壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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IEがまったく起動しなくなってパニックになっていました……ようやくなんとかなったので投下します。



慟哭

「あははははははっ、はは、は……っ」

 

狂ったように笑い続けていたミリア。

だが、糸が切れた人形のように突然ミリアはその場に崩れ落ちる。

 

目先の敵を倒して安心し、強大な暗黒闘気を使役した反動もあって、気絶してしまったのだ。

 

それは致命的にまずい事態だった。

 

「ミ……ミリアァァッ! 逃げなさいっ! 今すぐっ!!」

 

必死になってずるぼんが叫ぶが、ミリアが声に応えることはなかった。

そのままゆっくりと崩れ落ちていき、地面へと倒れこむ直前で、絡み合い束ねられた10本の触手によって殴り飛ばされ、激しく吹き飛ばされた。

 

 

「ギャガァァッーーー!!」

 

そう。クラーゴンは1匹だけではなかったのだ。

今まではミリアの強大な力に襲いかかることができずに潜んでいたが、彼女の力が急速に萎んでいくのを見て、ミリアの背後から忍び寄り、隙を窺っていた。

 

そのクラーゴンは仲間を屠ったこの小さな生き物のことが憎かった。

だが強大な力を侮ることもしない。ゆえに渾身の力による奇襲を選んだのだ。

 

「大丈夫かっ!」

「が、ぁ……っ……」

 

地面に何度も打ち付けられながらも、水切り石のように激しく跳ね飛んできたミリアをへろへろが身体を張って受け止め、すかさずずるぼんがべホイミを掛ける。

その一方で影夫にはでろりんが回復呪文を掛けていた。

 

「おにぃ……ちゃん……」

 

治療を受けてもミリアはうわごとをうめくばかりだ。意識は失ってはいないが、朦朧としている。

そのあまりに儚い姿に、でろりん達が動揺する。

 

「うそだろ。さっきあんなにバケモンみたいに強かったのに、なんでこんなあっさり……」

「バケモンなんて言うんじゃないわよ! 私も、怖かったけど、やっぱりミリアはミリアよ。女の子なのよ……」

「じゃ、じゃが、あんなとんでもない……魔物、いや。それ以上の恐ろしさじゃった……」

 

先ほどの恐ろしいミリアの姿と今の儚いミリアの落差に、困惑するでろりん達。

ミリアと一番親しく、どうにか擁護しようとするずるぼんでさえも、困惑が隠しきれない。

 

 

「あれは、闘気の力だ」

 

それを見て、黙っていたへろへろが口を開く。

 

「え?」

「俺の故郷リンガイアにも闘気の使い手がいた。ただの棒切れでも、強い闘気を通せば鋼を切り裂くことができる。それと同じだ」

 

へろへろは、リンガイアで修行していた頃、実際に闘気の取り扱いを習っていたし、同門の弟子が闘気剣を使うところを見たこともあった。

 

実は、へろへろの怪力も闘気による身体強化の恩恵であったりする。修行の途中で逃げてしまったので、闘気剣や闘気砲はまともに出来ないのだが。

 

「…………」

 

へろへろの言ったことは単なる推測だった。

実際、リンガイアで教えているのは生命力そのものに近い無属性の闘気であり、ミリアの暗黒闘気とは違う。

禍々しさも、物騒で殺戮を楽しむような言動になることもないはずなのだ。

 

だが、へろへろはそれ以上の口をつぐんだ。言ったところでミリアを追い詰めてしまうだけだと思ったのだ。

 

「な、なんだ、そうなのかよ……びびっちまったぞ」

「そんな技があるとはの……」

「そうよね。ちょっと物騒な技だったけど、技は技。ミリアはミリアよね……」

 

へろへろの言葉を聞いたでろりん達がほっとした様子で、ミリアへの態度を柔らかい以前のものへと戻すのを見て、へろへろはこれでいいと思った。

 

「そんなことよりミリアだ。大丈夫なのか?」

「……難しい状態だわ。全身のダメージが大きすぎてすぐに回復出来ないの。どうにか死にはしないけど……数日はまともに動けないと思う」

 

(俺のせいだ、全部俺の……!)

