壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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連続投稿。以後は、不定期で2話ずつ投稿で更新していきます。

相変わらず亀更新ですが、のんびりと気長に待っていただければと思います。



解答

 

 

翌朝。

洞窟の寝床で自分に抱きついて眠っているミリアの身体からすり抜け、影夫はマトリフの元へと向かった。

 

マトリフはというと外から帰ってきたばかりなのか、精根尽き果てて憔悴した様子のまぞっほを引きずりながら洞窟の入り口から姿を見せる。

 

「さあ、答えを聞かせてもらおうか」

「マトリフさん……すみません。俺はやっぱり、皆も救いたいし、ミリアもなるべく守りたい。虫がいいのは分かっています。でも、俺は、そうしたいんです!」

 

「……てめえマジで言ってやがるのか?」

「はい。俺は見過ごしたくない。全てが終わった後、ミリアに向かって俺はお前のために世界の半分を見捨てたんだと誇ることは出来ない。ミリアのご家族には申し訳ないけど……それでも!」

 

そこで影夫は一度言葉を区切り、意を決して強圧的に睨みつけてくるマトリフに向かって、言葉を吐き出していく。

 

「俺は、ミリアを危険に晒して彼女の心の傷を抉り広げ、もしかすると壊すことになるかもしれない。何だってしてあげるつもりだけど、確実に守ってあげられないかもしれない。それでも俺は……ミリアと一緒に、力をつけて少しでも多くの人を救いたい!」

 

そういって影夫は目をつぶった。

結局、自分で決められなかった時と結論が一緒だ。

マトリフに馬鹿野郎と怒鳴られ殴られるか、見放されるか。

 

だが、どうなっても自分で決めたことだから受け入れるしかない。

 

「そうか。したいようにしやがれ」

「へ?」

 

こつん、と頭が軽く叩かれただけでそう言われて、きょとんとして影夫が目を開くと、そこにはニタリと人の悪い笑みを浮かべたマトリフがいた。

 

「俺、結局昨日といってることが同じなんだけど……?」

「自覚してしっかり考え直して、間違いなく覚悟をきめたろうが。ならそれはお前の判断だ。何を選ぶかは関係ねえんだよ」

 

「え、えええ!?」

 

まるで騙された気分で、混乱して呻きながら影夫は頭を捻る。

 

「でも、俺の選択は、青臭くってガキみたいで……都合よすぎますって!」

「てめえにゃ仲間がいるだろうが。ミリアもそうだし、ここで伸びてるこいつもそうだ。てめえに足りない手の数や大きさは仲間が補ってくれる」

 

「そ、それはそうでしょうけど……そんな他力本願な……」

「頼りきるのはダメだ。そんなもん寄生だからな。だが大人が自覚を持ってお互い補いあうなら構わねえよ。一人じゃできねえことを一緒にやり遂げるのが仲間ってもんだ」

 

カカカ。と笑ってしてやったりの顔をみせるマトリフ。

 

「マトリフさん、騙しましたね……」

「俺はちゃんと自覚しやがれっていっただけだ」

 

たしかに影夫は今まで無自覚だった。思考や感情が誰のものだって、意識はなかった。

 

(自分が選び自分で動いて自分で得るか。たしかに自覚したら目の前が開けた気がする)

 

影夫は今まで、追い詰められないと自力で努力が続かず、うだつが上がらなかった。

前世で、どこか腑抜けていて魅力に欠けていたのも、何をするにもどこか他人事だった主体性の無さが原因だった。

 

ミリアを守るためと虚勢を張っていたがそれも今までは、自分自身で決めたことじゃなくて、流されていたものだった。

 

だが、影夫は気付いた。

これからは考えも感情も自覚して持てるだろう。好き嫌いはあるだろうが衝動的な偏見もおそらく自覚して自分で是非を決められる。

 

「ったく世話かけやがる、どいつもこいつもヒヨッコばかりだぜ」

「す、すみません……」

 

「さて、早速選択の責任を取ってもらおうか。死ぬほど辛い地獄の特訓のはじまりだ」

「は、はいっ!」

 

「きりきりついてきやがれ」

 

引きずっていたまぞっほを床に転がし、乱暴に毛布がわりの布切れを投げつけると、今度は影夫を引きずり洞窟の外へと向かう。

 

