する車へ向かって怒鳴った。その直後に、覆面パトカーのサイレン音とレパードのV6エンジン音が後方から響いた。「逃がさねぇよ。」とユージがアクセルを踏み込み、紺色のレパードがハイラックスとの距離を一気に詰めた。直後に、ハイラックスの助手席にいた男が拳銃ーーベレッタM92を構えてレパードに向けて発砲したが、弾は当たらなかった。
タカは助手席から双眼鏡を覗くと、ユージに「二人。ケースを積んでる。」と言った。ユージは、「武器か?」と尋ね、タカは「かもしれない。」と返した。
やがて、埠頭でハイラックスが急旋回してコンテナの間へと飛び込んだ。ユージは「読めてる。」と呟いてレパードを滑るように旋回させた。
男がハイラックスの窓からパンパンと拳銃を撃つが、レパードの車体をかすめるだけで当たらなかった。
それを見たユージとタカはそれぞれ、「おいおい、朝から元気だな。」「弁償してもらうぞ。」と言った。そしてタカはレパードの助手席の窓から拳銃ーーコルト・M1911を構え、タイヤを狙って発砲した。パン!という音とともにハイラックス後輪が破裂し、車体が横に滑ってコンテナへ激突した。するとすぐにドンッ!という音がして煙が上がった。
二人の犯人は動けなくなったハイラックスから飛び降りると、ケースを抱え、走って逃走した。それを見たユージはレパードに急ブレーキをかけて停め、タカとともにすぐに降車して犯人達を追いかけた。犯人二人はバラバラに逃げたため、タカとユージは別々の方向へ追いかけた。
タカは犯人の一人を追って港湾施設へと飛び込んだ。そこには、多くの鉄骨やコンテナや積み荷が集積されていた。犯人はタカの姿を見つけると、振り返ってベレッタを撃ってきた。しかしタカは犯人からの銃撃を避けると、コンテナと積み荷の隙間に飛び込んだ。そして「そんな腕じゃ刑事はやれないぜ。」と犯人に向かって言った。タカはM1911を構えて隙間から飛び出し、犯人とは別の方向に数発発砲した。犯人がそれに気を取られていると、いつの間にかタカは犯人の懐に入り込み、次の瞬間には犯人の拳銃をたたき落として、「終わりだ。」の声とともに犯人を取り押さえていた。
その頃、ユージももう一人の犯人を追い詰めていた。ユージは、「観念しろ。」と言ったが犯人の男は不敵に笑った。そして、「終わるのは……俺じゃない。」と言って犯人は何かを首筋に注射した。
次の瞬間、犯人の男は「ぐっ……!」といううめき声を上げて突然苦しみだし、身体を押さえた。そこに、もうひとりの犯人を拘束し終えて、後続の警官に引き渡したタカがやってきた。この光景を見たタカは「薬か?」と言ったが、ユージは「いや、違う。」と返した。みるみるうちに男の皮膚が変色し、全身から紫色の霧が立ち上った。そして、男の体はかろうじて人の形を保ちつつも巨大化して異様な姿となり始めた。周囲で仕事をしていた港湾作業員達も驚き、悲鳴を上げて逃げ回った。「あれは……!人間荒魂だ!」ユージはすぐに港署から支給された携帯電話をを取ると、
「こちら大下!本牧ふ頭で人間荒魂発生!特別刀剣類管理局へ応援要請!」と港署へ向けて連絡した
その間に男は完全に異形へ変貌する。全身が巨大化し、腕が刃のように変化して咆哮した。異形化した男のすさまじい腕力でコンテナが吹き飛ばされた。
ユージは、「他の警官は港湾作業員の避難誘導を!俺たちが人間荒魂に対処する!」と言った。それを聞いた現場にいた他の警官は、港湾作業員の避難誘導を始めた。
タカはM1911を構えて三発発砲し全弾命中した。しかし、人間荒魂と化した犯人には効かず、タカは「効かねぇ。」と言った。ユージも拳銃ーースミス&ウェッソンM586を三発発砲して全弾命中したが、全く効かなかった。タカとユージからの銃撃をはじいた人間荒魂は、咆吼をあげながらゆっくりと前進した。「やっぱり人間荒魂相手じゃ拳銃じゃ無理か。」とユージが言った。これは警察も十分承知している現実だった。
人間が相手なら警察。荒魂なら刀使。それが日本のルールだった。
その時、遠くからサイレンの音が鳴り、こちらに近づいてきた。それは四台の車両からなる車列だった。まずは白いランドクルーザー80、続いてY32セドリック、さらに73式大型トラック、最後尾にハイエース。これらは、警視庁特別刀剣類管理局の傘下にある、特別祭祀機動隊の車両だった。四台は一糸乱れぬ隊列で現場へ到着し、停車するや否や、機動隊員と制服姿の9人の少女達が出てきた。「現場は警察が確保済みです!」彼ら彼女らに向かってユージが言った。すると彼ら彼女らからは、「ありがとうございます!」という返答が返ってきた。
タカが振り返って「現場に着くのが早いな。」と言い、ユージは「さすが専門家だ。」と感心した。
9人の少女達が、「鎌府女学院特祭隊!出動!」と声を張り上げ、展開した。先頭に立つのは、黒髪をなびかせた高校一年生――折神紫。その隣には、木刀を肩に担ぐような気楽さで御刀を構える、底抜けに明るい藤原美奈都。さらに、生真面目な表情の柊篝、包容力ある鏡島江麻、ほんわかした笑みを浮かべる吉野いろは、寡黙な伏見結月、柔和な折神朱音、元気いっぱいの新見紗南、そして紫を見つめる相模雪那が続く。九人は迷いなく現場へ散開した。
美奈都はタカとユージを見るなり、にっと笑って言った。「刑事さんたち、ここは任せて!」タカは少し口角を上げ、「頼もしいな。」と言った。紫が静かに一礼し、「港署の皆さん、ご協力ありがとうございます。ここからは私たちが引き継ぎます。」と言った。
篝はすでに御刀を抜いて「一般人の避難を優先してください!」と言った。それに対してユージは頷くと、「了解。人払いは任せろ。」と言った。そして、9人の刀使は人間荒魂に向かっていった。
港の風が吹き抜ける。
警察が人々を守り、刀使が荒魂へ向かう。
二つの組織がこの事件において初めて肩を並べた瞬間だった。