壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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お久しぶりです。
ブランク長過ぎで色々崩壊してて申し訳ないです。


へろへろと弟弟子

影夫達3人がマトリフに扱かれている頃、へろへろは故郷リンガイアに帰ってきていた。

 

彼が今居るのはリンガイアの王城の一角にあるリンガイア戦士団の詰め所。

へろへろはそこで、一人の男に土下座していた。

 

「バウスン様、どうかお願いいたします!」

 

その男はリンガイアの猛将バウスン。

リンガイア戦士団を纏める団長であり、へろへろの師匠である。

 

「今更出戻りだって!? あなたには恥というものがないのか!」

 

そこに冷たく投げかけられた言葉を発したのは、バウスンの息子のノヴァ。

へろへろとは、バウスンの元で修練に励んだ兄弟弟子の間柄である。

 

リンガイアでは精強な戦士を確保するため、広く門戸を開いている。

へろへろはリンガイア戦士を志して、バウスンに弟子入りしていた事があったのだ。

 

「よくも戻ってこれたものだ! あなたを慕っていたボク達を捨て、期待を裏切って逃げた癖に!!」

 

「……もう一度、俺に修行をやり直させてください!」

 

へろへろは激しく責めたてるノヴァに一切の反論をしない。

周囲のリンガイア戦士達からの厳しい威圧の視線も黙して受け入れ、辛そうに身を震わせながらも、彼はひたすらにバウスンに懇願し続ける。

 

「……何故戻ってきた?」

 

将軍という立場や王族貴族達とのつながりから、バウスンはベンガーナの勇者でろりんの一行について詳しい情報を知っていた。

 

バウスン自身としては、修行を投げ出して逃げた弟子が、どうやら一皮剥けて活躍していることに安堵の気持ちはあっても、恨みやわだかまりはなかった。

 

だから、敢えて責められることが分かっていて、戻ってきた彼の真意が気になった。

 

「けじめ、です」

「…………」

「過去から逃げていては、前に進めないと思いました。未来を切り開くために今度こそやり直したいのです。どのような扱いでも構いません、どうか!」

 

頭を地面に数度擦りつけたへろへろは、全てを言い終わるとゆっくりと下げた頭を上げ、覚悟と決意をこめてバウスンを見つめる。

 

ずっと戦士団を率いてきたバウスンには、彼の本気が伝わった。

勇者PTの一員として栄達した彼が、ここまでしている。例え奴隷のように扱おうが、全てを受け入れる覚悟もあるのだろう。

ならば、受け入れても良い。バウスンはそう思った。

 

「何を勝手なことを!」

「恥を知れ!」

「ノヴァ様のお気持ちを考えたことがあるのか!!」

 

しかしへろへろの本気と覚悟はバウスン以外には伝わらない。

 

真っ先にノヴァが激昂し、周囲の戦士団員達も追従する。

へろへろの言動は、単なる身勝手にしか彼らには感じられなかったのだ。

 

「……ならば、ノヴァに勝て。それが出来れば認めよう」

「父上!? ボクにこんな臆病者と戦えと? ボク達を裏切った奴と戦う意味なんかあるもんか!!」

 

特にノヴァの怒りは大きい。年齢こそ違うが、兄弟子であるへろへろとは、とても親しく付き合いがあったがゆえに。

だからこそ、彼はへろへろを実の兄のようにしたっていたし、へろへろも彼を本当の弟のように思っていた。

 

なのに、ある日突然へろへろは何も告げずに出奔したのだ。言葉ひとつで、許せることではない。

 

「へろへろ。ベンガーナで勇者一行をやっているそうだな」

「どうせでまかせに決まっている!!」

 

ノヴァがへろへろに向ける怒りと疑いは深い。

その様子にバウスンは小さくため息をつく。

 

「ノヴァ。お前も勇者を志すリンガイア戦士ならば、己の腕で真実を見極めてみろ」

「くっ……いいでしょう。こんな奴、10秒で這い蹲らせてやる!!」

 

 

そして、練兵所の広場へと移動したノヴァとへろへろは、距離をとって向かいあった。

それを見届けるバウスンや戦士団員達は少し離れて見守っている。

 

「父上、さっさと合図を!」

「……はじめ!」

 

「一撃で終わらせる!」

 

