壊れかけた少女と、元非モテおっさんの大冒険?   作:haou

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早めに次話投下。



でろりんの師匠

「まさか師匠が……なぁ」

 

修行をやり直すにあたり、生まれ故郷であるロモス王国に戻ってきていたでろりん。

しかし、彼は師匠の名前素性を何も知らなかった。

分かるのは、彼がロモス王の招聘を受けるほどの高名な戦士であることだけ。

 

そこでまず彼は、ロモス王シナナに謁見を願い、師匠について教えてもらったのだが、その結果――でろりんは驚愕することになった。

 

「勇者アバンPTの一人、戦士ロカとか」

 

でろりんは思い返す。

 

彼がまだミリアくらいの年齢だった頃に、ロモスの王が主宰した『次世代の勇者を育てる』という催しで、指導をしていた男が彼の師匠である。

 

師匠は分かりやすくて明け透けで、意地っ張りで直情的ででっかい子供みたいな人だった。

すごく強い人だが、かつて世界を救った勇者アバンPTメンバーの威厳はあまりないように思う。

クロスの話では、大魔王を倒す未来の勇者ダイPTメンバーの父親でもあるらしい。

 

「そんな凄い人の弟子に目をかけられてたとか、ありえねーだろ」

 

大勢のガキンチョに混じって、勇者になるんだ!なんて言って稽古ごっこをしていただけだったのだが、何故か師匠に気に入られて、すげえ勇者にしてやる! とスカウトされた。というのが弟子入りの経緯だった。

 

舞い上がったでろりんは、即日弟子入りを決めて、修業を受けることになった。

自分が特別に目をかけてもらえている、ということは、当時のでろりんにも分かったので、師匠の守備範囲外だった呪文については独学で修めて、楽しく前向きに努力を重ねる日々を送っていたのだが。

 

それも長くは続かなかった。師匠の扱きは日に日に……際限なく過酷になっていき、死にそうな修行を嬉々として次々に課されていくようになってしまう。

ついにライオンヘッドと戦わされるに至って、恐怖心が爆発したでろりんは、師匠の下から逃げてしまった。

 

「慕っていた師匠を信じきる勇気さえあれば……」

 

でろりんは、あの時師匠を信じて逃げなければ。と思う。

命が危なくなったらちゃんと助けてくれただろうし、たとえ逃げてしまった後でも、すぐに戻って謝っていれば、きっとゲンコツ一発で許してくれたと思う。

 

信じる勇気、立ち向かう勇気、怒られる勇気。

どれか1つでいいから勇気があれば、師弟関係は終わらなかったのだ。

 

そのくらい師匠は、厳しいけど、いいひとだった。

そのことは少年のでろりんにも分かっていたはずなのに、逃げてしまった。

 

「ま、そのおかげで仲間に会えたし弟子も出来たから、何が幸いするかわかんねーな」

 

人間万事塞翁が馬。そう考えることが出来る余裕と勇気が今のでろりんにはある。

 

 

「……っと、ここか」

 

師匠との思い出、昔の修行時代を思い返しているうちに、でろりんは師匠が住んでいるというネイル村へと到着した。

 

「すまん。このあたりにロカって人はいないか?」

 

早速彼は、最初に見かけたピンク髪の少女に声をかける。

 

「えと、あなたは誰ですか?」

「あー、俺はでろりん。その、昔ロカ師匠の下で修行をしてた者で、その、久しぶりに、師匠にお会いしたくて……」

 

じとっとした目を向けてきて警戒している様子の少女を相手に、でろりんは、思わずしどろもどになってしまう。

 

「父さんのお弟子さん? あ、私はマァムって言います」

「師匠の、娘さん? それで、し、師匠はいるかな?」

「……父さん、病気なんです」

「病気!? うそだろ……あんな元気の塊みたいな人が。医者とか神官に見せたのか?」

 

マァムの言葉を聞いてでろりんは愕然とする。

殺しても死なない、そう思ってしまうほど強くて頑丈で生命力に溢れた人だったのに。

その人が床に臥せっているなんて信じられない思いだった。

 

