壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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次は運命の分岐点


解体

 

「死ねぇぇぇぇ……!」

 

10本もの足が一斉にミリアに襲い掛かる。

大王イカと同じ本数であるがその力も早さも足捌きも比べ物にならなかった。

 

「ぐっ、こんなっ、ものぉっ……!!!」

 

ミリアは右手のおおばさみと、左手に握ったどくがのナイフで触手を迎えうつ。暗黒闘気を宿らせた刃は強靭な触手をもたやすく斬り飛ばした。

 

だが、手数が圧倒的に違った。のこる8本の触手がミリアを殴り叩き突き飛ばし薙ぎ払ってくる。

 

「がっ、げ、ぎぃ、ぐっ、げぇっ、ご、がぁ、ごぉっ!?」

 

骨がへし折れ、肉が抉れるに違いない程の強烈な8つの打撃攻撃。

 

「「「ミリア!?」」」

「いやああああっっっ!!」

 

ミリアはそれをまともに食らったのだ。この場の誰もが彼女は死んだ。そう思った。

 

しかし。

 

「くひ。くひひひひゃひゃあぁぁっっっ!!!!!」

 

爆発的に噴き上がるほどの暗黒闘気を体中にめぐらせていたミリアには通じなかった。

 

如何に脆い人間の肉体といえども強大な闘気を帯びれば限りなく強固となる。

 

それは光の闘気であろうが、暗黒闘気であろうが変わりはない。

ミリアの全身は鋼鉄並みの強度と化しているのだ。

 

クラーゴンはミリアに、軽く叩いた程度のダメージしか与えることができなかった。

 

「オォオォォォォォッッ!!!!!」

 

次は自分の番とばかりにミリアは右手のおおばさみを振るい、さらに1本の触手を挟み切るとともに、左手のどくがのナイフでもう1本の触手を抉り突き、無茶苦茶に滅多突きにしてズタズタにした。

 

「グギャッーギャォァァッ!!」

 

クラーゴンは、ミリアへの攻撃に意味はないと本能的に判断したのか、のこり6本となった触手でミリアの武器を狙い撃った。

 

「っ!?」

 

4本の触手によっておおばさみの刃は3つにへし折られる。

それと同時にミリアのどくがのナイフも、2本の触手に絡みとられて遠くに投げ捨てられてしまった。

 

「あはっ……あははははっ! ぶきがなければ……わたしが、なにもできないと、おもったの?」

 

ミリアは自らの左手に絡みついていた触手のうちの1本を、右手でそっと掴むとそのままぐちゃりと指を差し入れ、握り締めた。

 

クラーゴンの触手は軟体だが強靭で鋼の剣であろうとも簡単に絶ちきるのは難しい。

それなのに、いとも簡単にミリアの小さな掌はそれを粉砕していた。

噴出する闘気が小さく華奢な女の子の手を凶器へと変えてしまっていた。

 

「ぎゃうぅっ!?」

「ぶきなんかなくても……わたしはっ、ぜったいに、おまえをっ、ころすっ!」

 

痛みと驚きに悲鳴を上げるクラーゴンであったが、ミリアの攻撃はさらに続く。

 

「ああああァァァァァッッッ!!!!」

 

暗黒闘気を纏わせた手刀による強烈な一撃。

それで、左手に絡み付いていたもう1本の触手をこともなげに絶ちきった。

 

「ギ、ギャーッ!」

 

クラーゴンは恐怖に震える。

目の前の小さな生き物は、脅威だ。この生き物はこのままでは間違いなく自分を殺す。

 

この生物を自由にさせてはいけない。クラーゴンは本能的にそう察して、4本の触手をミリアの両手両足に絡み付かせて空中に引き上げた。

 

「ミリアッ! 今、たすけっ」

 

クラーゴンの怪力でミリアの小さな体が思い切り引っ張られたら、バラバラにされかねない。そう判断したでろりん達があわてて加勢をしようとするが、その必要はなかった。

 

「あはっ。ふふふふ。綱引き? わたしと綱引きがしたいの?」

 

ミリアが無理やりに引き伸ばされた四肢にぐっと力を込めて、引っ張り返す。

すると強烈な力で引き返された触手はぎちぎちに張り詰め、軋みを上げた。

 

