壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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影夫がミリアの身体を操っている時、基本的にその五感はミリアと共有されています。

ですが、身体の主導権を握っている側は、相手の抵抗がない場合に限り、感覚の遮断を行うことができます。
前回、酒場でいざこざがあった際は五感遮断モードでミリアへの悪影響を与えないようにしていました。




師事

 

「おいお前! 勝手にあんなこといってどうしてくれるんだよ!」

「そ、そうよ。グ、グリズリーの集団なんて、か、かかか、勝てるわけないじゃない!」

「だかといって依頼放棄も無理じゃ。そんなことをすれば二度と冒険者の酒場は利用できまい……」

「こ、こ、困るぞ!」

「も、もうダメだぁ、俺達は死ぬか一生日陰暮らしなんだー! 一体どうしてくれるんだ!」

 

宿の部屋にはいるなり、でろりん達は狼狽しながら、影夫に向かって怒りつけてくる。

 

「まぁ落ち着いて。ほら、この依頼は急ぎじゃないんだ。期限は厳守とはいえ3ヶ月近く余裕がある。だからまず2ヶ月を使って……」

 

影夫はベッドに座り込み、自信満々な仕草ででろりん達に依頼書を見せながら語る。

どうでもいいが、昨日までいた高級宿とは違いスプリングも効いていない普通の木のベッドなので快適さが薄い。

 

「使って? あ! わかった。誰かすげえ強い助っ人でもいるんだな!? そいつらを呼ぶんだろ?」

 

すがりつくようにでろりんが、影夫の前で這い蹲った。

そうだと言ってくれと懇願するような情けない表情である。

 

「んなのいるわけないって。2ヶ月で修行するの」

「修行って……お前、そんな強いのか? こんな子供……しかも女の子なのに?」

「まぁ、私は割と強い方だとは思うよ」

 

(おーいミリア。おきてるか?)

(さっき起きたところだよお兄ちゃん)

 

ミリアは起きていた。

影夫は宿に戻ってから、遮断していたミリアの五感の共有を戻していたのだ。

それと同時にでろりんたちが慌てふためいて騒いだ声で目が覚めたのだろう。

 

(話は聞いてたよな。悪いけどこのまま話を進めるぞ?)

(うんいいよ。知らない人はちょっと怖いけど、力は必要だもんね)

(大丈夫だって。この人達は弱気で情けないんだけど、根っこは悪人じゃないんだ。それこいつらは色々と分かりやすいヤツラだから、変に疑う必要もないしな)

(うん、それはちょっと分かるかも……)

 

「む。もしやおぬし、こども勇者ミリアではあるまいか? ガーナの街に少女の勇者が現れたとかいう噂を聞いたことがあるんじゃが……」

「ああ? んな噂、俺はしらねえぞ」

「お、俺も知らない……」

「私も聞いたことないわねえ」

 

(まあ田舎で有名といってもこの程度か)

 

「最近の噂じゃから皆はまだ知らんのじゃろうな。何でも……人々を困らせるモンスターの群れをたった一人で何百と打ち倒し、ベンガーナ各地の街や村を救ったんだそうじゃ。高度な攻撃呪文と回復呪文をあやつり、神より与えられし伝説の武具を自在に使いこなす、神に選ばれた少女!」

「お、おおお! そりゃあマジか!? なんだよあんたすっごい奴だったんだな。それなら一安心だぜ」

「よかったぁ……もうっ! 人生が終わったかと思っちゃったわよ!」

「ほんとほんと」

「いやあ一時はほんとにどうなることかと思ったけどよ……まぁ確かにあんた程の人に鍛えててもらえりゃ、俺達でも少しは勝てる見込みが……」

 

何か勘違いしたでろりん達がはしゃぎなら、地獄にホトケだと安堵しきっている。

だが残念ながらそれは間違いだ。

 

「違うよ」

「はあ?」

 

「いや、だから。私が」

「お前が?」

 

「あなた達に教わるの。魔法の師匠なんていなかったから魔術文字も読めないし、魔法力の使い方とかも正直適当っていうか、感覚なんだよね。剣術や武道なんてのも習ったことないし、てんで素人だからなぁ。あなた達は多少かじってるんでしょう? 私を弟子にしてください!」

 

「「「「……………………」」」」

「「「「はあああああぁぁッ!?」」」」

 

でろりんが大げさなリアクションで驚愕しながら後ろに飛びのき、ヒクヒクと手足を震わせた。

他の3人も彼に合わせるようにモンクの叫びのポーズや頭を抱えたりといったコミカルなポーズをとっている。

 

「「「「も……っ、もうダメだあああああ」」」」

 

でろりん達は今度こそパニックになって宿の部屋の中で転がりまわった。

へろへろなんかは図体がデカいのでイスやテーブルなどにぶち当たっていて、盛大に壊してしまっている。

 

(これは俺が弁償することになるのか……?)