声がかかると共に、ノヴァは訓練用の木剣に闘気を纏わせ、へろへろめがけて一直線に切りかかる。

へろへろの間合いに踏み込んだと同時に、ノヴァから袈裟切りの一閃が放たれる。

 

「はあぁぁっ!」

 

だが。年齢にそぐわないほどの鋭い動きと強い力によるその斬撃は……へろへろによって容易く弾き返された。

 

「え?」

 

呆けたような声が試合を見守っている戦士達から漏れる。

彼らが予想したのはなすすべもなく打ち倒されるへろへろの姿であったが、地面に転がっているのは戦士団で一番の実力を持つノヴァであった。

 

「闘気剣を使えるのか!?」

 

へろへろの訓練用木剣にはノヴァよりも力強い闘気の纏わされていた。

自慢の怪力で振り払うように薙いだ一撃が、ノヴァの剣と身体を弾き飛ばしていたのだった。

 

「ぐっ……馬鹿な!」

 

ノヴァはへろへろが逃げた後もバウスンの下で鍛錬を続けていた。

彼はけっして手を抜いたりサボっていたわけではない。

だが、戦士団の中で自分のみが飛びぬけて実力が突出しているという状況では増長と慢心が見えるようになっていた。

 

それに加えて、兄のように慕っていたへろへろが逃げたことも彼を歪ませていた。

そのことすらも、自分が強すぎたからだ。という思い込みにも繋がっていて、ノヴァの成長速度は間違いなく鈍っていた。

 

 

それに比べて、へろへろは違う。

たしかに彼が逃げた後、ノヴァとの実力差は開くばかりであった。

しかし、でろりん達仲間と出会い、ミリアや影夫の師匠となったことで大きく成長し、ギリギリの死闘をも乗り越えた。

そのことが彼を完全に生まれ変わらせていた。

 

修めることができなかった闘気の技術も独自で磨きをかけて扱えるようになっていたし、ミリアやでろりんとの立会いや訓練を繰り返すことで武技も身に付けていたのだ。

 

特に大きいのが実戦経験だった。

ノヴァにはまだそれらがない。

だからこその力量差だった。

 

「何でだ! 何でボクより強い!? 逃げ出したくせに! 裏切ったくせに!!!」

「……すまない」

「認めないっ! 認めないぞ! ボクは強くてお前は弱い!」

 

すぐに立ち上がり、木剣を拾い上げたノヴァが闘気の勢いを先ほどよりも激しく切りかかる。

 

小さく、大きく、鋭く、鈍く。

さまざまに切り替えて虚実を混ぜて斬りかかる。

だがすべてをへろへろに受け止めいなされ、攻勢の勢いが悉く殺されてしまう。

 

「逃げたくせに! 裏切り者の臆病者のくせに!!」

 

ノヴァはさらに怒りを爆発させて必死に斬りかかるが、大降りになった攻撃はさらに軽くいなされ、逆に反撃の蹴りをうけて吹き飛ばされてしまう。

 

「ぐっ……くそっ! ヒャダイン!」

 

追い詰められたノヴァは、突如闘気剣を床に突き刺したかと思うと両手をへろへろに向けて突き出し、高度な氷系呪文を打ち放った。

 

「ボクの勝ちだ!」

 

猛吹雪に飲まれて姿が見えなくなったへろへろを見たノヴァは勝利を確信する。

氷系呪文で動きが鈍った相手を攻めるのが彼の必勝パターンである。

再び手にした闘気剣を構えたノヴァが斬りかかろうとしたその瞬間。

 

「はぁああっ……闘気砲ッ!!」

 

へろへろが両手を組んで闘気を高め、吹雪にぶつけるように打ち放つと、ヒャダインの吹雪は勢いを乱されて、相殺されるように雲散してしまった。

 

「な、なんで……なんでだよ」

 

ノヴァの自尊心が打ち崩されていく。

へろへろへのわだかまりと怒りをぶつけるように磨き続けて身に付けてきた呪文と力。

 

それを、今更戻ってきて上回るだなんて。とノヴァは憤りが収まらない。

 

「そんなにつよいのに何で逃げたんだ! 何でボクを裏切ったんだよ!?」

 

だが、それと同時に彼の冷静な部分が、かたくなに怒りを燃やす心に冷水を浴びせてくる。

 

