「お! こども勇者のおかえりだぞ!」
「今日も討伐か。小さいのにすごいよな」
ガーナの街の見張り達はミリアの馬車を見かけるなり、楽しげに仲間と盛り上がる。
「今日は……ってすごいな馬車がいっぱいになるほどか」
「これだけあれば群れは全滅じゃないか?」
「あ、うん……」
見張りの男はフレンドリーに対応して、目前にやってきた馬車を覗き込む。
「おお! 聞いたかみんな、群れを全滅させたってさ!」
「みんなに知らせてやれ! 喜ぶぞ!」
「すごい! ありがとうミリアちゃん」
「あ……えっ、と……」
「あ、ゴメンゴメン。引き止めちゃったね。通っていいよ。ミリアちゃんなら問題なし!」
見張り達は盛り上がって騒ぎ出したが、困った風にしているミリアに慌てて許可をだして、街の中へと通してくれた。
「お兄ちゃんやりすぎだよ……」
「め、面目ない……」
ガーナの街にミリアと影夫が来てから早3ヶ月が過ぎており、もはや町でミリアのことを知らぬものはいなかった。
影夫が愛想よく可愛く振舞ったというだけではない。
年端もいかない少女が、倒したモンスターを毎日街へ持ち帰っては売りさばくのだ。
目立たないはずがない。
その結果、僧侶と魔法使いの呪文を使いこなし、ナイフ捌きも達人である。という具合に、影夫の能力もまじった形で過大評価されたミリアの噂が街中を駆け巡ることになる。
噂が大きくなりすぎて、町長さんがやってきて、街周辺に住み着いたあばれザルの群れを一掃してくれないかと直談判してくるほどだ。
彼は善良な人物であるようで、無理はしないでくれ、とミリアの身を案じつつも、報酬もしっかりと約束してくれた。
それも、ミリアが子供だからと足元をみた金額ではなく、5000Gもの大金だ。
その上ですがるようにお願いされたので、断りきれずに影夫はそれを請け負ってしまった。
ミリアは他人と関わりを持つのは嫌そうだったが、修行になるし、収入にもなるし、みんなも助かるからと、どうにか説き伏せた。
そして訓練がてらの討伐を続けて、今日に至っているというわけだ。
討伐するたびに知名度も評判もうなぎのぼりで、『こども勇者』『未来の勇者』『遅生まれの救世主』などと色々な呼び方もされている。
ミリアが街に戻ってくるとちょっとした人だかりが出来るくらいだ。
「こども勇者ミリアの凱旋って感じかな」
「も、もう……」
影夫は大好きなミリアが評価され賞賛されるのは素直に喜び嬉しがっていたが、彼女は複雑そうにしている。
「でも、色んな人に褒められたり感謝されると嬉しいだろ?」
「嫌じゃないけど……でも私はお兄ちゃんだけでいいよ。他の人達に言われても、困っちゃうもん」
街の人たちは好奇心だけでミリアの噂をしているわけではない。実際に困っていたので、それを解決してくれた彼女に感謝しているのだ。
まぁ娯楽が少ないので話題にするにはちょうどいいということもあるかもしれないが。
「ミリアさん、聞きましたよ!」
「あれ? どうしたんですか町長さん。こんなところで?」
大通りを場所で移動していると何故か町長がミリアを待ち構えていた。
お偉いさんとの話はミリアに任せるわけにもいかないので影夫が応対する。
「討伐の件ですよ! 群れを全滅させたんですって?」
「はい。住処にしていた洞窟を見つけて根絶やしにしたので、一掃できたはずです。念のため明日にでも捜索隊を向かわせてみてください」
「よくやってくれた! ありがとうありがとう!!」
町長はミリアの腕を握ってぶんぶんとふって喜んでいる。
なんだなんだと街の住人も集まってきて、討伐の話を聞き、街中が大騒ぎになる。
「すごいぞ! ありがとう!」
「これで狩りにいける!」
「商人もやってくるぞ!」
「こども勇者ミリアばんざい!」
「お嬢! はなしは聞いたぜ!」
あたりが騒然となる中、居酒屋のマスターが駆け寄ってきてバシバシとミリアの背中を叩いてくる。
傍らには店員もいる。彼は普段だるそうな表情をしているが、今日は笑みを浮かべて嬉しそうな様子だった。
「これでお前さんにゃあ頭があがらなくなっちまったな! 今日はおごりだ。好きなだけ食っていってくれよ!!」
「しかし、お嬢がそんなツワモノとはなぁ! あばれザルは熟練兵士でも勝てない相手だって話だぞ?」
今日のマスターは普段より5割増しの声のデカさと豪快な笑いっぷりで、一際機嫌がいい。
どうもあばれザルの群れは、町へやってくる商人や、狩りや採集の邪魔になっていたらしく、街中がほとほと困っていたようだ。
もしかして最初にガーナの街で村の物品を売りさばいた時に、妙に高値で売れたのはそのためだったのかもしれない。
「おい、街を救った勇者さまをいつもの個室に案内しろ!」
めでたいめでたいと喜び騒ぐマスターの好意にあずかり、ふたりは今日もたらふく食べて栄養をつけた。
その日一日、街は討伐祝いでお祭り騒ぎになるのだった――