 

でろりんのホイミで少し楽になって頭が回るようになってきた影夫は、己を責め苛んだ。

 

なんという油断。なんて迂闊な阿呆ぶりであろうか。

影夫は心底自分を罵倒した。確実に、防ぐ手段があったのだ。

影夫なら少し意識を集中させて周囲の邪気をサーチすればアイツらの存在に気づけたし、奇襲も防げたというのに。

 

影夫さえしっかりしていれば、ずるぼんとミリアを庇って死に掛ける間抜けなこともなかったし、その結果ミリアに無茶をやらせて半死半生にさせることもなかった。

 

(油断した。つい、ゲームみたいに……くそ!)

 

影夫にはどこか前世の感覚が残ってしまっていた。

最近のゲームではダンジョンのボスを倒せばそのダンジョンはもう安全になることが多いから、その感覚を無意識に抱いてしまっていた。

 

だがゲームと現実は違う。戦いには本当に命が掛かっていて、死ぬか生きるかのリアルなものなのだということは、彼も分かっているつもりだった。

だけど、影夫は討伐を繰り返し、戦闘に慣れてしまっていた。少しずつ緩んだ意識が油断を産み、最悪の状況で危機を招いてしまったのだ。

 

その挙句がこれだ。影夫もミリアも大怪我を負って足手まとい。逃げるにしても、誰かがこの場に残って足止めしておかないとダメそうだ。

 

まさに絶体絶命。

この状況を、誰かがなんとかしなくてはいけない。

 

(誰が? 誰がだって? 俺しかないだろうが)

 

そう。原因を作った自分が責任を取らないとだめだ。

 

「こりゃあダメだ……でろりん、俺をおいてにげ、ろ……ミリアはちゃんとつれてけよ」

 

「バ、バカいうなよ、逃げるときはおまえも連れて行くぞ!」

「たのむよ……あいつは、クラーゴンなんだ。糞強いのはでろりん達も、見ただろ? 1匹はミリアが倒したけど、もう戦えない。お前らだけじゃ、戦っても殺される」

 

影夫は必死に危機的状況を訴えかける。

影夫は知識から軟体生物はクラーゴンであると判断していた。アレフガルドの海の悪夢。クソ高い体力をもち、3回攻撃かつ痛恨まで放つというトラウマモンスターだ。

リアルに戦うとなると、ゲーム以上に厄介な相手のように思えた。

でろりん達には勝てない相手だろう。

 

「時間は俺が稼ぐ。ミリアをたのんだぞ……」

「何言ってんだよ!? さっさと回復させてとっとと皆で退却すればいいだろ!」

「無理だ……俺がここで残って食い止めるしか、ない」

 

完全回復するまで、呪文を何度も掛けるような悠長な真似はクラーゴンが許してくれないだろう。

クラーゴンはミリアを未だに警戒しているのか、遠くから様子を見ているが、じりじりと距離をつめてきており、いまにも飛び掛ってきそうだ。

 

それに、洞窟から逃げる途中にも魔物と戦いながら逃げなくてはいけないことを考えると捨石となる足止めが絶対に必要なのだ。

 

一旦はこのボス部屋から出て行った雑魚達が遠くから様子を窺っている気配が影夫に感じられる。影夫たちが進退窮まったところで雪崩れ込む気なのだろう。

 

だから影夫は決めた。ミリアだけは絶対に死なせるわけにはいかないのだ。

 

「ダ、ダ、メっ……ダメだよ」

「ミリア? おきちゃダメよ!」

 

影夫の言葉が聞こえたのだろう。

息を荒げて朦朧としていたミリアがぐぐっと上半身を起こして、全身の激しい痛みに呻きながらも必死で影夫のところまで這いずってくる。

 

「ぐ……あぐっ、うぅ……お、にぃちゃん……」

 

涙を流しながら、ミリアが影夫にすがりついた。

 