「母さんの回復呪文でも、おじさんが作ってくれた薬でも治らなくて、先生もお手上げみたいで……もう、あまり長くないって……」

「くそっ。俺は遅すぎたのか。そんな重い病気じゃ、俺が押し掛けちゃまずいよな……」

 

さらに告げられる言葉とただならない様子にでろりんは悲痛な表情を浮かべる。

これじゃあ師匠に修行をつけてもらうどころの話じゃない。それどころか、会うだけでも負担になるかもしれない。

これ以上師匠に迷惑は掛けられなかった。

 

「伝言だけ、頼めるか?」

「ううん。父さんに会えるか聞いてみますから、ついてきてください!」

 

マァムはそう言って走り去り、でろりんはその後を追うのだった。

 

 

☆☆☆☆☆☆

 

ベッドの上で上半身を起こしているロカ。

心配げなレイラが、夫に寄り添っており、彼を抱きかかえるようにして半身を支えて、付き添っている。

 

「…………っ」

 

でろりんは、師匠のその弱弱しい姿に、部屋に入るなり呆然と突っ立ってしまい、何の言葉も出せないでいた。

 

「よぉでろりん。でっかくなりやがったなぁ」

 

そんなでろりんに、ロカはニカっと笑いかけてくる。

弱っている身体の様子と違い、彼の仕草やらに怒りも悲壮感もない。昔のままの明るさと口調のままだ。

 

「……し、師匠。お、俺……」

「ま、座れよ」

 

立ち尽くすでろりんに、ロカはベッドの傍らに置かれた椅子をすすめる。

 

「お前がいなくなった時は、今のマァムくらいの歳だったか? 時が経つのは早いもんだ」

 

懐かしむように目を細めて、手を伸ばしてでろりんの頭を乱暴にがしがしと撫でる。

懐かしい師匠のごつごつとした手で撫でられ、泣きそうになるのを堪えて、でろりんは口を開く。

 

「師匠、病気って……」

「ああ。どうも不治の病ってやつらしい。詳しい説明なんかは、マトリフのヤローに聞いたが、忘れちまったなぁ」

 

でろりんに対して、欠片も怒っていない穏やかな様子の師匠に、でろりんの感情が爆発してしまう。

 

「……何で」

「ん?」

「怒らないんですか!? 俺はっ、師匠の期待を裏切って、逃げたのに!!」

 

言った。言ってしまった。でろりんは不安でいっぱいになりつつも、浴びせられるのが罵声でも拳でも受け入れようと目をつぶる。

 

「あれか……すまん、俺が悪かった」

「え?」

 

だが、でろりんにかけられた声は予想もしてなかった謝罪の言葉。

でろりんが恐る恐る目を開くと、頭を下げているロカの姿があった。

 

「お前の才能に目が眩じまった。すげえ奴をみつけたってな。いつかアバン越えも夢じゃねえぞって思ったんだよ」

「そんな、俺なんて。どうにかついていくのが精一杯で、泣き言や弱音ばっかりだったし、あの時も泣き喚いて逃げた!」

 

「ありゃわざと無茶苦茶をしてたんだ。それでも、お前はついてきてみせた。こいつは一体どこまでいけるんだ!? って舞い上がっちまった。お前が追い詰められてるなんて、気付きもせずにな。師匠失格だ」

「………でも」

 

「『無理と無茶は違いますし、勇気と無謀も違いますよ!』なんて、アバンのヤローにもしこたま怒られてなぁ。俺も心底後悔した。すまなかった。でろりん」

「師匠……俺、俺……!」

 

でろりんは、涙が流れ出るのが止まらなかった。

尊敬して慕っていた師匠から赦されるどころか謝ってもらえた。

ロカの元から逃げてからずっと溜め込んできた、罪悪感と後悔を洗い流すかのように、涙を流しながらロカに抱きつく。

 

「俺! ずっと、師匠にあう勇気が無くて……怖くて……!」

「俺もだよ。家族や村のことを言い訳にして、追いかけなかった。でけえ才能を潰した現実を見るのが、怖かったんだろうな……」

「そんなっ、俺の方こそ……」

 

