プロローグとして、大体の雰囲気を伝えるため、中盤くらいの場面からお見せしたいと思います。
プロローグ~旅路~
「へへへ、お嬢ちゃん、死にたくなけりゃ身包みおいてきな!」
垢塗れで悪臭を放つ不潔な男が山道脇の茂みから飛び出し、一人でノコノコ歩いてきた獲物に、サビだらけの山刀を見せつけた。
男は舌なめずりをして、血と錆で汚れた刀身を振り上げて誇示する。
「……」
獲物とされた少女は黙りこんだままゆっくりと右手を、男の方に伸ばした。
「あん? 何の」
次の瞬間。ずばんッと音が響いて男の首が飛び、血しぶきが舞う。
少女の右手から黒い影が伸びるように飛び出し、黒い曲刃に変形して、その首を刈ったのだ。
「……うぅ」
鉄くさい血の匂いと不潔な獣のような匂いが混じった異臭があたりに満ち、黒髪をツーサイドアップにまとめた小柄な少女が眉をしかめる。
「もぅ、ママのドレスがよごれちゃったじゃない!」
「いやいやいや! そうじゃないだろミリア。殺人への躊躇とか、罪悪感じゃないのかよ!」
その場には少女しかいないというのに、男の声が少女に話しかけていた。
「なんで? 敵は殺さなきゃダメだよね」
「いや、まぁ、アイツはどうみても野盗だったけどさぁ。それでも『さつじんき』みたいな魔物じゃないんだぞ。最低な奴かも知れんが、それでもミリアと同じ人間なんだぜ?」
その少女の右手は黒い靄を放つ影のようなものに覆われており、その表面には邪悪そうにつりあがった表情の目と口が浮かんでいた。
「ん~、よくわかんない!」
「ミリア……」
不思議そうな顔をするミリアと呼ばれた少女の反応を見て、彼女の右手にいる黒い影はしょんぼりとした表情を浮かべる。
「なぁミリア。人間が相手ならさ、せめて半殺しくらいにしないか? 俺はミリアに人を殺してほしくないんだよ」
「めんどくさいからヤダ。この前それで不意打ちされたし……って、思い出したら腹立ってきた! アイツ、ドレスを破いたよね!?」
ミリアが苛々した様子で眉間に皺を寄せ、怒りの形相を浮かべる。
それにあわせるように、右手の靄が増え、影が脈動するように蠢いた。
「こら、落ち着けって! 街に着いたら好きなもん食べていいからさ! 奮発して、2つまで買い食いOKだ!」
「ホント!? お兄ちゃん大好き! アップルパイあるかなぁ」
表情を一転させ、ルンルン気分で嬉しそうな様子のミリアに、右手の影はため息を漏らす。
「あるあるきっとあるよ。あ、でも食べたらちゃんと歯を磨くんだぞ?」
「もぉー、その位分かってるよ。ミリアは子供じゃないんだからね? お兄ちゃん!」
「はいはい」
「ハイは一回だよ!」
頬を膨らませてプンスカ怒るミリアを宥めつつ、ふたりは街へと歩いていった。
――その場に残された首なし死体は近くの村人により発見されて騒ぎになるものの、所持品などから野盗が返り討ちにあったのだと判断されて適当に埋められたのだった。
こんな感じで、厨二ロリ少女と元キモデブ中年がダイの大冒険の世界で生きていきます。