「ダ、ダメだよ、そんなの、ぜったいいや! 逃げるなら、お兄ちゃんも一緒じゃないとダメなの!」

「わがままをいうんじゃない……でろりん、ミリアだけは絶対死なせるな……退路は、死んでもまもってやるから」

 

「くそ! なんとかならねーのかよまぞっほ!?」

「だめじゃ、どうくつの中ではキメラの翼も使えんし、リレミトを使えるものもおらん」

「じゃあ、背負って逃げるのはどうなんだ?」

「だめじゃ。帰り道にも魔物はいるじゃろ。足が鈍ったところに追いつかれては挟みうちになるわい」

 

「そんな……」

「じゃ、じゃあやっぱり……」

 

「「「「クロスを見捨てて、逃げるしか……?」」」」

 

影夫が顔見知り程度の仲であれば、でろりん達は一も二もなく逃げていただろう。

しかしそうではない。友人であり弟子であり、自分達に多少の自信と努力をはじめるきっかけをくれた恩人でもあるのだ。

 

「いやああああああああぁぁぁっっ!! ぜったいダメッ! ダメだよっ、ダメ! ダメなのぉっ!! 一人にしないでお兄ちゃんっ……!!」

 

「さっさといけでろりん! ミリアを逃がし損ねたら絶対にゆるさねえからな」

「ぐしゅっ、えぐっ……やらよぉっ……そんなの、もうやらぁ……! おにいちゃんのうそつきっ、守ってくれるって、一緒にいてくれるって言ったのに!!」

 

影夫は、泣き喚きすがりついてくるミリアの頭をゆっくりと優しくなでる。

 

「ごめんな。ミリア……」

「いやいやいやぁぁっ……! ひぐっ、えぐっ……!」

 

「クロス、あんた……!」

「たのむ。ずるぼん……」

 

考え直せと言おうとしたずるぼんをさえぎり、静かだが有無を言わせぬ声で影夫が言うと、誰も声を出せなくなってしまう。

あたりには、ミリアがしゃくりあげる音のみが響く。

 

「いやぁぁっ、やだやだやだぁっ……! おねがいみんな、あいつを倒してっ、お兄ちゃんを助けてぇぇ!」

 

「「「で、でも……」」」

 

ミリアが一縷の望みにすがりつく。自分を鍛えてくれた師匠達に、必死に懇願する。

しかし、敵はまごうことなき強者であり、影夫やミリアですら簡単に半死半生にされてしまったのだ。

 

でろりん達もできればどうにかしてやりたい。だけれども、臆病で怖がりな彼らはどうしても臆してしまう。

 

でろりん達は、少女の必死の願いを聞き入れてやれず、気まずくて彼女から目線を逸らし、返答も返せない。

 

「「「っ…………」」」

 

「なん、で……みんな…………?」

 

でろりん達の反応と態度は、ミリアと親しかったのに裏切った村人達が見せていたものと同じであった。

 

「うそ……だよね……みんなは、ちがう、よね……?」

 

「「「…………っ」」」

 

「みんなも……おにいちゃんをころすの? しんじてたのに……わたし、わたし、みんなのことだいすきだったのに!!」

 

ミリアの脳裏にトラウマがフラッシュバックする。またしても、心を許し、信じていた人達によって、大切な人を失ってしまう。

 

「どうして……っ?」

 

爆発する感情が、暗黒闘気の奔流を生み出し、ミリアの体から激しく噴き上がらせた。

無茶がたたって壊れかけた肉体が、全身を蝕む暗黒闘気に悲鳴を上げ、激痛をミリアに伝える。

 

だけど、今のミリアには体の痛みなんて感じる余裕はなかった。心がそれ以上に張り裂けそうで苦しいのだから。

 

「ちがうよね!? みんなは、やさしくてつよくて……むらのひとたちとはちがうよね!?」

 

「「「っ…………」」」

 

「ちがうって言ってよ……!!!」

 

洞窟の中に悲痛なミリアの声が響き渡った……




へろへろの生まれ故郷はリンガイアなので、そこで修行したんじゃないかと空想。
師匠は猛将バウスンだったり?という妄想。

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