あれもこれもという欲張りな選択は茨の道。

戦いの中で、なるべく多くを拾うためには、何よりも力が要る。成長が必要で、そのために厳しい努力がいる。

 

だけど、自分でしっかり決めたことだから、影夫には前世とは違ってやり遂げられる気がしていた。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

「12、13、14……」

「ぐ、ぅ、ぁぁぁぁぁッ……!」

 

大粒の汗を大量に流しながらミリアが全身から魔法力そのものを噴き上がらせ、マトリフとぶつけ合っている。

ミリアは劣勢ながら必死に押し込められてくる魔法力を阻もうと押し返す。

 

「17、18」

「きゃぁっ……!?」

 

悲鳴とともに吹き飛ばされたミリアが地面を転がった。

息を荒げて立ちあがれないほど疲弊しているが、その近くにはまぞっほも転がって疲労困憊の状態だった。

 

「魔法力の総量不足だ。もっとしっかりメディテーションをしやがれ」

「うん……ごめんなさい」

 

「よし、次だ」

「が、がんばってね~~」

「いよっしゃ!」

 

ひらひらと震える手を振って、エールを送るミリアに、グッドサインで応え、影夫がマトリフの前に立って相対する――

 

「はぁぁぁぁっ……!」

「22、23……」

「ぐっ、ぎぎぎぎぎっ……!」

 

影夫は目を細め、口をきつく閉じて、黒い影の身体からゆっくりと靄を放ちつつ、魔法力を放出して、マトリフと競り合う。

 

「27、28、29……30」

「あがっ……!?」

 

影夫も吹き飛ばされ、ミリアの隣に転がる。

 

「30で気を抜いたな? 実戦なら死ぬぞ」

「は、はい……すみません」

 

だらりと影の身体を伸ばしながら、影夫も息も絶え絶えにバテバテになっていた。

 

「ったくてめえら揃いもそろって情けねえ。100近い俺相手に3人がかりでへばってどうする」

 

「くそっ、まだまだっ!」

「私もっ!」

「ワシも、寝てはおられん……!」

 

「威勢だけはいいな。まとめてかかってきやがれ」

 

 

その後、太陽が頭上に昇りきるまでの間、影夫達は3人がかりで何度も挑んだが、魔法力がからっぽになるまで結局歯が立たなかった。

 

さすがに終了間際にはマトリフの息も上がってきていたが、それだけだ。

 

想像以上の差があるのだと痛感した3人だった。

 

 

 

食事休憩を挟んで午後には。

 

「おらおらッ、ちんたら走ってんじゃねえよ!」

「ひぃっ、はっはっはぁっ……!」

 

休み暇は与えねえとばかりにまぞっほがマトリフによってアカイライに追い掛け回されて走り回っていた。

 

「さっさと逃げねえと切れ痔になっちまうぞ!」

 

マトリフがアカイライに蹴りを入れると、真空呪文が放たれてまぞっほのローブをすぱすぱと切り裂いた。

あわてて、まぞっほが速度を上げて、必死に走る。

 

「ひっ、ひぃー!? し、心臓がぁーっ、はぁっひぃっ、あ、兄者ぁっ、もうっ、死んでしまう……!」

「ケケケ。死ぬ寸前にちゃあんと回復してやる。心配せずに何度でも死に掛けろ。それっ! 走れ走れ」

「ひぃぃーーーッ!?」

 

60を超える老人にもポップにやらしたような恐ろしいしごきをするマトリフ。

ソレを見てあまりのドSぶりに引いていた影夫とミリアだが、彼らもすぐに終わりの無い扱きに苦しむ羽目になった。

 

 

「グルウッ! ガゥ! ガアアッ!!」

「くっ、はぐっ……つぅ!?」

 

「ガァーーーッ!!」

「ぉっ、ぐっ、ふっ、ぐぎぃっ」

 

ミリアと影夫はというとごうけつぐまの攻撃をひたすら防ぎ続けるということをやらされていた。

反撃どころか呪文の使用も一切禁止で、避けるか防御を延々とさせられる。

 

最初は身体を大きく動かしてかわしていた彼らだが、そのうちに足が思うように動かなくなり、防御を続けていくがダメージの蓄積で堪え切れなくなり、またのろのろと攻撃を避け始め……それを繰り返していった。

 

