壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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発覚

討伐依頼を終えた翌日。

ミリアが部屋をとっている宿に、町長が訪ねてきた。

 

「それで町長さん。話というのは何でしょうか?」

 

影夫はミリアの身体を操りつつ、宿部屋の粗末なベッドにちょこんと腰掛けて、正面にいる町長に問いかける。

 

部屋にある粗末な木の椅子に座った町長は背筋をピンと伸ばして、真剣な様子で口を開いた。

 

「今日は大事なお話をしなくてはいけません」

「大事な話、ですか?」

 

「はい。実はこの前、ミリアさんの故郷であるタネパ村に向かった役人から、村人が殺されているという報告を受けました」

 

「……!」

 

影夫は内心、冷や汗をかく。村人が死に絶えていることがついに発覚してしまったのだ。

 

「村人の遺体は不自然に埋められており、金品財宝が盗られていたと。ところでミリアさんはこの前、大量の宝石や装備品やらを売りに来たそうですね?」

 

だが、影夫は必要以上に取り乱すことはない。

こんなこともあろうかと影夫は、嘘話を考えており、対策ができているからだ。

 

『村は食い詰めた野盗団に襲われて全滅。かろうじて自分ひとりだけが貴重品を持たされて村から逃がされた』というものだ。不自然に埋められた死体については、野盗団の隠蔽工作によるものという、設定だ。

 

「それは……」

 

その設定を当事者視点で証言という形で話していこう。

くれぐれもミリア視点で気づけないようなことは話さないように注意しながら……。

 

そう思い、ミリアの口を開いた影夫であったが、町長はそれを遮って、決定的な言葉を発してしまった。

 

「ミリアさん。その役人が言っておりましたよ。この事件はミリアさんのご家族が魔物と結託して、村人を殺させたのではないか、とね」

 

(っ!!!! コイツ!!!)

 

(おい、止めろミリア。落ち着け!)

 

町長の台詞にミリアが激情を露にして殺意を滾らせた。

影夫が少しでも気を緩めれば主導権を奪い返され、すぐにでも町長を殺してしまいそうなほどだった。

 

「…………っ!」

 

殺してやると心の中で喚いているミリアを抑えつつ、影夫は焦りに焦った。

この場で町長を殺すのは絶対にまずい。犯人が一目瞭然なうえに、街にいられなくなるのは当然として、国から手配される事態になるだろう。

 

ミリアが暴発しないうちに、この場から逃げ出すべきかもしれないと影夫は窓の様子を窺う。

この宿部屋は2階ではあるが、身体能力的に飛び降りても問題はなさそうだし、いよいよとなれば。と影夫は覚悟を決めた。

 

「しかしです。私はそうは思っていません。その役人は元村長と結託して税金をごまかしていた、その疑いがあります」

 

「それに、心優しく強くあられるミリアさんを見る限り、貴方も、貴方を育まれたご家族も、そのようなことはなさらないはずです」

 

(ミリアとりあえず落ち着けよ。この人は分かってくれてるみたいだからな?)

(う、うん……)

 

影夫は町長の言葉に、心底安堵する。

家族を侮辱されたと激昂していたミリアも少し、落ち着いたようだ。

 

「ミリアさん、事情をご存知でしたら、どうかお聞かせ願えませんか?」

 

(いいか? ミリア?)

(いいよ。本当のことは伝えておきたいから……)

 

「わかりました……」

 

影夫の存在はややこしくなるので話さないが、家族を殺され、追い詰められたことで秘められた力が覚醒したということにして、後はありのままを話した。

 

「申し訳ありませんでした」

 

ミリアから語られた話を聞き終えた町長は深々と頭を下げた。

 

「元村長の不正の兆候については掴んでいたのです。でも証拠が掴めなかった」

「証拠もなしに捕まえるわけにはいきません。動くに動けなかったのですが、そんなことは言い訳にもなりません」

 

「私の無能の所為で貴方の家族を失わせてしまいました。いまさら謝っても遅いでしょうが……本当にすみませんでした」

「村のことはミリアさんの事を隠しつつ、うまく後処理しておきましょう。それと、元村長と結託していた役人の処罰も厳正に行うことをお約束いたします」

 

「そうですか……これ、つかってください」

 

影夫は、念のために村から持ち出していた村長の不正記録を町長に渡す。

もし、村人殺害が発覚した場合、反論に使おうと影夫がどうぐぶくろにいれてミリアに持ち歩かせていたものだ。

 

