原作よりも4年前なので違いがあります。
原作までの4年間で彼らには色々な出来事や思うところがあり、原作での彼らになるはずでした。
デパートでの買い物から二日後、影夫達は宿を引き払っていた。
3日間の宿代が3000G。
ゆうわくの剣で約17000G。
魔法の聖水とエルフの飲み薬で12000G。
形見のドレスのみかわし化で約7000G。
デパートの高級店でのドカ食いで500Gほど使ったので残りは3000ゴールドほどしかない。
「休むのも今日で終わりだ。そろそろ動き出すとするか」
「うん。身体が鈍っちゃうもんね。それで、どうするの? 適当に魔物退治でもする?」
「いや、冒険者に仕事を斡旋する酒場があるらしい。そこへいって魔物退治の依頼を探すんだ。金にもなるし、冒険者として活動する以上、顔見せが必要だろうからな」
「ん~、まかせる!」
よくわからないといった感じで首を傾げながら、ミリアが笑う。
「任せろ! というわけでミリアは昼寝でもしておいてくれ。あとは俺がやっとくから」
影夫は念のためにミリアを寝かせておくことにした。
影夫の勝手なイメージだが、冒険者の集う場所なんかだと粗野で粗暴で柄の悪い連中がたむろしてそうだからだ。
☆☆☆☆☆☆
「あの、何か依頼はありませんか?」
影夫は冒険者の酒場に入って、店のマスターらしき女性に声を掛ける。
眼光鋭く、長く綺麗な青髪を乱暴にポニーテイルで纏めている女性だ。
その身にまとう覇気や威厳からしてこの人がおそらく、酒場をとりしきるルイーダであろう。
「ウチにゃあ子供にうけさせる依頼なんてありゃしないよ」
ミリアを鋭くねめつけ、彼女は冷たく言った。
『ルイーダの酒場』。
ここには、村や国といった公的機関、街の商家や金持ち、果てはただの一個人からのもの等、様々な依頼が集まってくる。
冒険者と依頼者の仲介を行っているのだ。
といってもファンタジーものなんかであるような冒険者ギルドほどまともな組織ではない。
ごろつきの傭兵崩れや粗暴な悪漢がその腕力で日銭を稼ぎ、酒に溺れるだけの場所だ。
ハドラーが倒されて以降、まっとうな連中はすでにカタギの仕事に復帰するか家庭を持つなどして冒険者をやめているので、今は余計に酷い有様らしい。
それでも社会からは必要とされているので、今でも存続している。
そんな吹き溜りであるが故に、ここの冒険者は素行や柄の悪さも咎められず、過去の犯罪歴も問われない。
ルイーダを舐めたり、酒場のメンツを潰さなければ、どんな人間であろうが依頼を受けてもいいのだ。
冒険者ギルドというよりは、ヤクザが経営しているチンピラ向け職安みたいだと影夫は感じた。
実際その認識は正しいだろう。
チンピラに仕事をやらせて稼がせた金を、酒や料理や賭博によって吐き出させる仕組みまであるのだ。
貸金業にも手を出しているようで、そのあたりが実に裏社会の組織っぽかった。
そんな連中を束ねるルイーダとて、鬼ではない。
明らかに分かってなさそうな相手には一応忠告をくれる。
今みたいに。
「分かったら怪我しないうちに帰りな」
ルイーダの瞳には、有無を言わさぬ迫力があった。
思わず、影夫の背筋に寒気が走る。
国から仕事をとってこれるくらいだから各方面に顔もきくのだろう。彼女が裏社会でどれだけ幅を利かせているのか想像するだけで恐ろしい。
「ぎゃははは! なんだお嬢ちゃん、この店にゃあミルクは置いてないぜ!」
「そうだそうだ! おうちに帰ってママのおっぱいでも吸っとけ!!」
「何年かして美人になってたら、アッチの冒険にゃあ付き合ってもやるよ! ひゃははは」
「俺は今のままでもいいぜぇ、可愛がってやろうかぁ?」
「変態お兄ちゃんでいいなら相手してくれるってよぉ!」
周囲からミリアに向けて次々と罵声や嘲笑が飛んでくる。
冒険者同士のいざこざに酒場は関与しない。
だから小さな女の子相手に下卑た怒声や卑猥な罵声が浴びせられても酒場のマスターは止めようともしない。
(下品で野蛮なDQNどもめ。ミリアの意識を眠らせておいて正解だった……こんな連中悪影響しかあたえねえ!)