限界を迎えるか集中が切れたところで、ふたりは無防備にごうけつぐまの爪を無防備で受けかけ……遠くから飛んできたマトリフのベギラマで救われた。

 

「てめえら一瞬諦めたな? 絶対に気持ちを切らすな。体力が尽きたら気力で動け。指一本でも動くうちは諦めるな」

 

「「は、はひ……」」

 

 

影夫達3人は、身体が限界を迎えるたびに回復呪文で強制的に復帰させられ、精根尽き果てて気絶するまで扱かれ続けるのだった。

 

 

そして、夕方。

影夫とミリアとまぞっほは3人横に並んで瞑想(メディテーション)に励んでいた。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

3人が地面に頭をつけてうんうんと唸っていた。

ちなみに、影夫だけは重さがあまり無い為、頭に重しをつけられて固定されている。

 

この修練は油断すると眠りそうなイメージがあるが、実際は集中し忙しいために眠っている暇は無い。

 

メディテーションとは魔法力を練り上げ、作り上げた魔法力の塊を操作して体内を巡らせた後、雲散させてはまた練り上げるということを何度も繰り返すものであるから、常に忙しく集中が必要だ。

 

練度が上がれば、呪文の制御の精度を高まり、呪文の溜めも短くなり、魔法力の総量も増える。

 

魔法使いや僧侶にとってダイレクトに力を高められる修練である。

地味な修行がどちらかというと苦手な影夫達だが文句も言わずにこなしていくのだった。

 

 

 

日が暮れると、軽い座学の時間を挟んで食事の時間が始まった。

 

「うぇ……もごっ、うぅ……食べる、自分で食べるから兄者離してくれ!」

「ちっ、最初からぐだぐだ言わずに食いやがれ」

 

疲労のあまり吐き気で食欲がないまぞっほは、イモリの丸焼きや、各種薬草のごった煮込みのような、身体には良さそうだけど普段でも食べたくない薬膳飯を無理やりに食わされていた。

 

辟易する美味しくない飯をもぞもぞと無理やり押し込むように食べるまぞっほだが、彼の目の前にいるふたりは様子が違う。

 

「んぐんぐっ、にがい! でも美味いなぁ」

「くぅーまずいっ! もういっぱい!」

 

量だけはたんまりとある薬膳飯を猛烈に食べ、やたらと苦い薬草青汁や、エグみが凄いはずのどくけし茶をがぶ飲みしている。

 

「若さじゃのぅ」

「てめえも、昔にまともになってりゃ若いうちに修行できたんだ」

「うぅ、面目ない……」

「ふん。まぁそれでも手遅れじゃねえ。クロスの世界に生まれてなくてよかったな? 回復呪文がないんだとよ。無茶な修行をしたらそのままお陀仏だ」

 

そう、原作で言及があったが、消耗した体力や疲労の除去も回復呪文で行うことが出来るのだ。

もちろん、回復呪文で筋肉の疲労や体力回復をしても肉体はちゃんと頑強になっていく。超回復を損ねることは無いようだ。

まさに魔法である。

 

 

 

「飯食ったらさっさと寝やがれ」

 

自分の分の飯を食い終えたマトリフは、ドカ食いをする影夫とミリアに言い捨てるとさっさと自分の寝床に引っ込むのだった。

 

 

「ふぅー、ったく年寄りにゃ堪えるぜ……」

 

3人を同時に鍛えるマトリフの疲労も相当だ。

部屋に篭るなりベッドに寝転ぶ。

 

「ちっ……」

 

いつかアバンに言われたか。と昔を思い返していた。

 

『あなたは、口では冷たいことをいうが、心根は優しい方です。弟子でも育ててみればよいのでは? きっといい師匠になると思いますよ』

 

その時は、何を馬鹿なことを吐き捨てて否定したものだが……忌々しいがアバンが言ったとおりだったようだ。

 

パプニカの国王の相談役を辞めさせられた時には、もう誰かとつるむことはないと思っていたが……3人も弟子が出来ちまうとは。

まぞっほに関しては、師匠からの預かり弟子みたいなものだが。

 

「世界の命運が掛かってんだ、しょうがねえか……ふん」

 

弟子達のまっすぐな姿や成長するさまを見ていると、悪くはないと思っている自分がいるが、素直になれないマトリフは眉を顰めて目を閉じるのだった。

 




次からは、へろへろ達の様子です。

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