彼が逃げたのには何か事情があったのではないか。

心を入れ替え、誤りを認めているのなら許すのが勇者を志す男としての筋ではないか。

 

「くそっ! 認めない!」

 

へろへろと剣を打ち合わせていると、彼の素直で愚直な心と誠意が、否応なくノヴァに伝わってきてしまう。

裏切りを許せないのに、戦士としての自分が認めてしまいそうになってしまう。

 

「……ここまでか」

「まだだ! まだ認めるもんか!!」

 

ノヴァは勝利判定を言い渡そうとしたバウスンの言葉を振りきって、全身から闘気を激しく噴き上がらせながら、天高く跳躍する。

彼が放とうとするのは未完成ながらも最強の威力を誇る彼の必殺技。

 

「勇者アバンの技すら上回る、最強の一撃をくらえ!」

「まてノヴァ! その技はまだ……」

 

バウスンの制止に耳を貸さず、ノヴァは空中で大上段に構え、闘気剣を最大に噴出させながら最強の一撃を繰り出す。

 

「ノーザンッ、グランブレーーードッ!!」

 

ノヴァが爆発的に放出した闘気の量はへろへろを上回っていた。

しかも、空中から全力で振り下ろしていることによって、その威力は増している。

どう考えてもへろへろに打つ手はない。

 

「はぁああああぁぁッ!」

 

対するへろへろは、最大限まで出力を高めた闘気剣を、剣先を地面に向けた斜めの構えで受け止めた。

 

ノヴァの絶技をまともに受け止めていれば、へろへろは負けていた。

 

「受け止められなければっ、受け流せばいい!」

「馬鹿な!」

 

だが、斜めに傾けた闘気剣にぶちあたったノーザングランブレードは振り下ろされた勢いのまま地面へと受け流される結果となる。

ノヴァの切り札は地面を抉り砕いて大きな穴をぶちあけたが、へろへろに傷はない。

 

「ぐっ! どうして!? こん、なぁっ……!」

「ノヴァ……すまない」

 

未完成な技ゆえに、闘気を放出しすぎて気絶したノヴァをへろへろが受け止めた。

 

「へろへろ」

 

バウスンが歩み寄ってへろへろの肩を叩く。

その顔は穏やかな笑顔だった。

 

「認めよう。お前は再び俺の弟子だ。もっとも教えることはそう多くなさそうだがな」

「はい! 申し訳ございませんでした! 不肖の弟子ですがよろしくお願いいたします!」

 

「では早速だが雑用をしてもらう。馬鹿息子を医務室まで運んでくれ。場所は分かるな?」

「はいっ!」

 

へろへろは軽々とノヴァを持ち上げると医務室へと運んでいった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

 

 

医務室。ベッドに横たわるノヴァは、額に置かれた冷たいタオルの感触で目を覚ました。

 

「へろへろ……兄さん?」

「大丈夫かノヴァ」

 

「そっか。ボクは、負けたのか……」

「ああ」

 

「また、弟子に戻るの?」

「師匠が認めてくれたからそうなる。嫌、か?」

 

「一つだけ聞かせて欲しい。どうしてあの時、逃げたの?」

「怖かったんだ……俺は」

 

へろへろは周囲の期待が怖かった。

 

あの頃の彼にはどうしても周囲が向けてくるような期待に自分などが応えられる気がしなかった。

そのプレッシャーは大きく、天賦の才を持つノヴァは日に日に力をつけてくることに恐怖した。

 

素直に純粋な尊敬の目を向けてきたのはノヴァだけではない。

他の戦士達も、寡黙で実直で不器用ながら優しさがあるへろへろのことを理想の戦士として見ていたのだ。

 

違うのに。本当の自分は、こんなに臆病だし欲深いし気が小さいだけの小物なのに。

へろへろは周囲の目と本当の自分の落差に懊悩とする日々を送っていた。

 

それでも、へろへろが弟子達の中で最強であるうちはどうにか取り繕うことが出来ていた。

 

しかしある日、ノヴァがついにへろへろとの模擬試合で、彼を負かしてしまった。

それが破局だった。

 

その日は偶然、ノヴァの誕生日であったので、へろへろが花を持たせて勝ちを譲ってくれたとノヴァは思っており、戦士団員達も同様だった。

 