 

呆然と彼らが落ち着くのを影夫は待つしかなかった。

 

 

 

「で、落ち着いた?」

 

宿の部屋でベッドの端に座った影夫が、はあはあと息を荒げて床に座り込む4人に声を掛ける。

 

「落ち着いてる場合かっ、くそっそんなのでよく依頼なんて……よくも俺達を巻き込んだな!!」

「そんなにいきり立たなくても大丈夫だよ。勝算はあるんだって。っていうかあなた達、そこそこ強いでしょう?」

 

怒り心頭のでろりんが泣きそうな顔で掴みかかってくるが、影夫はやんわりとその手をポンポンと叩きながら宥めてやる。

 

(なんでこんなに弱気なんだろう。原作の時点より弱いかもしれないけど雑魚ではないはずなのに)

 

「え? ま、まぁそれなりに自信はある程度には鍛えてたけどさ。剣もそこそこ使えると思うし、イオラとかの呪文も使える、けど……で、でもグリズリーなんてなあ」

「そうじゃのぅ、キャタピラー程度ならどうにでも出来ると思うが……」

「そうよ! 私なんてか弱いレディなのよ!? そんなのと戦えるわけないでしょう!」

「お、俺も力じゃ勝てないと、お、思う……」

 

「まあまあみんな落ち着いて。もっと気楽に考えようよ」

 

泣き言の大合唱をまあまあとどうにか宥めつつ、影夫は身振り手振りを交えて、安心させるように話を続けていく。

 

影夫はあくまでも強気で不適な態度をとり、自信に溢れる余裕ぶりを4人に見せた。

自信がなかったり弱気になっている人間は、こうやって安心させる必要があることを影夫は経験から知っているから、あえてそう演じてみせているのだ。

 

「最悪、採算を無視すればどうにでもなるよ? 怖がらなくても大丈夫。油断さえしなきゃ絶対に死にはしないよ。超余裕だね」

「な、なんの根拠で……本当かよ?」

 

半信半疑ながら、でろりん達は自信満々な影夫にすがるように見つめてくる。

 

「そうだな……例えばだよ、へろへろとでろりんが、まぞっほと私を担いで逃げ回りながら、魔法を撃ちまくってアウトレンジするとかどうかな。魔法力が切れたら、魔法の聖水で回復すればいいよ」

「う、うーん……」

 

「それに、おとり作戦で私が敵をひきつけている間に、あなた達が背後から奇襲で倒すってのもいいよね。つまり挟みうち。単純だけど効果が高い戦術だよ」

「まぁたしかに……」

 

「あらかじめ罠を仕掛けておいた場所に誘導するのもいいかもしれない。とまぁこんな具合に、相手が魔王みたいな奴じゃないなら、やりようなんていくらでもあるんだよ」

 

「そ、そうだな。そう考えると、大丈夫そうかも……」

「そうね、なんだかいけそうな気がしてきたわ。私のバギマで足止めもしたら、良さそうよね」

「わしは安全な場所から、ひたすら呪文を撃てばいいんじゃな。呪文の威力には自信がないんじゃが、魔法力切れを気にする必要がないなら、数でおぎなえるかのぅ」

「お、俺も、逃げるのは自信があるんだな!」

 

いくつか思いついた戦法を自信ありげに話してみるとでろりん達は徐々にノリ気になってきた。

 

(まぁ実際の戦いではそこまで思い通りにはいかないけどね。でも修行期間もあるし、俺達と模擬戦で鍛錬すれば十分強くなれるからいけそうだ。でろりん達の弱気さがちょっと心配だけど、そこは自信がつくようにしてあげたら大丈夫かな)

 

「ま、どうしても万が一の保険が欲しいっていうなら、全員にキメラの翼をあげてもいいよ。やばくなったら撤退して、何度でも出直せばいいだけだし」

 

「よぉーし、やれそうな気がしてきた! がんばろうぜみんな!」

「「「「お~~~!」」」」

 

相手が強敵とはいえ、勝てそうであるし、万一負けても生き残れる。そんな確信ができたのか、4人はノリノリで円陣を組んで手を合わせ、掛け声なんてかけていた。

 

さすがは原作での4人PT。息もぴったりで相性は良さそうだ。

 

「それじゃ、決定だねお師匠様たち。ご指導のほどよろしくお願いします」

 

口調を丁寧な物に変え、影夫が一礼をしてみせる。

それと同時に影夫はミリアの身体からから這い出て、首元に顔を作った。

 

「お、おい……?」

「む……」

 

怪訝な顔を浮かべ、でろりん達が突然出てきた黒い顔に困惑する。

まぞっほは勘がするどいのか目を細めている。彼がビビッていないのは敵意を出していないからだろうか。

 

「お師匠様達、今まで話していたのは実は私なのです。だましてすみません。私の名前はクロス。ミリアを助けて一緒に旅をしています。神に作られし意思を持つ武具、インテリジェンスアームズです」

「ほらミリア、お師匠様たちにご挨拶をしような?」

「うん……よ、よろしくお願いします」

 

影夫が促すと、ミリアはおどおどしながらもペコリと頭を下げる。

なんだかんだで、知らない人にも少しずつ慣れてきたようで、何よりだ。

 

(良かった。敵意の村や勇者アバンの一件やらがあって、さらに人間不信や苦手意識が強くなっていないか心配だったんだ)

