壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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現実のものは、美味しくないそうですがDQ世界のはとても美味しいのです


好調

「はぁぁぁっ……暗黒処刑術!」

「バギマ……!」

 

影夫達はルイーダから緊急で頼まれた依頼をこなすべく、ベンガーナ岬にある海辺の洞窟にもぐっていた。

 

「うりゃぁっ! はぁっ!」

「ベギラマ!」

「イオラ!」

「バギマ!」

 

次から次へと洞窟の奥から押し寄せてくるモンスターの群れを全員で迎撃する。

しびれくらげ、マーマン、スライムつむり、うみうし等それほど手ごわい連中ではないがとにかく数が多い。

 

「もぅっ、次から次へとぉ、うっとおしいよぉ! 死んじゃえぇ!」

「落ち着けミリア! イラついて雑になって隙が出来てるぞ! ちぃっ!」

 

ミリアが暗黒闘気を伝わらせたおおばさみの刃をぶんぶん振り回し、雑魚モンスターどもをなで斬りにする。

おおばさみは刃で挟まずとも、スライスするように横薙ぎに斬ることもできる。

威力は落ちるのと、おおばさみを掴んだ状態で腕をふることになるため、力が込めきれず、固い敵を捻じ切るのが難しいので雑魚を纏めて切り払うのに便利な程度の使い道しかないが。

 

イラつくミリアに生まれた死角と隙を影夫が凶手を伸ばしてカバーする。

ちなみに戦闘になる際は、影夫はぬいぐるみ状態ではなく、いつものようにミリアの体から手だけを出している状態である。

 

しかし、倒す端から次から次へと仲間を呼ばれてしまう。

 

「くそっ、本当にキリがないな。だいおうイカ風情が手をかけさせやがって……洞窟丸ごと爆破したいぜ!」

「お兄ちゃん! 全力全開の暗黒闘殺砲なら入り口あたりの天井を崩すことは出来るかも。ほんとにやっちゃう?」

「それで終わりにできればどれだけいいか……!」

 

今回の依頼内容は、海辺の洞窟に住み着いたモンスター達の排除である。

ベンガーナの街から目と鼻の先の場所なのでここに凶暴なモンスター達が集まると街の安全が大きく損なわれてしまう。海上交通が遮断されるとベンガーナの街はやっていけないので死活問題となりつつあるのだ。

 

洞窟の入り口を潰して封じ込めるという手もだめだ。

中で海とつながっているので出入りが自由なのだ。こうなるとただ単に安全な巣を提供することになってしまう。

 

「クロス! あまり俺達から離れるなよ。数に呑まれるぞ!」

「ああっわかった! ミリア聞いてたろ、一旦でろりん達のとこに戻るぞ」

「うんっ!」

 

すべての原因は、ベンガーナ海周辺を統べる主であると思われるだいおうイカだそうだ。

数回の討伐に失敗しているベンガーナ国からの情報提供によって判明している。

 

主が洞窟に住み着いたせいで、凶暴な海のモンスターが寄り集まっているのだ。

魔王の邪悪な意思がなくとも元々凶暴な素質をもつモンスターは多くいる。

そんな連中をだいおうイカが周辺海域から根こそぎ大量に集めていると思われるのでこの数である。

 

「で……どうするのよ? このまま戦い続けちゃ、ヌシのところに辿りつく前に魔法力がつきちゃうわよ?」

「ここで雑魚を限界まで狩って、撤退すべきだろうな」

「ワシもクロスの意見に賛成じゃ。無謀は避けるべきじゃな」

「それしかなさそうだな……イオラ!」

「消し飛べぇぇっ、暗黒闘殺砲ッ……!」

 

それから全力で戦い続けて小一時間。

倒し続けたモンスターの死骸が周囲に山となって築かれていたが、あふれ出てくるモンスターの数は減る様子はなかった。

 

「バギマ! やば……クロス!魔法力が切れそうよ!」

「ベギラマ! ワシももう少しですっからかんじゃぞ!」

「ち、しょうがねえか。うっしゃ! じゃあ俺とミリアで敵は引き受けたっ。でろりん達は、死んだ海産物を馬車へ運び込んでくれ! あと、傷まないように氷系呪文かけといて!」