「ギッ、ギャッ……!?」

「そぉれっ、そぉれっ♪ うんとこしょーどっこいしょー!」

 

クラーゴンは必死になって触手に力を込め、どうにかミリアの四肢をもぎり取ろうとする。

クラーゴンが引けばミリアも引き、ミリアが引けばクラーゴンも引き返した。

 

「きゃはははっ、がんばれがんばれ! がんばらないとぉ……死んじゃうよぉぉっ?」

 

命を掛けた綱引きが続く。ミリアは影夫から教えてもらったこの競技を無邪気に楽しんでいた。数度、綱引きが続いた後。

突然、ミチミチッブチリッ。と断裂する肉繊維の音がしたかと思うと、引っ張り合う力の負荷に耐え切れなくなった4つの触手が内から弾ける様に千切れ飛んだ。

 

「ざぁーんねんでした……わたしのかち! あひゃひゃひゃひゃっ!」

「……ィ……ッ……!?」

 

全ての触手腕を失ったクラーゴンが声にならない声を漏らして恐怖に震えた……次の瞬間。空中に投げ出されたミリアがクラーゴンの目の前に着地した。手を伸ばせば触れられる程度の、いつでも殺せる距離だ。

 

「おまえは、お兄ちゃんを殺そうとした。なら……死ぬしかないよね。殺されるしか! おまえにはぁぁっ!!」

 

もぞもぞと触手腕の根元の部分を必死に動かし、這い蹲るようにしてクラーゴンは逃げた。少しでも逃げられるように、背中を向けて一心不乱に。

背後から攻撃されるかもしれないなんて、本能的判断でも考えられないくらいとにかく恐怖から逃げ出そうとした。

 

「ん?」

 

ずるっ、べちょ。べちょっ、ずるずる。

ぶざまにねばっこい音を立て、粘液を撒き散らしながら、必死に転がるように這いずって逃げていく。

 

「どこにいくのかなー?」

 

クラーゴンは逃げて逃げて……気がつくと目の前にミリアがいた。

瞬間移動かと見まごうほどの速度で、クラーゴンの前に立ちはだかったのだ。

 

「ギッ!?」

 

クラーゴンの目と目の間。額のあたりにとんと軽くミリアの両手が置かれる。

ミリアはその指先を彼の体内に押し込み、そのままその両手で左右にこじ開けるようにしてフルパワーで掻っ捌いた。

 

みちぶちぎちりぃっ、と引き裂かれたクラーゴンの内側から、噴き出た体液がミリアに振りかかる。ミリアは嬉しそうに舌なめずりしてニタリと笑った。

 

「らくにはっ、死ねないよ?」

 

「ギギャッ、ゲギャアアっ!!!」

「あはははははははッッ! 知ってるぅ!? イカってさぁ! 包丁を使うのは最初と最後。あとは素手でかっ捌くんだよぉ!!」

 

ぐちゅじゅずぬるっ、めきぶちべちゅりっ! 湿った音を立てて大きなクラーゴンの体が解体されていく。

 

「すじなんこつはひっこぬくっー。みみははがしてぇ。すみぶくろはぁ、やぶっちゃだーめ。かわはいらない。はいでちぎってぇ……みをきってぇ……あはっあはっふふうふあははっ!」

 

歓喜の声をあげながら、引き千切り、肉をそぎ、皮をはぐ。

 

「………」

「ひゃはっ……アアアアアアアッッッ!!!」

 

いつしか物言わぬ躯になっていたクラーゴン。

だがミリアの解体は続く。彼女が満足するまで残虐な解体ショーは終わらない。

 

「死んだ! 死んだ! 死んだ殺した! 仇をうったよぁぁ!! きゃはははははっっ!!」

 

「ミ、ミリア……」

「ひっ……」

「あ……あぁ……!」

「ぅ。あ……」

 

でろりん達はただ見ているしかなかった。

ミリアの姿が恐ろしかった。

普段の可愛く無邪気な少女の姿と、今の彼女。同じ人間なのだろうか?

 

「あ…………」

 

そんな中。息が漏れるような声をあげたのはずるぼん。

彼女は見た。見てしまったのだ。

 

「ミ……」

 




ミリアさんの3分間クッキング。

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