しかし本当は違った。その時のへろへろは掛け値なしの全力だったのだ。

次に戦えば確実に負ける。そして今度はノヴァも実力で上回ったと知るだろう。

 

皆に本当の自分が露呈してしまう。親しい人達に失望され蔑視されるてしまう……へろへろはそれが凄く怖かった。

 

「だから、逃げてしまった……」

 

へろへろはノヴァに包み隠さずに懊悩と恐怖、自分の弱さを全て語った。

 

「失望なんて……するはずないのに」

「ああ、今ならば分かる。すまない」

 

そう、たとえノヴァに完敗しようとも、別に何でもなかったのだ。

ノヴァも敬愛する兄を越えたと喜びこそすれ、失望や蔑みなんて考えもしないはずだ。

そんなことすら分からなかったのは、ずっと自分のことしか考えていなかったからだろう。とへろへろは過去を振り返って素直に認めることができた。

 

「負けても、次勝てばいいだけだしな」

「そうだよ! 兄さんはそんなこともわからなかったの?」

 

昔はとてもそんなこと考えられなかったけど、今ならばへろへろは前向きに考えることができた。

 

「情けなくてすまん。でも、もう大丈夫だ」

「まったく。そんなに不安で悩んでいたなら、言ってくれればよかったのに」

「あの時は、自分の弱さや情けなさを見せる勇気が、なかったんだな……」

 

ぽりぽりと禿げ頭をかきながら自らの過去の失態に苦笑するへろへろ。

 

「なのに今じゃボクより強くなって、勇者一行の戦士様をしてるなんて……ずるいよ」

 

ノヴァは、そっぽをむいてむくれながらつぶやく。

 

「いや、ノヴァはリンガイアの勇者なんだろ? そっちのほうがすごいじゃないか」

「うぐっ……」

 

ノヴァは自分こそが勇者であると常々自称していた。

 

戦士団の中で最強であったから、周囲からもそのように見られたし、王や国民達からもちゃんと認められていたので、別に嘘ではない。

 

それでも、『ボクは勇者なんだぞ!』と名乗っていい気になっていた自分のことを冷静に思い返すと、ノヴァはとても恥ずかしくなった。

 

何せ無理をして使った未完成の切り札を使っても、へろへろに負けたのだ。

所詮、自分などはまだまだ未熟者、上には上がいるということだ。

会ったことはないけれど、勇者でろりんやミリアという人は、もっとすごいのだろう。

自分などはまさに、井の中の蛙にすぎなかった。

 

それを思い知らされたのに、ノヴァ自身、不思議と気分はよかった。

張り詰めていたものがすっきりとなくなった気がしたのだ。胸がすっと軽くなって、自然体に戻ったような爽快感が彼の心身にあった。

 

「あれは自分で勝手に吹聴してただけだよ。勇者だなんておこがましかった。ぼくなんてまだまだなんだから」

「それでも、皆がちゃんと認めてたなら立派な勇者さ」

「あまり苛めないでよ。本当に恥ずかしいんだから」

「はは、すまんすまん」

 

今日、ノヴァは見失っていた目標を再び見つけた。

大きな背中の優しくて強い兄。自分が憧れた、目指すべきその姿。

 

「これからまたよろしく。兄さん」

「ああノヴァ。ほんとにすまなかった。こちらこそよろしく頼む」

 

目指すべきへろへろ兄が帰ってきた!

その記念すべき日に寝てなど居られない。

 

「よぅし、今日中に必殺技を完成させるぞ! 兄さんも手伝ってくれるよね?」

「ああ、もちろんだとも!」

 

ノヴァはさっそくベッドから起き上がり、へろへろと共に鍛錬に励んでいくのだった。

 

 




後書き部分は、本編に関係ない駄文や連絡事項や愚痴なんかを書くだけの落書き欄として使うことにします。なので、気になる方はスルーしちゃって下さいな。

次は、できる限り近いうちに投稿できればと思います。
完璧を目指すときりがないので、時間優先でぼちぼち頑張ろうと思います。

それと、前話まえがきで書いた2話連続投稿という話はなかったことにしてください。
2話に分割するより纏めたほうが良いでしょうし。

また、今まで続けていたタイトルの漢字二文字しばりは苦しいのでこの機会にやめるとします。

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