 

「「「「あいよ~~!」」」」

 

結局、影夫達は戦利品の海の幸を山と積んで逃げ帰るのだった。

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

「はぁ~~っ、くそがあああ!」

「キリがねえなぁ、今回も間引きだけか~」

「儲かるからいいんだけどね~、私はこういうコツコツしたほうが好きよ」

「うーーもう飽きたよ、同じことばかりじゃつまんないー」

「我慢しろってミリア。きっと次で品切れになるさ」

「うん……てぇい!」

 

「おぅ、野郎どもぉ、ひきあげだー」

 

「「「「おーー!」」」」

 

「なんなのよそのノリは……」

 

洞窟に出向いては間引きを繰り返すことすでに10回。

今回も海の幸を山と積んで逃げ帰るのだった。

 

あまりの量に運搬用の馬車を急遽仕立てる必要が出たくらい、毎度毎度嫌になるほど雑魚ばかり倒していた。

おかげで、デパートやら商店の仕入れ担当やらが何人もでろりん達の元にやってきて、次回の討伐時期を聞いてきたり、優先的に取引がしたいと贈り物をしてくる始末。

 

なんだか影夫達はやり手の漁師か何かにでもなった気分である。

 

影夫達が海の幸を売りさばく広場は、勇者市場などと呼ばれ始め、勇者討伐の一品としてブランド化されたり、偽造品が出回るほど。

勇者関連の商品やグッズが街のあちこちで売られるようになり、ベンガーナででろりんやミリアの名前が有名になってしまった。

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

影夫達一行はようやくたどり着いた洞窟の奥でだいおうイカに一斉攻撃をしかけていた。

 

「くそが! さんざんてこずらせやがって! 思い知らせてやるからなぁッ! クソイカがぁ!!」

 

これまで都合20回も雑魚の間引きばかりやるハメになっていた影夫達は苛立ちの絶頂だった。

 

だだっぴろくじめじめした洞窟内を探索するのは、体力的にも精神的にも疲労が大きく、滑りやすい床や水溜りや潮しぶきがうっとおしい。

しかも洞窟の中は空間が限られるので呪文を使ったり暴れるのにも制限が出て、フラストレーションがたまるのだ。

 

ずるぼん&ミリアの女性陣も、潮の匂いが身体に染みつくし、塩気で肌や髪の毛が傷むしで、大変ご立腹である。

 

「でりゃあ!!」

「はっ、遅いぜ!」

「死んじゃえぇぇっっ!」

「女の怒りを思い知りな! バギマ!」

「ほっほっほ、年寄りを怒らせてはいかんな」

 

だいおうイカの末路は可哀想なくらいだった。

攻撃を仕掛けても、剣で斬られ、鉄塊で殴り飛ばされ、呪文で斬られたり焼かれたり爆発させられたり、と完全無欠に封じられて何も出来ないままに、息の根を止められた。

 

「くきょぉぉおぉぉぉーーーッ!?」

「あーご愁傷様」

 

思わず影夫が手を合わせてしまうほど、あっという間に大王イカは屠られ、断末魔の叫びとともに新鮮な死骸をその場に晒した。

 

「天罰覿面!って感じね」

 

ぷすぷすとこげたり切り刻まれたイカの身体。

でろりん達は汚物を見るような目で見つめているが、影夫とミリアは違った。

 

「おいしそう……」

「たしかに……さしみ、丸焼き、イカ焼き、ゲソ煮込み、イカリング……やべ、くいたい!」

 

影夫は前世の美味しいイカ料理を思い出したから。ミリアは影夫から聞いた前世の料理に憧れて。ともかくふたりは食べたくてしょうがなかった。

 

「さっそく食べようよ!」

「そうだな、新鮮なほうが美味いもんな」

「生でお刺身は無理かな?」

「そのままじゃ寄生虫で危ないぞ。一旦氷漬けにして殺さないと。それに生だとぬめりが強いからな。とりあえず今はゲソ焼きだ!」

「うんっ! メラっ……」

 