 

でろりん達が思い切り情けない格好をさらして、裏表なくギャーギャーと騒いでいたからそれが良かったのかもしれない。

小悪党で勇気に欠ける彼らは自分の命優先だが、逆に分かりやすいからミリアからすると得体の知れない怖さは薄いのだろう。

 

「か、可愛い……可愛いわよミリアちゃん!」

「ふぁっ!?」

 

「もぅっ、何よ、随分こまっしゃくれた子だと思ってたら、クロスがしゃべってたのね。ミリアちゃんたらすっごく可愛いじゃない……! 妹にしちゃいたいくらいよ!」

「え、えっとその……お、お兄ちゃん助けて……」

 

伏し目がちにおどおどする小動物のようなミリアの仕草を見て、ずるぼんが飛びついて頬ずりしはじめる。

ずるぼんは可愛い物好きなのか、ミリアを撫でさすって可愛がっていて、ミリアがおろおろしている。

 

影夫はふたりの光景に微妙に百合っぽいいけない雰囲気を感じ取って鼻の下を伸ばした。JKとロリの百合。実にイケナイ、そして素晴らしいと影夫は思った。

 

それに別の意味でも影夫は実にすばらしいと思っていた。

 

(ぐへへ。法衣ごしに伝わってくる感触が気持ちいい……ってだめだだめだ。まだ大騒ぎになるとまずい!)

 

ミリアの首元に巻きついている影夫には押し付けられるずるぼんのおっぱいの感触が伝わってくるので思わずニヤけそうになる。

だが、それでえらい目に合ったことを思い出し煩悩を振り払った。

その姿はまるで嫁の尻に敷かれて脅える男のようである。

 

「なるほどのぉ、つまりクロスは、ミリアの兄代わり親代わりというところなんじゃな」

「はい、ミリアは事情があって、他人への不信感と恐怖心があるから、俺が補佐しているんです。ほっとけないですしその……約束もありますし」

 

「事情?」

「まぁそのあたりは無理には聞かんほうがいいじゃろうて」

「あ、そうだな、すまん」

 

影夫が事情を説明したものかどうか口ごもっているとまぞっほが事情を察して詮索を控えてくれる。

さすがは年長者、ありがたい配慮だった。

 

「お気遣いありがとうございます。まぞっほ師匠。でろりん師匠もありがとうございます」

 

ありがたい気遣いに影夫はペコリと黒い顔を動かして礼を述べる。

だが、でろりん達はなんだか微妙な顔で気まずそうにしていた。

なんだろうか、と影夫は疑問符を浮かべる。

 

「あ~~ちょっといいかクロス?」

「はい。何でしょうか?」

「えっとな、敬語は止めてくれ。なんか背中がむずがゆいんだよ」

 

ぽりぽりと頭を掻きながら照れくさそうに言ってくるでろりん。

てっきり敬われると調子にのって偉ぶるかと思っていた影夫はきょとんとしてしまう。

 

「え? でも、これから教えを請うことになる師匠ですからけじめはつけないといけませんし……」

「いいんだよ、俺だってそんな師匠とか先生とか言われるほどすごくもねえんだから」

「まぁそうじゃのう、ワシは修行の途中で逃げ出したからのぅ、それが、まさか師匠になるとは……」

「まぞっほもか? 実は俺もそうなんだよ」

「あ、私も私も~お師匠がホントいばってばかりの嫌な奴でさ~」

「皆そうなのか? 俺もだ」

 

「「「「な~んだ俺ら全員一緒じゃないか!」」」」

 

肩を組んで4人が笑いあう。

先生にためぐちかぁ、と影夫は渋い思いでごちる。

影夫としては、前世で見かけたような不良や反社会的な人間のようにはなりたくないという思いもある。

 

「というわけじゃ。わしらはお主らに教えはするがかしこまらんでいい。口調もあらためなくてよいぞ」

「うーんそれでいいのかなあ。けじめというか、先生のような目上の人にはやっぱり……」

「お兄ちゃんってそういうところすごく気にするもんね」

 

ずるぼんに抱きかかえられながら、ミリアがそういいながら首元をすりすりしてくる。

 

「礼儀は大事だからな」

「それを弁えておるなら問題ないわい。ふつうにしゃべればよい。あれじゃ、師匠というよりは、同志とか仲間に教えてもらうと思えばよい」

 

「ふぅ、わかりま……わかったよ。礼儀や敬意を欠くのは調子にのってるみたいで嫌なんだけどなぁ」

「でもわたしはちょっとホッとしたかも? あまり堅いのは苦手だもん」

「ミリアちゃんは、ありのままでいいのよ。可愛い子が妙にかしこまっちゃ変よ。あと、私のことはお姉ちゃんって呼べばいいからね?」

「う、うん……」

 

今後の方針も決まり、自己紹介も終わった俺達は、ワイワイと騒ぎながら親交を深めていくのだった。

 




展開を急ぎすぎた感があるので、ずるぼんが、可愛い女の子好きな変態百合娘に見えないか心配です。
妹が欲しかったずるぼんは、可愛い女の子をつい甘やかしてしまうということです。

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