おふざけがすぎるかな。
それから2ヶ月半ものあいだ、ふたりは早朝に街の外へ出かけ、体がクタクタになるまでモンスターとの戦闘をして、飯屋でたらふく食って爆睡するという生活を繰り返していた。
日々、戦いを繰り返す中で、ミリアと影夫は、力の使いかた、効率のいい闘い方を覚え、身体は鍛えられていった。
そして、新しい技や戦いのスタイルも考え、色々と試して物にしていった。
その甲斐あって今では――
「上からきたぞ、あばれザルだ!」
「りょうかい!」
木の上から飛び掛ってくるあばれザル。
自重を利用したその一撃は華奢なミリアを踏み潰すと思われたが寸前で吹き飛んだ。
「暗黒魔弾!」
暗黒闘気の塊がぶち当たったのだ。
1週間前にくらべて威力もあがり、溜めの時間も少ない。
影夫と相談して開発した新技であった。
「ぎゃはっ、死ねぇ!」
ミリアは逆手にナイフを握り、暗黒闘気を流し込み黒く光る刀身を心臓を目掛けて突きこんだ。
「ぎゃおおおおっっ」
黒い塊に覆われた禍々しい刃はえぐるようにあばれザルの肉を切り裂き、断末魔の雄たけびとともに絶命させた。
「ふぅ」
「いやぁ楽勝だなー。暗黒闘気があれば負けることはない、と」
「じゃあ次だ正面からくるぞ! 今度は呪文でいくか」
「うん!!」
雄たけびに刺激されたのか坂の上から猛烈な勢いで新たなあばれザルが突進してくる。
だが。
「ヒャド!」
「バギ!」
「ぎゃぎゃう!?」
距離さえ離れていれば何の問題もない。
「ギラ!」
「バギ!」
影夫と交互にはなつ呪文は、あばれザルを仰け反らせてひるませ、苦痛に足を止めさせて、一方的な展開を生んだ。
「とどめにメラ!」
虫の息のあばれザルが燃え尽きて絶命する。
これまた結果は楽勝。
「もう一匹きたよ!」
「今度は接近戦だ! 暗黒闘気は使わない! 攻防分離で防御は任せろ、攻撃は任せた!」
「わかった!」
「ぎゃぎゃうぅっ!」
道の脇の茂みから飛び出してきた新手のあばれザル。
その突進を影夫は触手で受け止めた。ただし今回は、力を受け流すことが出来た。正面から受けずに斜めに逸らすように角度をつけたのだ。ミリアへの負担も軽く、力をそらされて弾かれるようにあばれザルは転がった。
「今だ!」
「はぁっ! どりゃぁ!」
ミリアが左右に持った毒蛾のナイフで交互に切りつける。
「ぎゃぅ、ぐおんっ!」
暴れザルも拳を返すが、転がった状態では力は発揮できない。しかも攻撃は影夫が斜めに受け流しているので一つもあたらなかった。
今回は影夫がミリアの足首に巻きついて強化しているので踏ん張りも効く。体勢はブレない。
「しっ、はっ、やっ、このっ」
あばれザルの皮膚は強靭だ。刃渡りが短く、切れ味もそれなりでしかない毒蛾のナイフでは急所に当てない限り致命傷は無理だ。
しかも今は2刀流なので余計に攻撃は浅い。
「がっ!?」
だがそれでいい。通算5度目の斬撃で、あばれザルは全身に麻痺毒がまわって動けなくなった。
「このっ!」
ミリアは、力が抜けて無防備になったその喉を横薙ぎに切り裂き、絶命させる。
「ナイス!」
「っと。後ろからさらにもう一匹! 今度は俺がやるよ。身体の主導権を渡してくれ」
「うん。ちょっとつかれたからおまかせするね」
ミリアはナイフをシースに戻して、息を切らせながらひらひらと手を横に振った。
それと同時に影夫は、ずずずと自らの半身をミリアの体内へと埋め込み、肉体の主導権を貰う。
影夫は、パッパと両手を閉じては開き、操作と身体感覚を確認しつつ、軽くストレッチをしてあばれザルに向き直る。
「ぎゃおおおおん!!」
「エビルソーサー!」