「これは……ありがたい。決定的な証拠になります。ふむ、しかし……ここまでとは。これほど明確で長期にわたる不正をはたらいたのです。役人はおそらく処刑でしょうね」

 

パラパラと記録を流し見して、ため息をつく町長。

 

「ミリアさんについてはこの街の住人として身分登録しておきます。もちろん身分証明も発行しましょう」

「後は、私名義の紹介状を数枚渡しておきますからご自由に使ってください。このくらいの償いしか出来なくて申し訳ありませんが……」

 

「いえ、十分です。ありがとうございます。それであの、村の財産についてなのですが、その、返金などはどうしましょうか」

 

「さて? ミリアさんがあの村の財産を換金したのは、元村長から命じられて嫌々行ったことでしょう? 元村長は家を増築しようとしていて資金が必要だったのですから」

「しかし、不幸にも金のことを嗅ぎつけた野盗の群れに村は襲われて全滅。ミリアさんだけが村に残った金品を託されてら逃がされた。そういうことだったのでは?」

 

「あ、ありがとうございます。でもいいんですか? 不正なお金なら国に返さないと」

「何のお礼だか分かりませんが受け取っておきます。ちなみにね、この街で元村長さんはならずものを雇ってあこぎな商売もしていたようでして。国に還すお金は充分にあるんですよ」

 

「というわけでミリアさん。あなたはこの街の恩人であり、住人なのです。いつまでもここに住んでくれてもいいのです。むしろその方がありがたいですが……」

 

「いえ、すみませんが来週にでも街を出る予定です。行く場所がありますし、私はもっと強くなる必要がありますので」

「……わかりました。でもいつでも戻ってきてくださいね。この街は貴方の故郷なのですから。それでは」

 

町長は残念そうにしつつも無理な引きとめはせず、帰っていった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

それから1週間。

 

影夫はよくしてくれた町長へのお礼や喜んでくれる皆のためもあって、街のために精力的に働いた。

ミリアも、皆のためとは口では言わないものの、影夫に付き合って精一杯頑張った。

 

町長が帰った翌日は街周辺の残党捜索に加わり、群れからはぐれて単独行動をしていたあばれザルの生き残りを2匹討伐した。

 

その後影夫は、昔からあばれザルの生息地として人々に避けられてきた広大な森が、ガーナから馬車で半日ほど進んだところにあると聞きつけて、ついでだからとその調査を買って出た。

 

その結果、分かったのは、あまりにもあばれザルが増えすぎていたことだった。

様子見のつもりで森に入って数分も経たないうちに十数匹の集団に襲い掛かられたほどだ。

おそらくガーナの街周辺にやってきた群れは、森の中での食料の奪い合いに負けた連中なのだろう。

 

 

その報告を町長にした後影夫とミリアは、残りの5日間で容赦なくあばれザルを間引いていった。

あまりに数がいるので、しとめた獲物を運びきれず、町長から運搬用馬車を数台を借りる事態になったりした。

 

なお、間引きを行う際は、おだやかな心を取り戻した個体もいるかもしれないので、殺意をもって襲ってきたものだけを討伐した。

そうじゃないと無差別に殺しまくると偽勇者と一緒になってしまうからだ。

もっともあっちは無抵抗な魔物を専門に狙っていたのだけど。

 

ともかく、5日間の間引きで250匹ものあばれザルを仕留めることが出来た。

ここまで減らせば、しばらくは大丈夫だろう。

 

ちなみに間引きのおかげで、街はちょっとした特需状態になっていた。

あばれザルの加工肉が街中で安価かつ大量に売られ、皮は様々に加工されて流通し、内臓や骨、シッポを原料とした薬の類も安価に売られたりした。

 

よそから訪れた商人がそれらを大量購入していったり、物々交換で近くの農村から作物を買いつけることができたりしたので、ミリアは街の住人達からさらに持て囃されることになったのだった。

 




ちなみに、この時期には魔王の支配が存在しないのに、あばれザル達が凶暴なのは、原作での魔のサソリのように魔王の支配がなくても元から凶暴な個体であるためです。

穏やかな心を取り戻した連中は、ブラスじいさんに連れられてデルムリン島にいるか、人間達との争いをさけるために、秘境に移り住んだりしているという想定です。

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