師弟はそのまましばらく、互いに謝り気持ちを語り合った。

しばらくして落ち着いたでろりんは、椅子に座って、充血した目で恥ずかしげにしている。

 

「なあでろりん。俺のことをまだ師匠と思ってくれるなら、教えてくれないか」

「……?」

「今までどうしてたか、今何をしているのか……聞かせてくれ。その目をみる限り、期待できそうだからよ」

「はいっ……!」

 

でろりんは語った。

師匠の下から逃げ、それでも冒険者として最初は勇者を目指そうとしたこと。

しかし臆病と挫折の末に停滞したこと。

けれども弟子志願者や仲間との出会いで変わるきっかけを得て、仲間達と死力を尽くして協力しあい、勇者と呼ばれるようになったこと。

 

「でろりんは……俺なんかにゃ勿体ないくらいのすごい弟子だよ」

 

レイラは静かに夫に寄り添いながら、優しい笑みを浮かべて、ロカとでろりんを見つめた。

 

「よかったわねあなた。本当に……」

 

病魔に冒された夫が、心からの穏やかな笑みを浮かべていることがとても嬉しかった。

育てそこねた弟子のことをロカがずっと気に病んでいることを知っていただけに、夫の心残りがなくなったことに深く安堵していた。

 

「アバンの奴に聞かせてやりたいぜ。俺が先に次の勇者をつくってやったぞってな。がはは、うぐっ……がはっ!?」

 

笑おうとしてロカは、胸を押さえて顔をゆがめ、咳込みだした。

でろりんが来て数時間、話し込んでいたのだ。疲れてしまったのかもしれない。

 

「し、師匠もういいですから、寝ていてください! 俺、また出直しますから……」

「ぐっ……待てっ」

 

気遣うでろりんが伸ばした手を掴み、ロカが真剣な表情でじっと見つめる。

 

「……でろりん裏庭へ出ろ。技を、教えてやる」

「え?」

「あなた? その身体じゃ……」

「すまんレイラ。コイツを仕上げとかねえと死んでも死に切れねえんだ。これだけは譲れない」

「……分かりました。でも私もお手伝いしますからね」

「ああ……頼む」

 

そこに、部屋の外で覗いていたのか、マアムが飛び込んできて、ロカの元へと駆け寄ってきた。

無理をしようとしている父の身を案じあまり、涙目でロカに抱きついている。

 

「父さん! 大丈夫? 無理はやめて!」

「悪いなマァム。こりゃあ男のけじめってやつでよ。心配いらねえから、父さんの超カッコいいとこみとけ。な?」

「うん……」

 

ロカはマァムの頭をなでると、レイラに手伝ってもらってゆっくりと立ち上がる。

立った直後はふらついているものの、ベッドの脇に置かれた戦士の魂である愛剣を持ってぎゅっと目をつぶると彼の身体の震えはピタリと止まる。

 

「うしっ! 気合入れていくぜ」

 

目を開いた時には、ロカは歴戦の戦士の顔へと変貌していた。

 

「やっぱり無茶はダメです師匠……万一があったら……」

「ダメだ。俺の戦士としての経験と人生をかけて出来上がった技なんだよ。これを教えてねえうちはロカ流免許皆伝はやれねえぞ」

「でも……」

 

でろりんとしては、そこまでしてくれる師匠の気持ちは涙が出るほどありがたかった。

しかし、無茶をさせた結果、最悪のことになったりしたら、レイラやマアムに申し訳が立たない。

 

「諦めて、師匠のカッコつけに付き合え。師匠の無茶振りに応えんのは弟子の義務ってやつだぞ」

「っ。お願いします!!」

「おう。いい返事だ」

 

こうして、でろりんはロカから秘技の伝授をされ、やり残していた修行をすべて終えるのだった――

 




次はずるぼん編。ギリギリまで師匠を誰にするか相当悩みましたが、原作にいた人です。

過去の話でずるぼんの師匠について情報を出していなかったら、師匠はレイラってことにしてたかもしれませんね。

次で出戻り話は一旦終わりです。

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