こういった連中は前世時代から影夫がもっとも嫌う類の人間だ。
今すぐにでもこんな連中の側に居たくない。
だが、冒険者の酒場がない街ならばともかく、あるのに無視するわけにもいかない。
「た、単独がダメなら、共同の依頼でもいいです!」
うるさい外野を無視して、影夫はカウンターに身を乗り出し、ルイーダにお願いする。
この人が承諾すれば誰も文句は言えないだろう。
「私これでも強いつもりです、迷惑も掛けません」
だから、一生懸命影夫は頼み込んだ。
「おい!? 聞いたか!?この嬢ちゃんは子守をしてくれるお兄さんを探してるみたいだぜ!!」
「はははははは!いいか、ここは腕利きのつええヤツラが集まる場所だが、お優しい保父のおじちゃんはいねえんだよ!」
「うるさいよアンタら。アタシがしゃべれないだろうが」
その一声で外野はぴったりと声を止ませる。
「単独であろうが共同であろうが、お嬢ちゃんに依頼は任せられないね。これ飲んでおとなしく帰んな」
コン。とミリアの前にミルクの入ったコップが置かれる。
「おい嬢ちゃん、保護者をお探しなら、おめえにぴったりのお兄さんとお姉さんがいるぜえ。ひょろひょろの軟弱でヘタレ小僧だがよぉ。俺達よりかは優しくて、PTを組めばお似合いかもな!」
無精ひげの中年男が、ミリアにずいっと下卑た顔を近づけてせせら笑ってくる。
ろくに身体も洗っていないのかひどく臭いので影夫は顔をしかめた。
「ぎゃははは、すげえぞ、スライムに殺されそうなPTになるぜ! ああそうだ、万年みそっかすのまぞっほとへろへろのやつも加えてやれよ! 最弱PT誕生だなおい!」
「よかったな、5人もいたらガキと無能の集まりでもスライムにゃあ勝てるぞ! スライム討伐依頼なんてないけどな!」
「そりゃあそうだ! ぎゃははは」
DQN冒険者どもはそういって、酒場の端っこで縮こまるように座っていた4人を無理やりに引っ張り出してきた。
あまりの言い草に、4人の中で一番若い青年が震えながら声を張り上げた。
「て、てめえら……!」
「ああん!?」
「ひ……」
だがすごまれてすぐに声が出せなくなってうつむいてしまった。
「はっ! だっらしねえ奴。たまにゃあ殴ってこいや。ぶっ殺してやるからよぉ!」
「玉ついてんのかガキ!」
「立派なのは格好だけかよ、勇者さまよぉ!」
その4人組をみて影夫は驚愕していた。
みるからに、DQ3の勇者、戦士、僧侶、魔法使い。といった格好だった。
彼らは、原作キャラだ。
「おい、玉なしのガキ! 連れの姉ちゃん使わせてくれよ! 金は弾むぜ?」
「俺も混ぜろよ! 俺らで天国に連れてってやるぜ!」
女子高生くらいの年齢である女僧侶に、DQN冒険者達は腰をカクカクさせながら卑猥な罵声を浴びせ始めた。
「ぐ……くぅ……」
「でろりん……私はいいから……」
「ひぃ…………」
「っ…………」
でろりん、へろへろ、ずるぼん、まぞっほ の偽勇者ご一行。
しかし原作に出てきた彼らとは少し違いがあった。
全体的にみな歳が若く、態度もまだ駆け出しといった感じである。
まぞっほだけは老人だが、原作よりもさらに情けなく自信なさげだった。
話を聞く限りではこの4人はまだPTも組んでないようだ。
おそらくここで4人は酷い扱いや罵倒を受けながらも、同じ立場かつ気の合う仲間として意気投合して偽勇者PTを結成するに至るのだろう。
