壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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短かくてすみません。夜に続きを投下予定です。


喜悦

「ひとぉーつ!」

 

グギンッ、と鈍い金属音が響き、何かが宙へと飛び、びちびちと液体が勢いよく溢れ出る音が鳴る。

 

「て、てめぇ!!」

「なめんなメスガキっ!」

「囲め!」

 

激昂した男達が4方向からはさみうちにするようにミリアに斬りかかった。

猛毒を塗りこんである剣の刃は掠るだけで少女に致命傷を与えるはずである。

 

それが彼ら山賊団の常套手段であり、知恵だった。

 

「遅いし、弱いよ」

 

しかしその刃は届かない。

ミリアの左右の肩から生え出た黒い触手がすべての刃を受け止め根元から折ってしまっていたのだ。

 

「「あ……?」」

 

男達は事態を理解することは出来なかった。次の瞬間、ミリアは素早く跳躍して男の首に刃を当てていたからだ。

 

「ふたぁーつ」

 

「みぃっーつぅ!」

 

グヂュンミチンッと水気を含んだ金属が擦れる音が2つ続いて鳴り響く。

その度に宙に生首が舞い、赤い水を噴き出す肉の噴水が出来上がる。

 

「ば、ばけも」

「よっつぅ! あはははは! 楽しいなぁ! 最高だよ!」

 

おののく男だが最後まで言いきれぬうちに息の根を止められる。

 

「あ……あぁ……」

 

山賊達は、いつものように山道で獲物を待ち伏せし、皆で取り囲んでいっせいに襲い掛かっていた。

今日もそれですべてが上手くいき、彼らは獣欲を満たして大金を得ることができる――はずだった。

 

なのに。なのにこれは何だ?

男は事態が理解出来なかった。

 

「や、やめっ、く、くるなぁぁ!!」

 

血を浴びて嗤うミリアの姿は、訳も分からず混乱する生き残りの男に激しい恐怖を与え、

彼を一目散に逃亡させた。

 

訳が分からない。だけど、逃げろ逃げろと男の本能ががなりたて、ひたすらに恐慌する。怖い。怖い。怖い。怖い。怖い。

もつれる足で転がるように必死に走って駆けていく。

 

「あは。逃げられると思った?」

 

ミリアは猛然と彼の後を追う。

迫り来る恐怖に彼は完全にパニックとなり、己が肉体の限界にせまる速度で走りぬけた。

 

しかし。

 

「はっ、ひぃぃっ!?」

「わたしはねぇ、敵は絶対逃がさないんだよ! きゃはははっ!!」

 

無常にも限界まで肉体を酷使できるのはミリアとて同じだった。

 

しかも盗賊崩れなんかとは鍛え方が違う。

闘気による初歩的な肉体強化をも行える彼女は、彼に軽々と追いつき、おおばさみの刃を彼の首へとむける。

 

「あひゃはははは、これでぇっ、いつつめぇ!!」

 

断末魔を発することさえできず、彼は命を散らした。

 

「はぁはぁ……いい! ほんとこれいいよお兄ちゃん! 私気に入っちゃったぁ!」

「はいはい。もうちょっと落ち着いて戦闘できないのかよ。あぶなっかしいぞ」

「だってぇ……たかぶっちゃうんだもん。それに、私ちゃんとやったよね? 敵かどうかはしっかり確認したし……問題ないも~ん」

 

ミリアの言はそのとおりだったが、彼女の昂ぶりかたは少しおかしかった。

 

やはり前の村で村人達がむけてきた排他と敵意といった負の感情が鬱憤になっていたのだろうか。

不快な思いをさせられただけでなく、ミリアの精神にまで悪影響を与えたのだとしたら、実に迷惑な連中だ。と影夫は憤慨した。

 

「そりゃそうだけどよぉ。もうちょっと節度を持ってだなぁ、楽しむようなことはだなぁ……」

「はーいゴメンなさーい」

 

「こら。まだ話はおわってないぞ!」

 

ケラケラと笑いながら謝るミリアに本当に反省しているのかと思いつつ、影夫はお説教を続ける。

 

そして周囲を警戒しながら、馬車のもとへと戻ろうとしたところで、ミリアが首を傾げながら足を止めた。

 

「あれ? なんかいるね。あの薮の向こう。やつらの生き残りがいるのかな?」

「ん? ああ。ほんとだな。偵察か連絡役が逃げてたか? まぁほっといてもいいだろうけど」

 

「ダメだよお兄ちゃん! 放っておいたら誰かがまた襲われちゃうんだよ? いいの?」

 

ミリアの主張は、戦いたいが為の口実にすぎないのが見え見えだったが、正論であるだけに影夫も止められなかった。

 

なにせミリアを見るなりニタニタしながら、奪って犯して遊んでやると襲い掛かってきたような救いようのない山賊連中であるし、もっともだ。

 

「しょうがないか。でも、戦意がないなら見逃せよ?」

「はいはいわかってまーす。敵意のない相手は殺さない。だよね」

「ったくもう……ほんとわかってんのかよ」

 

お説教は聞き飽きたと、ミリアが苦笑しながら耳をふさぎながら言う。

影夫はため息をつきつつもしょうがないので、戦闘に備えるのだった。

 


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