ミリアがナイフで小分けに切り分けたゲソをいくつも刀身に刺してメラで焼いていく。

 

「おぉーいいにおいだ。うまそう。」

「じゃあお先にいただきまーす、んぐもぐっ……美味し~!」

 

メラの炎が消えると同時に、ミリアはゲソ焼きにかぶりつく。

海水のおかげで味付けは不要。天然の調味料となっている。

取りたてを丸焼きで食す。豪快にしてこれ以上ない贅沢であった。

 

「あ、くそっずるいぞミリア。俺にもナイフ貸してくれよ。メラも頼むぞ」

「はぁいっ……んぐんぐ。めらっ……」

 

ほおばりながら、ミリアがどくがのナイフを渡し、メラの炎を生み出す。

おおばさみを装備したとはいえ、ナイフシースにはどくがのナイフは2本とも普段から刺している。

緊急時のための備えだったがこういうときにも役に立つ。痺れるのが怖いがどういう仕組みか斬りつけ以外では痺れることはないので大丈夫だった。

 

刀身に塗った毒で痺れさせる仕組みではないのだ。それならば毎回塗らないと効果ないはずだからな。

 

「あれ?」

 

影夫はゲソを焼いて……そこででろりん達の様子がおかしいことに気付いた。

でろりん達は4人で抱き合いおぞましげに震えている。

 

「「「「な、ななな何やってんだよお前ら!?」」」」

「はぁ? どうしたってんだ?」

 

「ミリア! そんなの食べるのやめなさい! おなか壊すわよ!」

「え? やだよ、美味しいもん! ずるぼんお姉ちゃんもどう?」

 

「「「「ひぃぃぃ……」」」」

「なんだよ、お前らイカ食わないのかもったいない」

 

(え?ダイの世界でイカ食わないのか。ヨーロッパ風だからか? あれ? イカは大丈夫なんじゃなかったっけ?)

 

「マジか。こんなうまいのに食わず嫌いするなんてなぁ。ミリア、ゲソ焼きを4人に食わせてやれ!」

「は~~い! みんなおいしいよ!」

「お、おおお、落ち着きなさいミリア!? わ、わた、わたし、ひぃぃぃっ!? きゃーっ!?」

「「「ひぃぃっ、来るなぁ……!」」」

 

ミリアがゲソ焼きを手に迫ると4人は悲鳴を上げて後ずさりしていく。

いくらなんでもそんなに怖がることもないのにと思いつつも、ずるぼんのあまりの脅えぶりに影夫はイタズラ心をおさえられなくなった。

完全に女扱いしていないずるぼん相手であり、しかも日頃小言や説教が煩いので、影夫は遠慮というものがなかった。

 

「ふひひっ、ほーれ、ずるぼん、生のイカ足だぞ~」

「ぬるぬるのぐちょぐちょで、ねっとりしてて、ひぃぃぃ!! あぶぶぶぶっ! きゃあきゃあ!」

 

影夫が生のイカの足をべっちょりとずるぼんへ投げつけた。

新鮮さゆえにまだうねうねと動いている足がずるぼんの腕や首元を這い、ずるぼんが悲鳴を上げて腰を抜かす。

 

「ぎゃはははは、おもしれー!!」

「あ、あああ、あんたクロス、覚えてなさいよ!」

「ああ~? きこえんなぁ~!」

「ひぃぃっ!? や、やめ……きゃあああ!」

 

イカの足に絡みつかれてぬるぬるになったずるぼんが激怒するが、影夫は弱みにつけ込み、嗜虐心丸出しでイカの足をもう一本投げつけていた。

 

「きゃはは、待て待てーーー!」

「「「や、やめろーーー!」」」

 

一方ミリアも逃げまどう男衆を追い掛け回していた。

おおばさみの刃にさしたゲソを片手に走り回っているが危ないのではないだろうかと影夫は思いつつも、デリカシーなく笑うのだった。

 

 




2月20日追記。皆様のあたたかいお言葉で迷いは晴れました。
今後ともよろしくお願いいたします。

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