ミリアの左手に黒く小さな盾が出現し、突進の勢いをそのままに振りぬかれた右腕の一撃を完全に受け止める。
ズリズリズリ! と土煙をたててミリアの身体は後ずさるが、盾は健在。攻撃は通らない。
全身の暗黒闘気を手のひらに圧縮して作った盾はとても強固なのだ。
「どっせーい!」
あばれザルが思わずひるんだ次の瞬間その盾を投げつける。
「ぐぎゃおおおおおんん」
命中するなり、盾は破裂して爆発を起こす。
あばれザルは、その衝撃で吹き飛ばされて地面に転がりもだえ苦しんだ。
「せぇっ、のぉ……パラサイトブレード!」
すかさずミリアの肩から出ている上半身部分を影触手にして瞬時に曲刀を形成する。そして勢いよく振り下ろして、その首を一撃で切り飛ばした。
「うしっ、これでおわりだな」
「うん。周囲には何もいないみたい」
「ぷはぁっー、生き返るなぁー」
影夫はごろんと地面に寝そべり、ミリアのサイドポーチから水筒を取り出して喉を潤した。
「うん、疲れたぁ」
ミリアもそのよこにちょこんと座って、水筒から水をこくこくと飲み、一息つく。
「そういえば、お兄ちゃんが使ってた技、強いし、何だかかっこいいよね」
「あーあれか。まぁパクリだけどなあ」
「パクリってなに?」
「あーなんつーか、他の人が考えたのを勝手に真似した技ってことだよ」
「へぇ~真似っこした技なんだね」
「格好いいのは当然だろうな! 好きな作品だし!!」
あの盾も、鋭利な刃も、暗黒闘気の身体を自由に変形、圧縮ができることがわかってから試してみたものだ。
暗黒闘気を圧縮していくと、硬くなるというか、物質化するのだ。
そして、その強度は圧縮の度合いに比例して天井知らずに上がっていく。
まぁだからこそ闘魔最終掌は神の金属とも言われるオリハルコンを砕けるわけだ。
なので、ぐっと身体をちぢこませて圧縮すると、盾にも刃にもすることが出来る。
ただし今の影夫の暗黒闘気量では、1つ刃の手を作り出すので精一杯だ。
その刃も強度不足であり、オリハルコンに勝てるようなレベルではない。
精々、てつ装備といった程度だろうか。
それでも振り回して速度をつければ中々の威力はあるのだが、強敵相手には通じなさそうだ。
ちなみにミリアの身体から暗黒闘気の手を伸ばすときは、ミリアの肩からにょきっと出す形になるので、肩から黒い手が生えているみたいに見える。
なので、あまり人前では出来ない技である。誰もが納得するような上手い口実とか、言い訳が思いつけば問題なくなるのだが、そうそう思い付きもしない。
「おっと忘れてた。ホイミ!」
忘れないうちに戦いで減った暗黒闘気を元に戻しておく。
「あれ? ミリアも怪我してるじゃないか」
「え? あ。ほんとだ」
「ホイミ」
ミリアは暗黒闘気を使うと無意識に限界以上の力を発揮してしまうらしい。
なので戦闘後彼女の身体には微細な損傷が残っている事が多い。
影夫がミリアの身体を操る際も、気をつけているが知らないうちに過度の負担をかけてしまうことがある。
普通なら、かなりまずい事態であるのだが、回復呪文は実に偉大である。
一体どういう原理なのかわからないが、怪我どころか体力までもが回復するのだ。
現代世界の感覚で考えると、まったくもって凄いの一言だ。
怪我だけでなく、殆どの病気ですら直してしまうという万能さだ。
細菌やウイルスをも回復呪文で殺しているというのか。しかも有害なものだけを選んで。
本当に、一体どういうことなのだろうか。
「まだ戦えるな。よし、じゃあ今日のうちに群れを潰しておくか」
「りょうかーい」
影夫とミリアはさらに山中へと入っていくのだった。
数時間後。ガーナの街周辺にいたあばれザルの群れは全滅していた。