「へへっ、だまってねえでイッパツいくらか言えよ。30Gか?」
「いわねーってことたぁタダでいってことじゃねえのか?」
「へへ。たっぷりと可愛がってやらねえと!」
「ひっ……」
言い返せないずるぼんに卑劣なことをいい続ける連中を影夫は睨みつけていた。
禿げ上がった小男がニヤけ顔でずるぼんの胸に手を伸ばしているのだ。
「やめ」
触れる前に屑の腕をへし折ってやる、と影夫が飛び掛らんとした瞬間。
「……お嬢ちゃん、この4人と組むんなら依頼をうけさせてやるよ」
「「「「「え?」」」」」
影夫とでろりんたちの声が重なる。
それほどにルイーダの提案は予想外だった。
「ぎゃはははは、マジかよ! 姐御も人が悪いぜ!」
「可哀想になあ、あいつら全員死体だぜ!」
それはDQN冒険者達も同じだったようで、一瞬目を丸くしたがすぐにまたでろりん達に絡みだす。
しかしそれ以上はルイーダが許さなかった。
「だまれって言ってるだろう。返事が聞こえないだろうが!」
「っ……!?」
「で、どうするんだい? 依頼は、グリズリーの群れの討伐だ」
「グ、グリズリーって、姉御は本気なのかよ?」
「お、俺達でもかなわねえようなやべえ相手じゃねえか。姐御はあいつらをマジで殺す気だ……」
「役立たずのゴミに用はないってか。女子供や老人相手でも容赦ねえな……」
ルイーダの言葉を聞いた連中は小声で囁きあっている。
「いっとくが遊びじゃないよ。モンスターは殺す気で襲ってくるし、依頼放棄も認めないからね。出来なきゃ死ぬ。それでもいいんだね?」
「やります、やらせてください」
ぶっそうなルイーダの言葉に動揺して顔を見合わせていたでろりん達だが、影夫は迷いなく即答する。
グリズリーの群れは手ごわいだろう。だが、戦力的に何の問題もない。
「いいだろう。これが依頼書だ。詳細はそれを見な。あと、期限は厳守だ。気をつけるんだね」
「おいお前、何を勝手に……」
「大丈夫ですよでろりんさん。私達はあんな野蛮人どもとは違うんですから。力を合わせれば余裕です」
「「「こっ、このガキィッ!」」」
影夫の言い草にDQN冒険者達がいきりたつ。
喚きながら拳を振り上げるもの、顔を真っ赤にしてテーブルを殴りつけるもの、食い物を投げつけてくるもの、様々に怒りを表現していた。
影夫は内心、まるで猿の群れだと心底軽蔑しながら、吐き捨てる。
「私達は正式に依頼を受けた。なのに文句をつけるのはルイーダさんの顔に泥を塗り、喧嘩を売るってことになるんだけど。あなた達はそれでいいと?」
「「「てめぇ……!」」」
「くくく。言うじゃないかお嬢ちゃん。あんたの言うとおりだ。分かったねおまえら。命が惜しけりゃ口出しも邪魔立ても無用だよ」
「「「へ、へい……」」」
忌々しげに睨んでくるDQN冒険者共を、影夫はあえて全力のニタニタ顔で挑発し、茹蛸になるくらい怒らせながら、酒場から出て行った。
(へえ。ちょっと感心だ)
しかし、影夫の思った以上にルイーダの躾は行き届いているようだ。
我慢の効かなさそうな連中に見えたが後を追ってきたり、絡んでくる馬鹿はいない。
「皆さん。とりあえず、私の宿にいきましょうか」
影夫は、ビビりながら後をついてきたでろりん達とともに、打ち合わせのために宿へと戻るのだった。
4年前だとでろりんは16歳。
ちょうどDQ3の勇者の歳としてぴったりですね。